2017.06.23
本当に働きやすい会社を見抜くポイント7選|就活生や転職希望者なら知っておきたい
給与も労働時間も「実際のところ」を見てみましょう(写真:Mills / PIXTA)
6月1日に経団連加盟企業の2018年新卒者の採用選考が解禁され、新卒就活戦線が熱気を帯びている。
新卒の就職活動市場では、メガバンク、航空会社、総合商社といった有名企業が人気ランキングの上位を独占しがちだ。一方、人気だけにとらわれすぎてしまうと、思わぬミスマッチを招きかねない。社会保険労務士としての視点から、本当に働きやすい会社を見極めるための、7つのチェックポイントを説明したい。就職活動中の学生だけではなく、転職を検討している社会人も覚えておいて損はない。
働きやすい会社を見極めるポイント
(1)年間の実労働時間数
昨今「働き方改革」という言葉があちこちで聞かれるようになったが、働き方改革の主要な論点の1つは労働時間の短縮である。
しかしながら、表面的に1日の所定労働時間だけ短くても、残業が多かったり、有給休暇がほとんど消化できない職場環境であったりしたら、トータルの実労働時間数は想像以上に膨らんでしまう。
入社したら実際に働かなければならない実労働時間数はいくらか。その計算方法を示そう。
{1日の所定労働時間×(365日-年間休日数)}+年間残業時間数-(1日の所定労働時間×年間平均有給休暇取得日数)
具体例を挙げれば、たとえば働き方改革が進んでいるといわれている「味の素」では、次のような計算結果となる。
{7時間15分×(365日-121日)}+124時間-(7時間15分×17.7日)≒1765時間
対して、1日8時間、年間休日105日(シフト制で週休2日)、月平均残業20時間、平均有給消化日数5日の会社があったと仮定してみる。
{8時間×(365日-105日)}+(20時間×12カ月)-(8時間×5日)≒2280時間
味の素の実労働時間数よりも労働時間が約3割も多いという計算結果になることがわかる。
会社に仕事がなくて労働時間が短いなどは別問題だが、会社の収益が安定しているという前提においては、年間実労働時間が少なければ少ないほど、効率的な職場環境の会社と考えて大きくは外れないであろう。
なお、計算式に当てはめる数字は、求人の募集要項、会社のホームページ、会社説明会での質問、あるいは『就職四季報』(東洋経済新報社)などから拾える。
「正味時給」を計算する
(2)正味時給
求人情報を眺めていると、基本給の額面に目を奪われてしまいがちだが、「基本給」とは法律用語ではないので、その基本給の基礎となっている条件を確認する必要がある。
ここで、「正味時給」とは、次の計算式で求める時給と定義しよう。
正味時給=(基本給-固定残業代)÷月平均所定労働時間
すなわち「正味時給」は、支払われる純粋な基本給が、所定内労働1時間当たりいくらなのか、という指標である。
たとえば、楽天の新卒者の基本給について考察してみたい。
楽天の2018年新卒者の基本給は、同社ホームページの新卒者向け求人情報によると30万円とされており、一般的な相場以上の数字に見える。ただ、ここには40時間分の固定残業代として7万2151円が含まれている。また、1日の所定労働時間は7.5時間、年間所定休日は土日祝が休みとのことなので121日と仮定する。
そうすると、正味時給は次のようになる。
(300,000円-72,151円)÷{(365日-121日)÷12カ月×7.5時間}≒1494円
固定残業代は一律「良くないもの」というイメージを持たれているが、正味時給で換算して約1500円になるということは、大卒の新卒者の待遇としては悪くない。
参考までに、日本一の大企業であるトヨタ自動車の2018年新卒者の求人情報に基づく正味時給と比べても楽天の正味時給は上回っている。
206,000円÷{(365日-121日)÷12カ月×8時間}≒1266円
もちろん、入社後の昇給スピードや、その他の福利厚生、会社としての安定度などを総合勘案しなければならないが、正味時給で換算して、あまりにも低すぎる初任給には気をつけてほしい。
基本給の中に、みなし残業代、みなし深夜割増手当などいろいろなものが含まれていて、タケノコの皮剝ぎのように純粋な基本給以外の部分をそぎ落としていくと、最低賃金ギリギリだったとか、アルバイトの時給と逆転現象が起きていたという例も、私は見たことがある。
(3)3年後離職率
3年後離職率とは、新卒者のうち3年以内に離職した人の割合である。
