2023.01.31
医師はミタ!夫婦仲悪化で「不調」熟年夫婦の現実|「離婚」して新たな人生を歩むのも1つの選択
幸せな定年後を暮らしていくために、熟年離婚という選択をする夫婦もいます(写真:y.uemura/PIXTA)
定年して人生の新しい幕を開けた70代の方が幸せな毎日を過ごすための夫婦関係の楽しみ方とは? 医師の和田秀樹さんは、高齢者を診てきた経験から70代以降の夫婦が幸せに暮らすための方法として、「つかず離れず婚、親子婚、恋人婚、熟年離婚」の4つを挙げます。
本稿では同氏の著書『70代は男も女もやりたいことをおやりなさい』を一部抜粋し再構成のうえ、つかず離れず婚(『定年後、ギスギス夫婦とのびのび暮らす夫婦の差』)などいろいろ試してダメだった場合の選択肢について考えます。
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それでもダメなら「熟年離婚」
長い間、家庭内離婚や仮面夫婦状態を続けていくと、家の中は居心地が悪くなり、確実に心身を蝕んでいきます。そうして人知れず夫婦の不仲に苦しみ、心身にまで異常をきたす熟年世代を私は精神科医として数多く見てきました。
「もう夫婦ではいられない」「“つかず離れず”で関係を続けていくのも無理だ」と感じるなら、離婚して再出発するのも幸せな人生を歩む上で必要な選択です。
あなたは相手の「おむつを替えてあげる(もらう)」ことができるでしょうか?
極端なことを言えば、70代以降の夫婦関係はそういった意味合いも含まれます。
今や離婚する夫婦の5組に1組が「熟年離婚」という時代。厚生労働省の調査によれば、2020年に離婚した夫婦の中で、20年以上同居して別れる「熟年離婚」の割合が全体の21.5%と過去最高を記録しました。
さらにこの10年ほどで、同居期間が25年以上の離婚件数も急増。中高年夫婦の離婚が2倍以上に増えていると言います。
その多くが、夫の定年を機に妻から離婚を切り出すケース。会社勤めの時代は夫に多少の不満があってもやり過ごせたものの、定年後はそうはいきません。四六時中、夫と過ごすことに我慢ならなくなり、離婚に踏み切る例が多いようです。
もちろん夫から切り出すケースもあります。「収入がなくなった途端、妻の態度が冷たくなった」「妻のワガママやキツい言い方に耐えられなくなった」など、不満が積み重なって、それなら「ひとりのほうが気楽でいい」と離婚に至る場合もあるでしょう。
熟年離婚は今や珍しいことでもなんでもありません。多くの中高年夫婦を見てきましたが、「離婚して心が晴れ晴れした」という人は大勢います。
特に女性に多く見受けられますが、周囲も元気になった本人の姿を見て、「新しい人生の幕開けだね」と祝福するほど、離婚へのネガティブなイメージは減ってきたように思います。
だからと言って、積極的に離婚をすすめたいわけではありません。やみくもに離婚に突き進んでも、その後の生活が立ち行かなくなる恐れもあるからです。
DVやモラルハラスメント、不倫、借金癖など何か決定的な理由がある場合は「すぐにでも別れたらどうですか」と言いたいところですが、「相手が嫌いではないけど、一緒に居るのはストレス」という程度であれば、「つかず離れず婚」や「完全別居」という手もあります。
勢いで離婚を切り出す前に、まずできること、考えておくべきことについてお伝えしていきます。
自分の思いを書いていく
相手に対して不満がある場合、それは具体的にどんなものなのか、箇条書きでもいいので挙げてみてください。
例えば、「何かにつけて文句を言われる」「束縛がきつい」「話を聞いてくれない」「浪費癖がある」など、いろいろ出てくるはずです。
そうした不満に対して、「まぁ、相手に期待しなければいいか」と受け流せるでしょうか。それとも、見過ごせないレベルでしょうか。もし見過ごせない場合、どうなったら自分の心が楽になるか、望む状態について考えてみてください。
