2018.05.11
注意!認知症の兆候は3つの違和感に表れる|アルツハイマー病治療の世界的権威に聞く
アミロイドベータというタンパク質が脳神経ネットワークを破壊に導く(写真:SIphotography / iStock)
認知症の6~7割を占めるアルツハイマー病は、記憶障害など認知機能が低下する病気と知られている。だが、その行き着く先が「死」であることは、あまり知られていない。イギリスでは死因の第1位、アメリカでも死因をきちんと特定すれば死因第3位であると報告されている。
今後、認知症患者が増大するといわれる日本でも、アルツハイマー病対策は急務となるだろう。だからといって恐れることはない。アルツハイマー病治療の世界的権威であるデール・ブレデセン医師は「予防は可能だ」と言い切る。そこで、4月に緊急来日したブレデセン医師に、アルツハイマー病の兆候を発見する3つのポイントと予防・対策法を聞いた。
あれ?と思ったときには食生活の見直しも
ブレデセン医師は、アルツハイマー病の兆候をいち早く発見するために、次に挙げる初期の症状は絶対に見過ごしてはならないと指摘する。
アルツハイマー病のごく初期の兆候
1.ニオイが分からない
2.物覚えが悪くなる
3.整理整頓、計画や計算ができない
アルツハイマー病では、記憶障害よりも先に、まずニオイが分からなくなる。その後「同じ事を質問する」「鍵を置いた場所が分からない」などの記憶障害が続く場合もあれば、「片付けられない」「計算できない」「いつもやっている仕事のやり方を忘れる」などの障害が起きる場合もある。
整理整頓や事務処理がこなせないといった症状から始まる場合には、毒素が原因である可能性が高い。自宅や職場にカビが生えていないか、また魚介類には水銀を多く含む種類もあるので、水銀の含有値が低いことで知られるサケ、サバ、アンチョビ、イワシ、ニシンなどを食べるよう心掛けたい。
ブレデセン医師によると、脳にとっては、炎症が持続したり、栄養が不足したり、毒素などが入り込んだりすることが脅威になるという。脅威に曝された脳は、アミロイドベータというタンパク質を作って対処し、自身の脳細胞も破壊してダウンサイジングしてしまう。
アルツハイマー病とはいわば、脳が自らを守る「防衛プログラム」の結果であり、この防衛プログラムにより投下されたアミロイドベータは、敵を殺すと同時に国土を焦土と化す「ナパーム弾」のようなものである。
ベトナム戦争で使用され、その殺傷力が注目されたナパーム弾は、ナフサという主燃料剤に増粘剤を添加し、ゼリー状にして充填した油脂焼夷弾である。ベタベタとした内容物はあらゆる面に接着して長時間きわめて高温で燃焼し、周囲を広範に焼き尽くすことが知られている。
「ナパーム弾」と化したアミロイドベータが脳を蝕み、やがてアルツハイマー病の発症に至るのだ。
世界でいち早くアルツハイマー病の原因を突き止めたデール・ブレデセン医師(撮影:今井康一)
脳神経ネットワークを破壊に導く
アミロイドベータは、アミロイド前駆体タンパク質(APP)の切断によって生成されるタンパク質であり、脳神経ネットワークを破壊に導く。一方で、APPが切断されると、脳に栄養を与えるタンパク質も生成される。
脳細胞を含め体全体の細胞は、生きていくために必要な情報をやり取りして、さまざまな活動を制御している。APPが脳を破壊する分子に切断されるか、脳を成育する分子に切断されるのかということも、細胞同士が伝えあう情報の中で、破壊と成育に関する情報の全体バランスによって決まる。ブレデセン医師ら研究グループがそれを解き明かした。
「このバランスを左右する要因が36もあるのです。若い時は、見事にいいバランスが維持されていますが、年齢とともにシナプスを破壊する方向に傾いていきます。このバランスを健康的に維持するためには、36の要因をすべて適正化しなくてはなりません」
アルツハイマー病の原因を特定したブレデセン医師は、「リコード法」と呼ばれる治療法を開発した。
「バランスを維持する36の要因すべてを良い方向にするために、食事、運動、睡眠、ストレス管理、薬、健脳サプリ、そして脳トレーニングなども加えた包括的な治療プログラムで、すでに500人以上の患者さんが回復しています」
さらにブレデセン医師は、少なくとも45歳を超えたら、リコード法で推奨されている各種認知機能検査を受け、自分の状態を知る必要があると提唱する。
ただ、仮に検査を受けて結果が正常であっても、油断してはいけない。毎年同じ時期に検査を受け、認知機能が少しでも下がってきたら病院へ行くのが望ましいという。
「認知機能の衰えはたいてい自分でも気づくものですが、大したことがないという言い訳をして、医師の診察を先延ばしにする人が多いものです。本格的なアルツハイマー病であるとわかるまで治療されず、『また来年来てください』と言われ続けたという話をよく聞きます。医師自身、アルツハイマー病はまだ治せないと思い込んでいることが多いのです」
血液検査がアルツハイマー病の発見に役立つ
アルツハイマー病を発見する重要なヒントとして、ブレデセン医師は血液検査を挙げる。空腹時インスリン値、高感度CRP、水銀値やマイコトキシンなどの毒性化合物、グルタチオン、ホルモン状態、自然免疫活性化を見るC4aやTGFβなど、アルツハイマー病の治療では通常実施されていなかった血液検査を行っているという。
自分のコレステロール値は知っていても、空腹時インスリン値やホルモン状態を知らない人は多い。自分の代謝をみる数値について良く知っておくのは、アルツハイマー病予防にはとても重要になる。
ブレデセン医師も「これらは認知症患者さんをかかえる医師の先生方が、実際の診療に役立てることができるはずです」と豪語する。
ブレデセン医師は「気を付けていればアルツハイマー病は避けられる」と断言する(撮影:今井康一)
アルツハイマー病は放置すれば静かに進行していく。
アルツハイマー病による記憶障害は通常、新しいことが覚えられないという症状から始まる。今まで生きるのに必要であった古い記憶よりも、それまで必要とされていなかった新しい記憶が先にカットされ、脳神経ネットワークを縮小しても生命が存続することが優先される。
病気が進行すると、やがて服を着る、歯を磨く、話すなどの基本的な動作の記憶も消えていく。そして、生命の維持に必要な機能まで失われていき、最後は死に至る。
「こんな悲劇は、予防について知識があり、早くからアルツハイマー病の兆候に気を付けてチェックを欠かさなければ、避けられることだということ多くの方に知っていただきたい」
自ら行動すれば予防できる
ブレデセン医師はいま、世界にリコード法ネットワークを構築し、治療と予防の普及に挑戦している。臨床試験も今年開始する予定だ。
現在、リコード法の正式なトレーニングを受けた認定医は10カ国1000人以上いる。しかし、トレーニングは英語のみで、忙しい日本人医師にはハードルが高い。現に日本人の認定医はまだ1人しかいない。このため、ブレデセン医師らは認定医トレーニングの日本語化を計画している。
「できれば、パーキンソン病やレビー小体型認知症、加齢黄斑変性症など、アルツハイマー病をはじめとするすべての神経変性疾患の真の姿を解明したい。それが私の使命だと思っています」
予防法を知って自ら行動すれば、アルツハイマー病にはかからなくてすむ。この恐ろしい病が「過去の病気」になる時代は、すぐそこまで来ている。
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提供元:注意!認知症の兆候は3つの違和感に表れる|アルツハイマー病治療の世界的権威に聞く|東洋経済オンライン