2018.06.06
65歳以降「毎月5万円稼ぐ人」に訪れる幸福|「アラ還」になる前におカネの戦略を考える
65歳以上も働いて稼ぐ。そのほうが夫婦の間もうまくいきそうだ(写真:mits/PIXTA)
「人生100年時代」という言葉が流行しています。「自分事としてはちょっと考えにくい」という人もいますが、すでに65歳まで生きた人は男性の4分の1が、女性では約半数が90歳まで生きるというデータもあります(厚生労働省の簡易生命表、2016年)。もし60歳で定年退職(いわゆるリタイア)して、90歳どころか100歳まで生きるとなると、老後はなんと40年。ちょっと前までは「人生80年」として20年分の老後資金を準備するのも大変だったはずなのに、40年分の資金を貯めるなんて、非現実的です。60歳以降も働き、「現役」を長く続けることを考えてみましょう。
60歳で定年退職すると、5年間で1500万円も資産が減る
「老後は年金をもらって、足りない分は資産を取り崩して使う」。これが今までの老後資金の基本的な考え方でした。しかし、寿命が長くなり、60歳でリタイアして30年、40年も老後の時間があるとしたら、資産はいくらあっても足りません。
ならばどうするか。なるべく長く働いて現役の時間を長くする(老後を短くする)、収入を増やす、というのが現実的です。
多くの企業では60歳を定年にしていますが、「高年齢雇用安定法」により、社員が希望した場合には65歳まで雇用することが義務づけられています。企業は「65歳までの定年延長」、「雇用継続」(再雇用)、「定年の廃止」、のいずれかを選択することになっており、このうち、最も多いのは2つ目の雇用継続です。60歳で定年を迎えて退職金を受け取り、65歳まで契約社員や嘱託社員として再雇用される、というものです。
再雇用では年収が大きく減り、半分以下になることも珍しくありませんが、それでも長く働けるのは貴重です。なぜなら、公的年金が本格的に受け取れるのは65歳からで、1961(昭和36)年4月2日以降生まれ(女性は5年遅れ)の人は65歳まで無年金です。60歳でリタイアすると、5年間は生活費の全額を資産から取り崩さなければならないのです。
総務省の家計調査年報(2017年)によると、高齢者夫婦無職世帯の1カ月の支出平均は約26万円で、年間312万円、5年間ではこの5倍ですから1560万円にのぼります。仮に3000万円の資産があったとしても、5年間で半減してしまいます。
対して65歳まで働くことができれば、資産の目減りを抑えることができます。手取り年収が300万円程度あれば資産に手を付けずに済みますし、手取り200万円でも不足額は年100万円程度、5年で500万円程度に抑えられます。
FP(ファイナンシャルプランナー)のセミナーなどでお会いする人からは、「60歳からは、働く意欲が落ちる」「収入が半減してまで働くのはいやだ」という声も多く聞かれます。しかし、それまでに培ったものを次世代に引き継ぐつもりで働くことには大きな意義があります。なにより、5年間の頑張りが老後資金に大きく影響するわけですから、頑張りましょう。50代以下の人も、ぜひそうした戦略を立てていただきたいと思います。
再雇用で賃金が減ると、雇用保険から給付金がもらえる
さて、少しでも長く働くことについては、実は社会保障の面でもさまざまなメリットがあります。
まずは収入についてです。
前述のとおり、60歳以降、再雇用で働くと収入が減ることが多いのですが、雇用保険には収入の減りをカバーする制度があります。「高年齢雇用継続基本給付金」です。
定年後も同じ会社で働き続けるものの、賃金が下がってしまう場合、60歳から65歳になる月まで受けられる給付で、給付額は図のように計算されます。たとえば月収30万円(賃金日額が1万円)だった人が、再雇用後、月収18万円になった場合には、月額2万7000円が支給されます。
また再雇用を受けずに退職して雇用保険の失業給付を受け、その支給期間を100日以上残して再就職した場合、賃金の下がり方によっては「高年齢再就職給付金」が受けられる場合があります。減った分が全額カバーされるわけではありませんが、少しでもモチベーションを維持するにはプラスに働きそうです。
再雇用などで働き続けると、健康保険に加入できるというメリットもあります。
健康保険には、病気やケガで3日以上継続して仕事を休んだ場合、休んだ日の4日目から賃金の3分の2程度が最長1年6カ月にわたって支給される「傷病手当金」という給付があります。高齢になるほど病気などの可能性は高まりますから、60歳以降も働いて健康保険に加入することはメリットが大きいといえます。ちなみに傷病手当金については、病気の種類は問われませんし、休日に負ったケガでも対象になります。また加入している健康保険組合によっては、1カ月の医療費の自己負担が2万円を超えた分が給付されるなどの「付加給付」が受けられることもあります。これも健康保険のメリットです。専業主婦の妻など、扶養家族もそれまで同様に給付が受けられます。もちろん、家族の分の保険料はかかりません。
さらに、両親や配偶者などの親族に介護が必要になった場合には、93日までの「介護休業」や、年5日までの「介護休暇」も取得できますし、介護休業して賃金が減れば「介護給付金」の支給を受けることもできます(介護休業などについては、【「介護離職」を回避するための5つのポイント】で述べていますので、参考にしてください)。
「介護離職」を回避するための5つのポイント ※外部サイトに遷移します
このように、収入が減ったとしても、雇用保険や健康保険への加入が続くことで、手厚い保障が受けられるのです。再雇用を受ける場合は、雇用契約についてもしっかり確認し、不明点は遠慮なく質問しましょう。特に重要なのは、「労働契約の期間に関する事項」です。雇用期間について定めがあるか、また更新の有無や基準を確認します。期間の定めがあっても、反復労働契約が更新されて通算5年を超えると、本人の申し込みによって期間の定めのない労働契約に転換されます。つまり、本人が辞職を申し出ないかぎり働けることになっています。
また健康保険や雇用保険には加入しても、会社の福利厚生制度からは外れる可能性がありますから、その点についても確認が必要です。企業年金の加入が続くのか、60歳以降の分も退職金が支払われるか、支払われる場合、どのような計算で金額が決まるか、などを確認しましょう。
65歳以降は「夫婦で月5万円」をめざす
人生100年時代には、なるべく長く働くことが重要です。65歳までフルタイムで働くことも、今や普通になってきています。私は、65歳以降も、たとえば「月5万円程度」など、一定の目標を決めて、毎月の生活の補てんに働くのが望ましいと考えています。
たとえば「週に2日だけ働く」、「午前中だけ働く」などでも、生活が規則正しくなりますし、家族以外の人と接することが刺激になり、心身の健康が保ちやすい、というメリットもあります。夫と妻両方併せて月5万円というのでもよくて、「別々の時間に働くことで夫婦それぞれに1人の時間ができるから、夫婦喧嘩が減った」という人もいます。
前述のとおり、高齢夫婦の生活費が平均で約26万円とすると、年金が夫婦で20万円、賃金が5万円となれば、基本生活費だけなら資産をそれほど取り崩さずに済み、病気や介護に備えることができます。少しでもいいから、長く、できれば楽しみながら働く。そのためには65歳以降の仕事につながるように趣味を極める、人間関係を広げる、といったことも考えるのが理想的です。60歳~65歳の間、仕事はそこそこ頑張りながら、65歳以降への準備に時間や労力を使うというのが、私の提案です。
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提供元:65歳以降「毎月5万円稼ぐ人」に訪れる幸福|「アラ還」になる前におカネの戦略を考える|東洋経済オンライン