「(相手に)せめて自分の身の回りのことは自分でやってほしい」とか、「日中は(相手に)断りなく、自由に外出できるようになりたい」とか、「物を買うのはいいけど、自分のへそくりから出してほしい」など、いろんな要望が出てくるでしょう。
「そもそも相性がよくないから、なるべく距離をとりたい」というのもアリです。自身の要望や夫婦生活を続ける上で譲れない条件を整理してみるのです。
ただ不満を溜め続けるのではなく、解決に向けて一歩踏み出すと気持ちが軽くなっていくはずです。
自分の要望や夫婦生活を続ける上で譲れない条件が整理できたら、相手に伝えてみましょう。
「え? 相手に言うの?」と、抵抗感が出た方。これまでの経験から、「どうせ言っても変わらない」「相手の機嫌を損ねるのが嫌だ」と感じて、言うのをあきらめてしまっていませんか。
確かに昔は何を言っても、頑として聞き入れてくれなかったかもしれません。だけど、今は相手もそれなりの年齢を重ね、性格も多少丸くなっていたり、この先の暮らしに心細さを感じていたりすることも考えられます。特に男性の場合は、男性ホルモンの減少により、攻撃性が弱まっている可能性もあります。
案外、言ってみたら、「わかった。そうしたらいいよ」「ごめん、気をつけるね」などと素直に受け入れてくれるかもしれません。
そもそも相手への不満が大きくなるのは、言いたいことをずっと我慢してきたことも原因の一つです。言わないで溜め込んでいると、負の感情がどんどん膨らんで、必要以上に相手に対して嫌悪感が増すこともあります。
長年、言わずに溜め込んでいるという方は自分の思いを伝えることにチャレンジしてみてください。面と向かって言えないなら、手紙でもいいでしょう。
言ってみて、相手が怒り出したり、聞き入れてもらえなかったりする時は離婚も視野に入れて次のアクションを考えればいいのです。
逆に夫婦の関係性について、相手から思いを突きつけられているのに、そこに対して向き合わないでいると、遅かれ早かれ離婚を切り出される危険性があります。それが嫌なのであれば、自己を振り返って、行動を改めてみてください。そこが、夫婦関係が続くかどうかの分かれ目であり、関係修復のチャンスです。
プチ家出や別居にトライ
自分の要望や譲れない条件を伝えても、何ら変化がない時。自分という存在の大きさをわかってもらうためにも、あえて物理的に離れることも有効です。
長期の旅行や実家に帰るなどして、「プチ家出」を決行するのもいいですし、「あなたの行動に変化がないので、少し距離を置いて考えたい」と、別居を言い渡すのもいいでしょう。
離れている間に、相手の生活がままならなくなって、「やっぱりキミ(あなた)がいないとダメだ」「自分が悪かった」と反省するもしれません。そうなればシメたもの。自分が優位に立てるので、聞き入れてもらえる可能性大です。
プチ家出や別居の期間中にも、できることはいろいろあります。一旦離れることで冷静になれますから、そこで今までの自分のあり方を客観的に見つめ直すことができます。
「自分も我慢しないで、相手に思ったことを言えばよかった」「相手の顔色を気にせず、もっと自由に振る舞えばよかった」などと、何か気づきがあるかもしれません。それを家に戻った時に実践していく。ひと皮むけた、新しい自分で相手と接すれば、これまでとは異なる関係性を結び直すこともできるでしょう。
もしくは、ひとりの時間を持ったことで「なんて気が楽なんだ」「せいせいする」と、重い荷物を降ろしたかのように身も心も軽くなるかもしれません。そうしたら、そのまま完全別居や離婚に向けて歩みを進めればいいのです。
離婚を決意する前に、別れた後はどういう暮らしになるのか、どんなことがやりたいのか、ぜひ未来図を描いてみてください。
ひとりになった自分を想像した時、明るい未来が描けるならいいでしょう。そうでないなら、無気力でさみしい老後の日々を送ることになりかねません。わざわざ無理して離婚するまでもなく、「つかず離れず婚」や別居生活を続ければいい、ということにもなります。
