2017.06.30

「ママでもエース」の営業女子は何が違うのか|時短勤務でも「売れる」働き方の秘密を大公開


体当たり型の営業部員が優秀といわれた時代は、もう終わりました(写真:xiangtao / PIXTA)

体当たり型の営業部員が優秀といわれた時代は、もう終わりました(写真:xiangtao / PIXTA)

顧客のもとへ足しげく通い、時間をかけて人間関係を構築する。従来は、こんな「行動量と人間力」が、営業パーソンの間で重視されてきました。

しかし、「働き方改革」が声高に叫ばれるようになった今、営業女子の中には体当たりではない新しいアプローチで成果を出す人が増えてきています。今回は、そんな新しい営業女子の働き方をご紹介します。

15時半までの時短勤務で、MVPを受賞

No.1:リクルートキャリア人材採用支援 草野好子さんの場合 3児の母

■略歴
1998年にリクルートキャリア(旧社名 リクルートエイブリック)へ入社後、営業畑で経験を積む。2001年に第1子を出産し、営業部付企画担当へ。第2子出産を機に営業職に復帰し、現在は3児の母として育児をしながら、15時半までの時短勤務を利用。時短ながら、営業成績に対して、MVP賞、通期連続達成賞、お客様への事業貢献を表彰するMVA(Most Valuable Agant)賞等、社内での受賞歴多数。

「昔は体当たりで、長い時間仕事をするのが当たり前でした」。現在15時半までの時短勤務にもかかわらず並外れた成績をたたき出す草野さんだが、かつては旧来の「営業らしい」働き方で、体力も時間も消耗しきっていたと言います。しかし、いまや「時間をかけて足しげく通えば売れるというのは、過去の神話でしかない」と断言しています。

「1回目のアポに全精力を注ぐ」という草野さん(写真:名鹿祥史)

「1回目のアポに全精力を注ぐ」という草野さん(写真:名鹿祥史)

きっかけとなったのは、第1子の出産でした。子どものお迎えに行く必要があるため、会社にいられる時間は限られています。ただ、草野さん曰(いわ)く「終わりの時間を決めて働くほうが、むしろ売れるようになったんです」。

草野さんはいったい、どんな“魔法”を使っているのでしょうか。効率的に結果を出すために最も大切にしているのが「1回目のアポイント」です。草野さんの仕事は、法人に対する人材の採用支援。

「最初の商談に全精力を注ぎます。相手企業が何を必要としていて、何を課題だと感じているかを、1回目できちんと把握することで、向かい合うべき相手がその企業の人事担当者なのか、経営者なのか、提案すべき内容が何なのかが見えてきます」

初回にお客さまの課題をつかまないと、その後の提案内容も提案先もぶれてしまい、無駄な仕事が生まれます。それが長時間労働にもつながってしまうのだといいます。

顧客の競合他社の株価までチェックする

加えて力を入れているのが、データ収集。「採用は経営と密接につながっています。お客さまの経営課題を理解するうえでも、その企業の財務資料を集め、事業部門ごとの分析を進めます。顧客企業の株価、さらには競合他社の株価までチェックすることも重要です。その際には、社内にあるデータベースを活用しています」。

データを手に入れたあとにモノを言うのが、「仮説力」。先方に質問をする前に、データから読み取れる相手企業の強みやニーズを想像して、あらかじめ仮説を立てます。

「いきなり『御社の課題は何ですか?』と聞いても、なかなか答えてもらえないものです。データから仮説を立て、『この部分を手伝えるのではないか?』と推測し、狙い撃ちしていく。すると、『わかっているね』と信頼につながります」

もっとも、草野さんがもともと「データ分析のプロ」だったわけではありません。その点は上手に人に頼ってきました。「たとえば、金融関係から転職してきた仲間に、財務について『これってどうなの?』と聞いたりします。財務資料を読むうえでは業界ごとに癖があるので、各業界に詳しい社内メンバーにアドバイスをもらうこともあります」。

準備を徹底し、仮説を立てたうえで、1回目のアポで相手にしっかり伝えるべきことがあるといいます。

「こちらが立てた仮説が当たっていれば『うちに任せてください』と、ハッキリ言うことです。会社の看板を背負っている以上、それがプライドを持って働くことだと思っています」

