2017.08.08

「上に立つ女性」は、なぜ女性に嫌われるのか│女性の足を引っ張るのは男性ではなく女性だ


女の敵は女(写真:xiangtao / PIXTA)

女の敵は女(写真:xiangtao / PIXTA)

猛暑が続いている。まるでその暑さをあおるように、熱い話題を振りまいている人々がいる。都議選圧勝を導いた小池百合子東京都知事。相次いで辞任を決めた蓮舫元民進党代表、そして稲田朋美元防衛相、さらには夏にぴったり、背筋も凍るホラー動画でお茶の間を席巻する松居一代氏に、不倫騒動の今井絵理子参議院議員……。日本列島の夏は、まさに女たちの話題で沸騰した。

どれも、「だから女は」とか「女だから」といった問題ではなく、人としての資質そのものが問われた結果ではあるが、拙稿「『怒りながら叫ぶ女』はどうして嫌われるのか』で指摘したように、リーダーとして人の上に立とうとする女性が課せられる制約は男性よりもはるかに大きいのは事実だ。そもそも、女性リーダーは嫌われやすく、敬遠されやすい存在でもあるらしい。なぜ、「上に立つ女」はそこまで嫌われるのだろうか。

「『怒りながら叫ぶ女』はどうして嫌われるのか」 ※外部サイトに遷移します

女性は女性の上司を苦手に感じている?

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筆者はこれまで女性の上司を持ったことはないが、正直に言うと、「女性上司の下では働きづらそう」という「偏見」を持っていた。男性が圧倒的多数の組織の中で、こうなりたい、と思うロールモデルとなる女性を見る機会もあまりなかったし、何より、女性が持つ独特の嗅覚や感性ゆえに、部下を見る目が厳しいのではないか、という思い込みがあった。その点、男性上司なら、ちょっとしたこちらのバグも気づかないし、男女差の範疇ということで「ごまかせそう」な感覚もあった。

残念ながら、実際に筆者のような感じ方をする人は少なくないようだ。アメリカのギャラップ社が2014年に行った調査では、男女どちらの上司がいいかと尋ねたところ、46%が「どちらでもいい」、33%が「男性がいい」、20%が「女性がいい」と答えた。1953年に実施した際には、「男性がいい」が66%だったので、約60年でその数は半減したわけだが、いまだ3分の1は男性上司を望んでいる格好だ。

驚くのは、男性に聞いた場合、「どちらでもいい」が58%、「女性がいい」が14%、「男性がいい」が26%だったのに対し、女性に聞いた場合、「どちらでもいい」が34%、「女性がいい」が25%、「男性がいい」が39%だった。つまり、約4割の女性が「男性上司がいい」と回答したのである。まさに、「女の敵は女」というわけだ。

一方で、実際に女性上司の下で働いている人は「女性がいい」という回答の割合が高く、「一緒に働いたことのない人々ほど、女性上司にネガティブイメージを持ちやすい」という可能性もある。しかし、なぜも、これほどまでに「女性上司は嫌われるのか」。その背景として、しばしば指摘される要因のひとつに、「女王蜂シンドローム」説がある。

これは、1974年にミシガン大学の研究者らによって命名されたもので、「男性社会の価値観を受け入れ、男性のように仕事をし、男性優位主義社会や組織をはい上がってきた女性は、自分たちの地位やテリトリーを守りたがり、権力を奪われないように、ほかの女性に手を差し伸べない」という考え方だ。映画『プラダを着た悪魔』のメリル・ストリープ演じる鬼編集長のあのイメージが思い浮かぶだろう。

女王蜂は男性のようにがむしゃらに働くことに慣れているがために、男性と働くことが楽だと感じており、「子供が病気なので休みたいという女性に同情心を感じない」(英デイリー・メール紙)、「私も男性に負けずにやってきたのに、なぜ、あなたもできないの?となる」(米『Forbes』誌)。女性をもり立てようとするより、男性の部下の面倒を見たがるのだという。

上司が女性だと女性は病気になりやすい

「職場で、女性は女性を十分にサポートしていない」。これはアメリカを代表する女性経営者でペプシコのインディラ・ヌーイCEOの言葉だ。2008年のカナダのトロント大学の研究では、女性の上司を持った女性は鬱、頭痛、不眠症などの病気にかかりやすいという結果が出た。