会社に入るとさまざまな上司や先輩がいるし、総合職で入社した場合はどのような部署に配属されるかはわからない。また、新入社員の性格や能力もさまざまである。
そのような中、3年以内にほとんど退職者がいないということは、会社全体として働きやすい職場環境があることの推測になるので、この指標は重視したほうが良い。逆に、3年後離職率が30%とか40%に達しているような場合は、新卒者のうち3人に1人とか2人に1人が3年以内に退職しているということなので、理由のわからないままその会社に就職することは避けたほうが無難であろう。
なお、3年後離職率の情報は、『就職四季報』などの情報媒体で調べるか、可能であれば会社説明会などで質問をして確認をしてほしい。
また、企業規模に対して採用数の多い会社も、入社前にその理由を確認すべきである。
急成長中のベンチャーだからというように明確な理由があれば良いが、売上高は横ばいなのに、人の募集だけ多いという場合は、社員が定着しないので大量採用・大量離職を繰り返して、いわば「人の自転車操業」のような職場環境になってしまっているおそれがある。
加えて、研修制度の有無や充実度も確認したほうが良いだろう。一般的には新卒採用の場合は、ある程度の社内研修を経たうえで、職場に配属される流れになる。ところが、いきなり現場に放り込まれて「とにかくやれ」みたいな形になってしまうと、それに耐えられれば社会人としての成長は早いかもしれないが、耐えられずに離職をしたり、精神疾患に陥ってしまったりというリスクも高い。
入社後の住環境に関する福利厚生
(4)社宅や住宅手当の充実度
新卒者の入社後の可処分所得は、特に実家を出て就職する場合であるが、社宅や住宅手当の充実度によって大きく左右される。
たとえば、私が新卒で入社した会社の就業規則では、28歳まで月5000円の負担で借り上げ社宅に住むことができた。
借り上げ社宅の正規の家賃は5万円程度だったと思うので、年間で考えると、4万5000円×12カ月=54万円も会社が給与を余分に払ってくれていたことに等しい。私のその会社での初任給は20万円程度であったが、実質的には初任給を25万円くらいもらっている感覚で生活や貯蓄をすることができたので、当時の勤務先には非常に感謝をしている。
独身寮、借り上げ社宅、住宅手当など会社によって手法はさまざまだが、入社後の住環境に関する福利厚生がどれくらい充実しているのかということは、是非チェックをしておきたいポイントである。
また、「通勤による疲労を減らして元気に働いてほしい」という意図で、会社から一定の距離に居住する場合に「近距離手当」を支払うような会社も増えてきている。たとえば、「ニコニコ動画」を運営するドワンゴや、出版大手のカドカワは、両社とも、勤務地から半径5km以内に居住する場合は月3万円の近距離手当を支払うという制度が運用されている。
(5)健康保険組合への加入の有無
会社に入社すると、社会保険(厚生年金+健康保険)に加入することになり、厚生年金は全社共通で国の制度に加入するが、健康保険に関しては会社ごとに加入する制度が異なる。
この点、全国健康保険協会という国が運営する健康保険制度に加入することが原則となるが、大企業の場合は「トヨタ自動車健康保険組合」とか「全日本空輸健康保険組合」といった自社独自の健康保険組合を設立して、独自に健康保険制度を運用していることが多い。
独自の健康保険制度の場合は、国の健康保険よりも保険料率を安く、また、国の健康保険では保険料は労使折半で負担だが、社員に有利な負担割合になっていることも多い。
加えて、独自の健康保険制度では給付面でも有利になっている場合がある。たとえば、病気やケガで働けなくなった場合、「傷病手当金」という所得補償が行われるが、国の健康保険制度では元の賃金の約67%が最大1年半だが、たとえばトヨタ自動車健康保険組合の場合は、元の賃金の約80%が最大で2年半、約40%がさらに半年、最大で3年間も所得補償が受けられる格好になっている。
このように、健康保険組合のある会社に入社すると、保険料の控除が減るので同じ額面をもらっていても手取りが増え、また、万が一病気やケガをした場合のセーフティネットが高いということである。
なお、健康保険組合のある会社に入社するためには、必ずしも大企業に絞らなければならないわけではない。
たとえば、鈴鹿サーキットを運営する「株式会社モビリティランド」に就職すれば、同社の親会社である本田技研工業の、「ホンダ健康保険組合」の加入者となることができる。
また、比較的小規模な企業であっても、「関東ITソフトウェア健康保険組合」や「東京都情報サービス産業健康保険組合」といった、同一業種の複数の会社が共同で設立している健康保険組合に加入している場合もある。