また、この時点で、お客様と自分の役割について会話しておくことも、無駄な時間や労力を使わずに効率的に働くための大切な要素。「最初のアポのときにスケジュール表を持参して『私はここまでやりますので、お客様にはここをお願いします』と、役割分担を明確にするんです。最初の段階で、誰がいつまでに何をやるかを決める。そうすることで、コミュニケーションがスムーズになります」。

営業活動の中で度々の問い合わせを受けると、その対処に追われ、長時間労働につながりますが、草野さんの場合はそれがないので、限られた時間の中で成果を上げられるといいます。

草野さんの働き方のベースには「仕事が好きで、成果を出したい」という熱意があります。リクルートには、「圧倒的当事者意識」という言葉があります。その仕事が、本当に「やりたいことなのか?」を自問し、自分自身の内側から湧き上がってくる気持ちで仕事にあたる、ということです。草野さんも、最初に相手の喜ぶ顔を想像することで仕事の原動力にしてきました。「仕事は趣味でもあり、本当に好き。目の前でありがとうと言われたり、仮説が当たったり、達成したり褒められたり、楽しくてしょうがないんです」。

「仕事は趣味」という草野さんですが、私生活では、3人の子育て中のママ。さらには、メディカルアロマや耳つぼマッサージ、カラーセラピスト、ベビーマッサージなどの資格も所持し、これからは栄養管理士にもチャレンジしたいそうです。仕事に育児に資格にと、休みなく日々を過ごしているように見えますが、日々の楽しみは、夫との晩酌。仕事と生活を明確に分けるのではなく、「仕事も生活の一部、生活も仕事の一部」としてライフマネジメントをしているのが、草野さんの強さの秘訣なのかもしれません。

全部の得意先は回れない。頼りにしたのは…

No.2:キリンビール流通営業 丹尾(にお)美和さんの場合 2児の母

■略歴
2003年に入社後、営業職として働く。出産前後に内勤の営業企画(内勤)に移ったものの、昨年の4月から営業に復帰。主婦目線の提案が顧客から信頼を集めている。子育てをしながら働くため、仕事は9~17時30分の定時で必ず終え、残業ゼロ。ただ、売り上げは前年度キープか、前年超えの成績を出し続けている。

丹尾さんの仕事は、大手スーパーなどのバイヤーに、キリンの商品やキャンペーン、売り場の展開案などを提案すること。「得意先を回って価値ある提案ができるかどうかが、この仕事のキモ。現場からの情報が命ですが、時間的な制約がある中では、私ひとりですべての売り場を回れるわけではありません」

生活者の「独り言」を想像し、マーケティングに生かしているという丹尾さん((写真:名鹿祥史)

生活者の「独り言」を想像し、マーケティングに生かしているという丹尾さん((写真:名鹿祥史)

そこで丹尾さんが頼りにしているのが、売り場を実際に回っているMD(マーチャンダイザー:店頭で売り場提案や新商品案内などを行うメンバー)からの情報だといいます。

「その際、単に『情報が欲しい』というふわっとした頼み方では、精度の高い情報は集まりません。欲しい情報を得やすいと思われる店舗の○○さんに、□□に関する現状を聞くというように、具体的に相手と内容を絞って聞きます。そのほうが、頼まれたほうも具体的に動けるんです」

「主婦の目線」がマーケティングに生きることもしばしばあると言います。ある得意先が新しい店舗を出店する際、丹尾さんが売り場づくりの提案をすることになりました。周辺は比較的高所得で、共働き世代で小さな子どもがいる世帯が多いエリア。高級ワインやプレミアムな焼酎といった品ぞろえがマッチしそうですが、丹尾さんの提案は違っていました。

「もし自分なら、と生活者の目線で考えてみました。高層マンションなら月々のローンだってあるだろうし、日々の買い物は毎日高いものなんて買わないのではないか。けれどハレの日であれば少しだけいいものを買おうという余力があるのではないか……などと、具体的にイメージしたんです」

そこでワインも、単に高級なものでなく、オーガニック系などこだわりのあるもののコーナーを充実させ、情報を提示する工夫を提案。その結果、来店客数は好調だったといいます。

「心掛けているのは『消費者の生活を提示する』こと。具体的な消費者をイメージして、生活者の独り言を妄想します。たとえば『今月も家計の収支はギリギリだけれど、週末はママ友達と一緒に持ち寄りランチ会をしたい』というふうに」

