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2020.08.31

ウイルスをわかってない人に知ってほしい基本|生物か非生物か、どうやって感染し増えるのか


実は「生物の進化」に関わっているという説も(写真:NicoElNino/iStock)

実は「生物の進化」に関わっているという説も(写真:NicoElNino/iStock)

感染症の元になるウイルスから、健康・暮らしに役立つものまで。世界は微生物が動かしている。中学理科のレベルで、やさしく解説した『世界を変えた微生物と感染症』より、ウイルスのパートを一部抜粋・再編集して掲載する。

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中身はシンプル、見た目はフクザツ

ウイルスは、ほかの微生物と同じように感染性をもつ、微生物のような粒子です。そのサイズは微生物の中で特に小さい細菌類よりもさらに10分の1ほど小さくて、例えばインフルエンザウイルスは100ナノ(1ナノは10億分の1)メートルほどです。

「微生物のような」と書きましたが、ウイルスは生物なのか生物ではないのか、その判断が難しい微妙な存在です。内部に遺伝子となる核酸(DNAまたはRNA)をもち増殖しますが、次のように生物という概念に収まらない特殊な性質をもっているからです。

(1) 細胞構造をとらない

(2) エネルギーを消費しない

(3) 何かの細胞に寄生しなければ増殖できない

(4)条件を整えれば氷や塩のように「結晶化」する

とはいえ、よくよくウイルスたちの性質や構造、ふるまいを観察してみると、やはり「非生物」と断定することもできません。生物と同じように遺伝子を分析してみれば、ウイルスの世界にもさまざまな親戚関係があることが明らかで、それは単なる物質ではありえないことでしょう。

こうして眺めていけば、ウイルスはかつて生物であったものが、遺伝子を子孫に受け継がせる最低限のシステムだけを残し余分なものをすべてそぎ落とした、「生物界随一のミニマリスト」のようにも思えてきます。実のところ、微生物研究者の間でも、ウイルスを生物と考える人も非生物と考える人もいて、議論はまとまっていないのです。

ウイルスの基本的なつくりは、シンプルの極みです。

しかし中身はシンプルでも、外観はとても複雑かつ多様です。球形や円筒形になるもの、多面体になるもの、何やら宇宙船のような複雑な形になるものまでいます。最も典型的なウイルスの外観は正二十面体です。正二十面体は最大の面数をもつ正多面体であり、ターゲットとなる細胞にどの角度からぶつかっても付着しやすいと考えられます。

ウイルスが感染する相手の生物を「宿主」(しゅくしゅ)と言います。ウイルスが宿主の体に侵入し細胞表面に吸着すると、そこから感染がスタートします。一般的なウイルスは、宿主細胞に食べられるようにして細胞内に侵入していきます。細胞内では、まずキャプシドが細胞の働きで消化され核酸が解き放たれます。

細胞内に広がった核酸は、宿主細胞の増殖システムを丸ごと乗っ取ります。本来なら宿主細胞が自分のために核酸を複製したり必要なタンパク質を合成したりするはずのしくみをうまく転用して、「子ウイルス」の材料となる核酸やタンパク質をものすごいスピードで大量につくらせ組み立てていきます。

多くのウイルスでは、この段階で若干のコピーミスが生じ、それが「変異」となって新たな型の子ウイルスが生み出されます。やがて子ウイルスが十分にたまってくると、はじけるようにして細胞膜が破れ、外にまき散らされていくのです。

こんな形で勢いよく子ウイルスが放出されると宿主細胞は死んでしまいますが、細胞膜を破らずに静かに出ていくタイプのウイルスもいます。

感染しても発症するとは限らない

ウイルスによる感染症には、インフルエンザ・おたふく風邪・風疹(ふうしん)・麻疹(はしか)・日本脳炎・エイズなどさまざまなものがあります。これらのウイルスは、空気や体液、嘔吐物、くしゃみなどの飛沫、あるいは直接接触によって感染します。

ウイルスの種類によって感染する部位も決まっており、それ以外の部分の細胞には到達したとしても感染できません。

感染可能な細胞に到達できるかどうかは、完全に偶然によります。感染には、細胞膜表面にあるタンパク質と、ウイルス表面のタンパク質の型がそろっている必要があります。ウイルスが偶然たどり着いた細胞が同じ「型」をもつ細胞だった場合のみに、感染が成立するのです。

しかし、(ウイルスにとって)運よく感染に至ったところで、それがすぐに病気を発症させるわけではありません。免疫の働きでウイルスの増殖が遅くなれば発症までの潜伏期間が長くなり、ここで増殖が完全にストップすることもあります。また、ウイルスの増殖にともなう細胞死のスピードに対し、細胞分裂による細胞生産が早かったり拮抗したりしていれば、それだけ発症が抑えられることになります。

例えば、エイズを引き起こす「HIV(ヒト免疫不全ウイルス)」というウイルスは、免疫系の細胞に感染します。

最初はランゲルハンス細胞に感染して全身に広がり、免疫系の中心であるヘルパーT細胞に感染して一気に増殖します。一時的にウイルスの数がピークを迎え不調を招きますが、このときは免疫の活躍によってどんどんウイルスがやっつけられて症状が回復します。しかし、体内からウイルスが完全になくなったわけではないので、自覚症状のないままHIVと免疫のバトルが継続することになります。

何年もの間、不眠不休で闘うことによって少しずつ免疫系は疲弊し、新たなヘルパーT細胞を生む力よりHIVが増殖する力が勝った段階で形勢逆転となり、やがてエイズが発症することになるのです。

ウイルスがヒトを進化させた?

ウイルス研究の歴史は浅く、ほんの100年程度です。行きがかり上、病原性のあるウイルスに関する研究が主流だったことから、ウイルスと言えばつねに有害なイメージがつきまといます。

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ところが最近になって、ウイルスの多くは病原性をもたないどころか、生物の進化に大きく貢献してきたことが少しずつわかってきました。

HIVがヘルパーT細胞に感染した後、そこに自分の遺伝子を組み込んで弱体化させるように、ウイルスには自分の遺伝子を宿主細胞の遺伝子に組み込む性質を持つものがいます。人の遺伝情報を解析した結果、実にその半分以上が、ウイルスに由来する可能性があるということが明らかになったのです。

さらに研究が進んだ現在では、このような現象は意外にも普遍的に見られるということがわかり始めています。通常、遺伝子は親から子へと受け継がれますが、まれに無関係の生物種間でも遺伝子が移動することがあります。どうやら、ここに「運び屋」としてウイルスが関与しているようなのです。

もし、今後この働きの全体像が明らかになれば、ウイルスに対するイメージはガラッと変わり、「生物の進化」に関する考え方も大きく転換することになるでしょう。

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提供元:ウイルスをわかってない人に知ってほしい基本|東洋経済オンライン

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