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2024.09.01

頭痛を訴える40代女性「アレルギーが原因」の衝撃|「2人に1人がかかる国民病」の知られざるリアル


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花粉症、喘息、アトピー、食物アレルギーなど、2030年には2人に1人が患者になると言われている「アレルギー」。まったく症状はないと思っていたのに、大人になってから突然発症する人も増えている。元ジャーナリストで医療人類学者であるテリーサ・マクフェイル氏もその1人で、40代になって頭痛と喉の痛みで受診すると「アレルギー」と医師に言われたという。それをきっかけにアレルギーについて調べ始めると驚くべき実態が次々と明らかになった。マクフェイル氏がアレルギーの専門家や患者たちを5年以上取材して書き上げた『アレルギー:私たちの体は世界の激変についていけない』について、訳者の坪子理美氏が本書の読みどころとアレルギーの実態を紹介する。

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頭痛と喉の痛みの原因がアレルギー?

2015年。医療人類学者として大学教員の職に就き、講義、研究、執筆に奮闘していた40代のテリーサ・マクフェイル氏は、突如として猛烈な体調不良に襲われた。1年足らずのうちに4回も細菌感染症にかかり、主治医から耳鼻咽喉科の専門医のもとへと送られた彼女は、医師からこんな言葉を聞かされる。

「ただの感染症で起こるような炎症よりも、はるかにひどいですね。アレルギーをお持ちなんだと思います」

アレルギーという医師の見立ては、マクフェイル氏にとってまったく意外だったという。当時、彼女が抱えていた症状は頭と喉の痛み。激しいくしゃみや鼻水に苦しめられたこともなければ、目の腫れや痒みにも、肌の赤みや湿疹にも、吐き気や腹痛にも襲われたことはなかった。

ただ、「アレルギー」という言葉に思い当たるところはあった。20年近く前、疎遠だった父が蜂毒によるアレルギーで亡くなっていたのだ。浜辺へのドライブを楽しんでいたところ、窓から車内に飛び込んできた小さな1匹の蜂に首筋を刺されたのだという。驚きつつもハンドルを握り続けた彼は、みるみるうちに呼吸困難で運転ができなくなり、救急車で病院に運ばれるまでの間に亡くなった。

以来、娘であるマクフェイル氏は蜂の羽音や姿におびえるようになった。だが、それを除けば父のこと、そしてアレルギーのことを考える機会は年々減っていた。父の突然の死の知らせから20年近くが経ち、こうして自分自身がアレルギーの診断を受けるまでは。

全世界でのアレルギー有病率は30~40%

マクフェイル氏が同僚や友人たちにアレルギーの話をしてみると、思いがけず多くの反応があったという。ある人は花粉症に、ある人は湿疹に、ある人は喘息に長年悩まされ、ある人は子供が食物アレルギーを抱えていた。しかも、それらの話題の多くはマクフェイル氏にとって初耳だったという。

「まるで突如、自分の知る誰もかもが何らかのアレルギー性疾患を持っているとわかったかのようだった」と、彼女は著書『アレルギー:私たちの体は世界の激変についていけない』に綴っている。現時点で全世界でのアレルギー有病率は30〜40%だという。

たとえ症状が重篤なものでなくても、アレルギーの影響は日常生活に深く及ぶ。

日本でもなじみ深い花粉症を例にとれば、東京でのスギ花粉の飛散シーズンはゆうに3カ月を超える。事前にマスクや保湿ティッシュをまとめ買いし、花粉の時期には服装や髪型や化粧を変え、鼻詰まりでぼんやりする頭を抱えながら仕事に向かうという方も多いことだろう。

ちなみに筆者の場合、熱っぽさや鼻炎をはじめとする季節性の症状は11月に始まり、落ち着くのは春も終わりになってからだ。実に1年の半分近くにわたって不調を抱えていることになる。その間、講演や移動を伴う仕事に支障が出たり、副鼻腔炎を併発して喉の痛みや顔の圧迫感、猛烈な歯の痛みに苦しめられたりと、生活の質(QOL)は顕著に低下する。

昨年ついに手術に踏み切り、副鼻腔炎の重さや発症頻度は大幅に下がったが、鼻炎や目の痒みがなくなるわけではない。

2020年のパナソニックの調査によれば、花粉症の社会人が仕事のパフォーマンス低下を感じる時間は1日につき平均で約2.8時間。同社の推計では、花粉症によるパフォーマンス低下がもたらす労働力低下の経済損失は、なんと1日あたりで2,000億円超に相当するという(パナソニック「社会人の花粉に関する実態調査」)。

世界全体での抗アレルギー薬の市場規模はいまや年間300億ドルに迫り、アレルギー検査と治療を合わせた販売額は、2026年までに500億ドルを超えると予測されている。

また、重篤な食物アレルギー患者にとっては生命線ともいえるアレルゲンフリー(アレルギーの引き金となる成分の含有量がゼロに近い)食品の市場規模は、2030年までに年間1兆80億ドルに達すると見込まれている。アレルギーは大きな損失をもたらすものであると同時に、大きな市場を支えるものともなっているのだ。

職業病・生活習慣病としてのアレルギー

英語圏の農業従事者の間では、俗称で「農夫肺」といわれる病気が古くから知られていた。カナダ労働安全衛生センター、オーストラリア農業従事者衛生センターなどの説明によれば、農夫肺は腐敗した干し草などの粉塵を繰り返し吸い込むことで、繁殖していたカビの胞子や細菌に対するアレルギーが起こるもの。

