2024.06.20
「心の病もたらす」現代人を蝕む4つのストレス|「ネガティブな想像力」をかきたててしまう
ストレスにさらされることで「ネガティブな不安心」が増大してしまう(写真:Pangaea/PIXTA)
日常生活におけるストレスの蓄積が「心の病」を引き起こすことはよく知られていますが、ではいったい、現代社会ではなぜそうした「心の病」が増えているのでしょうか。また、どのようなストレスが原因となっているのでしょうか。これまで1万人を診察してきた経験をもとに、現代人に特有なストレスと、それによって引き起こされる「心の病」のメカニズムについて、広岡氏が解説します。
*本稿は広岡氏の著書『心の病になった人とその家族が最初に読む本』から一部を抜粋・編集してお届けします。
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他者への「想像力」が不安心を増大させる
他の動物と比べると体が小さく、力も強くない人類が、不条理な生物界の中で生き残ってきたのは、著しく脳が進化し、知覚領域を超える思考力を身につけたからです。
それを、私たちは想像力と呼んでいます。想像力を獲得したことで、未来のことを考えられるようになり、相手のことを考えられるようになり、生存競争を勝ち抜くための戦略が一気に進化します。
相手の動きを読んでわなを仕掛けたり、手に入る材料で武器をつくったり、戦況を分析して守ったり、攻めたり……。想像力を駆使することで、ただ相手を力でねじ伏せればいいと考える他の動物たちの脅威に打ち勝ってきたのです。
人類が進化の過程で獲得した、この想像力が、実は、心の病をつくる大きな要因にもなりました。というのは、生存競争に勝ち残るための想像力を、敵である他の動物だけでなく、協力して戦ってきた仲間にも働かせるようになったからです。
想像がポジティブなものなら、愛情が深まり、連帯感が強くなり、信頼感が増します。逆にネガティブなものなら、猜疑心が生まれたり、不信感が芽生えたりします。ちょっとした相手に対する怒りが、恨みや憎しみに変わることもあります。
ポジティブな想像力から生まれたのが、共同体を維持するために考えられた、倫理や道徳です。共同体をもっと良くしたい、強くしたいという想いが、ポジティブな想像力を働かせたのです。生存競争に勝ち残るためにつくられた小さな集団(共同体)は、みんなで守る倫理や道徳があることで、より強く、大きくなっていきます。
小さなグループから大きなグループへ、そして国へと発展していきます。「信じる」というポジティブな心(信仰)を拠り所とする共同体である宗教も、そのひとつと考えられます。
知らないことに対して「不安や恐怖」を感じやすい
ネガティブな想像力から生まれてしまったのが、共同体同士の争いです。他の共同体が、自分たちの利益を侵害しようとしている、という想像は争いの火種になりやすいものです。ウクライナやイスラエルで続く戦争でわかるように、いまもなお、争いは世界のさまざまなところでくり返されています。
想像力が心の病をつくることになったのは、想像力を働かせることで、ポジティブな成分も、ネガティブな成分もより強くなったからです。要するに、平常心、不安心ともに肥大化させることになったのです。
心にとって平常心の肥大化はうれしいことですが、不安心の肥大化はネガティブ思考を深刻にします。不安心が大きくなれば、それだけ自己の中心が不安心にあることが多くなるからです。
そもそも想像力は、人を不安にさせるものです。なぜなら、想像力を働かせて未来のことや相手のことを考えると、わからないことだらけだと気づくからです。人間は、知らないことに対して、不安や恐怖を感じやすいところがあります。
(出所:『心の病になった人とその家族が最初に読む本』より)
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みなさんにも、知ることで不安が消えた、怖くなくなったという経験があると思います。私たちは、人に対しても、社会に対しても、それだけ想像力を働かせて解釈するところがあるのです。
他の動物に生存を脅かされることがなくなったいまの時代、不安心の多くは、周囲の人間の言動から生まれています。自分を嫌っているのではないか、自分に対してマイナスな行動をとるのではないか、という妄想を抱き、そのことで自分の存在を脅かされるという恐怖を感じるからです。
「自分は生きる価値がない」
「自分には居場所がない」
「自分は必要とされていない」……。
そうした不安心を大きくするのもまた、想像力です。そして、私たちのまわりには、存在不安につながる要素が生活のあらゆる場面にあります。それを総称して、私たちは「ストレス」と呼んでいます。
自分の存在を脅かす「4つのストレス源」
ストレスの元となる「ストレス源」は、「集団社会から受けるストレス」「家族から受けるストレス」「自分の心の状態から受けるストレス」「自分の体の状態から受けるストレス」という4つに分けられます。
