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2021.07.29

日本人が無駄にしている「雨水」は飲めるのか|大量の雨水を利用しないなんてもったいない


雨水を飲んでみようと思ったことはありますか?(写真:shimanto/PIXTA)

雨水を飲んでみようと思ったことはありますか?(写真:shimanto/PIXTA)

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「暑い、のど乾いた。何か飲みものちょうだい!」
「はい、雨水どうぞ!」

こんな場面で、あなたは雨水を飲むだろうか。アクアスフィア・水教育研究所が行った「雨水に関する意識調査」によると「雨水を飲めると思う」人は47%。だが、「実際に飲んだことがある」人は30%だった。何となく飲めるような気がするが、実際に飲んだことがある人は3分の1以下。やはり雨水を飲むことには抵抗感があるのだろう。

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「雨水」を使ったソーダが登場

そんな中、雨水を原料とした飲料があると知った。「あまみずソーダ」「あまみずサイダー」がそれだ。キャップを開けると「あまみずソーダ」は、かすかに甘い香り。飲むと普通の炭酸水だが、「やや炭酸強め」に感じる。次に「あまみずサイダー」もゴクリと。こちらはまろやかな甘味のサイダーだ。

「あまみずソーダ」と「あまみずサイダー」(写真:筆者撮影)

「あまみずソーダ」と「あまみずサイダー」(写真:筆者撮影)

それにしても、なぜ雨水でソーダを作ろうと考えたのか。「雨水はきれいであることを知ってもらうために作りました」と話すのは、雨水の専門家集団「あめぐみ」(雨水生活普及委員会)のメンバーの1人である、笠井利浩さん(福井工業大学環境情報学部環境食品応用化学科教授)だ。

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笠井さんは長崎県五島市にある赤島で「五島列島赤島活性化プロジェクト」を立ち上げていた。日本の水道普及率は98%だが、赤島には水道施設も井戸も湧水もないからだ。どうやって水を得ているかといえば、少量の雨水をためて生活していた。

プロジェクトでは、雨水を活用した給水システムを構築。島の中心部にポリカ波板製の集水面を設置し、自然の流れで水を集落まで運ぶ。空気中の汚れを含んでいる降りはじめの雨はコンピュータ制御で除去。きれいな雨だけを貯留槽にため、ポンプで各家庭へ供給した。

「あまみずソーダ」などを作るにあたって最初、「ドリンクメーカー(北陸ローヤルボトリング協業組合)に製造を依頼すると、『雨水で飲み物がつくれるのか』という反応でした。そこで雨水のきれいさを証明することからはじめました」(笠井さん)

大学構内にビニールシートを張り、雲の動き、降り方を見ながら、最適なタイミングで雨水を採取。

(写真:筆者撮影)

(写真:筆者撮影)

それを北陸公衆衛生研究所で水質検査(食品製造用水検査項目26項目と緑膿菌、腸球菌、嫌気性芽胞菌)すると、pH(水素イオン濃度)以外の項目をすべてクリアした。

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水素イオン濃度が示すことは?

クリアできなかったpHは、その液体が酸性かアルカリ性かを表す尺度。数値は普通1から14までで、7が真ん中で「中性」。水道水は「中性」だ。pHが7より小さいと「酸性」、7より大きいと「アルカリ性」。pHを測ると、その液体に何が溶けているのかを推測できる。

「pH値の結果は5.4で上記基準のpH5.8~8.6外でしたが、そもそも清浄な雨水のpHは5.6なので、この値は正常です。これは大気中の二酸化炭素が雨に溶けたことによります。雨水がpH7(中性)だとむしろ何か別のものが入っていることになり異常なのです」(笠井さん)

つまり、雨水はきちんと集めれば飲めるということだ。

この結果にメーカーも納得し、試作品を製造。製造用水は検査時の水を、活性炭フィルタとMF膜(膜孔径が数十nm以上の分離ろ過膜)でろ過し、さらに紫外線で殺菌した。この原水に二酸化炭素を注入して「あまみずソーダ」が完成、さらにシロップを瓶詰め後に加熱し「あまみずサイダー」が完成した。

では、「あまみずソーダ」で感じたほのかな甘みは何だったのか。

「雨水は混じり気が少ないぶん、味や香りがつきやすい。今回の少量の試作は、普段、福井の名産飲料「さわやか」が製造されているラインで行われました。そのフレーバーがほのかに香る仕上がりになりました。

雨水は変なにおいがするのではないかと思っている人も多かった。飲んでもらうことで雨水の安全性を理解してもらうことができました。日常的に雨水を飲用に使って欲しいとは言いませんが、災害時などの生活用水に積極的に利用してもらえればと思います」(笠井さん)

「あまみずソーダ」「あまみずサイダー」は雨のイメージを覆したと言える。

雨が大量に降るのに利用していない

日本は国土の四方を海に囲まれ、あらゆる方向から湿気を含んだ風が吹き込む。それが山々にぶつかり雨をもたらす。海上も含めた日本の年間平均降水量は約1710ミリ。もし雨がその場に止まり蒸発もしなかったなら、成人男性がすっぽり浸るほどの雨が降ることになる。

