2025.01.30
「認知症かも?」の初動、意外と知られてない正解|「まずはどう動く?」「何科に?」専門医が解説
自分や家族が「もしかして認知症?」となったとき、どこでどのように診療を受けたらいいのでしょうか(写真:78create/PIXTA)
厚生労働省研究班によると日本の認知症高齢者は約440万人(2022年)、団塊ジュニア世代が65歳以上となってくる2040年には584万人と、高齢者の15%まで増えると予想されています。もし自分や家族が「もしかして認知症?」となったとき、どこでどのように診療を受けたらいいのでしょうか。
「恐れる」認知症から、「備える」認知症へと変わる「新しい認知症観」について現場を知り尽くす専門医が解説した『早合点認知症』より一部抜粋、再構成してお届けします。
まずはどう動いたらいい?
学会等の会合で他の都道府県の医療や介護の関係者と会ったときなど、その人の地元で認知症の診療をしている医師を知っているか、尋ねられることがしばしばあります。「最寄りでいい先生、いませんか?」ということだと思います。
しかし、私は他の都道府県の地理にうといこともあり、いつも答えに窮します。
何をもっていい先生なのか、という問題もありますが、認知症について知識や診療経験があり、患者さんに対して親身になってくれる先生たちを知らないわけではないものの、全国のいたるところにいるわけではない。認知症の人の増加を考えると、比較的に「認知症について知識・経験を備えている医療人材」はまだまだ少ないと感じている状況のため、答えに窮するのです。
しかし、相手も困って尋ねていると思うので、認知症の診療について尋ねられたら、以下のように答えています。これは「認知症かもしれない」と考え、治療を受けたいと思うようなとき、みなさんにも参考にしていただけると思うので、どのように答えているかご紹介しましょう。
まず、最寄りの「認知症疾患医療センター」に連絡することを提案します。都道府県や政令指定都市が指定し、病院に設置している、認知症の医療相談や診察に応じる専門の医療機関のことで、全国にあります。
もし近くになくて、行きづらいなどの問題があれば、最寄りの「地域包括支援センター」に連絡を。診察の希望があることを相談すれば、地域の「認知症初期集中支援チーム」など、適した医療につないでくれるはずです。
何科を受診すればいい?
認知症の診療は何科の担当なのか? この質問も多いですが、これも答えるのが難しい質問です。
私は精神科の専門医で、かつ認知症の専門医ですが、精神科領域の病気・症状は数多あり、認知症はその1つではあるものの、多くの精神科医は認知症を診ていないし、診察に慣れてはいません。
認知症診療を標榜していることが多い脳神経内科や総合診療科などの医師も同じで、すべての医師に認知症の診療経験があるわけではないと思います。
ただし、日本老年精神医学会と日本認知症学会に、認知症の「専門医」や「認定臨床医」を認める仕組みがあり、この認定を受けている医師は認知症に関する学識があり、診療や生活支援において専門性があると言えます。どちらも学会のホームページで認知症専門医や医療機関を検索することができるので、探して受診するのも一手です。
ほかにもいくつか認知症の専門医のようにもとれる任意団体の資格などもあるようですが、正しく認知症の専門医と言えるのは、いまのところ日本老年精神医学会か、日本認知症学会の認定を受けた専門医になります。
もう1つ、実際にはとても有効な、受診先探しの情報源は「口コミ」です。これは認知症の診療に限ったことではないですね。やはり実際に受診をしたり、主治医としてしばらく付き合ったりした結果、どうか。患者さんやご家族の実感に勝るものはないかもしれません。
とはいえ、インターネットの口コミなどは、ポジティブ発言はあまり投稿されず、ネガティブな発言が集まりやすいのも事実です。
専門性を調べ、口コミも調べて、受診先を検討するのがよいのではないかと思います。
認知症の人が病院へ行くのを嫌がるときは?
病気のとき、「自分は病気かもしれない」「病気だ」と認識することを「病識がある」と言います。アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症の場合、初期には病識があるのが一般的ですが、進行すると病識が薄れてくる場合が多く見られます。病識の低下は、脳のどこが障害されるか、その部位と関係しているようではありますが、まだ詳細は不明です。
病識があれば、「病院に行かなくちゃ」と思えますが、病識がなければ、病院にかかる必要などないと考えるのが当然ですね。そこで、医療が必要だと感じるご家族と、不要だと主張する認知症の人と、衝突が生じて困っているケースに度々出会います。
ご本人は「絶対に病院には行かない」と言っていても、やはり何か病院にかからないといけない病気がある(ように見える)となると、訪問診療の対象になりますから、そのような場合は「在宅医療」を受けることを考えてみましょう。
在宅医療とは、自宅や施設など暮らしの場で医療を受けることです。
たとえ病識はなくても、認知症の人が「どこか、何かおかしい」という感覚をもっていることは多いようで、医師が訪問して診察をするというと受け入れられやすい場合も多いのです。
とはいえ、在宅医療を提供するクリニック(在宅療養支援診療所)のすべてが認知症の人を診ることができるかというと、必ずしもそうではないので、先にもご紹介した地域包括支援センターに相談するか、学会認定専門医で訪問診療してくれるクリニックがないか、探してみるといいでしょう。
認知症は暮らしの障害ですから、生活の場である自宅や施設で診療することは、症状やその原因の理解をしやすいというメリットがあり、「認知症×訪問診療」は親和すると感じています。
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提供元:「認知症かも?」の初動、意外と知られてない正解|東洋経済オンライン