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2018.05.29

お化け屋敷作りが幼児教育に効果絶大なワケ|幼少期の「遊び込み」が子どもを成長させる


お化け屋敷でどう驚かせるかを考える中で、非認知能力が身につくという(写真:diignat/iStock)

お化け屋敷でどう驚かせるかを考える中で、非認知能力が身につくという(写真:diignat/iStock)

子どもが小学校に入る前は、英語やプログラミングを勉強するより遊んだほうがいいという。その理由と背景について、新しい時代の教育に詳しい奈須正裕上智大学教授が2回にわたって解説する。後編のテーマは「遊びの大切さ」。
保育園や幼稚園の教育現場では従来、自制心や忍耐力などを示す「非認知能力」の育成に重点を置いてきた。

また、質の高い幼児教育の提供は、非認知能力を介して子どもたちの将来を大きく左右し、さらにそれが社会全体の治安や経済状況にも影響を及ぼすとの報告もある。

教育経済学では、すべての学校段階の中で幼児教育への社会的投資が最も効果的であるといわれている。近年、先進国はもとより開発途上国においても、幼児教育の拡充に注力する事例が増えている。

こうした背景には、前編でも紹介した「マシュマロ・テスト」の研究成果などがある。

前編の記事はこちら:「おやつの我慢勝負に勝つ子」が優秀なワケ

戦略で感情や衝動を制御する

マシュマロ・テストでは、子どもがマシュマロを一時的に我慢できるかどうかを観察して、自制心の高さを測っている。ただし、ここで大切なのは、マシュマロを我慢するという特定の行為ではない。

子どもが先々自分の身に起こることを鮮明にイマジネーションし、そこから逆算して今なすべきことを考え、さらに自らの意志に合致する方向で衝動的欲求や感情を制御できるようになることが重要なのである。

実際、マシュマロを我慢できた子どもは、さまざまな戦略を用いていた。

手で顔を覆ってマシュマロを見ないようにする、歌を口ずさんで気を紛らわせる、自分の部屋にあるおもちゃのことを思い浮かべる、といった行動を取っていた。「待っていればマシュマロが2個」とつぶやいては、何のために我慢しているのかを再確認する子もいた。

また、「このマシュマロが本物じゃなくて、写真だって考えてもいいですよ。額縁に入れるんです」といったヒントを与えると、我慢できる時間が格段に長くなるとの報告もある。

つまり、自制心や忍耐力とは、根性や気合だけではなく、そのかなりの部分はスキルや戦略なのである。したがって、言葉を用いて論理的に、あるいは実際の行動や経験を通して実感的に、その考え方や具体的な手続きを教えることは十分に可能であり、効果的である。

意志を固めてもすぐに挫折するのは、意志が薄弱だからではない。意志を実際の行為に結びつけるスキルなり戦略が身に付いていない、あるいは適切に発動できていないことが主な原因なのである。

とことん遊んで非認知能力を伸ばす

具体的にどのような幼児教育が非認知能力の育成、ひいては長期に渡るトータルで盤石な学力の育成に有利なのだろうか。

一言でいうなら、子どもが集中して存分に「遊び込む」環境の提供ということに尽きるだろう。

子どもにとって魅力的で挑戦的な、プロジェクトと呼ぶのがふさわしいくらいに創造的で工夫の余地のある活動が望まれる。一人ひとりがこだわりを持って個性や創意を発揮しつつも、仲間との協働で進める必要があるということも重要な条件になる。

お化け屋敷作りはその典型である。広い遊戯室の一角を使って、数週間にわたって仲間と一緒にあれこれ話し合ったり試したりしながらお化け屋敷を作るのである。

子どもたちは喜々として取り組むが、活動は楽しいだけではない。思い描いていたような造作にならない、怖がってくれない、すぐに壊れてしまうなど、さまざまな困難に直面する。

めいめいに自分のイメージでどんどん作業を進めるから、仲間とぶつかり、けんかになることもあるだろう。

そんな経験の中で、次第に子どもたちは、はやる気を少しだけ抑え、何をどうすればうまくいくか、冷静に状況を見てから行動することの大切さに気づいていく。

仲間の意見も聞かず我を通そうとすることが、結果的に相手にも自分にも何ら生産的な結果をもたらさないことを理解し、どうすれば考えやイメージをうまく伝え合えるかを学ぶ。

さらに、双方の願いを実現するウィン・ウィンな解決策を探ることが可能であり得策であること、具体的にどんな風に考えを巡らしたり話し合ったりすれば妙案が浮かび、合意に達することができるかを何度も繰り返し模索し続けるのである。

非認知能力の育成が学力の基礎をつくる

もちろん、教育する側の役割も重要になる。

うまくいかずくじけそうになっている子に寄り添い、何をどうしたかったのか、どのようにうまくいかないのか、なぜそうなったと考えているのかを丁寧に対話する必要がある。

その中で、子どもが自身の置かれている状況や今後どうしたいのかを深く内省し、自らの力で立ち直っていけるよう支援することが望まれる。

けんかやトラブルに対しても、事実関係とともにそれぞれの気持ちや考えをしっかりと話させ、自分の取った行動が今どんな結果をもたらしているのか、どうしたいのか、どうすべきだと思うのか、丁寧に聞き取る中で、自らの力で問題を解決していけるよう導くことが肝要である。

グローバル化の進展やAIの進歩に伴い、子どもたちにはこれまで以上に高度な学力が求められることになる。だからこそ、幼児教育段階ではその確かな礎としての非認知能力の育成が重要になる。その能力は、英語やプログラミングを勉強するより、子どもたちが意欲的に遊ぶほうが着実に培われていくのである。

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提供元:お化け屋敷作りが幼児教育に効果絶大なワケ|幼少期の「遊び込み」が子どもを成長させる|東洋経済オンライン

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