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2019.01.11

日本の老人ホームがドイツより庶民的な理由|彼の国の実状を見れば違いの大きさは歴然だ


庶民でも老人ホームに入れる国とそうでない国の違いは?(写真:KatarzynaBialasiewicz/iStock)

庶民でも老人ホームに入れる国とそうでない国の違いは?(写真:KatarzynaBialasiewicz/iStock)

75歳以上の「後期高齢者」の医療費自己負担は1割。特別養護老人ホームには、条件を満たせば、自己負担月額10万円程度で入ることができる。そんな日本の「当たり前」は、ドイツでは、ぜんぜん当たり前ではない――。

驚くほどぜいたくなドイツの非営利老人ホーム

シュトゥットガルト市の南、うっそうとした森の始まるちょうど入り口に、その老人ホームはあった。シュトゥットガルトは緩やかな盆地になっており、市の中心はその真ん中の、すり鉢の底に当たるところに位置する。だから、この老人ホームが立っている場所は、町の中心に比べると、少し標高が高かった。そして、こんなに緑に囲まれていながら、市電でも車でも、中央駅からわずか 20分足らずという最高の地の利だ。

シュトゥットガルトはドイツで6番目に人口が多い。産業が発達し、治安もよく、教育程度も高いという、いわば豊かな都市だ。平均給与を都市ごとに比較してみると、毎年、ドイツで3本の指に入る。町のそんな羽振りのよさを象徴するかのように、その老人ホームはカラフルで、手入れの行き届いた外観だった。

デラックスな印象は、建物の中に入るとさらに強くなった。広々としたレセプション。外に面する大きなガラスの壁。ソファ。部屋の片隅には、立派な弔辞の記帳本がページを開いたまま飾ってあった。亡くなった入居者に対する心のこもった言葉が、さまざまな訪問者の筆跡で書き込まれている。その横には白いバラの花の一輪挿し。しかし、何よりも私を驚かせたのが、ここがプロテスタント教会関係の基金、つまり非営利団体の経営する老人ホームであるという事実。日本では、社会福祉法人の特別養護老人ホームで、ここまでぜいたくな施設は見たことがなかった。

この老人ホームは、長期滞在者用と、短期滞在者用、そして、ケア付き住宅に分かれている。ケア付き住宅の居住者は、お金を払えば各種のサービスが受けられるが、基本的には普通の2DKの住宅と同様だ。ただ、普通の住宅より家賃は高い。そのほかの居住区は、介護の必要な人用と、認知症の人用に分かれている。ショートステイも受け入れている。ベッド数は全部で150床だ。

驚いたのは、寝たきりの人でない限り、たとえ認知症であっても、それぞれがトイレとシャワーのバスルーム付きの個室に住んでいたことだ。部屋は、ベッド、タンス、テレビ台、テーブル、ソファといった標準的な付属品のほか、自分の使い慣れた家具を持ち込めるスペースがあった。なじんだ家具があれば安心するし、今までの暮らしとの断絶も少なくなるという配慮である。

私が見せてもらった認知症の人の部屋は、驚くほど整然としていた。住人はおやつで外に出ていたが、ベッドにはピシッとカバーが掛けられ、棚の上に置きっ放しになっている物はなく、床にはチリ一つ落ちておらず、広々としたバスルームは、洗面台も、トイレも、そして、バリアフリーになっているシャワーも小奇麗で、置いてあるシャンプーやせっけんにいたるまで、曲がっているものがない。あまりにも整然としているので、ふと、チェックインのあと、初めて自分のホテルの部屋に足を踏み入れたときのような感覚に襲われたほどだ。

思わず、「毎日、お掃除の人が入るのですか?」と聞くと、案内してくれた女性は少し驚いたような顔で、「もちろん」と答えた。しかし、驚いたのは私のほうだ。150室の清掃代はいかがばかりになるのだろう。それがそのまま、ホームの料金に上乗せされるのだ。

非営利でも高額な老人ホーム費用

拙著『老後の誤算 日本とドイツ』でも詳しく解説しているが、ドイツの老人ホームは、どれもこれも料金が高い。民間の老人ホームは、当然、需要に応じてピンからキリまであるので、ここでは触れないが、そのほか、公立のものと、ここのように社会福祉法人のものがある。社会福祉法人は儲けを出してはいけないので、このホームでも、残業手当などで毎月、収支を調整しているということだったが、それにしても、シュトゥットガルトは、ドイツでは家賃や人件費のとりわけ高い土地だ。老人ホームを経営すれば、利益を出さなくても経費はかさむ。しかも、ここまでぜいたくになると料金も相当なものだろう。

