2018.01.29
今から知っておくべき「定年後再雇用」の現実│60歳以降の給与大幅減を補う給付制度とは
公的年金の受け取りを受給者の選択で70歳超に先送りできる制度について、法案提出に向けた検討が進められています(写真:JGalione/iStock)
「これからは人生100年時代」と聞くと、老後の生活を不安に感じる方も多いことでしょう。生活資金は必要なので、老後に備えてもちろん貯蓄や投資も大切ですが、いちばん確実にリターンを得る方法はいたってシンプル。元気なうちは働き続ける、ということです。しかし、定年後は厳しい現実も……。
60歳以降の働き方は会社によって異なる
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会社が定年を定める場合、60歳以上とする必要があります(高年齢者雇用安定法第8条)。そのため、60歳定年の企業が多いのですが、60歳になった社員を一律で退職させられるわけではありません。定年年齢を65歳未満に定めている会社では、従業員が65歳になるまで、次の3つの措置のいずれかを実施する必要があります。
それは、「65歳まで定年を引き上げる」「65歳までの継続雇用制度を導入する」「定年そのものを廃止する」というものです。継続雇用制度とは、本人が希望すれば、定年後も引き続いて雇用されるもので、厚生労働省の2017年「高年齢者の雇用状況」によると、継続雇用制度の導入により雇用確保措置を講じている企業の割合は80.3%となっています。この制度の対象者は、以前は労使協定で定めた基準によって限定することが認められていましたが、高年齢者雇用安定法の改正により、2013年4月以降は、原則として希望者全員を対象とすることになりました。
ところで、なぜ65歳まで雇用が守られる仕組みが設けられるようになったか、おわかりでしょうか。それは、老齢厚生年金の受給開始年齢が段階的に引き上げられているからです。60歳で定年になっても、年金がもらえるのは65歳から。これでは生活に行き詰まってしまう……ということで、自ら働き生活ができるように、65歳までの雇用確保措置を企業に義務付けたのです。
ところが、政府はさらに公的年金の受け取りを始める年齢について、受給者の選択で70歳超に先送りできる制度の検討を進めており、2020年中にも関連法改正案の国会提出を目指しています。65歳はおろか、70歳までを視野に入れながら、今後は働き方を考える必要があるといえるでしょう。
こうした制度や長寿化を見据えて60歳以降も働くことは当然という風潮が強まっていますが、ひとつ留意しなければならないことがあります。それは、再雇用後の給与が大抵の場合は大幅に引き下げられてしまうという事実です。
独立行政法人 労働政策研究・研修機構の「高年齢者の雇用に関する調査」(2016年5月)によると、フルタイム勤務の継続雇用者の61歳時点の賃金水準を、60歳直前の賃金水準と比較した調査では、60歳直前の賃金を100とした場合、「60以上70未満」にあたる企業が18.3%で最も多くなっています。
また、少し古い調査になりますが、東京都産業労働局「高年齢者の継続雇用に関する実態調査」(2013年)では、定年時を10割とした場合の現在の賃金水準は「5~6割未満」が23.3%、「6~7割未満」が22.6%となっています。
本来の定年を迎える前に、すでに「役職定年」によって役職を外され、給与が下がっている方も少なからずいるでしょう。しかし、定年退職後の再雇用となると、その格差はいっそう大きなものとなります。
知っておかないと損をする「高年齢雇用継続給付」
そこで、ぜひとも知っておきたいのが「高年齢雇用継続給付」です。これは、原則として60歳時点の賃金と比較して、60歳以後の賃金が60歳時点より75%未満となっている場合に本人に支給される雇用保険制度のひとつです。
高年齢雇用継続給付の支給を受けている従業員がいる企業は51.7%となっており、規模の大きい企業ほど支給を受けているという回答の割合は高くなっています。業種別でみると、輸送用機械器具製造業(72.3%)、金融・保険業(71.9%)、一般機械器具製造業(68.5%)といった業種で支給を受けているという回答の割合がとりわけ高くなっています(前出の「高年齢者の雇用に関する調査」)。
対象となるのは、雇用保険に5年以上加入している60歳以上65歳未満の一般被保険者。
ただし、支給限度額(2018年1月時点で35万7864円。毎年8月1日改定)を超えて給与をもらっている場合は、対象となりません。また、支給対象月に、支払いを受けた給与額と高年齢雇用継続給付として算定された額の合計が支給限度額を超えるときは、支給限度額から支給対象月に支払われた給与の差額が支給額となります。
高年齢雇用継続給付額は、60歳以上65歳未満の各月の賃金が60歳時点の賃金の61%以下に低下した場合は、現在の各月賃金の15%相当額が支給されます。61%超75%未満に低下した場合は、その低下率に応じて、各月の賃金の15%相当額未満の額となります。
具体的に見てみましょう。60歳到達時の給与が40万円だったとします。60歳以後に給与が31万円に下がったときは、低下率が75%未満ではないので支給されません。一方、24万円まで下がったときは、低下率が60%となり、低下率が61%以下の場合は支給率が現在の賃金の15%となるので、3万6000円が高年齢雇用継続給付として支給されます。これを合わせると、27万6000円になります。しかも、高年齢雇用継続給付は非課税のため、所得税や住民税がかからず、その分実質手取り額が多くなります。
定年退職後の再雇用で、給与が大幅に下がったとしても、こうした給付制度を活用できれば、気持ちも幾分楽になるのではないでしょうか。働き方も、定年までのフルタイム・残業あり、というものではなく、隔日勤務や時短勤務など、労働条件については会社と相談する余地は大いにあります。ただし、基準となる60歳到達時の給与額は上限があります。どんな高給取りの方でも、46万9500円(2018年1月現在)を上限に算出されます。
別の会社に再就職した場合は?
同じ会社に再雇用されるという選択肢のほか、これまでの経験やスキルなどを生かして他社へ転職することも考えられます。こうした再就職については、「これまでの部下が上司になることを考えると、新しい人間関係のほうがやりやすい」という意見もあります。この場合、高年齢雇用継続給付はもらえるか?と疑問に思われる方もいるかもしれません。
結論から言うともらえる場合があります。この制度は、同じ会社で継続して働いた期間のみに限られるものではありません。退職日の翌日から起算して1年以内に再就職して雇用保険の被保険者資格を再取得した場合、その間に失業手当や再就職手当をもらっていなければ、高年齢雇用継続給付の通算対象となります。
一方、定年後に起業された方は事情が異なります。個人事業主の場合、雇用保険に加入することはできませんので、どんなに収入が不安定でも高年齢雇用継続給付を受けることはできません。ただし、雇用されるのと違って労働契約期間などに縛られることがないので、健康でいるかぎりいつまでも働くことができ、自分で仕事人生の着地点を決めることができる、という点でメリットがあるといえるでしょう。
いずれにしても、40代後半~50代になると「定年」という2文字が現実味を帯びてくることは間違いありません。今のうちから、さまざまなことに興味を持ち、新しいスキルを身に付けたり、社外での人間関係を構築したり、新たな学びなどを通して、人生後半における選択の幅を意識的に広げておくと安心ではないでしょうか。
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提供元:今から知っておくべき「定年後再雇用」の現実│東洋経済オンライン