2018.01.31
なぜ「離婚男性」の病気死亡率が高いのか│糖尿病で妻帯者の12倍、死別者よりも高水準
配偶者の有無で言えば、未婚者も死別者も同様のはずなのに…(写真:SasinParaksa/iStock)
ソロ社会問題について論じると、どうしても未婚化に話が集中しがちです。それはもちろん大きな問題ですが、実は忘れてはいけないポイントは「結婚したとしても結局はソロに戻る」という問題です。たとえ配偶者がいたとしても2人同時に亡くなってしまうことはまれですし、離婚によって独身に戻ることもありえます。
今回は、そうした死別・離別に伴うソロ化の問題について取り上げたいと思います。
既婚者の1割が60代前半までに死別・離別を経験
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2015年国勢調査によれば、配偶者との死別・離別によるソロ人口は男女あわせて約1500万人存在します。そのうち女性が1140万人と圧倒的多数を占めていますが、死別による高齢独身女性が大半です。
20~64歳のいわゆる現役世代に限ると、男女計約487万人(男約169万人、女約318万人)が死別・離別に伴うソロ人口となります。これは、当該年齢層の未婚者を除く人口の10%に相当します。つまり、結婚したとしても高齢者になる前に10%はソロに戻っているということになります。
さて、その中で男女とも7割以上の大きな比重を占めるのが45~64歳の年齢層になります。
かつて、茨城県が1位!「ニッポン男余り現象」の正体という記事で、20~50代の未婚者では男性が女性より約300万人多い事実を書きましたが、死別・離別によるソロ人口は逆に女性のほうが多いというのが実情です。45~64歳の年齢層でも死別・離別者は100万人以上も女性のほうが多く、未婚女性より死別・離別による独身女性のほうが上回ります。
茨城県が1位!「ニッポン男余り現象」の正体 ※外部サイトに遷移します
これは、未婚男が割を食う「バツあり男」の再婚事情にも書きましたが、男性のほうが再婚する数が多く、女性は死別・離別でソロに戻ったあともそのまま独身を貫く傾向が高いというのも要因の1つです。しかし、男性の死別・離別者が女性に比べて極端に少ないのはそれだけではありません。そもそも一度結婚して、ソロに戻った男性の場合、死亡する率も高いことがわかりました。45~64歳の年齢層に限定してその内容をご紹介していきます。
未婚男が割を食う「バツあり男」の再婚事情 ※外部サイトに遷移します
2016年厚労省「人口動態調査」によれば、2015~2016年の1年間で再婚した45~64歳の男性の人数は、約2万8000人、女性は約1万8000人ですから、男性のほうがやはり1万人も多く再婚しています。一方、同じ年齢層でその1年間で死亡した独身男性の数を見ると約3万9000人。再婚数よりも死亡数のほうが1万人も多い。さらに、独身女性の死亡者は約1万4000人ですから、男のほうが3倍近く死亡しているということになります。
いったい、彼らの死亡原因とは何でしょうか?
離別男性の糖尿病死亡率は既婚男性の12倍
2016年人口動態調査データの中から、「15歳以上の性・年齢・配偶関係・死因(選択死因分類)別死亡数」より男性45~64歳の年齢層だけを抽出して見てみます。絶対数で比べると有配偶者がいちばん多くなってしまうので、未婚・死別・離別それぞれの配偶関係において有配偶者とどれくらい違いがあるのかを比較してみます。有配偶者1000人当たりの死亡率を100として、未婚・死別・離別のそれぞれで病気罹患による死亡率がどれくらい違うのかを比較一覧にしたグラフがこちらです。
驚くことに、ほぼすべての死亡原因について、離別男性の病気罹患による死亡率が高いことがわかります。特に、糖尿病に至っては、有配偶男性の12倍、肝疾患も9倍近くです。配偶関係と病気による死亡との因果関係についてはこれだけでは語れません。離別前に健康を害していた可能性もありますから。しかし、少なくとも、ほとんどの病死において離別者の死亡率が圧倒的に高いということは何らかの関係性があると見たほうがいいでしょう。
糖尿病や心疾患、脳血管疾患などは生活習慣のうち特に食生活に大きく影響を受けます。配偶者がいて規則正しく栄養に偏りのない食生活をしていれば予防できた部分かもしれません。しかし、配偶者の有無で言えば、未婚者も死別者も同様のはずです。どうして離別者の糖尿病による死亡率だけ突出して高く、未婚者の2倍以上もあるのでしょうか?
