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2021.05.18

糖尿病なのに「糖質制限に挑戦した男」の大失敗|最悪の場合「心筋梗塞」「脳梗塞」に陥るリスクも


なぜ糖尿病の人に「糖質制限」はおすすめできないのか(写真:imtmphoto/iStock)

なぜ糖尿病の人に「糖質制限」はおすすめできないのか(写真:imtmphoto/iStock)

突然の視力障害や口の乾きに悩む危険も。糖尿病にもかかわらず、糖質制限ダイエットを試みた男性の失敗とは? 糖尿病の専門医である森豊氏と、腸の専門医である松生恒夫氏による新書『血糖値は「腸」で下がる』より一部抜粋・再構成してお届けする。

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一生のうちにすい臓から分泌されるインスリンの総量については、生まれつき決まっている、と考えられています。元来、日本人を含むアジア人は、インスリンを分泌する能力(インスリン分泌予備能)が欧米人に比べて低いとされています。そのため、アジア人はそれほど太っていなくても、糖尿病になりやすいのです。

というのも、肥満によってインスリン抵抗性が強まると、下がらない血糖値を下げるためにより多くのインスリンが分泌されるようになります。ただでさえインスリン分泌予備能が低いアジア人は疲弊・枯渇が早くなり、糖尿病になってしまうわけです。

なぜ太った欧米人は糖尿病にならないのか?

一方、欧米人にはアジア人ではあまりお目にかかれない、超肥満な人が存在します。たとえば、元大関の小錦さんのような体型の人。小錦さんはあれだけ太っていても糖尿病ではないといいます。

小錦さんはハワイ出身のポリネシア系でアジア人の系統ではありません。もともとインスリン分泌予備能が高いため、肥満状態でインスリン抵抗性が強まっても、十分にインスリンを分泌し続けることができるために枯渇することがなく、糖尿病にならずにいられる、と推測されます。日本人であれば、あそこまで太る前にすい臓がギブアップして糖尿病になってしまいます。日本人にとって、肥満がいかに大敵かを示す例の一つです。

日本人に肥満が増えた大きな理由は、食事の欧米化といわれます。実際、アメリカに移住した日系人では糖尿病の頻度が高いことが明らかになっています。

最新の「国民健康・栄養調査」(2019年)によると、日本人男性の3人に1人が肥満(BMI25以上)です(女性は22.3%)。コロナ禍にあって、「コロナ太り」という言葉が生まれるなど、肥満の傾向はさらに高まっています。糖尿病を招く肥満の怖さを理解し、肥満にならない努力が必要です。

肥満やメタボリックシンドロームが糖尿病にとって大敵であることはわかっていただけたかと思います。無理なくダイエットを実践することは、血糖コントロール、糖尿病のリスクを回避する上でもとても大事です。

ダイエットといえば、近年よく耳にするのが「糖質制限」や「低糖質」「低炭水化物」といったワードです。いまやダイエットの定番になりつつあるようです。

糖質とは体のエネルギー源となる炭水化物から食物繊維を除いたもので、米や小麦粉、砂糖などが代表で、体内に入るとブドウ糖になります。

ダイエットの面で見ると、通常、血液中のブドウ糖は筋肉などに取り込まれ、エネルギー源になりますが、取り込むことができなかった余剰のブドウ糖は中性脂肪に変えて、脂肪細胞にため込もうとします。

糖質制限をすると、余剰のブドウ糖が減少して糖が脂肪にため込まれなくなります。また足りないエネルギー源を補うために、肝臓で脂肪を分解してケトン体が作られるため、体脂肪燃焼によるダイエット効果が期待できる、というわけです。

もちろん、糖そのものの摂取を抑えているので、血糖値の上昇を防ぐこともできるため、血糖値が気になる人や糖尿病患者さんの中には、積極的に糖質制限をする人もいます。

血糖値を上げるのは主に糖ですので、短期的には糖質制限によって確実に血糖値は下がります。

「糖質制限をやめたあとの反動」はまだ未知数

しかし、それでも私は、糖尿病、または予備群の人たちに糖質制限を積極的にはおすすめしていません。

それはなぜか?

まずは、日本糖尿病学会も見解を出していますが、長期間、糖質制限をしたときに、体への影響に対するエビデンス(科学的根拠)が確立されていないことです。

糖質ダイエットが話題になってまだ10〜20年ほどでしょう。生命維持に欠かせない三大栄養素の一つである糖質を極端に制限した食生活を長期間続けた場合、体にどんな影響が出るか、あるいは糖質制限をやめたあとの反動がどうなるのか、基本的な問題が解決できていないのです。

また、どれくらい糖質をカットし、たんぱく質や脂質の摂取量や割合はどれくらいにするといいのか、エビデンスに基づいたノウハウがありません。個々人が自分の感覚や経験則で行っているケースが多いのが実態でしょう。

糖質制限を提唱する医療者によっても、糖質は50%以下に抑えたほうがいい、という人もいれば、なかには30%以下にすべき、という人もいて、信頼できる基準値がありません。

糖質制限を推奨する人たちがキモとする点は、エネルギー源としてケトン体が作られることです。

ケトン体は糖質の供給が減少した際に、糖に代わってエネルギー源とすべく脂肪(脂肪酸)から産生される化合物で、飢餓状態や高熱・嘔吐、激しい運動などをしたときに、体の緊急対応措置として作られるものです。

