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2024.06.14

救急車「不適正利用」解決に"利用料"徴収はありか|「入院しない軽症者の搬送7700円」始めた地域も


「寂しいから話し相手になってほしい」と119番する高齢者もいるそうです(写真:teresa/PIXTA)

「寂しいから話し相手になってほしい」と119番する高齢者もいるそうです(写真:teresa/PIXTA)

過去最多を更新した救急出動件数

総務省消防庁によると、2023年の救急出動件数(速報値)は前年に比べ5.6%増の763万7967件、搬送人数は同6.8%増の663万9959人となり、過去最多を更新した。

高齢化で救急ニーズが高まるなかで、まるでタクシー代わりにする不適正事例もある。過去、救急車有料化の議論もあったが、課題が多く実現していない。

そうしたなか、東京都では消防署に属さない救急車も登場し、急増する救急ニーズを支えている。そこには直視しなければならない高齢化社会の救急の現実があった。

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まずは、全国の救急出動と搬送人数の過去の推移を見ていこう。

これらは新型コロナウイルス感染症が流行しはじめた2020年に減少したものの、コロナ禍になると急増している(※外部配信先ではイラストを閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)。

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病気やケガの程度の割合を見ると、入院を必要としない軽症が48.4%で、入院が必要な中等症が42.9%となり、ともに4割を超えた

一方で、3週間以上の入院が必要な重症が7.2%で、死亡が1.3%だ。

総務省消防庁は、軽症者の救急車利用を減らして、重症者に優先的に回そうと、病気やケガで救急車を呼ぶかどうか迷ったときに看護師や相談員などからアドバイスを受けられる電話相談窓口「#7119」の認知向上に向けた広報活動に注力している。

高齢者の救急搬送が6割超に

ここに来て比率が高まっているのが、高齢者の救急搬送だ。65歳以上が全体の6割(61.6%)に達している。10年前は5割台(54.3%)、20年前は4割台(41.4%)だった。

独立行政法人労働者健康安全機構顧問の有賀徹氏 (写真:筆者撮影)

独立行政法人労働者健康安全機構顧問の有賀徹氏 (写真:筆者撮影)

総務省消防庁の2023年度「救急業務のあり方に関する検討会」で座長を務めた有賀徹氏(独立行政法人労働者健康安全機構顧問)は、こう話す。

「今後、さらに問題になるのは高齢単身者の増加。患者の基礎疾患(持病)や合併症などの情報が把握しにくくなるため、救急隊員は患者の情報の取得に苦労し、結果的に時間を要することになる」

東京消防庁管内では、特別区災害救急情報センター(23区)と、多摩災害救急情報センター(多摩地区)の2カ所に救急要請が入る。それを受けて、GPS(全地球測位システム)で管理された救急車の位置情報を基に、救急現場に最も近い救急隊を出動させる。

東京消防庁救急指導課の小林課長補佐(左)と韮澤救急指導係統括(写真:筆者撮影)

東京消防庁救急指導課の小林課長補佐(左)と韮澤救急指導係統括(写真:筆者撮影)

同庁救急指導課の小林孝之課長補佐は、「GPSで救急車の位置情報が把握できるので、救急車が都内のどの場所にいて、走行している道路上のどの方向を向いているかもわかる」と話す。

取材に応じた小林課長補佐と韮澤久遠(ひさと) 救急指導係統括は救急救命士の資格を持ち、多いときで1日に18回も出動した経験を持つ。

消防署に属さない救急機動部隊

東京消防庁直轄の消防署81カ所に所属する救急車は、傷病者を病院に搬送した後、すぐに消毒作業をして消防署に戻り、次の要請に備える。それを補完する形で活躍しているのが、消防署に属さない救急機動部隊だ。

救急機動部隊は2016年6月に発足。消防署所属の救急隊のユニフォームは青色、救急機動部隊は山吹色だ(写真:東京消防庁提供)

救急機動部隊は2016年6月に発足。消防署所属の救急隊のユニフォームは青色、救急機動部隊は山吹色だ(写真:東京消防庁提供)

救急機動隊は、昼間は外国人観光客などでごった返すJR東京駅の周辺エリアや、世田谷、渋谷両区の比較的救急要請の多いエリアで待機している。午後10時以降から翌朝までは新宿歌舞伎町や六本木の待機所で備える。

2009年に512万件だった救急出動件数は、翌年に6.7%増加し546万件に。このときに出動件数が増えた全国の消防本部748に対して、その要因として考えられる理由を聞いた。

調査結果(複数回答)によると、「高齢の傷病者の増加」を理由に挙げた消防本部が605(80.9%)で、「熱中症傷病者の増加」が406(54.3%)、「緊急性が低いと思われる傷病者の増加」が287(38.4%)、「不適正利用者の増加」127(17.0%)と続いた。

回答の中で2割弱あった「不適正利用」にはどのような事例があるのか、東京消防庁に聞いた。

事例1:現場に到着するとパジャマなどの着替えが入った大きなバッグを両手に持って待っている人がいた。「入院する病院までお願いします」と、タクシー代わりに使おうとしていた。