プラスアルファの企業独自の福利厚生制度はあるか
(6)休日休暇制度や福利厚生制度の充実度
第1のチェックポイントでも触れた有給休暇を年平均で何日くらい取得できるのかということに加え、育児や介護などで望まない離職を避けるための休暇制度や柔軟な勤務制度がどれくらい整備されているのかという観点である。
出産・育児や家族の介護は誰にでも起こりうることであるし、近年は夫婦共働きが増えているので、夫の転勤についていくため、妻が離職をせざるをえないという状況もしばしば生じている。
この点、法定の産前産後休業、育児休業、介護休業を取得できることは大前提として、プラスアルファの企業独自の福利厚生制度を確認してほしい。
たとえば、味の素では妊娠した女性が「つわり休暇」を取得することができる。法定の産前休暇は産前6週間前からだが、妊娠初期でもつわりがきつく働くことが難しい場合には安心して休暇を取得することができるということだ。また、同社では、保育園の入園時期が4月に集中することを踏まえ、子が満1歳となった後の4月末日まで会社独自の育児休暇を認めている。
また、伊藤忠商事は、総合商社といえば海外駐在も珍しくないが、セコムと提携して、海外駐在をする社員の老親の見守りサービスを会社の費用負担で提供するという福利厚生制度を実施している。
育児・介護・配偶者の転勤で退職した社員の再雇用を制度化する企業も増えている。たとえば、アサヒビールの「ウェルカムバック制度」は、「勤続3年以上の従業員が結婚、妊娠、出産、育児、家族の看病・介護、配偶者の転勤などの理由で退職した場合、規定の条件が満たされていれば、年齢制限なしで再雇用を認める」ということだ。
なお、このような制度がどれくらい充実しているのかは、各社のホームページ等でも確認できるが、公的な基準として「くるみんマーク」を取得しているかも1つの目安となる。
「くるみんマーク」とは、男性の育児休業取得者が1人以上いるとか、女性の育児休業取得率が70%以上であるとか、いくつかの基準を満たした場合に、国へ申請して取得できるものである。くるみんマークを取得していることは企業のホームページ等で紹介されていることも多いし、厚生労働省のホームページで取得企業一覧を確認することもできる(検索エンジンで「くるみんマーク 厚生労働省」とキーワード検索をしていただきたい)。
退職金支給の有無も、支給額も会社次第
(7)退職金制度の有無と内容
入社時にはあまり気にしないかもしれないが、定年が近づいたり、転職を考えたりする際に気になるのが退職金である。
私が学生の頃などは「退職金はどの会社でも当然支給されるもの」と誤解していたが、退職金は法定の賃金ではないので、支給の有無も、支給額も会社次第である。
公的年金の支給開始が60歳から65歳になり、今後はさらに引き上げられる予定なので、公的年金が支給されるまでの「つなぎ」としても退職金の役割はますます重要になっている。退職金がない会社の場合は、月々の賃金や賞与から、老後に向けての貯蓄や資産運用に回さなければならない部分が増えるので、実質的な可処分所得は減少してしまう。
また、転職を考えるにあたり、自己都合退職の場合は、雇用保険からの失業手当が受け取れるようになるまでに3カ月の給付制限があるので、退職金がない会社の場合は、貯蓄がなければ会社を辞めての転職活動が難しくなる可能性が高い。
また、私のように「脱サラ」して独立する場合も、もちろん定年退職をした場合に比べれば圧倒的に少ないが、いくらかの退職金があることで、独立当初の資金繰りは大いに助けられた。
このように、退職金があることで、人生のさまざまな場面で助けられたり、セーフティネットになったりする。入社前に退職金規程そのものを見ることは難しいかもしれないが、最低限、退職金制度の有無は確認しておきたいものである。
もちろん、「やりたい仕事」「好きな仕事」に就くことができるのが望ましいが、どんなに好きな仕事でも、過酷な長時間労働であったり、生活していけないくらいの賃金しかもらえなかったりしたら、長続きはしない。やはり、本当の意味でバリバリ働いて、ワーク・ライフ・バランスを充実させるためには、社員の生活や健康のことをしっかり考えてくれる会社を選びたいものである。
榊 裕葵 :社会保険労務士/CFP
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提供元:本当に働きやすい会社を見抜くポイント7選|就活生や転職希望者なら知っておきたい|東洋経済オンライン