2018.07.13
「休日何もできない」人は、うつの入口にいる|発達障害の僕がお勧めする「リラックス法」
休日にあなたらしいことができていますか?(写真:mvpda/PIXTA)
発達障害のひとつであるADHD(注意欠陥・多動症)の当事者である借金玉さん。早稲田大学卒業後、金融機関に勤務するものの耐えられずに退職。その後、“一発逆転”を狙って起業するも失敗し、発達障害の二次障害である躁うつ病に苦しんだ過去があります。
近著『発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術』では、1年かけて「うつの底」から這いだした経緯についても紹介しています。そんな借金玉さんが今振り返って思う「うつの兆候」、そして「やるべきこと・やってはいけないこと」とは。
『発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術』 ※外部サイトに遷移します
うつ状態の入り口は「休日」の過ごし方で見抜ける
発達障害の二次障害の中でも最も多い「うつ」は、基本として「早期発見・早期治療」がベストな病気です。しかし、「早期」に自分がうつに近い状態にあるということに気づくのは、とても難しいことです。
そこで、休日の過ごし方というものに少し注意を払ってみることを僕はおすすめしています。気づけば休日にやるべきことが何ひとつできなくなった、これがうつの手前、「うつ状態」の入り口だと僕は確信しています。
僕の経験上ですが、発達障害者に限らず、うつ状態に突入していく人は大体判で押したように「仕事はできている」と言います。実際できているのでしょう。会社にいる間は緊張感で体が動くというのは、ある話だと思います。
しかし、休日にあなたらしいことはできているでしょうか。人間というのは、働くためだけに生きているわけではありません。余暇の時間を充実して過ごせなければ、それは少しずつ状態が悪くなっていると思います。
こんな経験はありませんか。休日に昼過ぎに目を覚ますが、まるで何もやる気がしない。本当は部屋の掃除も資格の勉強も、クリーニング屋にワイシャツを出しに行くことも、やることはたくさんあったはずなのに。気づけば1日は終わる。後悔とともに、です。僕も、17時のメロディを聴きながら泣いたものです。
そんな日が続くと、仕事以外の何もかもが崩壊していきます。次に「公共料金が支払えず滞納されていく」とか、「部屋の中がグチャグチャの状態で固定される」などの状態が起きてきます。
こうした状態に陥ると、人は「何かせねば」と焦ってしまう場合が多いでしょう。「部屋を片づけなければ」「ジムに行かなければ」「洗濯をしなければ」。そんなことを考え、焦燥感に焼かれているうちに休日が終わる。気づけば休んだ気はひとつもしない。そんな覚えはありませんか?
この「焦燥感に焼かれている」状態、実のところまったく休息にはなっていません。むしろ、疲労が蓄積されている状態だと言っても過言ではありません。
うつ状態に入ると「休む」ことができなくなるのです。生産性がないだけの1日は「休日」とは言えません。仕事も趣味もやれていないが、かと言って休めてもいない。この無為な疲労の蓄積が、少しずつ人間を蝕んでいきます。
ランニングや筋トレは、時に逆効果になる
しかし、こういうときに無理やり「何かをする」と事態はさらに悪化します。よく、うつには筋トレだランニングだ、みたいな行動的な療法がすすめられることがありますが、僕はあれにあまり賛同できません。うつ状態では人間の思考力や活動力は驚くほど低下しています。ランニングはすぐに疲れ果てて目標とした距離を走れなかったでしょうし、勉強をしてもまるで頭に入らず「俺はこんなに頭が悪かっただろうか?」みたいな感じになるのが一般的でしょう。
もちろん、ランニングも筋トレもうつの回復にポジティブな影響をもたらすものだと思いますが、順番が違います。やりたくなるまでは、無理をしてはいけません。
「趣味を持て」というアドバイスも割とよく言われます。でも、僕に言わせれば「うつ状態」でやれる趣味なんて本当に限られているんです。
