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2021.08.10

知らないで済まない!「職場のワクハラ」の注意点|接種しない人への強制や差別は許されない


職域接種も行われていますが、接種しない人への配慮も必要です(写真:Kiyoshi Ota/Bloomberg)

職域接種も行われていますが、接種しない人への配慮も必要です(写真:Kiyoshi Ota/Bloomberg)

新型コロナウイルスのワクチン接種が徐々に進んでいますが、その一方で「様子を見たい」「接種したくない」という人もいます。ワクチン接種は強制ではありません。それにもかかわらず、受けていない人に対して、職場で差別的な扱いをされるなど不利益が生じることが考えられます。会社はどう対応すべきなのでしょうか。社会保険労務士の大槻智之氏が解説します。

※以下で登場する「Aさん」は架空の人物で、Aさんのエピソードについては今後予想される職場トラブルをわかりやすく解説するためのフィクションです。

ワクチン接種を拒否して退職勧奨に発展

まずは以下のエピソードをご覧ください。

「副反応が怖いのでワクチンは絶対に打ちたくないです」
Aさんは、会社で実施する「職域接種」に参加しないことを決めました。ところが、Aさんがワクチン接種を明確に拒否してからというもの、こんな声を職場でチラホラ聞くようになりました。

「ああいう協調性がない人がいると困るよね」

要するに、新型コロナワクチンを接種することができるにもかかわらず、接種をしない人に対して批判的な態度を示す人が少なからず登場してきたのです。

「Aさんとは一緒に仕事したくないです」

職場内のワクチン接種率が上がるにつれてAさんに対する風当たりはますます強くなっていきます。最初は単に「頑固な人」だったのが、だんだんと職場の輪を乱す「問題社員」のような扱いをされるようになっていったのです。

ワクチンの話が出始めた当初は、Aさんと同じように「副反応が怖いから打ちたくない」という人もいたように思うのですが、実際に接種がスタートするとそうした人たちも接種を始めました。特に職域接種が始まると、少なからずその企業ではほとんどの社員が接種をすることになり、Aさんのようなワクチン接種をしない人が目立つようになってしまったのです。

こうして、Aさんはいつの間にか「自己中心的」「協調性がない」「面倒な人」のような目で見られるようになりました。そして、ついには人事部に呼ばれ、「ワクチンを打つか、退職するか選んでくれ」という退職勧奨にまで発展してしまったのです。

これは、いわゆる「ワクチンハラスメント(ワクハラ)」です。もちろん、法律上の定義などが存在しない造語なのですが、このワクハラが、パワハラにつながるリスクがあります。「Aさんがコロナになったら仕事に支障が出る」「Aさんがお客さんにコロナをうつしたらどうするのか」といった声が寄せられ、会社が誤った対応をとるケースもありうるのです。

また、ワクハラが横行してしまう理由には、「ワクチンを打ったからもう大丈夫」という誤った認識を持っている人も少なからず存在します。それはワクチンを打ちさえすれば自分がコロナに感染することも他人に感染させることもなくなるという勘違いから来ています。

ワクチンを打つことで発症や重症化を予防する効果は期待できますが、ワクチン接種が完了した後、その効果で発症はしなくても、ウイルスを持っていて、他人に感染させてしまう可能性は否定できません。

「強制にならないように、そうとう気を遣って推奨しています」

筆者にこう話してくれたのは、実際に職域接種を行っている企業の人事部の方です。社長からのトップダウンで職域接種を決めたため、何となく「接種率100%」を目指すことになったそうです。

ただ、すべての社員が積極的にワクチンを打ちたいわけではなく、接種は思うように進んでいないとのこと。人事部としては社長の掲げる「接種率100%」は接種の強制になりかねないため、社員には発表できません。そこで日々接種率を発表し、自主的に摂取を申し出てもらおうとしてはいるものの、すんなり100%接種とはならず、頭を抱えているそうです。

Aさんのケースでは退職勧奨の根拠がない

では、Aさんが受けたような退職勧奨は認められるのでしょうか。

そもそも退職勧奨はあくまでも社員の意思確認を前提とした「勧奨」なので、すぐさま違法になるといったことはありません。

ですが、強制するような言い方をしたり、何度も頻繁に行うなど退職に追い込んだりするようなやり方はパワハラであり、認められません。Aさんのケースでは「退職を勧奨する」こと自体に根拠がないので、パワハラととらえられる可能性は高いといえます。

ただし、場合によっては転勤が可能なケースも考えられます。

例えば、きわめて重要度の高い業務に従事しており、長期離脱がどうしても許されないような場合であれば「この業務に従事するにはワクチン接種が条件」ということもありえます。そこで、ワクチンを拒否した場合には配置転換も正当化される可能性がありますし、状況に応じて転勤が伴う異動もありうるわけです。ただし、「配置転換=労働条件の低下」が当たり前に認められるものではないので注意が必要です。

とはいえ、これは契約内容によって変わります。あくまでも内容によりけりだと思いますので、経営者や人事担当の皆さんはくれぐれも「権利の濫用」にならないようご注意ください。

拒否する社員に不利益な扱いをしてはいけない

多くの会社では事業の安定のためにもワクチン接種を推奨しているようです。そのほか、全員がワクチン接種を終えれば、対面による会議の再開や、マスクなしで業務を行うことも可能になるかもしれません。ただし、メリットがあるからといって全社員にワクチン接種を強要することはできません。

会社の方針だからといって、拒否する社員に対して不利益な扱いをしてはいけません。ましてや、それを理由に懲戒処分にするなどはもってのほかです。逆にワクチンを接種していない人に対するワクハラが発生しないような配慮が必要でしょう。

いずれにしても、今やるべきことは、それぞれが正しい情報を収集したうえで、きちんと対応することではないでしょうか。経営者として、人事担当者として、一社会人として少なくとも誤った情報に流されることのない行動を心がけることが必要でしょう。

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提供元:知らないで済まない!「職場のワクハラ」の注意点|東洋経済オンライン

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