2017.08.08
「資料を棒読みする人」に人の心は動かせない│「ストーリーテリング」を知っていますか?
プレゼンを成功させる秘訣とは?(写真 : kou / PIXTA)
社内決裁の会議や、部内でのレクチャー、上司への報告、顧客との交渉・営業――「プレゼンテーション」をする場面は意外と多くありますが、なかなかうまくいかないことがあるでしょう。
共通しているのは、「資料やスライドを棒読みしている」人は、人を動かすことはできないということ。では、どんな準備をして、何を話せばよいのでしょうか。
新刊『世界最高のリーダー育成機関で幹部候補だけに教えられているプレゼンの基本』の著者であり、GE(ゼネラル・エレクトリック)の“世界最高のリーダー育成機関”と呼ばれる研修機関・クロトンビルで教鞭を執ってきた田口力氏が解説します。
『世界最高のリーダー育成機関で幹部候補だけに教えられているプレゼンの基本』 ※外部サイトに遷移します
ウォールストリート・ジャーナルが過去に行った調査で「ひどいパワーポイントによるプレゼンで、1日当たり2億5200万ドル分の時間がムダになっている」と報じられています。
その原因のひとつは、「パワーポイントに過度に依存したプレゼンが多くなっていること」、別の言い方をすれば、「プレゼンのスライドや資料が、大量の文字・データ・装飾で複雑になっていること」でしょう。
プレゼンターはたいてい、そのスライド・資料に小さな文字で書き込まれた文章を、ただ読み上げているだけです。
みなさんもそんなプレゼンを聞いたことがあるかもしれません。紙の資料やスライドに箇条書きになった“ビジョン”をただ読み上げるトップ、あるいはプロジェクトの概要を棒読みするリーダー。彼らは、経営企画部のスタッフや部下が書いたシナリオに沿って、淡々と「他人が書いた文章」を読み上げているにすぎません。
あなたはそのような人に対して、心から信頼を寄せ、粉骨砕身働こうと思うでしょうか。文字だらけのプレゼンスライドを読み上げるだけでは人を動かすことはできないのです。
ストーリーを聞くと「心と脳」が動く
30年以上にわたり国内外の経営トップリーダーたちの教育にかかわってきて、実感することがあります。それは、「優れたリーダー(ビジネスパーソン)は、ストーリーで人を動かしている」ということです。
そのようなリーダーがいる会社はたいてい、全階層の社員がやる気に満ちあふれ、活気にあふれています。それは、経営トップやリーダーたちが、自分が率いる組織の目的(ミッション=使命)を繰り返し部下たちに語り続けているからですが、その目的について語るとき、「ストーリーとして伝える」ということを実践しているのです。
優れたリーダーたちが“ストーリー”で語ることでプレゼンを成功させているのは、
・「人は、頭で理解しても、心で納得しないと手足が動かない」という事実を、経験的に熟知している
・大量のデータで説得する(知的共感を得る)だけでなく、相手の心・感情に訴えかけて情動的共感を得ることのほうが「人を動かす原動力」になる
・心理学的に「ストーリーを通して伝えることで、20倍も正確に長く記憶に残る」
・ストーリーを聞くと、聞き手の脳内にドーパミン(快感物質)やオキシトシン(信頼ホルモンとも呼ばれる)が分泌される
といった理由によります。
いずれにせよ、あらゆるプレゼンテーションで大切なのは、「たくさんの文字」ではなく、「ストーリーで伝える」ことです。といっても、別に難しいことではありません。
私たちは皆、子どものころからストーリーに囲まれて育ってきています。親が読み聞かせてくれた絵本や童話、発明王エジソンやアメリカ初代大統領ワシントンなど偉人たちの伝記、『三国志』などの歴史物語もそうです。
大人になってからでも、たとえば友人との何気ない会話の中で、私たちは無意識のうちに「ストーリー」を語っています。雑談をするときに、“箇条書き”で話すような人はいませんよね。
ところが、ビジネスにおけるプレゼンテーションとなると、とたんに箇条書き調の語り口になってしまうのは不思議です。そんなプレゼンでは、聞き手の右の耳から左の耳に、簡単に抜けていってしまいます。
いいプレゼンに必ずある「3つのポイント」
優れたリーダーは、数多くの修羅場を経験し、ストーリーとして語るネタには困りません。それだけでなく、その経験から得た教訓を、聞き手の立場に立って、聞き手の役に立つように語るのです。
とはいえ、「ストーリーを語るネタ」を集めるために何十年もかけているわけにはいきませんよね。大丈夫です、経営幹部を計画的に育成する企業が「ストーリーで語るスキル」を選別研修のメニューに組み込んでいることからもわかるように、このスキルは「身に付ける」ことができるのです。