事例2:要請を受け現場に到着したものの、誰もいない。要請した人に連絡しても電話に出ない。警察も出動する事態に。結局、傷病者は見つからず、救急車は消防署に戻った。

このほかにも、酔っぱらった人による救急要請のほか、病院の外来で長時間待つのが嫌だという身勝手な要請、寂しいから話し相手になってほしいといった連絡もある。

不適正利用とはいえないが、スマートフォンやアプリの「緊急SOS」機能の誤作動もある。

発信された緯度経度で位置を確認すると、河川にかかる橋の桁下あたりと推測され、川で溺れた可能性があるとして現場に向かったものの、誰もいない。原因を調べると、川の下に落ちたスマホが何かの拍子で誤作動し、緊急SOSにかけてしまったのだった。

現場到着・病院収容に時間がかかる

救急出動急増で問題になるのが、要請から救急車が現場に着くまでにかかる「現場到着所要時間」と、病院で医師に引き継ぐまでに要した「病院収容所要時間」が長くなっていることだ。

救急車は傷病者を乗せても、受け入れ先の病院が決まらないと動かない。

救急出動件数が増えれば、現場から遠い救急車が出動するため、現場到着所要時間は必然的に長くなる。これに伴い、病院収容所要時間も長くなっている。2022年の現場到着所要時間の全国平均は約10.3分(前年約9.4分)で、病院収容所要時間は約47.2分(同約42.8分)だ。

前出の有賀氏は、「腰痛を訴える高齢者に、肺や気管支に慢性炎症が起こっているCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の持病があるとか、脳卒中で5回目だとか。そういう高齢者の受け入れ先の病院を決めるのが困難な状況もある」と、高齢者の救急搬送の難しさを指摘する。

社会医療法人慈生会等潤病院(足立区)は、2023年度に2786台の救急搬送を受け入れた。

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同院の伊藤雅史理事長・院長は、高齢者の急増で救急搬送を受け入れにくくなる事情について、このように説明する。

「高齢者はそれほど重症でなくても、入院後に『廃用症候群』といわれる日常生活での自立度が低下した状態になることが少なくない。自宅に戻っても単身のため家族などによる介護が期待できなかったり、単身でなくても老老介護であったりするため、在宅復帰が困難になり入院が長引く」

その結果、患者が病院に“滞留”する状態になり、新規の救急搬送者を受け入れにくくなるという。

救急車の有料化は可能か

こうした救急搬送の増加を何とかすることはできないものか。そういう点で、今から約10年前、救急車有料化の議論が盛り上がったことがある。

財務相の諮問機関である財政制度等審議会が2015年6月にとりまとめた意見書(建議)で、「(救急出動の急増を容認し続ければ)真に緊急を要する傷病者への対応が遅れ、救命に影響が出かねない」として、諸外国で救急出動を有料化している例を引き合いに出しながら、救急車の一部有料化を提案した。

ただ、実現には有料には至っていない。

重症者を無料にして軽症者を有料にする案に対して、

▽誰が軽症と判断すればいいのか▽料金の徴収は病院が担うのか、救急隊が担うのか▽生活困窮者が救急要請を躊躇したことで重症化してしまうのではないか

――などの意見が噴出し、現場でのトラブル発生などを懸念して、議論は進まなかった。

ただ、海外で救急車を有料化している事例はある。代表的なのが、アメリカのニューヨークやフランスのパリだ。

ニューヨーク消防局は2023年5月、近年のコスト上昇と救急隊員の賃上げのため、基本料金を900ドルから1385ドルに引き上げた。また、傷病者の重症度により料金を変えているほか、搬送距離に応じて1マイルごとに20ドルが必要になる。このほか、酸素投与には66ドルなどオプション料金もある。これらの料金は、直接か保険経由で徴収している。

パリでは緊急度に応じて、救急搬送の際はSMUR(救急機動組織)やBSPP(パリ消防隊)、民間救急車のいずれかを利用する。

SMURは300ユーロが基本料金で、距離などに応じて加算される。BSPPは原則無料だが、不適正利用をすると懲罰的な料金を徴収される。民間の救急車は固定料金65.51ユーロに、5キロ以下・10キロ以下・15キロ以下・20キロ以下ごとの定額料金が加算され、これらを上回ると、1キロ当たり2.44ユーロ加算される。

日本でも「費用を徴収する」試み

有料ではないものの、国内にも似たような取り組みが行われているところがある。

三重県松阪市の松阪総合病院、松阪中央総合病院、松阪市民病院は、2024年6月から救急搬送された患者で入院に至らなかった場合、「選定療養費」として7700円を徴収することを始めた。

選定療養費とは国が認めている制度で、都道府県知事が「地域医療支援病院」と承認している200床以上の病院を、紹介状なしで受診した患者から徴収するものだ。

松阪市はこの制度を、救急車の適正利用を促すために活用する。

医師で、市立伊勢総合病院(伊勢市)院長や、松阪市民病院総合企画室副室長を歴任した世古口務氏は、「救急車をタクシー代わりに使うなどの不適正利用を抑制し、本来救急医療が必要な患者に対して、適切に医療を届ける意味で意義ある一歩だ。不適正利用が減れば、救急隊員だけでなく病院スタッフの負担が軽減されるので重要な施策だ」と述べる。

救急搬送された重症でない患者への選定療養費の徴収は、一部の公的病院や自治体病院ですでに実施している。

救急搬送の急増は、患者を受け入れる病院スタッフの過重労働にもつながっている。今年4月に勤務医の時間外労働の上限を規制する、「医師の働き方改革」がスタートした。松阪市の新たな取り組みで、救急車有料化議論が再燃するかもしれない。

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提供元:救急車「不適正利用」解決に"利用料"徴収はありか|東洋経済オンライン

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