2020.11.10
YouTube、あまりにも圧倒的な稼ぎ方のカラクリ|ジャニーズも頼る「20億人経済圏」の全貌
創業から15年、巨大メディアの巧みな戦略を追う(デザイン:杉山 未記)
月間ユーザー数20億人、1日あたりの視聴は10億時間、投稿動画の量は毎分500時間――。膨大な数のユーザーと動画を抱えるのが、グーグル傘下の動画共有プラットフォーム「YouTube(ユーチューブ)」だ。
YouTubeは2005年、アメリカの決済大手ペイパルの出身者3人が共同で創業。翌年には、自社の動画サービスが伸び悩んでいたグーグルが約16億ドル(当時の為替レートで約2000億円)で買収した。創業2年目にして破格の買収だった。
グーグルの傘下入りで勢いづいたYouTubeが2007年に開始したのが、動画の再生回数などに応じて投稿者が広告収入を得られる「パートナープログラム」だ。これがきっかけとなり、動画投稿で稼ぐ「ユーチューバー」が増加。日本も含め世界中で社会現象となった。
『週刊東洋経済』は11月9日発売号で、「YouTubeの極意」を特集。拡大が止まらないYouTube経済圏の全貌やビジネスへの活用方法を徹底解説している。
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広告収入は年30%超の成長
動画数と比例して、企業がYouTubeに広告を出稿する枠も増える。グーグルの親会社アルファベットが2020年1月に初めて開示したYouTubeの広告収入は、2019年の1年間で151億ドル(約1兆5800億円)。グーグルの検索広告と比較するとまだ小さいが、成長率は年30%を超えている。
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YouTube広告の利点について、広告代理店大手の幹部はこう話す。「視聴者が動画視聴に集中している状態で広告に接触するので、ほかの動画広告とは一線を画す」。広告主は、テレビCMの一大広告主だった大手企業から始まり、今は中小企業まで裾野が広がっている。ここ1~2年は、外部サイトへのリンクを添付し、アプリのダウンロードやネット通販商品の購買を促すタイプの広告への需要が拡大している。
一方、誰もが投稿できるゆえの課題も多い。2017年にはテロリズムやヘイトスピーチを助長する動画に自社の広告が表示されていたことを受け、アメリカの大手広告主が一斉に出稿を停止する事態に発展した。YouTube側はコンテンツや投稿者の収益化に関する規約改定のほか、規約違反の動画削除や拡散防止のためのシステム、人力でのチェック体制の強化に追われた。
広告が表示される場所を管理したいという広告主の声を受け、今年5月にはユーザーが熱心に視聴する傾向が強い人気チャンネルや特定のジャンル、広告主の要望に沿ったチャンネル群だけに広告を出せる商品をアメリカで発表した。年内には日本でも提供が始まる。不適切な動画への出稿を防ぎつつ、人気チャンネルに広告を出せるようになるわけだ。
誰でも自由に投稿できる仕組みのYouTubeだが、ただ投稿の「場」を提供しているわけではない。メディアとして、巧みな戦略でコンテンツを充実させているのだ。人気チャンネルが増えれば、視聴者が集まり、広告主の出稿も増えることにつながる。
「クリエーター(ユーチューバー)を増やすうえで最も重要なのは、彼らの収入源を増やすことだ」。YouTube本社でコンテンツ関連を統括する最高ビジネス責任者のロバート・キンセル氏はそう話す。投稿者の収益を拡大させることができれば、YouTube自身の収益も伸びる。そこで同社はここ数年、広告以外のビジネスモデルも広げている。
広告以外のビジネスモデルを拡大
その1つが、サブスクリプションだ。アメリカで2015年、日本では2018年に開始した「YouTubeプレミアム」(月額1180円~)は、広告表示がなく、動画のオフライン再生も可能な有料サービスだ。これには2018年開始の音楽ストリーミングサービス「YouTubeミュージックプレミアム」(単独では月額980円~)も含まれる。
YouTube本社の最高ビジネス責任者を務めるロバート・キンセル氏。今回、東洋経済の単独インタビューに応じた(写真:Google)
これらサブスクリプションサービスの有料会員数は、世界で3000万人に達する。有料会員の視聴時間に応じて投稿者にも収益が分配されるほか、曲の再生回数に応じてレコード会社にも還元する。今年初めにグーグルのスンダー・ピチャイCEOは2019年通期決算の発表の場で、「YouTubeのサブスクリプションは年換算で30億ドル規模の収益に達した」と述べた。広告の事業規模には及ばないが、着実に成長を続けている。
