メニュー閉じる

リンククロス シル

リンククロス シルロゴ

2024.06.27

うつ症状に作用する漢方薬の科学的メカニズム|マウスを使った実験で実証されつつある


自然界の植物、動物、鉱物が漢方薬の原材料となる(写真:iori/PIXTA)

自然界の植物、動物、鉱物が漢方薬の原材料となる(写真:iori/PIXTA)

2020年時点で、医薬品として承認された漢方薬は294処方(一般用漢方製剤)、そのうち、医療保険の適用のあるもの(医療用漢方製剤)が148処方あります。本稿は『東洋医学はなぜ効くのか ツボ・鍼灸・漢方薬、西洋医学で見る驚きのメカニズム 』より一部抜粋・再構成のうえ、漢方薬・香蘇散(こうそさん)についてご紹介します。

『東洋医学はなぜ効くのか ツボ・鍼灸・漢方薬、西洋医学で見る驚きのメカニズム 』 クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

加藤清正が戦場で使用したエピソード

香蘇散は、風邪の初期症状の際、特に胃腸が弱い人によく用いられます。動悸や発疹などの副作用があるマオウを含まないため、高齢者や妊娠中の女性にも使われます。

歴史をひもとくと、中国の南宋時代にさまざまな疫病の治療に処方されたとの記述が残されていて、日本では戦国時代から多用されています。なかでも有名なのが、加藤清正が豊臣秀吉に朝鮮出兵を命じられたときのエピソードです。

加藤の軍勢が敵に囲まれて籠城したとき、多くの兵が気鬱の病(うつ・不安症状)に悩まされるなか、軍の医師によって香蘇散が多く処方されたというのです。そして現代でも香蘇散は、風邪の症状だけでなく、うつ症状やストレス症状を緩和することが数多く確認されています。

なぜ、風邪に使われる漢方薬が、うつ症状を緩和するのでしょうか。北里大学では、マウスを使ってメカニズムを調べる研究が行われています。その実験を見てみましょう。

実験では、人為的にうつ状態にしたマウスに対し、香蘇散を体重100グラムあたり0.1グラム、9日間投与しました。その結果、香蘇散を投与したマウスでは、水を与えたマウスより40%以上もうつ症状による行動の低下が改善されたのです。

うつ症状に関わるHPA軸に注目

そこで、研究チームが注目したのは、うつ症状に関わるHPA軸と呼ばれるメカニズムです。HPA軸はストレス反応を制御するメカニズムで、「視床下部―下垂体―副腎皮質系」を軸として、副腎皮質ホルモン(ストレスホルモン)を分泌します。

通常、副腎皮質から分泌されたストレスホルモンの量が増えると、視床下部や下垂体の受容体で感知され、視床下部からのホルモン(CRH)や下垂体からのホルモン(ATCH)の量が低下し、ストレスホルモンの過剰な分泌を抑制するネガティブフィードバックがはたらきます。

ところが、過度なストレスなどが続くと、視床下部のストレスホルモン受容体の数が減るなどして、この仕組みが破綻してしまいます。すると、HPA軸が過剰に活性化し、大量のストレスホルモンが分泌され続けてしまい、うつ症状を引き起こすと考えられています(下図参照)。

出所:『東洋医学はなぜ効くのか ツボ・鍼灸・漢方薬、西洋医学で見る驚きのメカニズム 』より

出所:『東洋医学はなぜ効くのか ツボ・鍼灸・漢方薬、西洋医学で見る驚きのメカニズム 』より

ストレスホルモンの分泌が正常化

研究チームは、香蘇散を投与してうつ症状が回復したマウスを調べたところ、視床下部にあるストレスホルモンの受容体の数が回復し、それぞれのストレスホルモンの分泌に関わる遺伝子の発現も低下していました。

つまり、香蘇散の投与によってHPA軸の活性化が鎮まり、ストレスホルモンの分泌が正常化したことで、うつ症状が改善されたと考えられるのです。

また、こうした作用をもたらす薬理成分についても、香蘇散の生薬のうち、ソヨウのペリルアルデヒドやロスマリン酸、また、チンピのヘスペリジンやノビレチンなどが関わっている可能性があります。

記事画像

『東洋医学はなぜ効くのか ツボ・鍼灸・漢方薬、西洋医学で見る驚きのメカニズム 』(ブルーバックス) クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

このほかにも、香蘇散には、うつ症状と関係が深い脳の記憶を司る海馬の神経への作用などが確認されており、古来から伝えられてきたうつ症状に対するメカニズムが実証されつつあるのです。

記事画像

【あわせて読みたい】※外部サイトに遷移します

「サウナに入っただけ」男性に生じたまさかの悲劇

男性の7人に1人「尿路結石」一度かかると厄介な訳

飼い主が切望「泡を吹いて死んだ」愛猫の死の真相

提供元:うつ症状に作用する漢方薬の科学的メカニズム|東洋経済オンライン

おすすめコンテンツ

関連記事

“秋うつ”にご注意!予防法を徹底解説

“秋うつ”にご注意!予防法を徹底解説

急激な温度差によるストレス「夏うつ」に注意|休むだけでは「心身のリセット」はできない

急激な温度差によるストレス「夏うつ」に注意|休むだけでは「心身のリセット」はできない

「メンタルを病む60代」「余裕ある60代」の決定差|人間関係に悩む中高年を救う空海の教えとは

「メンタルを病む60代」「余裕ある60代」の決定差|人間関係に悩む中高年を救う空海の教えとは

「電車で化粧」に小さなストレスを感じる人の特徴|「何となく疲れる」人の背景にある"かくれ繊細"

「電車で化粧」に小さなストレスを感じる人の特徴|「何となく疲れる」人の背景にある"かくれ繊細"

戻る