2017.10.11
「仕事を先延ばしするスキル」が人生に必要だ│「毎日18時頃退社する」ドイツ人はやっている
時間をコントロールすることは、自分の人生をコントロールすることにもなります(写真:Rawpixel / PIXTA)
「ドイツ人に生産性の高め方を学ぶ」シリーズ記事の第2回。ドイツで通算20年のビジネス経験を持つ隅田貫氏(著書に『仕事の「生産性」はドイツ人に学べ』がある)が「ドイツ人の時間管理」を紹介します。
『仕事の「生産性」はドイツ人に学べ』 ※外部サイトに遷移します
ドイツには「Pünktlichkeit ist alles(時間厳守がすべてだ)」という格言があるぐらい、時間には厳しい民族です。その割には、電車は定刻どおりに来ませんし、郵便物もいつ届くのかわからないのが謎ではありますが……。
ビジネスでも始業時間ピッタリに来ない人はいても、商談やミーティングなどは時間どおりに始まります。そういう場に連絡もなしに遅れたら、評価は間違いなく下がります。
たとえば、「9時集合」と言われたら、日本人とドイツ人は同じように9時5分前に来ています。時間厳守という点において日独は価値観を共有しているようです。
ただ、時間管理に関して、ドイツと日本での違いもあります。
時間は「コントロールするもの」
金沢大学の言語学者である西嶋義憲教授の「労働関係語彙の日独比較」という論文に興味深い例が紹介されています。
西嶋教授は、たまたまドイツ人留学生と日本人学生が総選挙について話しているのを聞いたことがあるそうです。
ドイツ人の留学生から「昨日の総選挙には行ったの?」と聞かれて、「忙しかったから行かなかった」と日本人の学生が答えると、「『忙しかった』というけど、それはかなり前からわかっていたことじゃないの?」とドイツ人に言われて、日本人は何も答えられなかったそうです。「忙しかったから、できなかった」は日本人がよく使う言い訳です。日本ではそう言われたら、「それなら仕方ないね」で済ませますが、ドイツでこの言い訳を使っても通用しません。
なぜなら、ドイツ人は自分で時間を管理するのは当たり前だと考えているからです。
その日に忙しくなるのがわかっているなら、そうならないように時間をやりくりするのがドイツ人。プライベートでもダラダラ時間を消耗するということはありません。
前回記事(「上司に相談します」は生産性で見て致命的だ)で、ドイツ人の生産性が日本の1.5倍であることを紹介しましたが、その理由はこういうところにもあるのだと思います。
「上司に相談します」は生産性で見て致命的だ ※外部サイトに遷移します
「本当にやるべき仕事か」
では、どのように時間を管理するとよいでしょうか。
「本当はやらなくてもいいのに、やってしまう」というケースは、皆さんにも経験があるのではないでしょうか。
たとえば、今日は10の作業をすることが決まっていた。ところが、夕方になって上司から突然、「ごめん、明日の会議に必要な資料を、至急作ってもらえるかな」などと言われ、作業が増えてしまう。こういう場合、日本人は10の仕事に緊急の仕事を加えます。場合によっては、長時間の残業をして仕事を片づけます。
責任感のなせるわざといえますが、時としてワーク・ライフ・バランスの「ワーク」に重きを置きすぎていないでしょうか。
ドイツ人はどうでしょうか。私の経験では、当日予定していた仕事の優先順位を見極めて、優先順位の比較的低い仕事は極力、翌日以降に回すよう力を尽くします。もちろん、どうしてもできなければ残業もいといません。とはいえ、大半の場合はなんとかなっていたように思えます。
つまり、ドイツ人は堂々と先送りするのです。
それは、自分のプライベートを犠牲にするという発想をあまり持っていないからでしょう。ドイツ人は言ってみればライフを優先させる「ライフ・ワーク・バランス」という考え方なのです。
「先送りしたら明日以降の作業が増えるだけだから、もっと大変になる」と思うかもしれません。そうやって、毎日尽きない仕事と格闘している人も少なくないでしょう。そのような人にとってもドイツ流の「量的な削減をしながら日々の働き方にメリハリをつける先送り」の考え方はヒントになるはずです。
働く時間を増やすのではなく、労働効率を上げる方法を考えるのです。ドイツ人の同僚が手際よく、優先順位の変更を行って柔軟に仕事をしていた様子が今も目に浮かびます。
Eメールが当然のツールとなった今日、メールは時間と場所を選ばず飛んできます。日本では休日でもメールへの対応を迫られることも少なくありません。
