2017.09.15
40代で育児を始めた人を襲う「不幸感」の実際│20代での育児と「親ペナルティ」はどう違う?
晩婚化が進み、40代で出産、育児をする夫婦が増えています。それまで夫婦2人でそこそこ豊かな生活を送ってきた2人にとって、子どもが増えることにより幸福度は減るのでしょうか(撮影:kikuo / PIXTA)
子育てにまつわる話は、ネットで炎上する話題の鉄板ですが、最近でも「親ペナルティ」という言葉がプチ炎上ぎみです。気になって出火元を探してみたところ、プレジデントオンラインで9月5日に配信された、フリーライター河崎環さんの記事の「"親ペナルティ"を40歳で負う覚悟はあるか」という記事のようです。
「"親ペナルティ"を40歳で負う覚悟はあるか」 ※外部サイトに遷移します
40代の子育てにおける「親ペナルティ」
河崎さんによれば「親ペナルティ」とはこういうことだ。社会学に、「親ペナルティ」という言葉があります。子どもを持つ夫婦と子どもを持たない夫婦がそれぞれに感じる幸福度のギャップのことで、一般的に幸福度は「子どもを持つことによって下がる」といわれる、とのことです。
記事の中では、40代で妊娠・出産する夫婦が増えている中で、経済的にも精神的にも余裕がある彼らの子育ては、葛藤の多い20代のそれより容易で幸せだろうか、という筆者の問題提起がなされています。
最近ではもっぱら「40代イクメンFP(ファイナンシャルプランナー)」を標榜している私にとって、ぜひコメントしてみたいところです。私も、40歳と42歳のときに子どもを持ちました。以来、保育園登園担当を95%、皿洗い担当を95%、一緒に夕食を食べる率は95%、風呂入れ担当95%(妻と私がそれぞれ別の子を風呂入れする)の高い割合で家事育児をシェアしてきました。実際問題、40代で親になって幸福度は下がっているのでしょうか。
幸福度をはかる指標は複数ありますが、今回はFPとしてマネープランの観点から考えていきたいと思います。
40代の親ペナルティを考える前に、子育てに伴う経済的な損得について知っておく必要があります。まず、「得」のほうですが、子育て世帯には一定の所得再分配が行われます。保育料や、その他教育費用の多くには、税金が投入されているからです。国の平成25年度予算によれば、公立保育所の総経費6800億円のうち保護者負担が3200億円となっており、同額以上が公的負担です(実際には子育て世帯の所得状況によって負担額が異なる)。
その後も、小学校から社会人になるまで、子ども1人当たり年90万円程度は税支援がされています(国税庁の資料によれば、平成21年度の実績で生徒1人当たり小学校84.8万円、中学校97.9万円、高校91.3万円の補助)。
これ以外でも、乳幼児、義務教育を受けている子の医療負担については無料となっています(地方自治体によっては高校の卒業まで無料ということがある。また、年収制限を設けることもある)。大人と比べて病気になりがちな時期の医療費負担は医療保険制度等の社会保障に支えられていることになります。
児童手当も大きな支えです。月1.5万円(3歳以上は月1万円)を中学校卒業まで市区町村から受けられます〔ただし、これは年収が高い夫婦については減額(月5000円)されることに留意が必要です〕。
つまり、少なめに概算しても1人当たり1500万円以上は公的な支援を受けて私たちは子育てをしています。ケースによっては2000万円に達することも少なくないはずです。
ただし、すべての子育て費用が公的支出で賄えるわけではもちろんありません。子育てによる経済的な「損」としては、自己負担ベースで2000万円以上は負担がかかることも事実です。内閣府のインターネットによる子育て費用に関する調査では、未就学児年104万円、小学校年115万円、中学校年156万円が食費や日用品等の出費にかかるとしています。うち、年間16万~20万円が将来への貯蓄ですが、これを勘案しても15歳までに1500万円はかかっています。
高校と大学は、学費だけでも合計で975万円弱かかるとされており(日本政策金融公庫 教育費負担の実態調査)、この間の食費や小遣い、被服費などを考えれば1300万~1500万円はかかると考えられます。
簡単に言い切れば「子育ては社会から2000万円もらえるかもしれないが、自己負担も2000万円あるプロセス」といえます。