もう1つは、直接ユーチューバーの収入源になるサービスだ。まずライブ配信をしている配信者に、チャット内で視聴者が投げ銭(応援金を提供すること)できる「スーパーチャット」がある。2017年に国内外で提供が始まったもので、世界中で10万以上のチャンネルで使われている。
2018年にはチャンネルの登録者が月額料金を支払えば、限定動画などの特典を受けられる「チャンネルメンバーシップ」も始まった。スーパーチャットやチャンネルメンバーシップでは、YouTubeが収益の約3割を手数料として徴収する。
最近ではアパレルなどのグッズ販売で稼ぐユーチューバーも多い。アメリカでは2年ほど前から提供していたYouTube上でのグッズ販売機能が、今年9月に日本でも始まった。スマホアプリで視聴していると、動画の概要欄の下に販売しているグッズの一覧が現れる。クリックすると販売サイトに移動する仕組みだ。
さらにユーチューバーの中には化粧品やガジェットなど、商品紹介をする人も少なくない。「商品動画で需要を喚起するソーシャルコマースは、巨大な商機だ」(前出のキンセル氏)。YouTubeでは、動画に登場した商品にタグをつけ、アプリ内で購入を完結できるような仕組みを開発中だという。
日本でもYouTubeの勢いは止まらない。同社で最高製品責任者を務めるニール・モーハン氏は昨年の東洋経済の取材に、「日本はグローバルでもトップ5に入る市場だ」と明言。ユーチューバー事務所大手のBitStarの調査によれば、今年10月現在、国内で登録者100万人を超えるチャンネル数は312、10万人以上のチャンネル数は4922と、ともに前年比で約8割伸びている。
「日本はグローバルでもトップ5に入る市場だ」と明言 ※外部サイトに遷移します
芸能人の進出が加速
これまで目立ってきたのは「HIKAKIN」や「はじめしゃちょー」など、チャンネル登録者数で数百万人を超えるような人気ユーチューバーだ。ただ直近では、芸能人の活躍も目立つ。昨年はジャニーズ事務所の人気グループ「嵐」がチャンネルを開設し、今年はコロナ禍で活動が制限された芸能人の進出が相次いだ。YouTubeの仲條亮子・日本代表は、「(芸能人や歌手などから)YouTube活用の戦略について相談を受けることが増えた」と話す。
また、メイクアップやファッション、ゲーム実況、釣り、ゴルフといった趣味性の高いものや、英会話、フィットネス、料理、投資といった学びにフォーカスしたものなど、登録者が数十万人規模のチャンネルがユーチューバーの裾野を広げた。
ユーチューバーと視聴者の関係性が強いのも日本の特徴だ。先述のスーパーチャットの収益における世界トップ10のうち、7つが日本のチャンネルだ。今年3月には、ゲーム実況や音楽活動を行うユーチューバーユニット「M.S.S Project」が1度のライブ配信で約1億2000万円の投げ銭を集めた。
東京・渋谷のグーグルの日本法人社屋近くで建設中の「YouTube Space Tokyo」。ビル1棟に撮影スタジオなどが完備されている(写真:Google)
YouTubeは戦略的に、日本でも動画投稿を増やす取り組みを行う。社内には「音楽」(レコード会社やアーティスト)、「コンテンツパートナー」(メディアやエンターテインメント企業)、「クリエーター」(ユーチューバー)の3つの区分に分け、YouTube活用を支援する専門人材をそろえる。
今後の成長のカギを握るのが、裾野が広いクリエーター層の支援だ。誰でも見られるオンライン教材のほか、一定数以上のチャンネル登録者がいれば専属の担当者をつけたり、選抜過程を経て限定の講座に招待したりする。
こうした支援の拠点が、直営の撮影スタジオ「YouTubeスペース」だ。チャンネル登録者数が1万人以上であれば利用可能。従来はグーグルのオフィス内にあったが、渋谷のグーグル日本法人社屋近くにビル1棟を建設中だ。今夏に予定されていた開業はコロナ禍で延期されたが、大規模投資であることは間違いない。
日本でも世界でも、「世界最大級の動画経済圏」の成長はとどまるところを知らない。
『週刊東洋経済』11月14日号(11月9日発売)の特集は「YouTubeの極意」です。
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提供元:YouTube、あまりにも圧倒的な稼ぎ方のカラクリ|東洋経済オンライン