2021.05.31
MRIや血液検査でもわからなかった腰痛の「原因」|1年以上病院やマッサージに通っても改善せず
1年以上病院やマッサージなどに通っても腰痛が改善しなかった女性の意外な腰痛の原因とはなんだったのでしょうか(写真:baona/iStock)
日本の国民病とも言われる「腰痛」。が、一口に腰痛と言ってもその理由は実にさまざまで、素人判断や間違った判断が命にかかわることもあり、痛みの原因をきちんと突き止めることが重要だ。本稿では、池谷医院院長の池谷敏郎氏著『腰痛難民 その痛みは、本当にただの腰痛なのか』から、腰痛に悩まされさまざまなクリニックを訪れた女性の意外な腰痛の原因について紹介する。
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腰痛があるのに原因が見つからない…
椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症、骨粗しょう症による圧迫骨折といった整形外科の関連の病気もなければ、内臓の病気、血管の病気、腫瘍もない。いろいろな検査を受けて体に異常は見つからないのに、明らかに腰が痛い。しかも、その痛みが数カ月も続いている――。そういった患者さんもいます。原因が見つからないために、たくさんの医療機関を訪ね歩き、まさに難民化してしまうのです。
こうしたケースで多いのが、心の問題が関係していることです。内科にかかる腰痛患者さんのなかには、「心が元気でないために痛みを感じてしまう」という方が、かなりの割合でいらっしゃいます。
先日も、こんな方がいました。健康診断で血糖値が高いと指摘され、来院された自営業のFさんです。診察室に入ってきた時にも椅子に座る時にも診察中も、ずっと腰をかばうような仕草をしていて、時折、腰をとんとんと叩いている。気になったので、ひととおり診察が終わったところで「腰、つらそうですね」と声をかけると、やはり腰痛を抱えていました。
話を聞くと、もう1年以上前からひどい腰痛に悩まされている、とのこと。マッサージや鍼灸、整体、カイロプラクティック、気功……など、腰によさそうなものはいろいろ試しているものの、いまひとつよくならない。整形外科にも数カ所行って、レントゲン検査だけではなく血液検査、MRI検査も受けて、骨や椎間板、関節などに問題がないか、はたまた脊椎に腫瘍がないかなど診てもらったものの、どこに行っても「とくに問題はなさそうですね」との見立てだったそうです。
「『問題はない』と言われても、痛いものは痛いんです。痛み止めをもらって飲んでいた時期もありますが、そんなに効かないし、そもそも痛み止めで痛みが治まったとしても根本的に治ったわけではありませんよね。
整形外科に通って牽引や電気治療を受けたこともあります。その場ではちょっと良くなったかなと思うことはありましたが、結局また痛くなりました。今は整体や鍼灸に行って、なんとか騙し騙し生活しています」
話を聞きながらピンときたこと
お話を聞きながら、「ああ、これはきっと……」とピンときましたが、判断を下す前に、〝危険な腰痛〟の可能性をつぶしておかなければいけません。これまでにどういう検査を受けたのか、健康診断やがん検診は受けているのか、あらためて1つひとつ確認していきました。
整形外科は近くのクリニックだけではなく、大きな病院にもかかったそうで、その時に「他の病気についても調べてみましょう」と言われ、泌尿器科や内科、さらには婦人科にもかかったとのこと。その結果、体の病気のほうは心配なさそうとなると、疑わしいのは心の問題です。
仕事のことや家庭のこと、生活のことなどをそれとなくうかがうと、やはりずいぶんストレスがたまっているようでした。見るからに生真面目そうで、悩みを人に相談したり友人と語らってパーッと愚痴を吐き出したりする習慣もないとのこと。ご自身ではストレスがたまっていることにさえ気づいていらっしゃらないようでした。
「Fさん、ストレスがたまっているようですね。精神的なストレスが、痛みを生んでしまうこともあるんですよ」。心因性の腰痛について説明をしようとしたところ、Fさんは「え?」と驚かれるとともに、「痛みは気のせいだ、ということですか?」と少しムッとされたようでした。
「いいえ、けっしてそうではありません。たしかにFさんは痛みを感じていらっしゃるはずです。ただ、痛みを感じる脳が、心のストレスによって誤作動を起こしてしまうことがあるのです」
心因性の腰痛とはどういうものか、そしてFさんの腰痛も心因性のものである可能性が高いことを伝え、この時には、一度心療内科(精神科)に行ってカウンセリングを受けたほうがいいだろうと考えたので、腰痛の患者さんの診療実績のある心療内科の受診をおすすめしました。
ストレスの多い環境では腰痛が増える
ストレスと腰痛の関係は、最近とても注目されています。精神的なストレスを抱えていると腰痛を発症しやすく、かつ、腰痛が慢性化しやすくなることが、最近の研究で次々とわかってきたからです。
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たとえば、アメリカではこんな研究も行われています。被験者を2つのグループに分けて、一方のグループの人たちには否定的な言葉で責めて心理的なストレスを与え、もう一方のグループの人たちには肯定的な言葉で褒め、同じ量の物理的な負荷を腰椎に与えたらどうなるのかを調べたのです。
結果は、否定的な言葉で責められ心理的なストレスを与えられたグループのほうが、腰痛の発生率が高くなりました。なおかつ、内向型、直感型の性格の人が腰痛を発症しやすかったそうです。
つまり、ストレスの多い環境、ストレスを受けやすい性格の人のほうが腰痛を発症しやすかったのです。ということは、仕事や日常生活のなかで同じように腰に負担のかかる作業を行っていても、どんな環境かによって、腰痛になりやすいかどうかは変わるということ。ストレスの多い環境であれば、当然、腰痛は増えるということです。
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提供元:MRIや血液検査でもわからなかった腰痛の「原因」|東洋経済オンライン