2018.08.31
「自分に似合う服」そんな伴侶を見つける方法|料理に「愛情」を入れてくれる夫を見つけた
結婚は洋服選びに似ている!?(イラスト:堀江篤史)
結婚願望の薄い人は2つに分類できると思う。1つ目は、恋愛への興味があまりないタイプ。仕事や趣味に熱中しすぎているケースもあるが、失恋を含めた実体験が少なすぎて「恋愛の何が楽しいのかわからない」という人が増えている気がする。食わず嫌いである。
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2つ目は、恋愛を重視し、生活がメインとなる結婚には忌避感を示すタイプだ。相手を「好き」という気持ちに殉じる、ある意味では純粋な人たちだと言える。なお、夫婦仲の悪い両親やいわゆる毒親に育てられたために、恋愛はともかく結婚生活にはいいイメージが持てない人も少なくない。
看護師の中野理佐さん(仮名、44歳)は、後者に該当するだろう。20代半ばから15年近くにわたって3歳年上の外国人男性、ショーンさん(仮名)と交際をしてきた。当時は、「好きな彼とつながっていれば幸せ」だと感じていたと振り返る。
自信家で情熱的なところが好きだった
「私は遅くに入学した看護大学の学生でした。居酒屋でバイトをしていたときにお客さんだったのがショーンです。日本育ちの彼ですが、お父さんは本国で事業家として成功したことがあります。お父さんを越えたい彼も脱サラして会社を作りました。うまくいきませんでしたが、自信家で情熱的なところが好きでしたね」
デートするたびに「今日は何をやっていたの?」「かわいいね」「愛しているよ」「お父さんお母さんは元気?」と優しい言葉をかけてくれる。理佐さんは自分の両親をショーンさんに紹介していたのだ。ただし、ショーンさんは友だちにも会わせてくれず、自宅すら教えてくれなかった。
「海外出張が多いので日本には家がない、と言うんです。海外でトラブルに巻き込まれて2年間も連絡が取れない時期がありました。死んじゃったのかなと思っていたら急に連絡があって……」
ショーンさんにほれ込んでいた理佐さんは彼を許し、事業資金のために300万円も貸した。結婚はしなくても、彼とつながっていればそれで十分だった。
しかし、理佐さんの愛情が砕け散る出来事が起こる。ある日、見知らぬ女性から電話がかかってきたのだ。
「自分は名乗りもせず、私のことを根掘り葉掘り聞こうとするんです。そして、自分がショーンの女で、13歳になる子どもがいると言い出しました」
日本にいるはずのショーンさんには連絡が取れない。理佐さんはフェイスブック上から彼の「事業仲間」を探し出して窮状を訴え、協力してもらうことにした。そして、弁護士を通じて借金を取り戻すことに成功。弁護士によれば、ショーンさんには悪気はなかったようだ。
「すんなりお金を返すケースは少ないそうです。私に連絡してきた女性とは籍を入れてなくて子どもも認知していないと聞きました。後になってショーンから『理佐のことが好きだから結婚はしなかった』という説明を受けましたが、私は完全に目が覚めました。子どもに対して無責任なんて、いちばん嫌いなタイプです」
理佐さんは怒りと同時に寂しさを感じたのだろう。今度付き合う人とは結婚をして子どもも欲しいと思った。大手の結婚相談所への入会を検討したとき理佐さんは39歳になっていた。
「相談所の人からは、『あなたの条件であれば、バツイチもしくは50代60代の男性も視野に入れてください』と言われました。世の中には私と同世代の未婚男性もたくさんいるのに、納得できません。結婚相談所に入るのはやめて、いろんな婚活サイトを利用することにしました」
理佐さんはメールやSNSでこまめに連絡を取る自信がある。仕事でコミュニケーション能力は鍛えられているし、ひな人形のように整った顔立ちも男性に受けやすいだろう。筆者がインタビューした際は、白いブラウスにベージュのカーディガンを羽織り、薄手のスカート姿。婚活ファッションとしても問題ないはずだ。
ハイスペックな彼の母親は過干渉ぎみ
実際、ある婚活サイトで1歳年下の未婚男性と知り合うことができた。東大卒でメガバンク勤務というハイスペックな陽一さん(仮名)だ。
