2017.06.22
MBAが教える「いつも決断を誤る人」の3特徴|「意思決定の罠」を避け、バランスをとる方法
決断を誤る落とし穴を避けるにはどうしたらいいでしょうか?(写真 : ZukkA / PIXTA)
仕事は「決めること」の連続です。正解がはっきりわからない状況で「どちら」を選ぶか? 正しい判断をすることは、ビジネスにおいての生命線となります。
しかし、実際には、時間の制約もあり、焦って間違ったほうを選んでしまった、裏をかきすぎて正しいジャッジができなかった、と後から冷静になってみて苦い思いをした経験のある方は多いと思います。
ビジネススクールで学ぶ必修基礎が「1フレーズ」ですっきりわかる、をコンセプトにまとめた『MBA100の基本』を上梓した著者が、決断を誤る典型的な落とし穴とそれを避けるコツをお伝えします。
適切な判断ができる人、できない人の差はなに?
書籍『MBA100の基本』の著者、嶋田毅氏による「仕事に役立つ!明日から使える『MBAの基本』セミナー」を6/29(木)に開催します。
「なぜ、こんなとんちんかんな意思決定が下されたのか?」、あるいは「なぜ、あの時にこちらを選んでしまったのか?」と、後からふり返って苦い思いをしたことのある方は多くいらっしゃるでしょう。
適切な意思決定ができる人とそうでない人は、傾向として実ははっきり分かれます。ビジネスパーソンとしてのキャリアは、前者のほうが恵まれたものになることは明白です。
では、適切な意思決定ができる人とできない人とでは、どこが違うのでしょうか。
意思決定を間違える人は、大きく以下の3つの「落とし穴」にはまっていることが多いものです。
落とし穴1:間違った情報をベースにしている
落とし穴2:視野や判断基準が偏っている
落とし穴3:感情やバイアスの虜(とりこ)になる
本稿では、3つの落とし穴と、その回避策についてご紹介していきます。
落とし穴のその1は、間違った情報をベースに意思決定することです。
たとえば転職先を選ぶにあたって、伝聞で「A社はブラック企業」という情報を得たとします。仕事の魅力度やスキルのフィット感はあっても、その情報が気になってA社を選択肢から外すという人は多いでしょう。
しかし、その情報は単なるうわさにすぎなかった、あるいはそれは数年前の話で、急速にA社の職場環境が改善されていることが後でわかったりしたら、後悔することになります。
こうしたことを避ける鍵は、メディアリテラシーを高めること、身近に信用できる情報源たる知人を持つこと、そして健全な批判的精神を持つことです。
メディアリテラシーは端的に言えば、メディアで流れる情報の真贋を見抜く力です。それを高める手っ取り早い方法は、常日頃から複数のメディアに触れて多面的に情報を収集し、立体的に状況を把握すること、そしてそのメディアや情報発信者の癖を知っておくことです。
メディアや情報発信者にはそれぞれの立場や「大人の事情」というものがあります。また、それぞれの情報発信者が友達関係であったり師弟関係であるということも少なくありません。そうしたことを理解すると、どの程度までその情報が信用できそうかがわかってくるのです。
ただし、メディアリテラシーを高めたところで、ネットですら公開されない情報も多いものです。そういう時に役に立つのが個人的に信用できる人間のネットワークです。単にその分野のことについてよく知っていたり勉強熱心というだけではなく、あやふやなことは口にしない、事実と個人的見解、伝聞をしっかり峻別して伝えてくれる――そうした友人、知人は大切にしておきたいものです。
いずれにせよ重要なのは健全な批判的精神です。何か違和感を抱いたら、「それって本当?」と問いかける癖をつけましょう。また、そもそもそうした違和感をタイムリーに持てるよう、常日頃から好奇心を持って情報収集したり、最新の情報を自分で調べてみるという習慣づけをすることも大事です。
バランスの悪さを解消する
落とし穴のその2はバランスの悪さです。これは大きく、視野が偏っているということと、価値判断(判断基準)のバランスの悪さに分けられます。