この「独り言」を生かした提案をすることで、好評を得るそうです。「単にデータを送るだけでは生の声は届きません。証拠であるデータとともに、主婦営業ならではの感性を一緒に送っているので、説得力を高められていると思います」。

駅の花壇に座ってPC作業。スキマ時間は余さず活用

さらに、限られた時間の中で効率的に成果を出すために活用しているのが、ITの力です。

「子どもがいるので、昔のように顧客のもとに足しげく通ったり、夜遅くまで打ち合わせしたりすることはできなくなりました。だからといって、かかわりが薄くなってはいけません。メール、電話、リモートワーク体制を使いこなしています」

ITの力を使えば「スキマ時間」も有効に活用できるといいます。「電車に乗るときは、必ずPCを開いています。先日も、駅の隅の花壇に座ってPCを開いて作業していました(笑)。カフェに入るのも惜しいようなスキマ時間でも、工夫すれば作業をひとつ終えられます」

子どもとの時間を優先するため、仕事は必ず定時に終えて残業はゼロ。週末は仕事をしません。子どもが病気になったときなど、職場のリーダーやメンバーのフォローを受けるために、丹尾さんが大切にしているのが「日報」です。

「通常は顧客先への訪問記録程度に終わるかと思いますが、私の場合は『この顧客とはどこまで話が進んでいる』など事細かに書いています。すると何かあったときも他のメンバーに代わってもらえるんです。

いざというときにフォローしてくれる社内の信頼関係は、何よりも大切なものだといいます。「周りにはつねに感謝を伝えるようにしています。以前は、営業という仕事に対して『これは私しかできないだろう』というプライドがありました。しかし、今となってはチームでやれることはたくさんあるのだと気づきました。営業は孤独ではなく、チームみんなで進むことができる仕事です」

「担当するときは、初めに『17時半以降は電話がつながりにくくなる。緊急時はリーダーに電話してください』とお願いしています。初めこそ、顧客から『使えない』と思われるのではないかと不安でしたが、初めの段階できちんと説明をすれば、向こうも理解をしてくれました」

今でこそ家庭と仕事をきっちり両立させている丹尾さんですが、子どもが生まれた当初は「復職してもママで営業なんてとても無理」と思っていたそうです。ただ、取引先や社内など、周囲の理解に助けられてきました。

また、営業だからこそ得られるメリットもあります。まず、直行直帰ができて、時間のコントロールができること。さらに、成果が見える仕事なので、やりがいを感じやすいこと。子育ては日々、我慢することも多く、成果が目に見えにくいものです。営業の仕事は目に見える成果がモチベーションになり、仕事と生活のバランスが取れているといいます。

リクルートエグゼクティブエージェントの転職エージェント、森本千賀子さんによると「市場価値の高いビジネスパーソン」の条件は4つあるといいます。

① 情報ソースを豊富に持っている(タイムリーに旬な質の高い情報を持てている)
② データ収集のみならず、数字からマーケティングを読み取る分析力を持っている
③ 幅広い外部リソース、パートナーをもっている
④ ITツールや知見を活かして、どこでもいつでも情報を取り出せたり、加工したり、提供したりすることを実践している

以上の4点は、今回取材した草野さんと丹尾さんの働き方に見事に合致します。

顧客に尽くすだけが優秀な営業の条件ではない

「ママになると、営業は不利なのではないか」「融通が利かなくて顧客の役に立てないのではないか」。そんなふうに不安がる声を幾度となく聞いてきました。しかし今回お2人を取材してわかったのは、「旧来のやり方にとらわれなくても、成果は出せる」という事実です。

今までは、顧客に振り回されても、顧客のために尽くすことが営業の本領のように考えられていました。「あなたから買いたい」と言われることは、営業としてモチベーションになる一方で、自分だけで仕事を抱え込んでしまい、長時間労働を引き起こしかねない要因にもなりえます。旧来のやり方にとらわれて「できない」とあきらめる前に、周りを巻き込んでできる工夫を一緒に実践していくことで、新しい勝ちパターンを模索する時代に入ってきたのではないでしょうか。

記事画像

太田 彩子 :「営業部女子課」主宰

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