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2023.03.13

「男として終わった」更年期障害に悩む50代の深刻|欧米諸国と比べて「ED」になるケースも多い


男性の更年期障害も深刻です(写真:jessie/PIXTA)

男性の更年期障害も深刻です(写真:jessie/PIXTA)

人生やキャリアに悩みがちな50代。不調の原因は「更年期障害」かもしれません。女性だけでなく、男性にも症状が出ることがわかっています。健康社会学者・河合薫氏はこれまで900人超にインタビューを行い、40歳以上の人たちの「誰にも言えない本音」を聞き出してきました。多くの事例から導き出した、健康社会学的に有効と思われる対処法を伝授します。

河合氏の新著『50歳の壁 誰にも言えない本音』より、一部抜粋・編集してお届けします。

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ちょっと前まで、女性たちが密室でしか話すことのできなかった話題が、新聞やテレビでも取り上げられるようになりました。その1つが「生理」。そして、「更年期症状」です。どちらも女性の問題であって、女性だけの問題ではありません。

男性にも「更年期障害」はある

男性の更年期症状は、1939年にアメリカで初めて報告されました。その後、欧米を中心に研究が蓄積され、現在はLOH症候群(加齢性腺機能低下症)という名称で呼ばれています。最近は男性の更年期症状を取り上げるメディアも、少しずつ増えてきました。しかし、実際に「更年期症状」と診断され、「私ごと」になるとその言葉が、実に重い。

「体調不良の原因がわかったことはよかった。でも、複雑なんですよね。更年期って、医師に面と向かって言われたときに、『男として終わり』と宣告された気分になった」

以前、更年期症状だと医師に診断された男性が、こう話してくれたことがありました。男として終わり──。なかなか辛い言葉です。女性でも「更年期」という言葉と「私」を紐づけるのは難儀なことなので、男性の場合は、なおさら深刻です。

しかしながら、更年期症状とは、年齢に伴う生理的な問題だけで発症するわけではありません。個人を取り巻く環境も大きく影響し、国の文化によっても症状の違いがあることがわかっています。

たとえば、1990年代後半にUCLAの医学部の研究グループが、欧米女性と日系女性を対象に実施した調査では、ほとんどの欧米女性が更年期にホットフラッシュと呼ばれるのぼせ、ほてりに悩まされるのに対して、同じ症状を経験する日系女性は1割にも満たないことがわかりました。日系女性は、肩こりや頭痛などが典型的な症状でした。

男性の場合は、女性ほど研究が蓄積されていません。しかし、日本の場合は欧米諸国に比べ、ED(勃起不全)になるケースが多く、ストレスの多さが背景にあると考えられています。長時間労働や休日出勤、責任だけ追わされる管理職など、日本の会社員のストレスは異常です。

それに輪をかけるのが、「年齢差別」です。「50歳」という年齢が、差別の壁になっていることはあらためて書くまでもありませんが、欧米では「年齢差別」が厳格に禁止されているのです。

会社員アイデンティティー喪失の危機にさらされる日本の中高年男性は、うつ傾向に陥るリスクも高い。それと並行して男性ホルモンであるテストステロンが低下する。抑うつ状態にあるとテストステロンが低下しやすく、テストステロンの低下が抑うつ感につながることもあるため、男性は社会的ストレスと生理機能の変化で、より厳しい状況に追い込まれてしまうのです。

男性の6人に1人が「更年期を知られたくない」

2021年7月、NHKが専門機関と共同で国内初の更年期症状に関する大規模調査を実施しました。そこでわかったのが、男性と女性とで「更年期ロス」に違いがあることでした。

更年期ロスは、更年期の症状により、仕事になんらかのマイナスの影響が出ることを意味しています。

海外ではワークモチベーションの低下、生産性の低下などの個人的なパフォーマンスの問題に加え、人間関係の悪化、職位の降格、離職意向の高まりなど、遂には「会社を辞めざるをえない」状況に追い込まれてしまうケースが報告されています。しかし、日本では更年期ロスはおろか、更年期症状に関する大規模調査も行われていませんでした。

そこでNHKなど5団体が共同で、更年期症状の広がりや、更年期ロスを把握するのを目的に「更年期と仕事に関する調査2021」を実施しました。

その結果、更年期特有の症状を「現在、経験している」または「過去3年以内に経験した」人は女性で約37%、男性で約9%。女性では50~54歳での経験がもっとも多く52.3%と半数以上にのぼることがわかりました。一方、男性では55~59歳の11.7%がもっとも多くなっていました。

また、「更年期症状経験者」のうち、「仕事を辞めた」「雇用形態が変わった(正社員から非正規などになった)」「労働時間や業務量が減った」「人事評価が下がった・降格した」「昇進を辞退した」といった更年期ロスに至った人は、女性で15.3%、男性では20.5%と女性を上回りました。

