2021.04.02
「よい姿勢」ばかりではNG? 万病の元はその姿勢にあり|特集/美しい姿勢で美しく生きる!
---- 子どものころ、親や先生に「背筋を伸ばしなさい!」と言われ、背筋をピンと伸ばした状態が「よい姿勢」だと教えられてきたものです。実はそれが、さまざまな不調につながっていたのだとしたら…。理学療法士として、多くの患者さんのからだの不調に接している山口正貴先生に、真実をお聞きしました。
姿勢のよい人ほどからだの不調は長引きやすい
頭痛、首の痛み、肩や背中の痛み、腰痛、股関節・ひざの痛み、足の痛みといった「痛み」、めまい、浅い呼吸、肩こり、飲みこみづらさ、肺炎といった「病気とそれにつながる不調」、二重あご、ほうれい線、首のしわ、猫背、ぽっこりおなか、くびれのないウエスト、垂れたお尻、身長が縮むなどの「外見上の悩み」、さらに睡眠の質の低下、転びやすいといった「QOL(quality of life=生活・人生の質)に関わる問題」、これらはすべて、姿勢の問題から起こりえる症状です。あらゆる不調の原因は姿勢にある、といっても過言ではありません。では、どんな姿勢をしていれば、不調を予防・改善できるのか。それは、「よい姿勢と、悪い姿勢とされるいわゆる楽な姿勢を、半分半分にする」ことです。
「よい姿勢」というのは、一般的に、寄りかからず、座っているときなら背もたれを使わず、背筋をピンと伸ばした状態です。このとき、形を維持しているのは、骨を支えている筋肉の力です。
「楽な姿勢」というのは、寄りかかったり、もたれたり、頬杖をついたりしている、だらんとした楽な状態です。筋肉は休んでいます。それでも立ったり座ったりしていられるのは、骨格を靭帯が支えているからです。靭帯は、骨と骨をつないで関節を形成している帯状の組織のことです。
よい姿勢をとっている間は、筋肉はずっと緊張しているので、背中はこわばり硬くなります。楽な姿勢を続けていると靭帯が伸びてしまって、関節や椎間板(ついかんばん)にズレが生じます。筋肉の緊張も、靭帯の伸びも、どちらも積み重なれば痛みの原因になります。だからこそ、よい姿勢と楽な姿勢を上手に使い分けていくことが大切なのです。
特に女性に多いのが、よい姿勢でいることを意識しすぎて、座っているときも背もたれをあまり使わないという人です。背筋や脊柱起立筋(せきちゅうきりつきん)など、姿勢を保持するための筋肉が強いからできることですが、それらを使いすぎて、筋疲労から腰や首の痛み、肩こり、緊張型の頭痛などが出てしまう。
だから楽な姿勢で筋肉を適度に休ませてあげなければいけないのですが、よい姿勢一辺倒の真面目な人ほど、脱力が下手なんです。力の抜き方を忘れている。普通はだらんと背骨をたわませることができるんですが、常に筋肉のテンションが高いので、「力を抜いて」と言われても背中が丸まらず、真っ直ぐ平坦なまま腰から折れるような感じになってしまうんです。痛みの治療にも少し時間がかかります。
上下前後左右、逆の動きでストレスを“逃がす”
よい姿勢でも楽な姿勢でも、よくないのは「同じ姿勢をとり続ける」ことです。姿勢を変えれば、不調は予防できます。よい姿勢の後は、楽な姿勢で筋肉を休ませてあげる。楽な姿勢ばかりではからだが歪み、筋力が低下しやすいので、しっかりと筋肉で支える姿勢もとる。つまり、姿勢のリスク配分です。
同じ姿勢を続けず、こまめに姿勢を変えること。意識したいのは、逆の動きをすることです。ずっと前かがみでいたなら、からだを反らしてあげる。前後でも、左右でも、からだの一部に負担がかかり続けないように、逆の向きに動かしていくことが大切です。
どちらか一方に偏らないように、というのは、日常生活の中のちょっとしたクセにおいても気をつけていただきたいことです。たとえば、いつもバッグを右肩にかけるとか、立っているときは左側に体重をかけている、といったことも、小さな偏りがストレスとして積み重なり、歪みにつながり、不調の原因になります。クセは誰にでもあるものですから、神経質になる必要はありませんが、上下前後左右、逆の動きでバランスをとりながら、ストレスを上手に逃していきましょう。
猫背になっていたら背中を反らしてあげる。ヒールのある靴でひざを伸ばして歩き続けたなら、しゃがんでひざを曲げてあげる。スマホを見ていて顔を下に向けていたなら、よい姿勢にしてあごをぐーっと引いて頸椎(けいつい)の動きを逆にしてあげる。思いついたらすぐにできる、こうした「ながら逃がし」をぜひ習慣にしてください。
----背筋をピンと伸ばした美しい姿勢をとり続けることが、からだに余計な負担をかけ、不調の原因になっていたとは。美しさと健康の両方を意識して、姿勢を見直したいものです。次回は、私たちの姿勢を支える「背骨」について教えていただきます。
先生/山口正貴(東京大学医学部附属病院リハビリテーション部理学療法士)
取材・文/剣持亜弥
イラスト/吉岡ゆうこ
山口正貴
撮影/高山浩数
東京大学医学部附属病院リハビリテーション部理学療法士。東京理科大学理学部在学中にぎっくり腰を患い、リハビリテーションに関心をもつ。卒業後、理学療法士の道へ進み、2005年に理学療法士国家資格を取得、東京大学医学部附属病院に入職。2007年より千葉県福祉ふれあいプラザ介護予防トレーニングセンターで予防事業を兼任。腰痛の研究も行っており、2016年の研究論文で日本理学療法士学会の第8回優秀論文表彰で優秀賞を受賞。メディアへの出演多数。著書に『「ねたままストレッチ」で腰痛は治る!』(集英社)、『姿勢の本―疲れない!痛まない!不調にならない!』(さくら舎)がある。
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提供元:「よい姿勢」ばかりではNG? 万病の元はその姿勢にあり|ワコール ボディブック