2017.09.04
息苦しい職場は人の「主体性」を軽視している│それでは生産性も士気も上がらない
元気がある職場と、ない職場の差とは?(写真:xiangtao / PIXTA)
ブームの裏で行われる、現場の「悪あがき」
今、日本の職場が大きく2つに分かれている。元気がある職場と、ない職場だ。
空前の「働き方改革ブーム」のもと、政府も企業もあの手この手を尽くしている。定時退社日設定、有給休暇取得促進、プレミアムフライデー。しかし、どれもイマイチしっくりこない。無理やり労働時間を減らしたところで、仕事の量が減るわけではない。人を増やしてもらえるわけでもない。そのことをよく知っている現場は、次のような「悪あがき」をしがちだ。
・休んだことにして、実際は出社して仕事
・自宅に仕事を持ち帰る(いわゆる「ふろしき残業」)
・管理職(=時間管理対象外)が残務を一手に引き受ける
見た目の労働時間はみるみる減る。人事部門と経営者はハッピー。その姿を、現場は鬼のような形相で見つめている構図だ。こんな働き方は長続きしない。経営と社員の信頼関係も悪くなる一方だ。
さすがにこれではいつまでたっても生産性は上がらない。そこに気づいた企業は「働き方改革プロジェクト」なるものを立ち上げる。
現場の部課長をリーダーに据え、現場のメンバーでもって、自分たちの働き方を主体的に変えてもらう。これが狙いだ。人事部門は個々の現場の実態がわからないし、手を出しようがない。だから現場に任せる。この流れは、いたって合理的だ。しかし、ここにまた大きな壁が立ちはだかる。
「働き方改革のリーダーを任されてしまいました……」
リーダーを任された人の表情。これが、とにかく重苦しくて、暗いのである。まるで貧乏くじを引いてしまったかのように、泣きそうな表情で私のところに相談に来る部課長の多いこと。これでは、改革できそうな気がしない。
私はいままで企業の一社員として、2014年秋からはフリーランスに転進しておよそ50以上の日本の現場と向き合ってきた。企業に官公庁に地方自治体、オフィスに工場。業種や職種を問わず、元気がある職場とそうでない職場がある。何がその差を生んでいるのであろうか?
元気な職場には、ずばり「らしさ」がある。
・個人「らしさ」
・チーム「らしさ」
・組織「らしさ」
その「らしさ」は、社員の主体性を伴っている。社訓を毎朝大声で唱和させる、などの強制力でもって無理やり植えつけられたものではない、内発的動機付けによる「らしさ」こそ大事だ。
どんなに残業を抑制して休みを取りやすくしても、「主体性=(やる気)」が生まれる環境がなければ、人は物足りなさを感じる。仕事をしたいモチベーションが高い人ほど、意欲をそがれる。組織が成長し続けるためには、メンバーの主体性を認め、「らしさ」を発揮できる職場環境に変えていく必要がある。では、「らしい」職場とはどうやって醸成されていくのか? 4つの観点を紹介する。
目標・ゴールに対する意識付けがなされているか?
会社には、「ビジョン」や「ミッション」、あるいは行動規範となる「Way」など目標・ゴールが存在する。会社単位でなくても、部門やチーム単位など、規模の大小にかかわらず組織には共通の目標・ゴールが設定されているはずだ。
目標・ゴールは、メンバーが目指すべき共通の方向であり、日々仕事をするうえでの判断の指針であり、そして働き方改革を進めるうえでの判断基準になる。目指すべきものがあると、人は意欲的に行動できるからだ。だからこそ、一度立ち止まって、きちんと社内の目標・ゴールが社員に意識付けされているか確認する必要がある。