具体的には、女性では「仕事を辞めた(9.4%)」人の割合がもっとも多かったのに対し、男性では「人事評価が下がった・降格した(9.3%)」人の割合がもっとも多くなっていました。男女ともに、非正規などで働く人たちに労働時間・収入の減少が目立ち、非正規などで働く男性の17.9%が「収入が3割以上減った」としています。

不調により退職を選ぶ男性は多い

「更年期ロス」に至った理由については、

・仕事を続ける自信がなくなった

・症状が重かった

・働ける体調ではなかった

・職場に迷惑がかかると思った

・職場にいづらくなった

などが上位を占めていました(多い順)。

ここでも男女によって違いがあり、特に顕著だったのが「職場にいづらくなった」ことによる働き方の変化です。女性では「降格・昇進辞退」をした人が29.6%だったのに対し、男性では「仕事を辞めた」人が50.6%と、2人に1人が会社を離れる選択をしていました。

また、女性の9.5%が「更年期症状を職場の人に知られたくない」としたのに対し、男性は16.8%で、6人に1人が「自分だけの問題にとどめておきたい」と回答したのです。

※調査は2段階。最初のステップでは、「更年期症状を現在経験している(あるいは過去3年以内に自覚した)」有業の人の割合を算出。次のステップで経験者の「働き方の変化」などに関するアンケートを実施

男性の更年期症状問題に長年かかわってきた医師に、男性特有の問題点を聞いたところ、うつ病と症状が似ていることから精神科を受診し、適切な治療を受けていないケースや、職場はおろか妻にも内緒にしている人も多いそうです。

また、「男性の場合、症状を軽く報告しがち。なんとかしたいという気持ちはあっても、会社を休みたくない、会社に知られて評価を下げたくないという思いが強いんだろうね」と話していました。

夫が原因で妻は不調になる?

一方、熟年期の女性の体調不良や更年期症状の原因のほとんどは夫とする、「夫源病」という衝撃的な症状を提唱したのは、医師で大阪大学招へい教授の石蔵文信さんです。

石蔵先生は、全国でも先駆けとなる「男性更年期外来」を2001年に大阪市内で開設し、悩める男性だけではなく、夫をケアする妻の悩みにも耳を傾けてきました。

その中で、夫の何気ない言動に傷つき、耐えることで、妻の更年期症状が悪化しているというリアルに直面したそうです。似たような現象は、健康社会学の分野でも確認されています。「スピルオーバー」です。

これは、職場でのストレスと家庭でのストレスがそれぞれの界面を越えて相互に影響を及ぼす現象を表します。たとえば、夫(妻)が職場でストレスを感じていると、それが家庭で妻(夫)に伝染し、夫の代わりに妻がうつになるといった具合です。

スピルオーバーは、妻が専業主婦で夫に献身的であるほど、そして夫が亭主関白であるほど、会社でのストレスが妻に伝染しやすいとされています。以心伝心ならぬ、以心伝体。

「私」は常に私の半径3メートル世界の影響を受け、「私」自身も半径3メートル世界に影響を与えていますが、「夫(妻)」のネガティブな感情は、妻(夫)の健康を脅かすほどの威力をもっているのです。

石蔵先生は男性の更年期症状の診断には、妻も同席することを勧めています。「男性更年期外来」で数多くの中高年男性を診察した経験から、男性たちが自分の弱みを素直に話すことが少なく、うつ状態でしんどいときでも努めて平静に、ときには笑みを浮かべたりするので、治療のためには妻による客観的な観察が重要になるとのこと。

また、更年期症状に苦しむ男性は、真面目で誠実な反面、会社でも家庭でもリーダーシップを取りたがる傾向があるので、夫婦間でぶつかり合うことが増え、悪循環に陥りやすい。これを断ち切るには、夫の症状に合った適切な治療を施すことに加え、妻が医師に弱音を吐いたり、困ったことを相談できる体制が必要だというのです。

石蔵先生の経験では、夫の症状が改善すると、妻のイライラもかなり改善するそうです。

※ 「男性更年期障害の患者さんへの診断・治療について:男は2度嘘をつく─パートナーとの受信の重要さ─」

夫に求める「3つの条件」

「男として終わり」と感じるデリケートな問題を、妻と共有するのは難しいかもしれません。しかし、会社は何もしてくれません。

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更年期症状に悩む女性社員の支援を進める企業でも、男性向けのサポート体制は整っていません。

ですから、せめて半径3メートル世界の他者=妻には、我慢せずに話してもいいように思います。それが結果的に、「夫源病」の予防にもなる。それに……、夫が心配するほど、妻はやわではありません。心配無用! 大丈夫です!!

女性誌の編集に長く携わった編集者によると、「夫に対する妻たちの興味が、破滅的なまでに薄らいでいる」とのこと。

しかも、40代の女性が「夫に求める」トップ3は、「殴らない」「定職に就く」「やさしい」。まるでどこかの人権宣言みたいです。

そうです。妻は「男」としての夫ではなく、「人」としての夫を求めているのです。

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提供元:「男として終わった」更年期障害に悩む50代の深刻|東洋経済オンライン

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