集団社会から受けるストレスとは、会社や学校、地域社会などといった共同体の中で活動することで受けるストレスです。
(出所:『心の病になった人とその家族が最初に読む本』より)
現代社会では共同体が多層化しています。インターネット上の共同体も含めると、小さなコミュニティやグループは無数にあるといっていいでしょう。家族以外の人と接する場所が会社や学校に限定される人は、ほとんどいないと思います。
仕事をしているだけでも、勉強をしているだけでも、何かしらのストレスを受けるわけですから、活動する場所が増えれば、それだけストレスを受けるリスクは高くなります。
昔は、家族は、集団社会から受けたストレスを癒す小さな共同体でした。それが、どんどん大きくなっていく共同体での家族の役割だったはずです。しかし、核家族化が進み、構成人数が少なくなることで守る力が弱くなってきています。
それどころか、外でのストレスを消化しきれないまま家に戻ることで家族がストレスの発散場所となり、それが他の家族にとってのストレスになることもあります。
自分の心の状態がストレス源になることもあります。
患者さんの多くは、心の病の症状がいちばんのストレスだと口にします。心の病が、さらに不安心を大きくしているのです。
心の病でなくても、たとえば憂鬱でやる気が起きない日が続いたり、家族に怒りっぽくなっている自分に気づいたりすると、ストレスになります。記憶力や判断力などが低下してパフォーマンスが落ちると自分が許せなくなります。
体の状態が悪くなっても、やはりストレスになります。
いままでできていたことができなくなる、時間がかかるようになるとストレスになるし、痛みが続いたり、だるさが続いたりすると気分が落ち込みます。
こうしてみていくと、心の病にならないのが不思議なくらいに、私たちのまわりはストレスだらけです。だからこそ、心の病は「生活者の病」と言われるのです。
「不安の積み木」の重なりが生む「心の病の種」
不安心は、さまざまなストレスを受け、ネガティブな記憶が積み重なっていくことで大きくなります。そのイメージから、私は「不安の積み木」と呼んでいます。
そして、積み木が重なっていく過程で、心の病につながる「心の病の種」が生まれます。心の病の種とは具体的にどういうものなのか。たとえば、「劣等心」などがそれに当たります。
誰かと比べて自分は劣っていると感じる経験は、誰にでもあると思います。それが何度もくり返されることでつくられるのが病の種です。劣等心の種があると、うつ病を発症することがあります。どういった種が生まれるかは、環境や体質、経験などによって人それぞれ異なり、その違いが症状の違いとして現れます。
しくみは同じでも、ある人はうつ病、ある人は統合失調症、ある人はパニック障害などと発症する心の病が異なるのは、不安心につくられる種の違いにあるのです。
(出所:『心の病になった人とその家族が最初に読む本』より)
ストレスがまったくない人がいないように、心の病の種をひとつも持っていない人もいません。いろいろな種がありますが、誰もが何かしらの種を持っています。
昔は、心の病は特定の人だけが発症する病で忌み嫌われるところがありました。家族が発症すると、その事実を知られないように隠すことさえあったほどです。
しかし、心の病の種を持つ私たちは、誰でも発症する可能性があります。
統合失調症の種となるのは、職場や学校などの集団社会の中で存在を脅かされる経験を重ねることで生まれる「被害心」や「脅威心」です。
「発症するか、しないか」の違いでしかない
みなさんには、誰かの言動に傷ついたり、裏切られたり、結果が出なくてビクビクしたりした経験はありませんか。そういう経験が多い人は、心の病を発症していなくても、不安心の中に、統合失調症の種があるということです。
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持っている種は、ひとつの心の病だけとは限りません。うつ病の種も、統合失調症の種も、パニック障害の種も、併せ持つ人はいます。
私の患者さんの場合でも、複数の心の病を発症することはよくあります。パニック障害の患者さんにうつ病の症状があったり、逆に、うつ病の患者さんにパニック発作が起きたり……。
どうして複数の心の病が併存するのかというと、発症のしくみはどの心の病も同じだからです。
病の種を複数持っている人は、その種のどれかが症状として現れると、他の種の症状が現れるリスクもあるということです。
心の病の種は、多かれ少なかれ誰にでもあります。心の病に悩まされる人とそうでない人がいるのは、発症するか、しないかの違いだけなのです。
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提供元:「心の病もたらす」現代人を蝕む4つのストレス|東洋経済オンライン