2020.09.02
すぐ疲れてしまう人ほど「息の仕方が下手」な訳|数日で呼吸を改善する「トレーニング」も紹介
あなたの体調不良の原因は「呼吸」にあるかもしれない。もし呼吸の仕方がいい加減だと、1日に2万回以上「体に悪い運動」を行っていることになる(写真:kouta/PIXTA)
「体に不調を感じる人の多くは、酸素を吸いすぎている」と語るのは数多くの企業で腰痛などの不調改善のレッスンを行ってきたパーソナルトレーナーの鈴木孝佳氏。彼が警鐘を鳴らす「酸素を吸いすぎることのデメリット」とは? 数日で呼吸の仕方を改善する「クロコダイル・ブリージング」と併せて紹介。『疲れない体を脳からつくる ボディハック』より一部抜粋・再構成してお届けする。
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ヒトは、死ぬまでに約6億回の呼吸を行うと言われています。この世に生まれ、産声を上げた瞬間から呼吸は始まり、1日に2万回以上の呼吸が行われ続けます。私たちは、無意識ながらも途方もない数の運動を毎日続けているのです。
呼吸はすべての活動の基礎であり、生命を維持するためになによりも優先される運動です。例えば、食べ物がない状況下でのヒトの生存時間は10日から3週間ほど、水がない状態では72時間と言われていますが、呼吸停止の状態が10分続くと、死亡率は50%程度に達します。息が4〜6分の間止まっていると、低酸素によって意識を失い、やがては心臓も止まってしまうからです。
こうした呼吸の重要性に関して、運動指導者なら誰しも知っている有名な言葉があります。
「呼吸が適正化されなければ、動作を適正化することはできない」
動作を適正にできない(=変えられない)ということは、体はよい方向に向かわないということ。その言葉のとおり、健康への道は呼吸から始まるのです。しかし、現代社会に生きる多くの人々は、この呼吸に問題を抱えているのです。
現代人は酸素を「吸いすぎ」ている
「マインドフルネス」や「瞑想」など、昨今ではメディアでも呼吸法が注目され、関連書籍も飛ぶように売れています。私も呼吸の専門家としてクライアントに呼吸法を指導し、私自身も欠かさず実践しています。
理想の呼吸回数は1分間で10回以下、1回の呼吸での換気量は450〜500ml。少し息を止めるとすぐに苦しくなるという方は、体が「酸欠」気味になっていると言えます。実際に「呼吸が浅くて酸欠気味だから、深く息を吸う方法を知りたい」とおっしゃるクライアントもたくさんいらっしゃいます。しかし、実際には「酸素の吸いすぎが酸欠状態を招いている」のです。
「酸素を吸いすぎているのに、酸欠ってどういうこと?」と思われるかもしれませんが、これには体の仕組みが関係しています。
「換気が悪い部屋で体調を崩す」「二酸化炭素量の増加が温暖化を引き起こす」と、二酸化炭素には厄介な廃棄物で悪者のイメージがついています。しかし、酸素を吸収できるのは、二酸化炭素のおかげでもあります。
そもそも酸素が細胞にたどりつくためには二酸化炭素の存在を必要とします。酸素は血液中の赤血球中のヘモグロビンにくっつくことで運ばれ、二酸化炭素が酸素とヘモグロビンを切り離すことで、体中に酸素が供給されます。これは生物の授業で習った方も多いことでしょう。
つまり、息をどれだけ吸い込んでも、酸素は一定量しかとり込めないうえに、体内の二酸化炭素が少なければ、その分少ない酸素しか吸収できません。つまり、息を吸すぎてしまうと、酸素と二酸化炭素とのバランスが崩れ、酸素がうまく体中に運ばれなくなってしまうのです。
「呼吸のリズム」は二酸化炭素が決める
二酸化炭素の重大な役割はまだあります。それは、「二酸化炭素量によって脳は呼吸リズムを決めている」という点です。
呼吸を調整している呼吸中枢は、脳の延髄と呼ばれる箇所にあり、二酸化炭素の量をモニタリングしています。二酸化炭素が一定量まで増えると、この呼吸の司令塔が情報をキャッチし「息を吸って!」と体に信号を出します。ここで呼吸速度やリズム、深さが決められます。
二酸化炭素が少ない状態が24時間以上続くと、体の二酸化炭素への耐性が低くなり、呼吸中枢が「息を吸って!」という信号を出すタイミングが早まります。この負のスパイラルによって、徐々に浅く速い呼吸が常態化してしまうのです。
呼吸は姿勢にも密接に関わっています。なぜなら、姿勢は空気圧によっても支えられているため、正しい姿勢をとるには正しい呼吸が必要になるからです。
