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2018.08.09

豪雨で「避難」するタイミングはこう見極める|自分だけは大丈夫という楽観は命取りになる


台風などに伴う豪雨の際、いつ避難するかはどう見極めればいいのでしょうか(写真:Graphs/PIXTA)

台風などに伴う豪雨の際、いつ避難するかはどう見極めればいいのでしょうか(写真:Graphs/PIXTA)

2018年の7月上旬、西日本は広い範囲で大雨に見舞われました。雨の範囲が広かっただけでなく長く続いたため、6月28日から7月8日までの総降水量は高知県馬路村で1852.5mmを観測するなど、7月の月降水量の平年値の2~4倍となる大雨となったところがありました。

この豪雨の犠牲者は200人以上。平成では最悪レベルです。今なお避難所では多くの方が不自由な暮らしを送っており、復興にも時間がかかっています。豪雨のあとの猛暑で、体調を崩される方も多いです。一刻も早く元の暮らしを送れるようになってほしいと願ってやみません。

豪雨はいつでもどこでも発生する

なぜこんな豪雨が起こったのでしょうか。気象庁予報部の平野喜芳予報官に聞いてみたところ、「北のオホーツク海高気圧と南の太平洋高気圧の勢力が拮抗して梅雨前線が同じところに長く停滞したこと、そして梅雨前線に向かって大量の水蒸気が流れ込んだことが原因」とのことでした。また、局地的に強い雨を降らす線状降水帯も、同時多発的に発生しました。

今回の西日本豪雨は極端な例ですが、毎年梅雨の末期は、梅雨前線に向かって暖かく湿った風が流れ込むため、大雨が発生しやすい傾向にあります。また、これからの季節は台風で同様に大雨が起こる可能性があります。特に、前線に台風が近づく場合は大雨に見舞われやすいです。予想天気図で下記のように前線と台風が現れている場合は要注意と覚えておきましょう。

今回の豪雨で、特に犠牲者が多かったのが広島県。広島県といえば、瀬戸内海に面した県です。学校の授業で「瀬戸内海式気候」と習ったことを覚えている人もいると思いますが、瀬戸内海の沿岸は中国山地や四国山地に挟まれて季節風がさえぎられるため、年間を通して雨の少ない地域として知られています。

しかし、以前広島地方気象台に赴任したこともある平野予報官によると、「風向きによっては、多量の水蒸気を含む空気が豊後水道や紀伊水道の隙間を通って瀬戸内海にやってくることもある」とのことでした。つまり、年間を通して雨が少ないからといって、決して豪雨とは無縁の地域ではないのです。

2016年8月17日9時の天気図。この日、東日本から北日本にかけて総降水量600㎜を超える大量の雨が降り、河川の氾濫、浸水害、土砂災害等が発生した(出所:気象庁HP)

2016年8月17日9時の天気図。この日、東日本から北日本にかけて総降水量600㎜を超える大量の雨が降り、河川の氾濫、浸水害、土砂災害等が発生した(出所:気象庁HP)

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さて、意外に思うかもしれませんが、もっとも多数の犠牲者を出した広島県は決して総降水量がほかの県よりも多かったわけではありません。もっとも総降水量が多かったのは高知県です。つまり、雨の量と災害の起きやすさは必ずしも一致していないということです。なぜ、広島県の被害が大きかったのでしょうか。

防災科学技術研究所の酒井直樹主任研究員によると、これには3つの理由があるといいます。

1つ目は、地質学的な原因です。四国よりも広島県のほうが雨で崩れやすい土に覆われていて、土砂災害が起きやすかったのです。2つ目は、広島県では平地が少なく、土砂災害の被害を受けやすい場所にも住宅地が開発されていたということです。さらに、大雨特別警報が出るほどの事態だったにもかかわらず、住民の避難行動につながりにくかったことが3つ目の原因です。

平時から災害に対する意識を持っておく

災害のときに適切な行動をとれるかどうかは、災害の頻度も大きくかかわってきます。つまり、災害が頻繁に起きていると、住民の災害への意識が高まり、対応する力が備わってくるのです。しかし、今回の広島県のようにめったに大雨が降らない地域だと、つい油断しがちです。だから、過去に例を見ない大雨が降っても避難行動につながりにくく、犠牲者が多くなってしまう傾向にあるのです。

そう考えると、定期的に避難訓練を行うのはとても有効です。でも、学校を卒業するとなかなか避難訓練をする機会がありませんよね。だからこそ、災害時にどのような行動をするのかを、平時から考えておくことが大切になってきます。

具体的にはどうすればよいのでしょうか。まず、各自治体で発行されているハザードマップに目を通しましょう。自分の住んでいるところや職場がどの程度浸水しやすいのか、土砂災害の危険が高い場所なのかが、ハザードマップを見ればわかります。避難所の場所も表示されているので、いざ雨が降ったときはどのようなルートを通って避難所に行けばよいかをあらかじめ考えておくとよいでしょう。土砂災害は局地的な影響が大きいため、日頃から周囲の危険な場所を知ることが重要です。

また、雨が降りそうなとき、降り出したときは気象庁からの予報にも敏感になっておくことが大切です。気象庁では、雨の程度に応じて注意報、警報、特別警報と予報の種類を変えて発表しています。