『老後の誤算 日本とドイツ』 ※外部サイトに遷移します

老人ホームの費用の内訳は、ざっくり言うと3つだ。

(1)本来の介護にかかる費用

(2)部屋と食事代

(3)その他の運営費やら修繕費

上記に加えて、介護アシスタントの養成のためにかかる費用を、入居者に負担してもらっているホームも多い。

(2)の食と住はどこにいてもかかるものなので、本来なら、介護保険の支払い対象にはならない。理屈として、介護保険が支払うものは①の介護費だけであるが、もちろん、余っていれば (2)や(3)に回すことは構わない。

あるドイツの民間介護サービス会社の試算による、「要介護度3」の人が老人ホームに入ったときの例を挙げよう。

ドイツにおける要介護度3の場合の老人ホーム費用の例。1ユーロ=130円で換算。さまざまなところから顕彰されている良心的な会社だが、それでも自己負担金が日本円で20万円近くと高額(出所:ドイツの民間介護サービス会社、ドイツシニア基金協会による試算値)

ドイツにおける要介護度3の場合の老人ホーム費用の例。1ユーロ=130円で換算。さまざまなところから顕彰されている良心的な会社だが、それでも自己負担金が日本円で20万円近くと高額(出所:ドイツの民間介護サービス会社、ドイツシニア基金協会による試算値)

(1)にあたる介護費が1656.98ユーロ

(2)の部屋代と食事代が、それぞれ425.27ユーロと152.10ユーロ

(3)のホームの補修費の積み立てなどが545.73ユーロ

合計の金額が2780.08ユーロとなる。そのうち介護保険が1262ユーロを補填するので、差額が1518.08ユーロ。これが自己負担金だ。

なお、私の見せてもらった非営利団体のホームでは、「要介護度1」の人の自己負担金は毎月2742.38ユーロ(約35万7000円)で、「要介護度2」から「要介護度5」の人は均一2462ユーロ(約32万円)だった。つまり、キリスト教関係の施設だからといっても、必ずしも貧しい人を対象にした経営をしているわけではないということだ。

ドイツの州ごとの自己負担金を比較すると、シュトゥットガルトは、上から3つ目のバーデン=ヴュルテンベルク州の州都で、やはり、全国的に見て高いほうだ。全国平均が1830.84ユーロ。年金のほかに、かなりの蓄えがなくては、おちおち老人ホームには入れない。

老人ホーム入居の場合の月額自己負担・ドイツの州ごとの比較。地方ごとの物価・人件費の違いなどが自己負担額の差に反映される。地域によっては、自己負担が日本円で月額30万円ほどになる(出所:ドイツ民間医療保険協会)

老人ホーム入居の場合の月額自己負担・ドイツの州ごとの比較。地方ごとの物価・人件費の違いなどが自己負担額の差に反映される。地域によっては、自己負担が日本円で月額30万円ほどになる(出所:ドイツ民間医療保険協会)

日本の介護制度は極端に平等主義的

日本人は信じないかもしれないが、日本では、払っている税金や保険料の割には、人々が受けている福祉は悪くない。何よりも、福祉の精神がはっきりと貫かれていて、これに関しては、ほとんど社会主義の国のようだ。とくに医療は、最高のコストパフォーマンスが実現されていると言っても過言ではないと思う。

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日本の老人ホームは、「要介護3」以上なら特別養護老人ホームで受け付けてもらえ、自己負担は10万円程度で収まる。順番さえ回ってくれば、生活保護を受けている人でも入れ、ちゃんと24時間介護を受けられる。しかも、おむつ代まで施設の料金に含まれている。そして、個室でなくても、最低限のプライバシーが保たれ、できる限り快適に過ごせるようにと、いろいろな工夫もなされている。

基本方針は、「少々狭くても、なるべく安い値段で、たくさんの人を収容しましょう」ということだ。貧しい人が切り捨てられないということが、第1に考えられていると感じる。ドイツの場合と進んでいく方向が違うのは、国民性の表れなのだろうか。

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【あわせて読みたい】 ※外部サイトに遷移します

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提供元:日本の老人ホームがドイツより庶民的な理由|東洋経済オンライン

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