2018.04.23
他者の成功例が失敗よりアテにならない理由|不安は無視しても意識しすぎてもいけない
成功例をまねるのは難しいものです(写真:triloks/iStock)
以前に私は、海外のカジノで負けが込んでいる人たちを観察したことがあります。彼らに共通するのは、どのギャンブルをやるときも、すぐにテーブルに入っていくことでした。
逆に、多少なりとも勝っている人たちは、テーブルの外からディーラーと客との勝負をしばらく観察します。これは、その場の雰囲気に慣れ、状況を見極めながら、不安を遠ざけるための対策を立てる時間を取っているのです。
ところが、ギャンブルに負ける人は、自分が失敗することは考えずに高揚感のまま席につき、賭けながら熱くなって大勝負に出てしまいます。
拙著『運は操れる』でも詳しく解説していますが、これはギャンブルに限らず、人生のあらゆる局面にも当てはまります。
不安と向き合わずに無理をした結果、失敗し、その痛手が「またダメかもしれない」というネガティブな物事の見方を育み、チャレンジする勇気が薄れていく。
不安は無視しても、意識しすぎても不運を呼び寄せます。
『運は操れる』 ※外部サイトに遷移します
「失敗ノート」をつけて読み返す
ある意味、世界で最も運がいい人物と言える投資家のウォーレン・バフェット。そのバフェットが会長を務める投資持株会社バークシャー・ハサウェイの副会長で、ずっと右腕として頼られてきた人物が、チャーリー・マンガーです。
自身も投資家として莫大な富を築き上げてきたマンガーには、不安に強くなるために実践している、たった1つの習慣がありました。
それは「チャーリー・マンガーの失敗ノート」と呼ばれるノートを作ることです。
ノートに書き留められているのは、その名のとおり、マンガーが見聞きしてきた数々の失敗です。投資家、政治家、企業家、スポーツ選手、歴史上の人物、あるいは新聞記事となった一般の人々。
ポイントは、客観的に見ることのできる他人の失敗やしくじったニュースを書き留めることです。マンガーは、新たな投資を行うときには必ず「失敗ノート」を見返していました。
そして、自分の現在の行動と見比べ、何か思いもよらぬ失敗をしていないかをチェックしていたのです。
成功法則ではなく、失敗ばかりを集めている理由を問われると、マンガーは「成功の要因はいくつもあり、複雑で、何が寄与しているのかわからない。しかし、失敗の要因は明らかだ」と答えています。
失敗ノートは、他人の不運を調べてためておくノートです。自分のミスは書き残さなくても、痛みとともに記憶に残っています。人のミスを省みることで、自分に舞い込むであろう不運を未然に防ぐことができるのです。
同じ轍を踏まないための軌道修正ツール
たとえば、企業が倒産するときには必ず資金がショートします。このキャッシュフローが足りなくなるという失敗の背景にありがちなのが、1つのジャンルで成功してビジネスを拡大しようと異なる分野に投資をするという行動です。
自分の専門外のことを調子に乗って始めるパターンで、数えきれないほどの企業が倒産という不運に見舞われてきました。
この失敗パターンをはっきりと認識しておくと、同じ轍を踏むことがありません。つまり、不安を遠ざけることができるのです。
一方、成功要因はたくさんありすぎて、特定しにくい面があります。
たとえば、革新的なデバイスとして登場したiPhoneは、世界中で大成功を収めました。しかし、成功要因を1つだけ挙げろと言われても、デザイン性のよさなのか、カメラの性能なのか、操作感の新しさなのか、スティーブ・ジョブズのスピーチがすばらしかったからか、そのどれもかもしれませんし、本当はどれでもないかもしれません。
ただ、結果として大成功したという事実があるだけです。そのため、iPhoneの成功要因を思いつくだけ書き出したとしても、それをまねることは難しく、自分が成功に至る道筋を歩んでいるという安心を得ることはできません。
つまり、他人の成功から学ぼうとする成功ノートを作っても、逆に混乱する可能性があるのです。
ちなみに、チャーリー・マンガーはある取材で、「神様が現れて、どんなことでも教えてくれると言ったら、何を知りたいですか?」と聞かれたとき、こう答えています。
普通に考えれば、株式投資で成功してきた人物ですから、「10年後のアメリカのことを知りたい」といった答えを予測するでしょう。
ところが彼は、「自分がどこで、どういうふうに死ぬのかを知りたい」と言い、こう続けました。「そのうえで、その場所には絶対に行かないように生きていく」と。
まさに失敗ノートをつづる理由と同じです。不安を徹底的に遠ざけることで、ポジティブな人生を歩んでいるのです。
私もそんなマンガーを見習って、人の失敗談を聞いたとき、ニュースで紹介された興味深い失敗の事例に触れたとき、失敗ノートをつけ、新たな行動を起こすときには見返すようにしています。
エバーノートで作るのがお勧め
たとえば、「ソニーはなぜ、iPhoneを作れなかったのか」という記事があります。そこに書かれているのは、「ケータイにカメラをつけるとデジカメが売れなくなる」と主張するデジカメ部門を説得することができず、開発が頓挫。組織内の対立から、革新的な商品を開発できなくなっていくソニーの失敗がつづられています。
また、ポラロイド社に関する失敗の逸話もメモしてあります。
「写真を撮ったら、すぐに見られる方法がないか?」と考え、試行錯誤の末にポラロイドカメラの開発に成功。一世を風靡したイノベーティブな創業者が会社から去った後、ポラロイド社は硬直化していきます。
そして、デジタルカメラが市場に登場し始めた頃、「撮ったらすぐに見られる」という創業の理念と同じ商品にもかかわらず、「自社のポラロイドカメラが売れなくなるから」と参入を断念。時代に逆行した施策を打ち、市場を失っていきます。
こうした事例を読み返すことで、私は自分が守りに入ろうとしたとき、「それは無意味な自己保身ではないか?」と問い直すのです。
その失敗ノートですが、私は紙のノートではなく、エバーノート(インターネットを利用した個人向けの情報保管サービス)に保存するようにしています。
気になった失敗のニュースを次々と放り込み、確認したいときにはキーワード検索をかけ、見返すことができます。また、一覧性も高く、ストレスがありません。
すると、確かに「あ、これは同じだ!」と自分が失敗しやすい行動を起こしかけていることに気づく機会が増えました。気づけば当然、軌道修正します。その繰り返しが、不運を遠ざけ、幸運に近づくトレーニングとなっていくのです。
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提供元:他者の成功例が失敗よりアテにならない理由│東洋経済オンライン