また、大雨警報(土砂災害)が発表されている状況で、命に危険を及ぼす土砂災害がいつ発生してもおかしくない状況となったときは、都道府県と気象庁が共同で、対象となる市町村を特定して「土砂災害警戒情報」を発表します。これは、市町村長の避難勧告や住民の自主避難の判断を支援するための情報です。

大雨注意報や大雨警報というのは、その土地の基準値を超えた雨量が降ったときに発表されます。地盤のかたい地域よりも、地盤のゆるい地域のほうが少ない雨量でも警報が発表されます。また、地震などで地盤がゆるくなると、注意報や警報を出す基準が厳しくなって、以前よりも少ない雨量で注意報や警報が発表されるようになります。

2013年からは「特別警報」という、東日本大震災や伊勢湾台風レベルの甚大な被害が予想される気象状況のときに発表される予報も加わりました。ただ、特別警報が加わったことで、相対的に「警報だとまだ安心」と思ってしまうという弊害も指摘されています。しかし、そもそも警報が出た時点で災害が起きる可能性は高いので、非常事態であると認識しなければいけません。

「避難勧告」は個々の事情に合わせたものではない

さらに、雨がやんでも警報が発表されたままのことがあります。これは気象庁が警報解除を忘れているわけではありません。雨が降ってしばらくしてからも、土にはたくさんの水が含まれていますし、河川の水量もすぐには減りません。

警報は本当に警戒しなくてすむようになってから解除されるのです。特に大雨が降ると近所の川や田畑がどうなっているのかが気になって見に行き、そこで命を落とす人がたくさんいます。どうか警報が発表されている間は危ないところには近づかないように気をつけてほしいと思います。

今回は、気象庁と防災科学技術研究所にお話を聞きましたが、取材を通じて実感したのは、「自治体から避難勧告は出るけれど、実際にどのように避難するかは、周囲の状況に目を配りながら個人で判断しなければいけない」ということでした。

というのも、自治体から避難勧告が出ても、その情報は皆さんの家庭の個々の事情に合わせたものではないからです。若い人だけの世帯と、小さな子どもやお年寄り、体の不自由な方がいる世帯とでは避難にかかる時間や手間は違います。当然、避難に時間のかかりそうな家庭は、早めに避難を意識しなければいけません。

また、避難というのは必ずしも避難所に行くことだけを指すわけではありません。たとえば避難勧告が出ていても、夜中や路面が冠水した状態で外に出るのはかえって危険です。その場合は、自宅やビルなどの上の階に避難する「垂直避難」を行ったほうがよいことも頭に入れる必要があります。

それでは、避難するかどうかはどこの情報をみて判断すればよいのでしょうか。

「正常化の偏見」のワナ

まずは、気象庁ホームページの「防災情報」の「危険度分布」というページをブックマークします。そして、台風などで大雨が降りそうになったときにこまめにチェックしてください。このページには、土砂災害、浸水害、洪水の危険度分布が表示されています。危険度に応じて色分けされているので、現在住んでいる場所の状況を把握するのに役立ちます。

気象庁ホームページの「洪水警報の危険度分布」。川ごとに危険度分布が色分けされている。濃い紫が「極めて危険」、薄い紫が「非常に危険」で、氾濫注意水位等を超えていれば避難勧告が出る(出所:気象庁HP)

気象庁ホームページの「洪水警報の危険度分布」。川ごとに危険度分布が色分けされている。濃い紫が「極めて危険」、薄い紫が「非常に危険」で、氾濫注意水位等を超えていれば避難勧告が出る(出所:気象庁HP)

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また、「危険度分布」のタブのひとつに「雨の様子」もあります。そのうちの「雨雲の動き(高解像度降水ナウキャスト)」では、1時間前から1時間後までの雨の様子が詳しくわかります。また、「今後の雨(降水短時間予報)」では、「雨雲の動き」ほどの精度ではありませんが、15時間後までの雨の降り方がだいたいわかります。

さらに、気象庁ホームページには、今後警報や注意報が出そうかどうか、いつ頃解除されそうかもひとめでわかるように表示されています。こちらは「気象警報・注意報」というページに表示されていますが、これも避難のタイミングを判断するのに役立ちます。

大雨による被害はある程度防ぐことができます。というのも、地震と違ってあらかじめ予測ができるからです。しかし、人間には「正常化の偏見」と呼ばれる心理があります。これは、「自分だけはなんとかなるだろう」という根拠のない楽観的な思い込みです。これによって、大雨に対する備えがおろそかになってしまうのです。

また、「せっかく避難したのに、何も起こらなかった」となると、なんとなく損をしたように思う人は多いのでは? そして、「危険な目に遭ったけれどなんとか生き残った」というエピソードは武勇伝として語られがちです。しかし、特に誰かを守らないといけない立場の人間は、「安全を考えて念のため避難しておこう」「念のため避難したけれど、何も起こらなくて本当に良かった」と意識改革をする必要があるのではないでしょうか。

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提供元:豪雨で「避難」するタイミングはこう見極める|東洋経済オンライン

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