また、2014年のハーバード大学の研究では、上下関係にある女性研究者同士が協力し合うことは、男性同士の場合より難しいという結論だった。同格の女性同士の場合は問題ないが、ランクの異なる女性同士において協力関係は成り立ちにくいというのだ。

女性は同格の女性とはうまくコミュニケーションを取れるが、そうではない女性との人間関係に難しさを感じるという仮説である。一般的に、女性は人を育てたり、協力し合い、男性は競争するというステレオタイプな見方がある中で、この結果は驚きをもって受け止められた。

これはまさに、かつて、沢尻エリカさんの主演で話題になったドラマ「ファーストクラス」の中で流行した、「マウンティング」といわれる行為に通じる。マウンティングとは本来、霊長類が優位性を示すために、相手に馬乗りになって交尾をすることを意味するが、人間関係において、「自分が上」と格付けしようとする行為を意味する言葉として使われるようになった。

ほかの女性に対して、自分の優位性をアピールする「マウンティング女子」として、2014年の流行語大賞にノミネートされた。男性は職位や年齢などによって、比較的簡単に上下関係が定まるが、女性の場合、容姿、家庭環境など、評価軸が多くあり、そういった単純な枠組みでは力関係を定義できないという考え方だ。そこに、一筋縄ではいかぬ複雑な人間関係が生まれる、ということだろう。

また、男同士の争いや競争は許容されても、女性同士のいさかいは「姦(かしま)しく醜い争い」として忌み嫌われる、という研究もある。以前、小池東京都知事が「女性同士の嫉妬はかわいいもの、男性の嫉妬は時には国を危(あや)めることもあると思う」と指摘したが、男性にも激しい嫉妬やおとしめ合いもあるものの、女性の嫉妬のほうが厄介で扱いづらいとみなされる。

女性は、過度に「いがみ合う」というスティグマ(汚名)を着せられている節もある。そもそも、女性は優しく、守られるべき存在であるべきという固定観念が強いので、男性と同じような強い口調で話すだけで、「攻撃的」「ヒステリック」という印象を与えてしまうハンデがある。

「割り当て」がなくなれば意識は変わる

こうした女性上司=ビッチ(いじわる女)説は、歴史的・文化的な背景によって人為的に醸成されてきた側面もある。そもそも、組織の中で経営幹部に女性が登用されることが圧倒的に少なかったわけで、「会社として、女性を1人、幹部に登用すればそれで十分とする考え方がある」とコロンビアビジネススクールの研究は指摘している。

1人の女性が幹部に登用されると、別の女性が幹部になる可能性は50%下落するのだという。つまり、女性に限っては「自分か、ほかの女性か」という決断を迫られてしまう。そうした中で、「まずは自らの地位を確実にする」という方向に考えが働いてしまうというわけだ。女性幹部がもっと増えることで、こうした「割り当て」がなくなれば、意識は大きく変わる可能性が大きい。

また、部下の立場からすれば、男性が圧倒的に多い組織の中で、男性上司のほうが組織の中で力を持ちやすく、男性同士のネットワークなどを活用して、後々、自分を引き上げてくれたり、後ろ盾になってくれるのではないか、という期待感も潜在的にあるだろう。一方、数の少ない女性上司は孤立しがちで、バリバリと出世して、将来的なコネになりそうなイメージが薄い。

女性の社会進出が加速度的に進む一方で、リーダーシップ層への登用はなかなか進まないのは、決してその資質の問題ではない。女性は実はリーダーとしての素養が男性同様に、もしくはそれ以上に高い、という研究も多くある。社会的・歴史的な慣行やバイアスの積み重ねが女性たちの大きな足かせとなっている側面はあるだろう。

政府や企業が女性活躍推進をうたうのであれば、数合わせのような外形的な制度整備だけではなく、コミュニケーションの「ジェンダーギャップ」を踏まえたリーダーシップ教育の視点も求められているのではないだろうか。

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岡本 純子 :コミュニケーション・ストラテジスト

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提供元:「上に立つ女性」は、なぜ女性に嫌われるのか│東洋経済オンライン

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