相手と離婚して他人同士になったほうが、きれいさっぱり新生活を始められる。相手の親族との付き合いや介護からも解放されて心が軽くなる。そういう清々しい未来が想像できるなら、離婚という選択は自分を幸せにしてくれるでしょう。
そして、「離婚したらやりたいこと」についてもぜひ考えてみてください。
1LDKのマンションを借りて、自分好みの部屋で自由気ままに暮らしたいとか。仕事や趣味の活動を始めて、いろんな年代の人たちと触れ合いたいとか。新しいパートナーをつくって再婚するのもいいかも……などと、未来を描いた時に気持ちが明るくなるなら、きっと離婚する道は合っています。
身近に熟年離婚した人がいれば、今どういう暮らしをしているのか話を聞いてみるのもいいでしょう。離婚後の暮らしがより具体的に見えてくるはずです。
いざ離婚をする時に、入念な準備をしておく必要があるのが、お金のことです。自分は専業主婦だから、離婚後の経済状況が不安と言う方も、今は財産分与に加え、夫の年金分割もできるようになりました。
婚姻中に築いた財産は「夫婦の共有財産」として見なされるので、夫の退職金や預貯金をはじめ、加入している生命保険も解約するなどして分割することができます。持ち家があるなら、売却して得たお金を分けることもできるでしょう。
離婚時の年金分割については、配偶者が会社員や公務員など厚生年金加入者が対象になりますが、相手が上場企業に勤めていた場合、「企業年金」に加入しているケースも多く、厚生年金にさらに上乗せされる可能性もあります。
実際に年金分割したら、どの程度の金額になるのか、年金事務所などに問い合わせてみるのもいいでしょう。
今は介護職や家事代行などシニアの求人は驚くほど多いです。働き口についてもリサーチしてみてください。離婚前に、勤務先を見つけられるならそのほうが安心です。
財産分与や年金分割した場合の金額を計算しておくと、離婚後の住居費や生活費にどれぐらいかけられるか、収入をあとどのぐらい増やすと、望む生活が送れるのかなど、先の見通しが立ちやすくなります。離婚後の経済プランをしっかり準備しておくことは、幸せな再出発に必要不可欠です。
いざ! 離婚へ踏み切る
すでに関係性が破綻していない限り、相手に離婚を切り出したら、動揺したり、うろたえたりするはずです。
逆上して、言い争いになることも考えられます。でも、そこでひるんでしまったら、前に進むことはできません。キッパリと自分の意思を伝えるべきです。
自分ひとりでは太刀打ちできない、あるいは相手と直接話すのが難しい場合は、第三者に入ってもらうのもいいでしょう。
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離婚を切り出してこじれた時のために、離婚に値する材料をあらかじめ準備しておくことも大切です。例えば、相手の威圧的な態度に耐えられないなら、その言動を具体的にメモしておく。スマホで会話を録音しておくのも有効です。
相手の言動によって不眠や動悸など心身に異常をきたしている場合は、精神科や心療内科で診断書をもらっておくのも離婚の後押しになるでしょう。
無事に離婚が成立したら、もう相手への情や未練を断ち切るべきです。なぜなら、離婚後すぐに相手が病気になったり、精神的に荒れたりしていると、優しい性格の人は「自分のせいではないか」と責任を感じてしまうからです。
特に妻から離婚を言い渡された男性の場合、ショックのあまりその後の生活が荒れたり、飲酒量が増して健康を害したりするケースも少なくありません。
ただ、冷たく聞こえるかもしれませんが、相手が落ち込もうが、病気になろうがそれは相手の問題であり、責任です。離婚後、晴れ晴れとした気持ちで新生活を始めるためにも、境界線を引き、相手への責任感や罪悪感を手放してください。
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提供元:医師はミタ!夫婦仲悪化で「不調」熟年夫婦の現実|東洋経済オンライン