まず視野の偏りですが、これは人間である以上、必ずつきまとうものです。世の中の森羅万象を知ることはできませんし、また、いちいちすべての情報を集めていては非効率です。ビジネスはスピードとの競争という側面も大ですから、限定された情報から意思決定するのはある意味やむをえません。
問題なのは、それがあまりに偏るケースです。もともと人間には「都合のいい事実だけが目に入り、都合の悪い事実は目に入らない」という習性があります。たとえばビジネスパートナーを選ぶ際に、X社については良いところだけを見て、Y社については悪いところだけを見ていたら、本来Y社のほうが良いケースでもX社を選んでしまいます。
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こうした落とし穴にはまらないためには、バランス良く情報を整理できるビジネスフレームワークを多数身に付けることと、ピュアな視点から自分の思考の偏りを指摘してくれる知人を持つことが有効です。前者はまさにMBAで学ぶことであり、後者は先述した良き人的ネットワークと重なることが多いものです。
また、ここでも「自分の視野や思考は偏っていないか?」と自問する批判的思考は有効です。加えて、自分を一段高い次元から眺める冷静さやメタ思考も意識すると効果はさらに上がります。
一方、価値判断(判断基準)のバランスの悪さは多少厄介です。なぜなら、何が適切なバランスなのかは個人の価値観によって異なるからです。
たとえば、翌日にそれまでの人生で最も大事なプレゼンテーションを控えたタイミングで夫や妻が大ケガをしたとき、そのプレゼンを誰かに代わってもらったり相手に延期をお願いするか、それとも妻や夫はいったん人に任せて仕事に向かうかという問いに、万人向けの正解はありません。
それ以外にも、短期的成果重視でいくのかそれとも長期的成果重視でいくのか、実利重視でいくのか規範重視でいくのかなど、単純に「apple to apple」の比較ができないケースは多々あります。
これを乗り越える手っ取り早い方法はないのですが、ヒントを挙げるとしたら、過去のビジネス事例に学ぶことはもちろん、歴史などのリベラルアーツに触れること、日常から多様な人々と対話すること、自分なりの判断軸をしっかり持つことなどが、悔いの残らない意思決定につながります。つまり、一般的な常識ラインを知りつつ、自分らしさと折り合いをつける意識や姿勢が大事なのです。
感情やバイアスの虜にならない
落とし穴のその3は、感情やバイアス(思考の歪み)の虜になることです。
たとえば一時の感情で何かを決めたり言ったりしてしまったものの、一晩考えたらそれは賢明ではないことに気づいた、という経験は皆さんお持ちでしょう。そこで「君子豹変」できればいいのですが、中には、それが好ましくない意思決定であることをわかりつつ、妙なプライドやバイアスが邪魔をして翻意できないというケースも多いものです。
人間には一貫性を維持したいというバイアスがあります。「一度言ったことを翻すと信用できない人間と見られる」と考え、いったん取った立場にこだわってしまうのです(立場固定とも言います)。
例として、相手の依頼の仕方に不快感を覚え、「この仕事を私は引き受けない。なぜなら……」などと大見えを切ったシーンを想定してみましょう。
これが単に「嫌です」と言ったくらいなら、すぐに翻意することに抵抗感はないかもしれません。しかし、根拠までつけて拒否してしまったら、それを全否定するのは心情的に難しくなります。そうしているうちにも時間がたって立場固定が進み、ますます翻意しにくくなるという悪循環に陥ってしまうわけです。
人間である以上、感情に左右されますし、バイアスからは逃れられません。だからこそ、重要な意思決定は感情が高ぶっているときにはしない、あるいは、典型的なバイアスを知り、客観的に自分を眺めてそれに陥っていないかを確認するという基本が非常に大事になるのです。
また、自分の人生の成功は、一時のプライド維持ではなく、長期にわたる信頼獲得によってこそ得られるということは再確認したいものです。
嶋田 毅 :グロービス経営大学院教授
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提供元:MBAが教える「いつも決断を誤る人」の3特徴|「意思決定の罠」を避け、バランスをとる方法|東洋経済オンライン