ウォーキング、ランニング、筋トレはもちろん、読書、映画鑑賞も結構頭を使うので無理です。アニメすら筋が追えなくなるのはよくあることです。楽しかったことが楽しくなくなる、という典型症状ですね。たいていの趣味は「思考」や「活動」を必要とします。それができない状態で楽しめる趣味は限られるでしょう。
また、このときによくないのは、インターネットで大量の情報を摂取することです。あれはうつ状態でもやれるにはやれますが、実際のところ脳が疲れ切るだけです。「酒」とか「パチンコ」「ソシャゲ」みたいな依存性のあるものもダメです。回復への寄与も小さいですし、マイナスのことさえあります。
そんなときにいちばん最初にするべきは「何もしない」ことです。「自分は今不調である。だから何もせず休む」というのは、意志ある行動なのだと理解してください。
やりたいこと、やらねばならないことはたくさんある。しかし、それらの誘惑を断ち切って「何もしない」という行動を選ぶ。この意識を持つだけで、休息の効果は劇的に上昇します。しかし、いざ「何もしない」を実行してみると、思った以上にそれは苦痛であることに気づくと思います。そういうときに、「とにかくこれを実行すれば自分はリラックスできる」という意味での趣味を持つことはとても大事です。
「五感のフル活用」
僕は「五感のフル活用」という方針をおすすめしています。要するに、五感を楽しませるリラックス手段、あるいは趣味を用いるのです。思考力も活動力もどん底の状態でも、あなたを確かに安らがせてくれる手段。これをいくつ用意できているかが、うつ状態から自分を救うために最も重要です。「自分は何もできない」ではなく「何もしないをやっている」のです。この考え方ひとつで回復量は別物に変化します。
僕は、生きるためにこれをたくさん用意する努力をずっと続けてきました。
【リラックス手段①】部屋にリラックススペースを作る
僕は、お気に入りのソファと小さいテーブルを置いたリラックススペースを部屋に作っています。「ここに座れば自分はリラックスしているのだ」という条件反射を作るための場所です。
【リラックス手段②】シーシャ(水煙草)
最近のお気に入りはシーシャ(水煙草)です。ポコポコと音を立てながらやわらかく甘い煙を吐き出す。お気に入りの音楽をかけながら、お気に入りのソファに座って。その間は、とにかくその時間を楽しむことに専念します。
【リラックス手段③】お香
「嗅覚刺激」は、脳にもたらす効果が五感の中で最も強いと思います。ふと懐かしい香りがして、感情が強烈に揺さぶられた記憶ってありませんか。春の窓から流れ込んでくるあの香りなんかは、とても強く精神に働きかけますよね。僕は最近、松榮堂というメーカーの「元禄」というお香がとてもお気に入りです。
【リラックス手段④】入浴
ぬるいお風呂に入浴剤を入れて、防水処理をしたタブレットを持ち込んで、ゆったり眺めたりもします。ストーリーのあるものは見たくないので、毒にも薬にもならないような動画をボーッと眺めます。
【リラックス手段⑤】日光浴
暖かい季節、公園まで歩く気力があれば、ベンチに座って甘い飲み物でもすすりながら、ボーッと空を眺めます。
日光はうつ状態に特効的な作用をもたらします。オフィスワーカーの皆さん、最後に太陽の光を浴びたの、いつですか? オフィスの白くて清潔なあの照明、お仕事に集中するには向くかもしれませんが、少しずつあなたの神経を蝕んでいます。
【リラックス手段⑥】ジャンクフード
ジャンクフード、僕はある程度仕方ないと思います。だって、ピザもハンバーガーも体はともかく心を癒やす食品ですよね。長引く会議に宅配ピザが届くと、みんな少しやさしい気分になります。ただ、これだけになってしまうと健康を損なうので、ほかにも「何もしない日」のお供を増やしておくことを心から推奨します。
家事も趣味もリラックスも苦痛になって、タイへ
ついに何もできなくなった。家事どころか、自分のリラックススペースも、ささやかな趣味も単なる苦痛になってしまった。これがうつ状態の次の段階です。
僕もつい昨年、「もうダメだ」という時期がありました。そのとき僕は、最後のなけなしのおカネと気力を振り絞って、タイに行きました。空港に降りた後は、観光にもショッピングにも目もくれず、バンコクからいちばん近い離島に向かいました。行きの飛行機は睡眠薬を使って眠り飛ばし、空港からバスステーションまでタクシーを飛ばし、後は長距離バスでひたすら眠りました。