悪寒、発熱、咳、胸の締めつけ感、倦怠感が生じる。現在では外因性アレルギー性肺胞炎と呼ばれる疾患の一種である。

農夫肺らしき事例の記載が初めて行われたのは1713年のことで、20世紀前半には次々と症例が報告されるようになった。それに加え、カエデの樹皮やコルクの加工業者、ハトの飼育者、鳥の羽毛の加工業者など、動植物由来の物質によっても類似の肺胞炎が起こることが知られはじめた。

現代では、同様のアレルギー性肺胞炎がエアコンや加湿器のカビによっても生じることが知られている。

職業病としてのアレルギーは、農業・製造業以外の分野でもしばしばみられる。

医療従事者や実験科学者の間では使い捨てゴム手袋によるアレルギーが多発。アレルゲンの飛散が少ないパウダーフリー手袋や、天然ゴムを使わないラテックスフリー手袋が普及するようになった。絆創膏、包帯、コンドームなど、身近な衛生用品にもラテックスフリー製品が増えている。

また、著書『バッタを倒しにアフリカへ』『バッタを倒すぜ アフリカで』(いずれも光文社新書)で知られる昆虫学者の前野ウルド浩太郎氏は、研究対象であるサバクトビバッタに対する皮膚アレルギーを抱えていることを綴っている。

大学院時代からサバクトビバッタの捕獲、飼育、解剖を重ねた末、この虫に皮膚の上を歩かれるたび、赤くて痒い皮疹(前野氏の言葉では「赤き紋章」)が足跡のように生じるようになってしまったそうだ。

他にも、科学者が自身の研究材料に対するアレルギーを起こしてしまう事例はよく知られており、マウス(実験用ハツカネズミ)などへのアレルギーは実験動物を扱う研究者や実験補助員の20%にみられるという(阪口雅弘・白井秀治「実験動物アレルギー」『アレルギーの臨床』2022年5月号、北隆館、p.352-356)。

200年で激変したヒトの生活様式

蜂毒によるアナフィラキシーで父を亡くし、自身も呼吸器アレルギーの診断を受けたマクフェイル氏は、次のような疑問を抱く。アレルギー体質は遺伝するのだろうか?

「アレルギー」という語が生まれたのはつい1世紀ほど前のことだが、生命現象としての歴史はそれより長いと考えられている。古代エジプトには蜂刺されで命を落としたファラオがいるとも言われているし、イヌ、ネコ、ウマなど、ヒトと進化の道筋を共有する動物たちにもアレルギー性疾患は存在する。

つまり、大きな意味でいえばアレルギー体質は「遺伝する」。ただし、その体質が実際にどのような問題につながるかは、生活様式、さらには社会構造に起因する部分が大きいようだ。

マクフェイル氏が『アレルギー』で取材した免疫学者のスティーヴ・ギャリ医師(アメリカ・スタンフォード大学)は、ヒトの進化の歴史のある時点までは、アレルギー反応が体の防御機構として有益に働いていたのではないかと考えている。

虫や蛇の毒素から体を守ったり、危険な生物のいる草むらから逃げ出すための警告システムとしての役割を担ったりしていた可能性があるという。

アレルギー反応に関わる白血球の一種、マスト細胞が哺乳類の体内に出現したのは5億年以上前と推定されている。マスト細胞と、同じく白血球の一種である好塩基球、そして、1966年に石坂公成・石坂(松浦)照子の両博士によって発見されたIgE抗体などが関わりあって、アレルギー反応は雪崩のように展開されていく。

アナフィラキシーショックを起こした場合、アレルゲンを摂取してからわずか数分で心肺停止に至ることもある。かつては危険から身を守る役に立っていた可能性があることを考えると、アレルギーがこれほど急速かつ強力な反応であることも不思議ではない。

マクフェイル氏によれば、「枯草熱〔今でいう花粉症〕の症例分析が書かれたのはわずか200年少々前のことで、呼吸器アレルギーは少なくとも産業革命の始まりまでは広く見られるものではなかったと示唆する証拠もある」という。

ここ200年で農作物の栽培可能期間は延び(温暖化による影響が大きい)、ブタクサの花粉飛散量は急増し(空気中の二酸化炭素濃度に依存)、私たちの住環境・食生活は大幅に変化してきた。ヒトとモノが密集した都市型の生活や、その副産物として進んだ過剰な衛生志向は、職業病と同様の作用を広範囲の人々にもたらしているかもしれない。

アレルギーは私たちの生活そのものに関わる疾患

アレルギーが人々に与える重荷は症状そのものだけにとどまらない。

引き金となる物質(アレルゲン)の回避や治療薬の使用など、発症予防のための対策自体には少なからぬ金銭的・物理的・心理的負担がかかる。食物アレルギーのために外食や会食を避けなければならない方もいれば、湿疹や喘息、皮膚アレルギーの症状により人前に出るのをためらう方もいることだろう。

特に、アレルギーの種類によっては治療法の選択肢がまだ限られており、薬の長期使用による効き目の低下や副作用の不安は、日々の生活を送る中で差し迫ったものとなりやすい。現在、免疫系そのものにアプローチするしくみを含めて、新たな治療法の開発、そして予防策の検討・実施が世界各地で進められている。

5年間の取材を経て『アレルギー』を書き上げたマクフェイル氏は、アレルギーと共に生きる私たち自身を「環境変化という炭鉱におけるカナリア」と呼ぶ。現時点で患者たちが受けている影響は、やがてアレルギー持ちではない人々にも広がっていくことだろう。その影響は決して「気のせい」でも「気にしすぎ」でもない。

専門家らの推定によれば、2030年までにアレルギーの有病率は50%に達するという。もはやひとごとではないアレルギー。その診断、治療、研究、そして激変する世界の実態を、ぜひ知っていただきたい。

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提供元:頭痛を訴える40代女性「アレルギーが原因」の衝撃|東洋経済オンライン

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