私が7年半在籍したGEのリーダー育成機関であるクロトンビルの研修でも、幹部候補育成プログラムでは「ストーリーテリング」の授業が組み込まれ、参加者から大変高い評価を得ていました。
どうすれば「すごいストーリー」を構成し、語れるようになるか、そのエッセンスを紹介しましょう。すばらしいストーリーは、必ず次に挙げる「P」で始まる3つの要素で構成されています。つまり、
①前提(Premise)
②話の筋(Plot)
③登場人物(People)
の3点を話せばいいのです。
聞き手が抗えない「前提」を共有する
具体例として、「社内の業務改革プロジェクト」の提案をプレゼンするときのストーリーはどうなるでしょうか。
まず話すべき【前提】は、「自分が伝えたいメッセージ」と「聞き手を取り巻く世界」をつなぐために必要な要素です。
たとえば、聞き手が社内の人たちであれば、「会社の使命」や「価値観」「ビジョン」をはじめ、「会社が築いてきた歴史や物語」といったものがあります。「会社が置かれているビジネス環境」や「業界の動向」も【前提】として挙げることができるでしょう。自分が語ろうとしている中心的なメッセージと強い関連がある状況や環境のうち、聞き手との関連が大きい部分を【前提】として設定するのです。
次に【話の筋】です。【前提】として取り上げた状況や環境の周囲で「何が起こっているのか」、そして状況や環境に対して「どのような影響を与えているのか」を話すのです。
たとえば、
「自社が身を置く業界が厳しい経営環境にある(=前提)なかで、顧客から20%のコストダウンを求められている(=話の筋)」
といった具合です。
【前提】としている状況や環境に対して影響を与える出来事は、【前提】に対するある種の反応であったり、時にはどうしようもない圧力によってもたらされる難題であったりするでしょう。このあたりの展開は、テレビドラマや映画の主人公に、どうしようもない難題が降りかかってくると、観ている側としては「いったいこの先どうなるのだろう」と興味をそそられるのと同じです。
そして、3つ目が【登場人物】。たとえば、「社内で先行して取り組んでいるコスト削減プロジェクトの旗振り役・A部長」です。その人物の性格について描写することに加え、【前提】における役割や、【話の筋】に対する人としての純粋な反応などを語ります。
すると、「A部長の運動を、全社運動に展開することで、自社を筋肉質な企業体質に転換する、本プロジェクトを提案する」というストーリーが出来上がります。
提案内容に賛同する人であれ反対する人であれ、覆しようのない【前提】を共有できているので、聞き手はあなたの【話の筋】に従って話を聞いてくれるのです。
「短いストーリー」で人を動かす
「ストーリーを語るとプレゼンが冗長になるのでは?」と思う人がいるかもしれません。
「スライドで10枚分、時間でいうと20分以下」というプレゼンのグローバルスタンダードに照らし合わせてみても、そんな短い時間でストーリーを語れるはずがないのではないか――と考える人もいるでしょう。しかし、考えてみてください。
たとえばリンカーンのゲティスバーグ演説は3分、ネルソン・マンデラのアパルトヘイト終焉のスピーチは5分、チャーチルの「血と汗と涙」の演説は2.5分。長めの演説でもキング牧師の「I Have a Dream」で有名な人種差別の終焉を訴えた演説が17分。「TED Talks」では18分が上限に設定されています。
「ストーリー」には、人々や社会の変革を促すほどの影響力を持つものから、ちょっとした小話のようなものまでさまざまあります。なにも歴史に残るような大演説をする必要はありません。
ストーリーは、自分で作り上げることもできますが、それよりも自分の経験や考えの中にあるものを「見つけ出す」という感覚も大切です。私たちの日々の生活や、歩んできた人生そのものに、ストーリーを見つけられるはずです。
会議でのプレゼンが苦手だ、自分の企画が通らない――こんな悩みを解決する方法は、とてもシンプルです。GE(ゼネラル・エレクトリック)の研修機関=クロトンビルにおけるプレゼン研修のマスタートレーナーとして活躍する著者が「プレゼンの基本」を紹介。(KADOKAWA、本体1400円+税)
『世界最高のリーダー育成機関で幹部候補だけに教えられているプレゼンの基本』(クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)
田口 力 :TLCO代表取締役
【あわせて読みたい】 ※外部サイトに遷移します
提供元:「資料を棒読みする人」に人の心は動かせない│東洋経済オンライン