僕は昔から、南国が好きです。そこには暖かい日差しと、ツーリストをひたすら甘やかすサービスと、雑でいい加減な人々がいます。後は、海辺のいちばん安いコテージを2週間借りてひたすら「何もしない」をしました。
毎日パラソルの下で海を眺め、ちょっと気力が出てきたら島を散歩し、屋台で適当なご飯を食べ、後はひたすら眠って過ごしました。持ち物は小さなかばんひとつ。入っていたのは財布とスマートフォンとパスポートだけです。タイはとても便利な国なので、それで十分なのです。
「何もしない」というのはとても難しいことなので、うつ状態が悪化すると「何もしない」にも多大な努力が必要になります。僕にとって「何もしない」に適した環境は、若い頃散々ダラダラ過ごした東南アジアの海辺です。そこにたどり着けば僕はひたすら怠惰なツーリストであることができます。幸い、タイはネット環境がとてもよいので、スマートフォンで音楽を聴いたり、ネットを眺めたりもできます。服は適当に買えばいいし、ランドリーサービスもあります。
10日ほど完全に何もしない日が過ぎて、僕は「回復した」という感覚を手に入れることができました。「暇だ」という気持ちが湧いてきたからです。
うつ状態というのは、悪い意味で退屈しません。何もできていないのに、時間が矢のように過ぎ去っていきます。「コテージ近くの屋台のご飯も飽きてきたな。何か目先の違う食べ物はどこで食べられるのかな」とスマホで検索を始めたとき、僕は自分が「休み終えた」ことを知りました。後の時間は、適当に買った釣竿で釣りをして過ごしました。カラフルな小魚がたくさん釣れました。
これはちょっとしたコツですが、「最後に退屈したのはいつだろう?」と考えてみてください。「退屈」というのはエネルギーが余っている状態です。うつ状態の人にはまず生じない状態と言えるでしょう。これが思い出せないなら、あなたには休息が必要です。
ビジネスホテルでひたすらダラダラする
この「外こもり」は、うつ状態からの回復に非常に高い効果があると僕は思っています。しかし、僕はタイに行き慣れているので何とかチケットを取って成田空港に向かうことができましたが、実際うつ状態にある人がこれをやるのは結構難しいかもしれません。
そこでおすすめしたいのが「ビジネスホテル外こもり」です。あなたの知らない町の知らないホテル、できれば海とか山とかあなたの癒やされる風景が眺められる町がいいですね。そこに連泊予約をして、後はひたすらダラダラしてください。
サラリーマンの方でも、気合いを入れれば5日くらいの「外こもり」は不可能ではないでしょう。「貴重な休みをそんなことに……」と感じるかもしれませんが、うつ状態に入りかけているなら、あなたの「貴重な休み」は家で焦燥感に焼かれ続けることに費やされる可能性がとても高いです。
ビジネスホテルにいれば、食事は適当に済ませることができます。ランドリーサービスもあればルームサービスもあるでしょう。あなたをひたすらに休ませる環境を手に入れることができます。そして、あなたは「自分は今、休息しているのだ」という実感を手に入れることができます。
特にシーズンオフであれば、ビジネスホテルは連泊するととても安いです。民宿みたいな、人と接する機会の多い場所はおすすめしません。あなたに必要なのは、清潔なシーツと整然としたお部屋。そして、誰にも干渉されない時間です。
「旅行でリフレッシュ」というと、つい人は観光スケジュールを目いっぱい詰め込んだりして「充実したもの」を目指してしまう悪癖があります。しかし、実はそんなことはしなくていいのです。うつ状態でそんなことをしようとしたら悪化するに決まっています。まずは「退屈」を取り戻すことがうつ状態から回復する重大なキーなのです。
最初は、部屋でひたすら眠り続けることになるかもしれません。でも、次第に「ちょっと周囲を散歩してみるか」とか「ちょっとおいしい食事を摂りたい」とか、「大浴場に浸かりたいな」とか感じると思います。それは、あなたが退屈し始めた証で、回復の証左です。
『発達障害の僕が「食える人」に変わった すごい仕事術』 クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします
【あわせて読みたい】※外部サイトに遷移します
提供元:「休日何もできない」人は、うつの入口にいる|東洋経済オンライン