グラフは割愛しますが、こうした現象は女性では見られません。当然、女性も有配偶者に比べて独身のほうが病気死亡率は全般的に高いのですが、それでもせいぜい肝疾患が有配偶者の4倍程度がマックスで、男性ほど極端に離別・死別者の死亡率が高いということはありませんでした。離別した男性だけが65歳未満にもかかわらずこれだけ多く病気で死亡してしまうわけです。
日本人は根本的に配偶者との別離に弱い傾向があります。2010年に実施された内閣府の国際比較調査(各国60歳以上の高齢者を対象)によれば、「心の支えとなっている人」として、配偶者の割合がほかの国々と比べて日本人男性は目立って高いことがわかります。
アメリカ男性と比べて20ポイント以上、ドイツ男性と比べても10ポイントも高い。ただし、スウェーデン男性だけは日本人を上回っています。そして、女性は各国ともに配偶者より子どもが心の支えという人が多いのが特徴です。また、西欧人と比べて日本人は友人・知人を頼らない(頼れない)傾向も顕著に見られます。アメリカ男性の39%に対して、3分の1の12%しかいません。
つまり日本人男性の場合、極端に配偶者依存度が高いため、そうした相手と離別・死別してしまうと、その状態のショックから立ち直れない人が多いと考えられます。なぜ離別のほうが死別よりも死亡率が高く出るのかについては以下のように推測します。
死別の場合は、事故などの突発の事態を除けばある程度事前の覚悟が可能です。亡くなれば当然喪失感はありますが、添い遂げたという思いもあることでしょう。しかし、離別というものは相手によって自分が拒絶されるという状態です。ある意味、自己否定を感じることになります。
先ほどのデータのように、極度に精神的に依存しきっている配偶者から完全なる自己否定を突き付けられると、離別男性は相当の絶望感を感じることになるのではないでしょうか? そうした状態におけるストレスとは相当なものです。ストレスは万病の元と言います。ストレスによって暴飲暴食や過度のアルコール摂取行動が誘引されるリスクもあります。配偶者以外に頼れる人がいるならまだしも、友人もいないという状態だとなおさら孤独感にさいなまれることでしょう。
アメリカのブリガム・ヤング大のホルト・ランスタッド博士が2010年に発表した対象者30万人に及ぶ膨大なメタ分析(統計的手法を用い、複数の論文のデータを定量的に分析する手法)結果によると、喫煙、飲酒、運動不足、肥満などの因子よりも、「人とのつながりが少ない」ことのほうが死亡リスクを高めると報告されています。つまり、人とのつながりがない社会的孤立が人の健康を最も害する要因というわけです。そう考えると、離別男性の異常な死亡率の高さもうなずけるというものです。
ソロで生きる力とは「人とつながる力」
実は、ここにこそ拙著『超ソロ社会 「独身大国・日本」の衝撃』にも書いた「ソロで生きる力」の重要性が隠されています。「ソロで生きる力」とは、「人とつながる力」です。他者との接触を断絶し、部屋に引きこもって孤独の状態を耐え忍ぶ力ではありません。人は一人では生きていけません。「ソロで生きる力」とは何者にも依存しないということではなく、依存することのできる多くのモノや人に囲まれて、自ら能動的に選択し、自己決定できる状態にあることを指します。それこそが本当の意味の「精神的自立」なのです。
逆に言えば、1つしか選択肢がないとか、1つの場所にしか居場所がないという「唯一依存」が最も危険なのです。配偶者だけに依存しきっている男性が、配偶者がいなくなると陥るのはまさにそうした空虚感で、相手の存在が消えるとともに自分自身の存在も消失してしまうのでしょう。
老後のために資金を貯金することには熱心でも、もっと大事な「人とのつながり」を貯金することを忘れてはいないでしょうか。繰り返しますが、「結婚したとしても誰もがソロに戻る」のです。配偶者との別離は高齢者になる前から起こりえます。結婚している男性の方こそ、万一の際に備えて、自身のネットワークを拡充し、配偶者以外の人とのつながりを充実させていってほしいものです。
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提供元:なぜ「離婚男性」の病気死亡率が高いのか│東洋経済オンライン