2020.09.16
やる気が出ない一日を変える「心理学的な手法」|勉強して差をつけたい人に伝えたい
三日坊主で何をやっても続かない人に、モチベーションを上げる心理学的手法を伝授します(写真:kou/PIXTA)
自粛期間がやっと明けたかと思ったら第2波がやってきて、再びの自粛も懸念されています。
しかし、これは社会人にとっては同僚と差をつけるためのチャンスとも言えます。ここで、資格試験の勉強や読書をすることで、コロナが終息したあとの世界で活躍できるかもしれません。
勉強のモチベーションを上げる秘訣は、あえて中途半端な状態をつくることです――。『ヤバいモチベーション 完全無欠のやる気を手にする科学的メソッド50』を上梓した塚本亮氏は言う。同氏に、心理学的手法を用いた勉強のやる気を最大にするためのメソッドを聞いた。
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三日坊主が起こる心理学的理由
書店で問題集を買う→ 家に帰り、張り切って取り組む→3日間くらいはやる→数十ページやったところで面倒になる→また明日でいいやとなる→やる気が起きなくなり問題集を開きさえしなくなる→問題集を買ったことを忘れてしまう……。
これはかつての私の「三日坊主に至る経緯」です。なぜ三日坊主が起こるのでしょうか。ここではこれについてもう少し考えてみましょう。
「三日坊主」を何度も繰り返すと、「いつも中途半端でよくない」「持続力がない」などと自分を責めたくならないでしょうか。
しかし実は、このような三日坊主のパターンは人の脳の特性からきているものともいえ、誰もが陥りやすいパターンなのです。
では、どうしてこのようなパターンをたどるのでしょうか。このときの「気持ち」に注目すると、たいていは次のようなものになるでしょう。
新しい問題集や参考書を買ったときというのは、誰もが「よし、この1冊を完璧にして次の試験には合格するぞ!」などと張り切ります。そして家に帰って問題に取り組みます。最初のうちは「頑張って成果を出そう」という意志力が続きます。
しかし3日目を過ぎた頃になると、だんだん面倒になり、「この問題集をやって本当に力がつくのだろうか、やってもたいした成果は出ないのでは?」という思いがよぎり、徐々にその問題集を手に取らなくなってしまうのです。
気持ちがこのように変化する背景には、「現状維持バイアス」という心理があります。
「現状維持バイアス」とは、何か新しいことをすると損をしてしまうかもしれないという不安から、現状を維持しようとすること。
例えば日本では、株や債券などの投資をする人の割合が欧米に比べるととても低いですが、これはこれまで日本人に投資をする習慣が少なかったからといえます。
多くの人にとって投資は未経験。もちろん投資にリスクはつきものですが、そのリスクを過大評価してしまうのです。投資をしたら損をする可能性がありますが、何もしなければひとまず何も損はしません。だったら投資という「新しいこと」には手をつけず現状を維持しておこう、と考えるのです。
この「現状維持バイアス」という心理はかなり強固なもの。というのは、人には「損失を避けたい」という気持ちがものすごく強くあり、「利益」と「損失」の両方が目の前に差し出された場合でも、利益を得ようとするより損失を避けようとする行動に出るほうが多いのです。例えば、
(A)今すぐ◯◯へ行って手続きをすれば、1000円の金券をプレゼントしてもらえる
(B)今すぐ◯◯へ行って手続きしないと、銀行口座から1000円引かれてしまう
必ずどちらかを選ばないといけないとき、どちらを選ぶか。どちらを選んでも損はしない。でも(B)を選ぶ人のほうが多い。それは「損を避けたい」という気持ちのほうが強く働くからです。このように、人には「損を避けたい」という心理が強く働き、ゆえに「現状維持バイアス」はより強固なものとなるのです。
3行読んだらもうあなたの勝ち
さて、ここで新しい問題集が三日坊主になってしまうことに話を戻すと、「現状維持バイアス」によってその問題集に手をつけなくなるというのは、「この問題集をやって、はたして本当に力がつくのだろうか?」という思いが湧いてくるためです。せっかくやっても力がつかなければ、そこでかけた時間や労力を損することになる。「やって損するようなことはやめておこう」となるわけです。
でもここで気をつけなければいけないのは、損をする可能性は新しいことをやったときだけにあるものではないということ。
(A)新しいことを始めたがゆえに生じるかもしれない損
(B)新しいことを始めなかったがゆえに生じるかもしれない損
の2つがあるのですが、「現状維持バイアス」があると、後者の「損」は見逃しがちです。問題集でいえば「問題集に取り組んだために生じる損」のことは考えても、「問題集に取り組まなかったがゆえに生じる損」までには考えが及びません。でも現実には、勉強に限っていえば後者によって生じる損のほうがはるかに大きいのです。
