2017.08.14
「ブラック企業は即刻辞める」が超重要な理由|「週休3日」は働く人の意識改革で実現できる
人手不足の昨今、「月休3日」の会社に勤め続ける理由はありません(写真 : ふじよ / PIXTA)
「働き方改革」が注目を集める中、最近特に目を引くのが、ヤフーや佐川急便などの大手企業が導入・検討をしていることで話題になった「週休3日」だ。休日が1日増えてうれしい反面、「給与が下がってしまうのでは?」「1日当たりの労働時間が長くなってしまうのでは?」など懸念の声も聞こえてくる。
去る8月2日、NHKの「クローズアップ現代+(プラス)」にて「週休3日」の問題が特集され、筆者は人事コンサルタントとして、働き方改革に詳しい中央大学大学院の佐藤博樹氏とともにコメンテーターを務めた。番組は、「週休3日」という新たなトレンドについて、専門家の視点から見ても非常にわかりやすくまとめられているように感じたが、ネットの反響は賛否両論だった。
現実は「月休3日」という会社が存在している
Twitterなどで「週休3日だなんてすばらしい」「ぜひうちの会社でも取り入れてほしい」というポジティブな反応もあったが、目立っていたのは「週休3日なんて夢のまた夢」「残業時間が少なくなるから結局給料減る」といったネガティブな反応もあった。中でも衝撃的だったのが次のようなTweetだ。
「クローズアップ現代で週休3日のことやってるけど、うち月休3日なのよね」
「月休3日」ということは、週休1日未満。労働基準法35条1項に触れる明確な違法状態だ。しかし、残念ながら日本の労働環境では、労働法規を一切無視した過労死ラインを超えるような長時間労働、連続勤務を強いることは少なくない。「月休3日」という会社が存在しても、何ら不思議ではないというのが現実だろう。
「月休3日」まではいかずとも、「週休1日」にとどまっている企業はまだまだ多い。「平成28年就労条件総合調査」(厚労省)によれば「完全週休2日制」を導入している企業はわずか49%にとどまり、「週休1日制又は週休1日半制」の企業は5.6%存在する。さらに建設業、運輸業・郵便業、サービス業に限れば、「週休1日制又は週休1日半制」の企業の割合は10%を超える。
こうした業種・企業に勤めている人にとっては、週休3日は夢のまた夢。現実感がまったくなく、フィクションにしか感じられないのだ。筆者自身、今でこそ自営業ゆえに、週休3日を実現できているが、会社員時代だったらまったくもってピンとこなかったことだろう。
そもそも、なぜこのご時世に「月休3日」という過酷な状況に陥ってしまうのだろうか。その理由を紐解くことが、週休3日が普及するカギを握るはずだ。その最大の理由は、人手不足だろう。
先に紹介した、事実上週休1日の状態になっている企業の割合が10%を超えていた業界は、建設業や運輸業、サービス業など、どれも深刻な人材難を抱える業界だ。もともと離職率が高いうえに、新規の採用も非常に厳しい。
さらに、建設業では東京五輪に向けて各地で建設ラッシュが相次ぎ、輸送業ではeコマースの普及などで仕事量が増えている。その結果、既存の従業員にしわ寄せが行き、売り上げが伸びれば伸びるほど、従業員の勤務時間や勤務日数がどんどん膨れ上がるという構図にある。
その悪循環を断つべく、週休3日制の導入に踏み切ったのが、佐川急便を傘下に持つSGホールディングスだ。常識的に考えれば「ただでさえ人手不足なのに、週休3日制なんて無理に決まっている」と考え、導入を検討することすらおぼつかないだろう。
ところがSGホールディングスは、あえて逆転の発想をした。人材採用がしやすくなったり、離職防止につながることを期待して、週休3日制の導入に踏み切ったのだ。人手不足が原因で、十分な休みを与えられずに従業員を疲弊させ離職させてしまうのは、会社にとっても従業員にとっても得策ではない。SGホールディングスの週休3日制導入は、極めて合理的な判断なのだ。
「合理的判断」を妨げているもの
ところが、残念なことにそう簡単に合理的な判断ができる企業ばかりではない。では、いったい何がそうした判断を妨げているのだろうか。それが「月休3日」状態を生み出す2つ目の理由、「従業員の私物化」問題である。先月、アリさんマークの引越社のブラックな実態が「ガイアの夜明け」(テレビ東京)で特集されて話題となった。こうした会社がブラック化する原因は、単なる人手不足ではなく、社長や上司がまるで自分の所有物かのように従業員をこき使うことによって、搾取して私腹を肥やそうとしている点にある。