脂肪が分解されるわけですから、たしかに体重減少につながります。しかし、ケトン体が出ている状態は正常ではありません。ケトン体は体が発するSOS、生体防御反応なのです。したがって交感神経の働きの低下、基礎代謝が落ちるなどの事象が起きます。

実際、糖質制限がブームになって以降、糖尿病治療の現場でよく起こる問題があります。糖尿病の患者さんがよく服用している薬に、余分な糖を尿と一緒に強制的に体外に排出して血糖値を下げるSGLT2阻害薬があります。この薬を内服中の患者さんが自己判断で糖質制限をしたために「正常血糖ケトアシドーシス」を引き起こして、救急搬送されてくるのです。

ケトアシドーシスとは代表的な糖尿病の急性合併症で、弱酸性物質であるケトン体が増えたことで、血液が酸性に傾いて起こる症状です。脱水症状や意識障害などを引き起こし、最悪の場合、命を落とすケースもあります。

糖尿病の患者さんにとって糖質制限はこのようなリスクを伴うため、私はSGLT2阻害薬を処方している患者さんには必ず糖質制限を行っていないかを確認するとともに、尿検査を行い、自己判断で糖質制限を行っている患者さんでケトン体が確認されたら、服用を中止しています。

腎機能が悪化する危険も

そもそも、SGLT2阻害薬服用の有無にかかわらず、糖尿病患者さんには糖質制限をおすすめしていません。長期的に糖質制限を続ければ、体になんらかの影響が出るのは、十分に予想されます。また、ケトン体は、体の緊急措置であるため、一時的に出ても、継続して出続けることは考えにくいというのが、私の見解です。

糖質制限は糖質さえ制限すれば、三大栄養素のそのほかのたんぱく質や脂質は比較的自由に食べていい、というのが一般的な方法のようです。つまり、肉や魚、豆、卵やチーズ、バターなどは制限がありません。

そこが糖質制限の魅力的な部分ではあるでしょうが、糖尿病患者、あるいはその予備群の人たちにとっては落とし穴です。

糖質を制限することで、相対的にたんぱく質の摂取が増えます。たんぱく質の増加は腎臓に負荷をかけます。

とりわけ糖尿病歴が長く腎機能が低下しているような人は、腎臓への負担が大きくなるため、たんぱく質のとり過ぎは御法度です。たとえ短期的に血糖値が下がっても、腎機能が悪化すれば元も子もありません。同じように、脂肪の摂取が相対的に増えても、脂肪毒性の問題が生じます。

また、肉や乳製品など動物性脂肪に多く含まれる飽和脂肪酸(一般的に肉や乳製品に含まれる、常温では固形の脂肪分)のとり過ぎは動脈硬化、循環器系疾患の増加につながります。

一つの栄養素を極端に控えるということは残りの栄養素の摂取割合を高めることになります。結果的にバランスが崩れ、残りの栄養素のとり過ぎにつながります。それがさまざまな体の不調を引き起こし、血糖コントロールをかえって悪くすることにもつながります。

実際に、それを象徴するケースがありました。

中国に単身赴任していた2型糖尿病の患者さんで、血糖降下薬を服用していた方がいました。中国では経口血糖降下薬が処方箋なしで薬局で購入できるため、10年ほど前から病院に通わず、自分で血糖値を測定しながら対処していたといいます。

しかし、あるときから血糖降下薬では血糖値が下がらなくなり、自己判断で内服薬を中止し、炭水化物をいっさいとらない糖質制限食に切り替えたというのです。具体的な食事は、野菜類と目玉焼き(朝食3個、昼食1個、夕食1個)を毎日食べる、という内容です。

それでしばらくは血糖値が安定していたようですが、2020年春頃から視力障害が出始め、同年9月に帰国した頃には口の渇きも強くなり、慈恵医科大学病院を受診しました。

すぐに検査をしたところ、高血糖に加え、悪玉コレステロール値は305(基準値60〜119mg/dl)、中性脂肪は271mg/dl(基準値30〜149)と高い値で、即入院となってしまったのです。

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そもそも糖質制限をしたのに、なぜ高血糖状態になってしまったのでしょうか。これは、たんぱく質と脂質のみをエネルギー源としたことで、血中の脂肪酸(遊離脂肪酸)濃度が高くなり、脂肪毒性を介してインスリン分泌能が低下したためと思われます。

そのため、少量の糖質しかとっていなくても(どんな食品でも、たいていはわずかながらでも糖質は含まれています)、血糖値が上昇してしまったということです。

最悪、心筋梗塞や脳梗塞発症の危険も

幸い、この患者さんはインスリン治療によって血糖コントロールができるようになりましたが、放置しておけば、糖尿病が悪化するだけでなく、心筋梗塞や脳梗塞を発症してしまっていたかもしれません。

また、炭水化物には食物繊維を含むものが多いた め、炭水化物を制限すると食物繊維不足となり、血糖コントロールをはじめ、腸の健康を 阻害するなど、全身の健康にも影響が出ます。

さらに腸内環境でいえば、糖質制限下では積極的に食べてよいとされる肉、とくに赤身肉(牛肉・豚肉・羊肉)は、食べ過ぎると腸内環境が悪化するばかりか、大腸がんのリスクも高まるので注意が必要です。

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提供元:糖尿病なのに「糖質制限に挑戦した男」の大失敗|東洋経済オンライン

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