というわけで、問題集は三日坊主で終わらせないことはとても重要なのですが、私たちを三日坊主にさせてしまう心理がいかに強固なものかということもおわかりいただけたと思います。
この強固な「現状維持バイアス」を何とかするには、この心理が働く大本となる「この問題集で成果を出そう」という気持ちを減らすことが大事。成果を出そうと思わなければ「成果が出なかったら損だな」という気持ちも起きないからです。
問題集を開くときに 「パラパラと眺めるだけでOK」というような低い目標設定にするのは1つの手です。パラパラと眺めるだけならやっても「損した」という気にはなりませんね。
問題集をパラパラと眺める、あるいは最初の3行だけを読むと決める。それができて、その先に進めたとしたら、その日は自分の「現状維持バイアス」に勝てたといえます。勉強を続けるには、こうして日々「白星」を積み重ねていくことが大事。その延長に、試験の合格、資格の取得といった「優勝」があるのです。
参考書は残り3問を残して終わらせる
勉強をする際は「60分集中したら10分休憩する」というように集中時間と休憩時間を決めて、それを正確に守るといいです。
このとき、集中タイム中には時間を気にしなくて済むよう、キッチンタイマーを用意して時間をセット、スタートボタンを押したら一心不乱に問題に取り組むというのが理想です。
そして「ピピピ」とタイマーが鳴ったら、たとえ問題の途中であってもすぐに手を止めます。単純な計算問題ならその問題1つはやり切ってしまってもいいですが、応用問題など複雑な問題の場合は途中でもそのままにして休憩に入ります。
このとき「ページの最後までやってしまおう」「キリのいいところまでやってから休憩にしよう」などという気持ちは厳禁。「キリのよさ」より時間厳守を優先します。それくらい集中と休憩の時間は正確なほうがいいのです。
「それだとめちゃめちゃ中途半端になりませんか?」
休憩の取り方をアドバイスした教え子からこう言われることがありますが、実はこの中途半端がいいのです。なぜならそのほうが、休憩後の「続きをやろう」という気持ちが高まるから。
人には、完了したものよりも未完了のもののほうがその内容をよく覚えているという傾向があります。これは心理学で「ザイガルニック効果(またはツァイガルニック効果)」と呼ばれるもの。
例えば、あと少しで終わりそうな仕事が残っていると無性に気になることがありませんか。あるいは友人などと話していて「あー、それはたいしたことじゃないから、気にしないで」などと意味ありげに切り上げられると妙に気になります。このように人は中途半端なものが気になるのです。
つまり、勉強中に「キリのよさ」より時間厳守を優先するのは、あえて中途半端に終わらせて「気になって仕方がない」という状況を作ることでもあるのです。ですから勉強の中途半端は悪いことではありません。
「なんか中途半端で嫌だ」という気持ちを生かす
問題集の問題があと1問だけ残っている、長文読解の長文が読みかけ、解説を半分までしか理解していない……、どれもOKなのです。「あー、なんか中途半端で嫌だ」という気持ちが、次のやる気につながります。
また、私はこの「ザイガルニック効果」を全力を出し切らずに、あえて「余力を残してやめる」という方法で応用する場合もあります。
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私はこの方法を原稿を書くときに使うのですが、例えば全力を出し切って、「よし、書き切った! 力を出し尽くしたからもうこれ以上書けない。もう書くネタはない」と思うほどに書いてしまうと、息が切れてしまい翌日のモチベーションが下がります。「昨日、書きたいことは全部書いてしまったからな」と次の日に思ってしまうこともあります。
そこであえて、「もう少し書きたいことがあるけれど、今日はやめよう」と中途半端なところで終わらせます。すると自然と「早く続きが書きたい」と思うようになり、翌日のスタートダッシュが快適に切れるのです。 またスポーツジムの筋トレでも同じような応用をするときがあります。
筋トレをする前に、「今日は30分でこれとこれをやろう」と時間と筋トレのメニューを決めます。このときのポイントは時間制限を設けることと、筋トレメニューの内容をその時間内に終わるかどうかというギリギリの量にすること。
ギリギリの時間設定なので、集中して取り組むことができます。しかしやはり時間内には終わらず中途半端になりますが、それが「また次回やりたい」という気持ちにつながるのです。
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提供元:やる気が出ない一日を変える「心理学的な手法」|東洋経済オンライン