当然ながら、子育てによる支出増は、自分たちが何かを自由に行う金銭的余裕の減そのものです。子どもが1人いれば年100万円は自分たちに使える予算が減ります。男性正社員の生涯賃金を考えれば、子育てをしながら自分たちのための予算を確保する余裕はありません。子どもの誕生により、美味しい食事や旅行、趣味に使うおカネなど、何らかの幸福を買う資金は減少します。
こうして投入した子育てへのコストが、将来的に「リターン」として帰ってくることを期待できるかというと、ほとんど不可能であることは覚悟しておくべきでしょう。自分の老後に、子どもが自分に対して仕送りしてくれる未来はほとんどありません(あなたも、自分の親に仕送りはほとんどできていないはずです)。それを前提に「子を育てることによって失う幸福、得られる幸福」は考えなければならないといえます。
神楽坂での美食→ファミレスでも不満はない
こうした前提を頭に入れたうえで、改めて「40代の親ペナルティ」について、40代で子どもをもった当事者の私としての考えを述べたいと思います。結論を先に言えば、私はあまり「親ペナルティ」を感じていません。むしろ、その逆です。
私は、30代をDINKS(共働きで子どものいない夫婦)として、ややプレミアムな旅行を楽しみ、やや予算オーバーな食事やお酒も楽しみながら過ごしました。ただ、そのうちDINKSのライフスタイルに飽きてきました。
そこで授かった子どもだったので、子育て生活には新鮮な楽しみがあります。今は、神楽坂での酒や美食を楽しむのは10年後くらいまでお預けでもいいかな、というくらいの気持ちです。むしろ、子どもが育ってきて少しずつファミレス以外の味を教えていくプロセスが楽しみです。また、経済的な余裕がない20代で親になるのとは異なり、ある程度の余裕をもって子育てできるのは悪くないと考えています。
一方、大変なのは、子育て資金の準備と自分の老後資金準備を同時並行することです。下の子の大学卒業時、私は65歳になっているため、学費の確保を教育ローンに頼ることはできません。また、子どもが大学を卒業してから自分の老後の貯金をスタートさせるにはあまりにも遅すぎます。
経済的な話に限らなければ、もちろん仕事と子育ての両立はキツいですし、体力的にも楽ではありません(毎食後、床にはいつくばって汚れを拭き、テーブルにつかまってよっこらしょと立ち上がるのは腰と膝に来る)、これは不幸といえるかはその人のとらえ方次第です。
以上、「得られた幸福」と「失った幸福」とをてんびんにかけてみると、バランスが取れているし、強いて言えばプラスかなと思っているのが40代親の私の率直な感覚です(子どもが欲しくて不妊治療に苦労した経験があることも影響し、大きくプラス評価しているかもしれません)。
結婚から出産までいくら貯められるかがキモ
また、金銭的な「親ペナルティ」は、それを軽減するためのいくつかのヒントがありそうです。
ひとつは30代のうちにできるだけ貯蓄や資産形成を行っておくということでしょう。結婚して子どもが誕生するまでが、人生の数少ない貯めどきです。
ここでの資産形成は、子育てがスタートしたときの年収減(育休や復職後の時短勤務の時期に妻の年収が大きく下がる)への備えにもなりますし、子どもが生まれてから慌てて子の学費等を貯める苦しさを軽減させます。その分、レジャー資金等も捻出する余裕が出るはずです。
「親ペナルティ」を感じるかどうかは精神的な側面もあります。メンタルマネジメント的には(あまりこういう言葉は好きじゃないのですが)、「いいこと探し」をしたほうがいい、と強く思います。
「子どもが生まれる前は伊勢丹で服を買っていたが、今はベルメゾンかユニクロなのが悲しい」という発想がいかにもつまらない。お金をかけて豊かさを感じるのは当たり前で、むしろお金をかけずに豊かさを感じる工夫をするのが消費の醍醐味ではないでしょうか。ファミレスはまずくてみじめだ、と思うのか「いやー、今のファミレスってすごいね!」とメニューを見ながら楽しめるかで、同じ服や食事でも満足度は変わってきます。
もちろん、子どもがいるライフスタイルを苦労ばかりだと考えるのではなく、面白がる思考法も欠かせません。コントロールできない存在が日々成長していくことのすばらしさを素直に楽しめれば、子どもの繰り返す失敗もまた喜びになるはずです(といっても無理して仏になる必要はなく、毎日怒ればいいわけです)。
40代で子育てをスタートした親が感じる「親ペナルティ」が、生活が大きく変わることによる落差によって感じる不幸感だとしたら、それを乗り越えるのもまた自分たちのちょっとした頑張りと視点の切り替えなのかもしれません。
提供元:40代で育児を始めた人を襲う「不幸感」の実際│東洋経済オンライン