本来なら、息を吸えばお腹は360度方向に膨らみ、それに合わせて肋骨も動きます。しかし、現実には多くの人は、お腹が前にしか膨らまない、あるいは肩を上下させた呼吸になってしまっています。これは、腰痛やポッコリお腹の原因でもある、反り腰の状態です。腰が反ると体も反り返り、首と頭は前に出た姿勢になります。この姿勢では、息を吸っても肺の上のほうは広がらず、空気圧を得られません。実は、これが猫背の原因でもあります。
下図のように、正しい姿勢は、壁にかかとをつけて立ったとき、左のように頭・背中・お尻が壁にくっつくくらいの位置にきます。背骨のカーブは首・背中・腰の3点です。
一方、右のように猫背の人は、壁から頭が離れてしまったり、正しい姿勢に比べて腰が大きく壁から離れてしまったりします。背骨のカーブは、背中・腰の2点のみ。首は、“スマホ首”と近年話題になっているストレートネックになっています。
呼吸がダメだと「体は弱る」一方
また、背骨は自律神経とも密接につながっています。自律神経の多くは、背骨を通って脳と臓器間の情報を伝えています。反り腰になっていると、交感神経が刺激される形になってしまい、体はつねに緊張モードになります。そうすると、睡眠の質や消化吸収機能、さらには免疫機能の低下など、体がことごとく弱ってしまいます。
呼吸が不適正だと、体への弊害がこれほどまでに出てくるのです。
ここで、「浅く速い呼吸によって息を吸いすぎていないか」を確かめる、簡単な息止めテストをご紹介します。
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これは、苦しまずに息を止めていられる時間を計り、「二酸化炭素が溜まっていくことに体が慣れているか」をチェックするものです。
このテストは、息を我慢するのではなく「息が吸いたくなるまでの時間」を知ることを念頭に行ってください。計測中に首やお腹に力が入る、息が苦しいと感じる、あるいは計測後に思わず息を吸ってしまう場合は、息を吸いたくなる時間が過ぎているサイン。
はじめはどうしても苦しくなるまでやってしまうので、3回テストを行ってその平均で評価しましょう。
<手順>
(1)ストップウォッチを用意して姿勢を正して楽に座る
(2)呼吸を落ち着かせたら鼻から少し息を吸う
(3)小さく溜息をつくように鼻から息を少し吐き出す
(4)素早く鼻をつまみ、息を止めたらストップウォッチをスタート
(5)息を吸いたくなるまでの時間を計測する
(6)これを3回行い、タイムの平均を出す
<判定>
○ 30秒以上:よい状態。まだ伸び代あり
△ 20〜29秒:呼吸に改善の必要あり
× 19秒以下:呼吸に大いに問題あり
理想は40秒です。10秒未満の方はアレルギーや鼻づまり、冷え性などのトラブルがあることも考えられます。テスト結果が悪い方は普段から酸欠気味で、無意識のうちに息を吸おうと頑張っているため、呼吸の改善が必要になります。
呼吸を改善する「クロコダイル・ブリージング」
息止めテストで△、×だった方向けに、呼吸を改善する簡単なトレーニングをご紹介します。これは、文字どおりうつ伏せになってワニのような姿勢で呼吸をするトレーニングです。不適正な呼吸のクセが矯正され、交感神経への刺激を減らすことができます。すると、リラックスできて呼吸も自然とうまくいくようになります。
おすすめのタイミングは夜、寝る前です。肩、背中、腰に無駄な力が入らないよう力を抜いて行ってください。
<手順>
(1)重ねた両手に額を乗せるようにしてうつ伏せになる
(2)口から5秒間ゆっくりと息を吐く
(3)5秒間、息を止める
(4)鼻から5秒間、背中から腰に空気を送り込むイメージでゆっくりと息を吸う
(5)これを5回行う
<チェックポイント>
□ 息を吐くときに腹筋を感じる
□ 息を吸うときに背中の広がりを感じる
□ 息を吸うときに、音を出さずにゆっくりと吸える
これを数日間続けた後で、もう一度息止めテストを行ってみてください。きっと改善が見られるかと思います。
いまこの瞬間も何気なく行っている呼吸ですが、これが不適正だと、1日に2万回以上「体に悪い運動」を行っていることになります。「健康への道は呼吸から」を思い出して、ぜひ呼吸にも気をつかってみてください。
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提供元:すぐ疲れてしまう人ほど「息の仕方が下手」な訳│東洋経済オンライン