2018.04.05
格安インプラント広告に釣られた男性の顛末|材料、技術力、施設環境・・・歯科選びの留意点
今回はインプラントの費用に関するお話です(写真:marvinh/iStock)
何らかの理由で歯を失ってしまった場合の選択肢として、入れ歯やブリッジ(両隣の歯を削り、人工歯をかぶせる治療法)などに加えインプラントも一般的になりました。インプラントとは、骨の中にチタン製の小さなネジのような人工歯根を埋め込み、その上に人工歯を固定する治療法です。
もちろん天然歯に勝るものはありませんが、残念ながら抜歯しなければならなくなった場合、周囲の健康な歯を削ったり、面倒な日々の手入れをしたりすることなく元の状態を再現したいものです。
中高年が入れ歯のかわりにインプラントを選択するケースはもちろん、最近は若い方が健康な歯に負担をかけない治療法として希望するケースも増えてきました。
インプラント費用は医院によって違う
しかし、インプラントは健康保険が適用されません。患者負担は一般的なケースで1本平均30万から40万円くらいと言われています。中には安さを売りにしたクリニックも存在します。今回はインプラント費用にまつわる実際にあった事例を紹介します。
安田大樹さん(仮名)39歳は2年前に奥歯のブリッジがだめになり抜歯しました。かかりつけの医院でインプラント治療を勧められましたが、その時は取り外し式の入れ歯を選択。
しかしあまりにも違和感が強く使わなくなってしまいました。しばらくすると手前の歯の隙間に物が挟まるようになったり、反対側だけで長期間食事をしたりしたため、顎の違和感を覚えインプラント治療しかないと歯科医院探しを始めたそうです。
インターネットで検索すると、たくさんの歯科医院情報があふれており治療費もバラバラ。その中で大樹さんが最も興味を引いたのは「激安!」や「たったの……」の文字。費用は「1本10万円以下」とサイトで謳われていました。
他の歯科医院のインプラント治療費と比較してあきらかに安い。驚きの3分の1、いや4分の1くらいの治療費です。どうせ同じなら少しでも安いほうがいいということでその歯科医院に相談に行ったそうです。
一連の検査を行って治療カウンセリングになり説明を受けました。すると、「あなたの場合は治療が難しいので、この治療費では無理」と伝えられました。結局提示された費用は相場と変わらない金額でした。
インターネット広告に出ていた激安治療費は限られたケースで、大樹さんの場合は骨量が不足しているのでその方法では無理だということでした。後になって冷静になって考えると、本当にあんな治療費でできるのかと疑問にも思われたそうです。
たしかに1本10万円以下となると、材料費だけでも治療費の大部分を占めてしまいます。他の患者様から受けた相談では、「その激安価格は外科処置のみの費用だ」と言われたり、治療がスタートした後に「移植が必要なので追加費用がかかる」と言われたりしたケースもあったそうです。
いろいろなインフォメーションの方法がありますが、誤解を招いたりしてしまうような誇大広告はいかがなものかと思います。結局、最初のクリニックに不信感を持った大樹さんは、当院に来院しインプラント治療を受けられました。
歯科選びの3つのポイント
インプラント治療費はもちろん安いに越したことはないですが、それだけで決めてもいいのでしょうか。インプラント治療を受ける医院の選び方について、いくつかポイントを整理しましょう。
①インプラント治療に使用する材料
インプラントと言ってもいろいろあり、世界中にはおそらく500~1000社程度あると言われています。そこにはもちろん自社で研究開発して作られた老舗のものもあれば、薬でいうジェネリックのような後発のメーカーのものもあります。
日本国内で薬事承認されているものだけでも相当数ありますし、それぞれがそれぞれの特徴を持ち、違うものなのです。そもそもインプラントと言っても1つではないということを認識しなければなりません。
②歯科医の経験値および技術力
歯科治療の中でも、歯科医師の技術によって治療に最も差が出るのがインプラントでしょう。診査診断から外科処置、咬合(こうごう)、補綴(ほてつ)、歯周組織管理、予防メンテナンスまでと幅広いスキルが必要とされます。なので、材料そのものの違いよりも歯科医師の知識や技術力や経験による影響のほうがはるかに大きいと言えます。最新の最高の材料を使えば誰がやっても100%成功とは限りません。
過去通算どれくらいの経験があって年間どれくらいのケースをコンスタントに手掛けているか。様々な学会に所属して専門医資格などを取得しているかどうかなど経験や技術力を確認することも大切です。
③環境整備やスタッフ
インプラント治療の埋入(まいにゅう)手術はきちんと整った環境で行うことが望ましいと思います。
できれば専用の手術室やそれに準ずるスペースを確保できているほうがいいでしょう。そういったスペースがあるということは、外科処置の頻度が高いということも予想できます。また滅菌装置もレベルの高いものが望ましく、使い捨てが徹底されていることも大切です。デンタルCTによる3次元画像での精密診断は必須です。現在はこういったデータから手術サポート器具を製作し事故のないよう安全な手術が推奨されています。
そして国家資格を持った歯科衛生士が多く在籍し、術後のサポートや治療終了後の予防メンテナンスをしっかり行う体制が整っていることも重要ですね。
この他にも留意すべきポイントはありますが、まずは以上の3点をじっくり探ってみるとその歯科医院のコンセプトが必ず見えてきます。ホームページだけではわからないので実際に来院されて、先生に質問しいろいろ話せば必ずその先生の人となりや考え方がわかるはず。
また、医院環境を直接見ればどういうコンセプトでどういうレベルの治療をしているかうかがい知ることもできるでしょう。患者からの質問や相談に面倒くさがらずに対応してくれるかどうかも大切です。
「同じ条件なら少しでも安いほうがいい……」という気持ちはわかりますが、一口にインプラント治療と言っても、「同じ条件の治療」は存在しないことがわかっていただけたら幸いです。
治療費以外にも安全面やメンテナンス体制など大切な部分があるはずです。自分の体の一部として長期間使っていくものですから、安易に決めるのではなく、納得できるまで2つや3つの歯科医院で相談してみてはいかがでしょうか。
今やセカンドオピニオンは当たり前の時代ですので、かかりつけの歯科医院の先生に遠慮する必要はありません。しっかり情報収集されてからじっくり検討してみてください。
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提供元:格安インプラント広告に釣られた男性の顛末|東洋経済オンライン