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2021.06.25

コロナ前の便利すぎる生活は戻らない日本の現実|「24時間営業の便利な生活」はもう諦めよう


アフターコロナの日本はどのように変わるのでしょうか(写真:Nikada/iStock)

アフターコロナの日本はどのように変わるのでしょうか(写真:Nikada/iStock)

少子高齢化や人口減少、日本にはさまざまな課題が山積しています。そんな日本がアフターコロナを生き抜くために、「戦略的に縮む必要がある」と説くのは『未来の年表』の著者・河合雅司氏です。“戦略的に縮む”とはいったいどういうことでしょうか。河合氏の新著『コロナ後を生きる逆転戦略』を一部抜粋し再構成のうえそのヒントを探ります。

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長い夜も、いつかは明ける。アフターコロナに向けて、われわれはどう備え、何をすべきなのだろうか。多くのビジネスパーソンにとっての関心事であろう。コロナ禍においてはマスクがニューノーマルとなり、人が集まることや旅行、出張といった移動が制限された。会議や学校の授業もオンライン中心に切り替わり、日本社会が一変したかのような印象を受けた。

だが、コロナ禍がもたらしたこうした「変化」を詳細に見て行くと、多くは「コロナ前」からの課題であったことに気付く。コロナ禍が日本社会を変えたというより、積年の課題を可視化したというのが実情だったのだ。

夜が明けきらない今、われわれがまずすべきは、「コロナ前」に立ち返って日本が抱えていた課題を思い起こすことだ。そしてそれがコロナ禍でどう浮き彫りにされたのかを知ることである。

コンビニの24時間営業は破綻寸前

コロナ禍で一番大きく影響を受けて風景の変わった場所、それは〝夜の街〞だ。

飲食店は蔓延防止策として時短営業を迫られ、夜の8時、9時には閉店。与党議員が銀座のクラブに深夜まで滞在していたり、厚生労働省の官僚たち23名が午前零時近くまで宴会を楽しんでいたりという不謹慎な事例も発覚したが、多くの人たちは自粛要請に従っていた。

そのため多くの繁華街では夜の10時にもなれば、閑散とした光景が広がっていた。ついこの間まで、忘年会やクリスマスなどで〝夜の街〞がピークを迎える12月になると、深夜にタクシーを捕まえられない日があったことなど、いまや夢のようだ。

コロナ禍が収まってくれば飲食店の営業時間は元に戻るだろうが、もはや私たちは便利な24時間生活をあきらめなければならないところにまで来ている。

なぜなら、コロナ流行のかなり前から、ファミレスやコンビニの24時間営業は人手不足で、すでに破綻寸前だったからだ。コロナ禍で24時間営業の見直しが広がってきているが、時短営業を余儀なくされた企業や店舗ばかりでなく、「戦略的に縮む」ための一環としてこの機に乗じて進めている側面もあるのだ。

例えば、ロイヤルホストが24時間営業を廃止したのは2017年のことだった。1店舗当たりの営業時間を平均1・3時間短縮し、翌年には年中無休もやめて年3日の店舗休業日を設けた。

奇しくもこの2017年、ヤマト運輸もアマゾンの当日発送からの撤退を表明した。ドライバーの負担が過重となり、再配達の時間指定のシステムも一部変更された。人手不足によって「便利すぎるサービス」は、崩壊の兆しを見せていたのである。

ロイヤルホールディングスの菊地唯夫会長と対談した際、24時間営業をとりやめたのは、「人口減少時代に備えて従業員の働き方を見直すための方策」だと説明された。働き手の確保が難しくなったので、アルバイトをなるべく正社員として登用し、短時間勤務のスタッフはシフトを固定化したのだという。

24時間営業をやめたのに増収!