「話が面白くてとてもいい人でした。どんなに忙しくても電話をくれるし、行動力もあります。『今度どこかに行こうよ』ではなく『おいしいパスタが食べられるお店があるらしい。来週末に行かない?』と具体的に言ってくれます。できる人は行動が具体的なのだと知りました」
1年間ほど交際したが、結婚へと進むことは難しそうだった。陽一さんの母親は過干渉で、学歴や家柄にこだわる人だからだ。理佐さんの両親は大学には行っておらず、家同士の付き合いができそうもない。そして、彼は実家と距離を置くことはできない人だった。
優しいけれど現実逃避ぎみの自信家であるショーンさんと、誠実でハイスペックだがマザコンぎみの陽一さん。それぞれとの恋愛を経て、理佐さんが出会ったのが現在の夫である同い年の正則さん(仮名)だ。
「ある婚活サイトの有料会員同士として知り合いました。彼はバツイチなので私の検索条件からは外れます。彼のほうから連絡をもらいましたが、写真はジャージ姿だし休日の過ごし方は『ビールを飲むかジムに行く』だけ。まったく面白くありません。興味がなかったのですが、毎週のようにどうでもいいメールが届くようになりました。『今日はいい天気ですね』みたいな内容です。デートに誘うこともありません」
意味不明の関係に業を煮やした理佐さんは、自分から提案して正則さんと会うことにした。すると、意外な好印象を受けた。
「私の話をうんうんと聞いてくれるんです。この年齢でクセのない独身者は珍しいですよね。誠実な雰囲気にも好感を持ちました」
物事は進むときにはすんなりと進むものである。正則さんとは何の障害もなく結婚することができた。結婚は洋服選びに似ている、と理佐さんは指摘する。
「たとえ高級ブランドでも自分に似合わないと浮いてしまいます。(ハイスペックの)陽一さんは私にとってはそんな感じだったのでしょう。でも、着心地がよければそれでいいわけではありません。やっぱり世間体もあります。周囲から見てもお似合いな夫婦になりたい。好みじゃなかったけれど羽織ってみたら意外と私に似合った服、それが正則さんです」
ショーンさんとの恋愛でひどい目にあった理佐さんの言葉だけに重く感じる。ただし、正則さんもすべてが完璧なわけではない。理佐さんは子どもが欲しく、正則さんにお願いをして2人とも不妊治療を受けたが、正則さんのほうに「子種」がないことがわかって断念。痛い手術までして治療を受けてくれた正則さんに恩義を感じつつ、理佐さんは子どもをあきらめた。
我慢できないこともある。正則さんは極端に口下手なのだ。結婚前、彼の気持ちがわからず、理佐さんが「これって付き合っているの?」と問い詰めて彼が黙ってうなずいたのが交際スタートだった。結婚した今でも、寡黙すぎる正則さんに腹が立つことがある。
「私は夜勤で家を空けることも少なくありません。彼は一切干渉せず、連絡もして来ません。私のほうから連絡しなかったら関係が終わってしまうのではと不安になるぐらいです。たぶん、前の奥さんも同じような不満が原因で彼と別れてしまったのだと思います」
おいしかった煮物の秘密
それでも理佐さんは「1人じゃない」という安心感はかけがえがないと語る。料理を作ったとき、正則さんがほぼ無言で食べまくる姿も「犬だったら尻尾を振っている」と感じることもある。
「行動力はある人なので、旅行の計画などは綿密に立ててくれます。きっと私と一緒に行くのが楽しみなんだろうな、と思うとうれしくなりますね。2人で行くからこそ見ることができる風景もあります。人生が豊かになったなと感じる瞬間です」
建設会社勤務の正則さんは休みの日は料理を作ってくれる。一緒にスーパーに買い物に行っても、正則さんはほとんど何もしゃべらない。煮物がおいしかったので、「何が入っているの?」と問いかけると正則さんは恥ずかしそうにひと言だけ答えた。
「愛情」
お互いに過去にはいろいろあった。今だってケンカをするときもある。でも、理佐さんと正則さんは穏やかな愛情でしっかりと結ばれている。
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提供元:「自分に似合う服」そんな伴侶を見つける方法|東洋経済オンライン