ブラック経営者やブラック上司にとっては、従業員はモノ同然であり、自分の命令に従わない者は不良品だとみなし、数時間にわたって延々と怒鳴りつけ、減給処分や罰金というムチを与え続けることで、考える余力を奪う。彼らにとっては「働き方改革」なんぞどこ吹く風。「働きがいがある会社」にしようなどとは、これっぽっちも思っていない。あくまで、自分たちの悦びが最優先であり、従業員はそのための道具にすぎない。こうした従業員を私物化するトンデモない経営者や上司の存在によって、いまだに多くの人が、長時間労働や休日出勤を余儀なくされている。
しかし、そうしたトンデモ経営者や上司の下で働くなんてまっぴらごめんだと退職する人が増えて退職率が上がればどうなるだろうか。冷静に考えれば、人手不足によってそうした会社は潰れ、淘汰されていくはずだ。ところが、実態としてはそうなってはいない。その理由が、「月休3日」状態を生み出している3つ目の理由、「どんな仕打ちを受けても従業員が辞めないこと」である。
日本では、どんなに厳しく理不尽な労働環境でも、会社を辞めずに働き続けてしまう従業員は、一定数存在する。そのため、搾取型企業は従業員を捨てることもなく、そのまま使い続けることができてしまうため、会社側があえて働かせ方を改革する必要性を感じないのだ。
「働き続けることが美徳」という価値観が蔓延
若きエリートまでもが過労死に至るさまをありありと描いたマンガエッセイ『「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由』(汐街コナ著、ゆうきゆう 監修/あさ出版)でも触れられていたように、「職場に迷惑かけられないから」「店長で責任者だから」「休むとみんなが困るから」「自分だけじゃないから」といった理由で、会社を辞めずに、休むこともなく働き続ける人は少なくない。こうした様子は外国人から見ればクレイジーそのものに映るそうだ。
『「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由』(汐街コナ著、ゆうきゆう 監修/あさ出版) ※外部サイトに遷移します
しかし、高度経済成長期において新卒一括採用・終身雇用が当たり前となった日本においては、「働き続けることこそが美徳」であり「会社を辞めるのは罪であり敗北」という価値観が強く蔓延している。
勇気を持って転職したからといって、必ずしも自分の理想の働き方を実現できるわけでもない。さらに、転職をしようと思っても今の仕事が忙しすぎて、転職活動をする時間も気力もない。そうした理由から、「辞めたくても辞められない」という構図に陥っている人が多いのだろう。しかし、それではいつまで経っても企業は変わらないし、週休3日制なんて、夢のまた夢のままだ。
今年創業20周年を迎え、働き方改革のリーディングカンパニーとして知られるサイボウズは、今でこそ離職率4%を切る優良企業だが、かつては離職率が28%を超える、いわゆる「ブラック企業」だった。28%という数字はあまりに高い。こうした現実が、「このままではまずい」と社長の心を揺さぶることにつながり、サイボウズが変わるきっかけとなったのである。
働き方改革を推し進め、日本中の企業で「週休3日」を実現させるためには、まずは働く人の退職に対する意識を変える、会社の「辞め方改革」から取り組むべきなのかもしれない。
奇しくも今、日本は空前の売り手市場だ。ブラック企業でも懸命に働いてしまうような、真面目な人材を欲している企業はごまんとある。ブラック企業に人材が寄り付かなくなる流れができれば、必然的に経営者の心を入れ替えさせることにつながる。「仕事があるだけありがたいと思え」というマインドが変わらない会社は、従業員の流出を防げず、先々はいわゆる人手不足倒産を余儀なくされるだろう。今の会社がおかしいと思ったら、勇気を出して辞める決断をすることも1つの手だ。
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提供元:「ブラック企業は即刻辞める」が超重要な理由|「週休3日」は働く人の意識改革で実現できる|東洋経済オンライン