2017.06.26
介護業界の「低賃金・重労働」より深刻な問題|介護現場はまさに「異文化の融合体」だ
離職率が高いことで知られる介護業界。低賃金重労働、人手不足などさまざまな問題が指摘されていますが、退職理由を調べてみると、意外や「人間関係」が原因で辞めた方が最も多くいました(写真:kikuo / PIXTA)
こんにちは。生きやすい人間関係をつくる「メンタルアップマネージャⓇ」の大野萌子です。
介護業界の離職率が高いことは、皆さんも一度は耳にしたことがあると思います。介護労働安定センターの実施する「平成27年度介護労働実態調査」によると、直近の2015年の離職率は16.5%であり、1年間で約6人に1人が離職していることになります。
退職理由のTOPは「職場の人間関係」
離職率が高い直接的な理由としては、介護職員がまだまだ足りていないことで、仕事を辞めてもすぐ次の仕事が見つかりやすいという状況が影響しています。
実際に仕事を辞めた理由を調べてみると、最も多い25.4%が「職場の人間関係に問題があったため」と回答しています。「法人や施設・事業者の理念や運営のあり方に不満があった」が21.6%と続き、「自分に向かない仕事だったため」は、たった4.1%にとどまります。
筆者は、8年間で500以上の事業所、1万人以上の介護職の方々の相談と研修を担当してきましたが、実際に「仕事自体は楽しいのに、人間関係が嫌で辞めたい」という声を本当によく聞きます。
介護業界における人間関係の問題とは、いったいどのようなものなのでしょうか?
私が介護現場を見てきたなかで感じたのは、介護現場ほど働く人の年齢層が幅広く、それまでのキャリアが多様なところはないということです。介護現場では、高等学校、専門学校を卒業したばかりの10代から、定年後のセカンド、サードキャリアの60代、70代までが一緒に働いています。
介護職に就くまでのキャリアも実に多様です。最近では、大学の社会福祉系学部を卒業された人以外にも、色々な学部を卒業されて就職する方、子どもの手がかからなくなった主婦の方、転職された方、親の介護を通じて社会貢献に目覚めた方など、挙げればきりがないほどです。
こうして学歴もキャリアも、あらゆるバックグラウンドを持つ人が同じ業務に就いています。介護現場とは、まさに異文化の融合体なのです。
さまざまな世代や価値観が混在する職場でコミュニケーションを取っていくことは、一筋縄ではいかないことが想像に難くありません。さらに、シフト勤務が多く、いつも同じ人と仕事ができるとは限らないのも、一層周囲とのコミュニケーションを難しいものにしています。
しかし、介護職は医療と同様、チームで連携・協力しながら働くことが必須の現場です。そこで職員同士の意思疎通がスムーズにできなければ、致命的な問題です。ですから、個々のコミュニケーション能力の向上は欠かせません。
具体的な「あと一言」ですれ違いをなくす
では、いったいどのようにすれば、多様な人々が円滑なコミュニケーションを取ることができるようになるのでしょうか。必要なのは、なんといっても伝えたいことを相手に伝わる言葉で伝えることです。同じ日本語を使っている人同士の会話でも、“通じて当たり前”ではありません。普段自分が行っているコミュニケーションに、具体的な「あと一言」を添えることが肝心です。
たとえば、普段料理をしない人に対して「塩を目分量で」という指示をすることは意思疎通になりません。「塩ひとつまみ」だってかなり危ない言い方です。つまむといっても、人によっては指5本、3本、2本の可能性が出てくるわけです。「ひとつまみといったら当然〇本でしょ!?」と怒ること自体が間違っています。
こうした齟齬を防ぐためには、「塩は、3本指でつまめるくらいの量ね」と指示しなければならないわけです。これでも多少の個人差は出ますが、当初の指示よりはかなり精度が上がります。
介護業界に限らず、どんな職場においても、相手に対して「そんなことわかるでしょ」という思いが生じると、相手が思いどおりに動いてくれないときに怒りや不満を持ちやすくなります。仕事の指示出しは、つねに、より具体的な表現にしていくことが望まれます。
『伝え上手、聞き上手になる!介護職のための職場コミュニケーション術』(中央法規出版)。介護関係者の職場環境改善に効く、コミュニケーション術を紹介しています。
コミュニケーションは、普段の生活や、人とのやり取りの中で、当然身に付いていくものと思われがちですが、そうではありません。基本的なスキルを知って、それを実際に使い、精度を高めていく、日々のトレーニングが必要なのです。そして、場数を踏めば誰でもスキルアップできます。
私は、介護職員の方々向けに「対人援助職のためのコミュニケーション入門」というテーマの研修を長年実施していますが、定期的に実施してくださっている事業所の離職率は、確実に下がっています。「新しい人は増えましたが、それ以外の顔ぶれは前の研修とほぼ同じです」という言葉を聞くと、本当にうれしく思います。
社会貢献や人のサポートができる介護の仕事にせっかくやりがいをもって取り組んでいるのに、職場の人間関係が理由で会社を去る人が多いのであれば、それは利用する側にとっても不幸なことです。1人でも多くの現場の方がよりよいコミュニケーション術を身に付けてくださることを望みます。
大野 萌子 :日本メンタルアップ支援機構 代表理事
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提供元:介護業界の「低賃金・重労働」より深刻な問題|介護現場はまさに「異文化の融合体」だ|東洋経済オンライン