雨水利用の普及に努めたドクター・スカイウォーター(雨水博士)・村瀬誠さんにかつてこんな話を聞いた。

「日本人は水が大切だと思いながらも、梅雨時など大量に降る雨水を利用しようなどとは考えもしない。雨の日に、ガソリン価格の倍もするようなペットボトル入りのミネラルウォーターを飲みながら、雨がやんで晴れるのをただ眺めている。その目の前で、雨はアスファルト脇の溝に流れ込み、どこぞの川に流れては利用されずに海に向かってしまう」

近代の町づくりにおいては、雨は洪水をもたらす「やっかいもの」と考えられてきた。下水道法では雨水は「下水」という扱いになっている。降った雨は、下水道を通じてすみやかに街の外へ追い出すべきものと考えられてきた。さらに最近は大量の雨が災害を引き起こすため、雨のマイナスの面だけがクローズアップされている。

笠井さんが行った検査からもわかるとおり、雨水は汚水ではない。降り始めこそ、大気中の粉塵などといっしょに降下するので汚れているが、降り出してから30分以上たった雨の水質はきれいだ。

「雨水に関する意識調査」で「雨水を生活に使ったことがあるか」を聞くと、33%が「ある」と回答。使用法としては「野菜・花などを育てる」「散水・打ち水」「掃除・洗車」などが多かった。

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雨水、水道水、ミネラルウォーターの違いは?

そもそも水には、いろいろな物質を溶かすという性質がある。硬度の高いミネラルウォーターとは降った雨が地下に染み込み、地中のミネラル分が溶け込んだもの。長い旅を続けるうちに、溶け込む物質の種類も量も増える。

その点、降ったばかりの雨は、物質を溶かす機会がないので混じり気がない。そこで、著者も自宅の庭に市販の雨水貯留シートを張り、雨水をためた。

(写真:筆者撮影)

(写真:筆者撮影)

そして、集めた雨水、水道水、ミネラルウォーター(硬度300)の電気伝導度を測ってみた。電気伝導度とは、水のなかにどれくらい電気が流れるかによって、H2O以外の物質がどれくらい含まれているかを測定する。イオンや有機物などの水以外の物質が入っていないと電気は流れにくくなる。

反対にイオンや有機物が含まれていたら電気は流れやすくなる。その結果は以下のとおりで、硬度の高いミネラルウォーターの電気伝導度は476、水道水は103、雨水は9という結果だった。

雨水、水道水、ミネラルウォーターの電気伝導度を測ってみると…(写真:筆者撮影)

雨水、水道水、ミネラルウォーターの電気伝導度を測ってみると…(写真:筆者撮影)

さらに雨水、水道水、硬度の高いミネラルウォーターを150mLに、せっけん水を1mL加えて撹拌した。さて、どのコップがいちばん泡立つか。

(写真:筆者撮影)

(写真:筆者撮影)

写真左が硬度の高いミネラルウォーター(硬度300)。温泉に行って髪を洗おうとすると、なかなか泡立たないことがある。それは石けん成分とミネラルが反応したためでで、上の写真で泡立ちがほとんどないのも同じ理由だ。写真真ん中が水道水。そして、いちばん泡立った写真右が雨水だ。

したがって洗濯にいちばん向いているのは雨水ということになる。少量のせっけんで泡立つということは、すすぎに使う水も少なくてすむ。「雨水に関する意識調査」では16人が雨水を「洗濯・靴洗い」に使用していた。

水源は頭上にある。東京都民の水道使用量は年間約20億トンだが、東京に降る雨は年間25億トンある。これを使わない手はない。

雨をためると洪水の軽減に

気候変動が進むと短時間に大量の雨が降るようになると言われる。そのとき、もし屋根に降る雨水をタンクにためたり、降った雨を大地に浸透させたりすれば洪水の軽減につながるだろう。1つの住宅やビルでためられる雨水はわずかでも、それが地域全体にひろがっていけば、大きなダムと同様の効果を発揮する。増水の原因となる雨をため置いたり、地下に浸透させる。

具体的には、流域内の施設を利用して雨水貯留施設を整備したり、個人住宅で雨水タンク、浸透マスなどを設置する。都会ではそれぞれの家がタンクに雨水をためれば、無数のミニダムを都市におくことができる。

かりに東京都内のすべての1戸建て住宅が屋根に降った雨をためたとすると、1億3000万トンの水が確保でき、これは利根川水系の八木沢ダムが東京都に供給している水量を上回る。

すでに雨水貯留槽を供えた建築物もある。たとえば、東京スカイツリーには最大2635トンの水がためられる雨水タンクが設置され、トイレの流し水や屋上緑化への散水に活用している。

このように雨水活用は、都市型洪水の備えになると同時に、いざというときの自己水源の確保にもなる。そもそも生活に使える雨水も洪水をもたらす雨水も同じ雨。私たちが、いつのまにか、頭のなかで分けて考えていただけではないか。雨との付き合い方を考え直してみたい。

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提供元:日本人が無駄にしている「雨水」は飲めるのか|東洋経済オンライン

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