ドイツの有名企業・フォルクスワーゲンでは一般社員に社用のスマートフォンを渡していても、就業時間外はサーバーを停止してメールチェックをできない仕組みにしているそうです。ダイムラーでは、社員が休暇中に受けたメールは自動的に削除しているといいます。
やはり、「しない仕組み」を徹底してつくるのがドイツなのです。
それだと翌日に対応しなければならないので、トラブルが起きたときはかえって問題が大きくなるように感じるかもしれません。しかし、実際には大した問題が起きていないから、フォルクスワーゲンでもその仕組みを継続しているのです。
結局のところ、「どうしても今すぐに対応しなければならない案件」は、実際にはそれほどないのではないでしょうか。人の生死がかかわっているのならともかく、そうでない案件は、翌朝の対応で十分なのです。
自分の許容量を超える仕事を任されても、頑張ってこなしてしまうから、日本は抜本的な改革に至らないように感じます。しかし、1人でできる仕事量には限界があります。労働時間を増やすのではなく、効率を上げる方法を考えるほうが、よほど建設的ではないでしょうか。
「頑張って」先延ばしするために
上手に先延ばしするために、今日からでも実践できる考え方をご紹介します。
(1)「今日決めて、明日作業する」感覚
仕事をするうえで、「これを今、絶対やらなくてはならないのかどうか」をつねに考えることは大切です。明日やればいいことは、今日やらない。むしろ、あえてやらない選択をしてみてください。
目の前に「今できる仕事」があると、今日やっておかないと気が済まないという人もいると思います。しかし、明日で済むものは、明日やるようにする。「今できるか」ではなく、「今やるべきか」という判断を行うのです。
そうした決断が遅くなってしまうと、途端に仕事は渋滞してしまうでしょう。だからこそ、「決断は今する、作業は明日に延ばす」という感覚を持つのです。「今日決めて、明日作業する」を口グセにしてみてもいいかもしれません。
(2)毎日、「3つだけやるリスト」を作る
最初は、うまく「先延ばし」することが難しいかもしれません。そんなときは、毎朝、今日絶対にやらなければいけない仕事を3つだけ決めてみるのはいかがでしょうか。
その3つ以外の仕事は今日やらなくてもいいのだと考えて、終わったら定時で帰るのです。「今日絶対クリアすべきこと」が明確になっていれば、それさえクリアしていれば帰りやすくなります。
先延ばししたらその分、翌日以降が大変になると思うかもしれませんが、翌日は翌日でまた、3つになるように、頑張って絞り込んでください。頑張ってこなすのではなく、頑張って絞り込むのです。そうして翌々日以降も続けていってみてください。
この「3つだけやるリスト」は、即断即決の習慣を身に付けるためにも役立ちます。今日やろうと決めたことは、先延ばしせずにすぐに行動に移す。たとえば企画書を書いて上司に提案するところまでをセットにしておくのです。そうすれば決めてから行動するまでのスピードが速くなります。
ただ、例外的に翌日までアイデアを寝かせたほうがいい場合もあります。即断即決する作業と熟考する作業を分けられると、効率よく仕事を回せるようになります。
「自分の人生」をコントロールする
多くの日本人は時間に流されているのではないか、と私は感じています。仕事に追われている時点で、受け身になっているのではないでしょうか。
「仕事に追われるな、仕事を追え」とよく言われますが、実際にはそうなっていない人が大半ではないでしょうか。それは、1人ではさばききれない仕事を任されているからだと考えているかもしれませんが、ほかの人に任せるなり、省略できる仕事は省くなり、コントロールする方法はいくらでもあります。
時間をコントロールすることは、自分の人生をコントロールすることにもなります。
ためしに、「今晩中にこの資料を作らないといけない」と思っているのなら、あえてその作業をやめて、今晩は自分のやりたいことをやってみてください。そのほうが気持ちの切り替えができて、翌日は意外と作業がスムーズに進むかもしれません。
本当に今日中にやらなければならない仕事はめったにないものです。そう思い込んでいるだけで、実際には融通の利く仕事が大半ではないでしょうか。
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提供元:「仕事を先延ばしするスキル」が人生に必要だ│東洋経済オンライン