営業時間を短縮したのだから、当然売上は減るはずだ。予想では年間約7億円の減収を見込んでいた。すると驚くことに、24時間営業をやめたら、逆に7億円の増収になったのだ。念の為にいっておくが、コスト削減による増益ではない。売上が増えたのだ。

その理由について菊地会長はこう説明している。

「早朝・深夜の営業時間を短縮し、ランチとディナーのお客様が集中する時間帯に十分な数の従業員を配置することで、サービスの満足度や付加価値を高められたから」。ピークタイムでも人員配置に余裕があるので、「食後にデザートはいかがですか?」と一声かけることができる。そうした余裕が売上を伸ばしたのだという。

ロイヤルホストは「戦略的に縮む」の先端を行く企業の1つであり、率先して24時間営業をやめた事例だが、他の飲食店や業種を見ると、24時間営業にしがみついているところが大半だ。

その典型的な例がコンビニであった。深夜〜早朝の時間帯に働いてくれるアルバイトが集まらなくなると、外国人を雇い入れることで、ギリギリしのいできた。働き手の多くは専門学校や日本語学校などに通うアジア系留学生である。都心部では深夜にコンビニに行くと、店員が外国人ばかりという状況が、いつの間にか当たり前の光景となっていた。

業界最大手のセブン-イレブンでは外国人従業員が全体の約7.9%を占める(2018年)。これは全国平均のデータなので、首都圏ではさらに高い数字だろう。

そんなコンビニ業界も曲がり角を迎えている。加盟店側から悲鳴が上がったためだ。2020年2月には経済産業省の有識者会議が一律の24時間営業を見直すようコンビニ各社に求める提言書をまとめたこともあり、コロナ禍前から一部で「脱24時間」の動きは拡がり始めていた。

社会のインフラである鉄道もいまや、「戦略的に縮む」業界の代表例となった。首都圏の鉄道各社は2021年1月から終電時間の繰り上げを始めた。JR東日本は山手線、京浜東北・根岸線、中央線、総武線など11路線で、終電時間を最大32分も繰り上げた。動きは全国に広がっている。

コロナ禍による影響と見られがちだが、そうではない。終電の繰り上げはコロナ禍前から鉄道各社で検討されていたことだ。JR東日本の場合、人口減少に伴い、過去10年間で線路保守作業員は約2割も減っている。

その一方で、設備の老朽化などで工事量は1割ほど増加しているという。そのため夜間に保守点検作業をする時間を確保するべく、終電を早めて始発を遅くする方策が検討されていたのである。コロナ禍をきっかけとして「戦略的に縮んだ」というのが実情だ。

不便になる動きをどう受け止めればいいのか

もしコロナ禍がなければ、それこそ保守作業員に外国人労働者を入れてでも、終電時間を維持しようとした鉄道会社もあったかもしれない。東京オリンピックが予定どおり2020年に開催されていた場合、会期中、首都圏の地下鉄とJR主要路線は、午前1時〜2時まで運行延長することが予定されていたくらいである。

コロナ禍が24時間営業の縮小を加速させたことは間違いない。では、不便になっていくこうした動きを、われわれはどう受け止めればよいのだろうか。

24時間営業が見直されていく一方、コロナ禍で増えたのが宅配サービスである。外出自粛によって思うように営業できなくなった店舗は競うようにオンラインショップを充実させたが、それに伴い配送需要も急拡大したのである。

「便利さ」は一度手に入れると捨てがたく、外出自粛が緩和された後も、近所のスーパーマーケットや店舗で買えば済むようなものまで運んでもらっている人は少なくない。

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持つべき視点は24時間営業にしろ、宅配サービスにしろ、「便利すぎるサービス」や「無料配送」というものは、それを担う誰かが、長い労働時間や変則的なシフトを強いられ、その我慢と犠牲の上に成り立っているということだ。

その我慢と犠牲は、多くの場合、報酬上乗せで報いられることはない。

「便利さ」の維持には多くの〝若い労働力〞を必要とするが、日本社会はこれからその〝若い労働力〞をどんどん失っていくのである。「便利さ」は必要だが、「便利すぎる社会」は長続きしない。

24時間サービスの見直しは「不便」になったのではなく、「便利すぎる」が「適正な便利さ」に是正されようとしているのである。本格的な人口激減を前にして、コロナ禍がわれわれに突き付けたことを学ぶ必要がある。

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提供元:コロナ前の便利すぎる生活は戻らない日本の現実|東洋経済オンライン

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