Q. あなたの職場は次のいずれかになっていないだろうか?
□そもそも目標もゴールもない
□自社、あるいは自組織の目標・ゴールを説明できない
□目標・ゴールがあいまい。「で、どうすればいいの?」状態
(例:「技術力向上のために努力する」「お客様第一主義」)
□目標・ゴールをメンバーが知らない
□目標・ゴールが一部の人にしか共有されていない
(例:派遣社員や外注さんは蚊帳の外)
どれか1つでも当てはまったら要注意。いま一度、メンバー同士で目標・ゴールがきちんと浸透しているかを話し合ってみよう。
特に全社レベルの目標・ゴールは、現場で働く人にとっては日々の判断や行動に落としにくく、漠然としがち。そうしないためには、部門やチーム単位で集まって、会社のビジョンやミッション、Wayなどをかみ砕き、自分たちの目標や仕事に落としこんでおく。
「細かく口出しせずに、私に任せてほしい」
そう、メンバーが思っていないだろうか? 全員が「らしさ」を発揮しながら働くには、部下に指示するだけでなく、ある程度の仕事を任せることも重要だ。
「自分でやったほうが早い」「ミスをさせたくない」「何かあったときに責任を取りたくない」
このような理由で権限委譲ができない上司もいるが、それでは部下の主体性は一向に育たない。むしろ、やりがいを求めて転職さえしてしまうことも。さらに、権限委譲が苦手な上司は、なんでもかんでも自分で判断しなくてはいけなくなり、結果自分がストレスを抱えて身動きが取れなくなってしまう。
あなたが上司の立場であれば、怖がらずにある程度の権限や仕事を部下に与えることを意識することが大事。社内の権限規定で決裁権が与えられなくても、以下の2点は意識して、仕事の采配を試みよう。
・目標やゴールを説明したうえで、やり方は任せる
・最初の判断は任せる
ここで注意したいのは、丸投げは絶対NG!ということ。次項で説明する「承認欲求」が満たされず、逆にフラストレーションを引き起こす原因になってしまうことも。部下、そしてチームの主体性を高めるためにも、任せられる仕事は任せる。これが鉄則だ。
逆に、部下の立場であれば、仕事を任せてもらえる人になれるよう自分の得意・不得意を周りに示しておく。自分をよく知ってもらっている状態が作れれば、上司も「○○さんはExcelが得意だから、データ作成を手伝ってもらおう」と仕事を任せやすい。
3つの承認欲求が満たされているか?
「認められたい」
心理学では、この感情を承認欲求と呼ぶ。人間には以下の3つの承認欲求があり、社員の主体性やモチベーションを引き上げるためには、この3つの欲求を満たすことが重要となる。
①結果承認欲求
成果を認めてほしいと思う気持ちのこと。売り上げ目標を達成した。コスト削減を達成した。このような成果に対して、知ってもらいたい、褒めてもらいたい気持ちは誰しも持っている。
②行動承認欲求
振る舞いやプロセスを認めてもらいたい欲求のこと。毎日遅くまで頑張っている。工夫して改善提案した。ほかのメンバーが仕事しやすいよう、車庫を片付けてくれた。わざわざ私に報告してくれた。たとえ成果につながらなくとも、こういった努力が認められれば、人はもっと組織のために頑張ろうと思える。
③存在承認欲求
自分の存在を認めてもらいたいという欲求のこと。「私は、今ここにいる」この安心感は、組織の帰属意識やそこでの仕事のやりがいにつながる。モチベーションの低い職場にありがちなのは、「誰が何をやっているのかわからない」だ。これは、あなたとほかのメンバーが互いに存在が認められていない、もしくは存在価値がよくわからない状態を示している。これこそ、存在承認欲求が満たされていない状態だ。
「あいさつがない」は、よくある職場の悩みのひとつ。あいさつが返ってこない職場は、そこにあなたがいることが意識されていない状態、あるいは軽んじられている状態を示してしまう。逆の見方をすれば、あいさつは相手の存在承認欲求を満たすことができるいちばん手っ取り早い行動でもある。
どうだろう? あなたの職場にはこの3つの欲求を満たすような仕掛けや工夫があるだろうか。働き方改革を考えるとき、3つの欲求が満たされる状態になるかをひとつの判断基準にしてみよう。
無理に「ワクワク」させようとしていないか?
ワクワク症候群……とでも言うのだろうか。改革やモチベーション向上に取り組むとき、経営者や上司だけがやたらと盛り上がってしまう。そんなことはないだろうか? 確かに、ワクワク仕事ができるならしたいものだが、他人から「ワクワクしよう!」と強いられるとなんだか引いてしまう。
世の中には、どう逆立ちしてもつまらない仕事だって存在する。人によっては、プライベートがうまくいってなかったり、体調が優れなかったりで、どうしてもワクワクできないときもある。環境や個々の事情への理解がなければ、現場は冷める一方だ。
その場合は、いきなりワクワクを求めるのではなく、社員全員が「まんざらでもない」と思える環境作りを目指す。嫌な仕事やつらい仕事を「まんざらでもない」程度に持っていく。これが現実的、かつ定着する風土改善の基本になる。
そのためにも、「目標・ゴールに対する意識付けをする」「権限委譲をする」「3つの承認欲求を満たす」がやはり大事だ。
「らしさ」「主体性」を定着させられるか
最後に気をつけたいポイントをもうひとつ。新たにやると決めたルールや決まりごとは、定期的な振り返りをしてみよう。たとえばまず1カ月やってみて、うまくいっているかどうか? 形骸化していないか? 自分たちに合うか? 話し合ってみる。うまくいっていなければ、やり方を変えてみる。あるいはやめる。
このサイクルをしっかり回していくことで、自分たち「らしい」働き方が組織に根付く。
せっかくの改革。一過性のお祭り騒ぎで終わらせないためにも、社員の「らしさ」「主体性」を尊重し、しっかりと定着する環境作りに取り組んでいきたいものだ。
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提供元:息苦しい職場は人の「主体性」を軽視している│それでは生産性も士気も上がらない│東洋経済オンライン