2020.03.30
新型ウイルスを正しく怖がるためにできる心得 |大半の「感染症」は根絶することが難しい理由
マスクをして通勤する人々(撮影:尾形文繁)
現在、世界中で新型コロナウイルスに関するさまざまな情報が飛び交い、日本国内でも自粛ムードの蔓延、マスク・トイレットペーパーなどの品切れ、など大きな混乱を招いています。
「ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしい」
明治から昭和初期にかけて活躍した物理学者、寺田寅彦(1878~1935年)の「小爆発二件」という浅間山の噴火について触れた随筆の中に出てくる名言です。
感染症の原因となる目に見えない病原体に対しても、この「正当に怖がる」ことが欠かせません。とりわけ未知の感染症である新興感染症については、個人レベルでも国家レベルでも「いかに正しく恐れるか」が求められます。そこで今回は、日本医学ジャーナリスト協会理事・幹事の木村良一氏の新刊『「新型コロナウイルス」―正しくこわがるにはどうすればいいのか―』をもとに、新型コロナウイルスについて「正しく怖がる」ための心得を紹介します。
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コロナウイルスは「飛沫感染」が主な感染経路
感染症を予防するには、その感染症がどうやって人から人へと伝播していくかを知る必要があります。これまでのWHO(世界保健機関)や厚生労働省、国立感染症研究所の発表を総合すると、新型コロナウイルスの感染の仕方は「飛沫感染」が中心とされています。
飛沫感染するウイルスは、ウイルスを多く含んだ感染者のせきやくしゃみによって飛び散る唾液や鼻水の飛沫を直接浴びたり、テーブルの上やドアノブ、電車の吊革などに付着した感染者の飛沫に直接、手で触れたりすることで広がり、後者は接触感染とも呼ばれます。こうした感染の仕方は風邪や季節性のインフルエンザと同じなのです。
新型コロナウイルスの感染力について、1人の感染者が何人に感染させるかという感染力は2人程度。これは2~3人とされるインフルエンザとほぼ同じです。新種のウイルスに対して私たちは免疫(抵抗力)を持たないので、感染力はかなり高くなる傾向もあります。それに未知の病原体だけに特有の感染ルートを持っている可能性も考えなければいけないでしょう。
新型コロナウイルスの主な初期症状は発熱、鼻水、喉の炎症、咳、息苦しさ、倦怠感、下痢などと言われています。これも風邪やインフルエンザと同じで、とくに初期の症状はよく似ているとされています。
したがって症状からは風邪やインフルエンザに罹患(りかん)したのか、それとも新型コロナウイルスに感染したのかよくわからないというのが現状です。
マスクは感染予防策となるの?
新型コロナウイルスの流行に伴って、ドラッグストアを中心にマスクの売り切れが目立っています。病院でも在庫のマスクが底を尽き、品薄状態はこの先も続くのではないかと予想されています。
ただ、マスクによるウイルスの感染予防効果を過信してはいけません。唾液や鼻水の飛沫を通じて感染するウイルスや細菌などの病原体に対し、マスクは一定の効果がありますが、飛沫は普通に会話をしていても飛び散ります。
そのため飛沫によって人から人へと伝播していく新型コロナウイルスにマスクは効きますが、効果があるのは感染者が正しくマスクを着用した場合に限られます。例えば感染者の飛沫がマスクの内側にたまっているのにもかかわらず、マスクを外すときにその内側を手で触れば、当然の結果として手に多くのウイルスが付着することになります。
また、内側に触れなかったとしても、マスクの外側にも網目をかいくぐった感染者のウイルスが多く付着しているので、外側に触れても同じことになるのです。
WHOもマスクの効果を疑問視しており、マスクは「つけないよりはつけたほうがましだ」ぐらいの感覚でいるべきであるとも言えます。
そこでコロナウイルスに最も有効な予防法とされているのは、日々のこまめな手洗いです。外出先から帰ったら、家の中のものに触れる前にすぐに手を洗うこと。さらにせっけんやアルコール液を使わずに水だけで洗っても、付着したウイルスの多くを洗い流すことができます。
飛沫感染するウイルスの代表格がインフルエンザウイルスですが、インフルエンザ対策として感染症の専門家や厚生労働省は、かなり以前からマスクよりも手洗いの効果を指摘しており、手洗いを推奨しているのも事実です。
感染症の問題を扱う専門家や厚生労働省は、新型コロナウイルスのような感染症を「新興感染症」と呼んでいます。
WHOによると、局地的あるいは国際的に公衆衛生上の問題となる新しく認識された感染症が、この新興感染症といわれています。また、再び流行し始めて患者・感染者が増加している感染症は「再興感染症」と呼ばれ、どちらも感染が拡大すると、甚大な被害をもたらす危険性があり、その病原体の多くがウイルスであるとされています。
ちなみに古代から「悪魔の病気」と恐れられ、人類に大きな被害を出してきた天然痘(疱瘡、痘瘡)に対し、WHOは種痘のワクチンを駆使して1965年から本格的な根絶作戦を展開して根絶計画をみごと成功させました。
地球上最後の天然痘患者は、1977年10月26日に発病した東アフリカのソマリアの青年で、2年半後の1980年5月、WHOは天然痘根絶を宣言しました。天然痘が根絶できたのは天然痘ウイルスが人だけに感染する病原体だからであり、そうしたウイルスは人の間での流行を食い止めることさえできれば、根絶の可能性はあります。
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しかし、新型コロナウイルスの場合は人畜に共通する感染症の可能性があります。
20世紀後半には、農業や工業の発展で森林が次々と開発され、人間が野生動物の生息地域に入り込んでいった結果、野生動物との距離は近くなっています。野生動物はウイルスと共存しています。
つまり、ウイルスの自然宿主となるため、当然、そこで人間はその未知のウイルスに感染することになります。アフリカの熱帯雨林に生息するコウモリから人に感染していったといわれるエボラ出血熱は、まさにこうした感染症の代表格であり、新型コロナウイルスもまたそうした病原体なのかもしれません。
正しい予防法を知ることが大事
日本で一時、アウトブレイク(都市型感染拡大)したデング熱も根絶はできないといわれています。それはデング熱が、特定の蚊に刺されることで感染するものであり、デング熱ウイルスを持つ蚊が媒介し、人→蚊→人で感染が拡大するという仕組みになっているからです。
そのうえ、熱帯の野生のサルの間でも蚊を介して感染しているため、蚊を絶滅させない限り、感染は断ち切ることができません。つまり、大半の感染症が根絶できないと考えたほうがよいうということになります。ならば私たちはどうするべきなのかを考えることが求められます。
これに関しては、日々の手洗いなど、正しい知識に基づいて日ごろから健康管理と予防を十分に行い、ワクチンや治療薬、抗菌剤を適切に使ってウイルスや細菌などの病原体をコントロール(制御)しながら、感染症とうまく付き合っていくということ。これが正しくこわがることであり、新型コロナウイルスにも同じことがいえるのではないでしょうか。
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提供元:新型ウイルスを正しく怖がるためにできる心得| 東洋経済オンライン