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2024.06.03

子ども望む男女の「はしかワクチン接種」の重要性|免疫がない人の感染リスクは思った以上に高い


未来の子どものためにやっておきたい「麻疹対策」について専門家が解説します(写真:metamorworks/PIXTA)

未来の子どものためにやっておきたい「麻疹対策」について専門家が解説します(写真:metamorworks/PIXTA)

麻疹(はしか)の流行が収束したらしい。

だからといって安心はできない。なぜなら根本的な問題が解決されたわけではないからだ。本稿では、麻疹ワクチン接種の重要性、特に出産を考えている世代や0歳児と接する人々への接種の重要性を論じたい。

麻疹対策も収束してしまった

国立感染症研究所によれば、麻疹感染者は2024年の第12週(3月18〜24日)を最後に確認されていない。初めて感染者が確認された第7週(2月12〜18日)以降、感染者の合計は21人で、流行は当初危惧されたほど拡大せず、小規模で収束した。

残念なのは、感染者の減少とともに、盛り上がった麻疹対策の議論も“収束”したことだ。

2019年の麻疹の流行時もそうだった。

2022年7月に我々の研究チームは、流行とともにワクチン接種を希望する人が急増したが、感染がピークを超え、マスコミ報道が減ると急速に関心が失われたことを『アジア・パシフィック公衆衛生学誌』に報告した。今回も状況は変わっていない。

しかし、我々が認識しなければならないのは、世界の多くの国では、今でも麻疹が流行しているという現実だ。

グローバル化が進んだ昨今、日本も海外における流行国との交流は避けられない。今回の流行も、2月にアラブ首長国連邦(UAE)から関西国際空港に到着した人で感染が確認されたのがきっかけだ。

2020年に始まったコロナパンデミックで海外との交流は止まり、麻疹の流入も一時的に抑制されたが、それ以前は2017年に186人、2018年に279人、2019年に744人と、毎年数百人の感染者が確認されていた。

コロナパンデミックが収束し国際交流が再開した今、状況はパンデミック前に戻るだろう。円安が加速していることもあって、日本にはさまざまな国から外国人が押し寄せている。

国際交流で麻疹患者が増加

国際交流の加速とともに麻疹患者が増えるという状況は、日本に限った話ではない。

麻疹を克服したと考えられていた先進国のなかには、近年、再び流行を繰り返すようになった国が少なくない。2019年8月に世界保健機関(WHO)は、イギリスやギリシャ、チェコ、アルバニアを「麻疹の流行が消滅している国」のリストから除外したことなど、その一例だ。

麻疹が撲滅できないのは、感染力が強いからだ。

感染研によれば、麻疹の免疫を持たない集団の場合では、1人の感染者が12〜14人に感染させるという。インフルエンザは1〜2人、2020年の流行当初のコロナは1.4~2.5人だ。

国民の多くが免疫を持たなければ、一度麻疹が流入すると容易に流行が拡大してしまう。

麻疹は重症化しやすく、治癒しても合併症を残すことがある。特に子どもでその傾向が強い。

2018年にニューヨークで起こった流行に関しては、2020年にニューヨーク市保健精神衛生局などの研究チームが、詳細な研究結果をアメリカの『ニューイングランド医学誌』に報告している。

このときは、イスラエルから帰国した感染者を発端とし、計649人に感染が確認された。感染者の年齢の中央値は3歳で、81.2%が18歳以下だった。また、37人(5.7%)が肺炎と診断され、49人(7.6%)が入院、このうち20人(3.1%)が集中治療室(ICU)での管理が必要となった。

健康な子どもでも感染したら、3.1%に集中治療管理が必要になるというのだから、麻疹は恐ろしい。

麻疹の合併症は先に挙げた肺炎以外にも、中耳炎(7~9%)や脳炎(0.1%)、亜急性硬化性全脳炎(頻度はまれだが、数年後に起こる重篤な脳の病気)などがある。

実は、この『ニューイングランド医学誌』に載った研究には、重要な問題が隠されている。

実はこの地域では、MMRワクチン(麻疹、風疹、おたふく風邪の混合ワクチン)による自閉症の副反応が問題視されて以降(のちに無関係と判明)、反ワクチン意識が強まり、ワクチン接種を控える人が多かったのだ。 感染者の73.3%はワクチンを打っておらず、7.1%は打っていても1回だけだった。

この研究からいえることは、麻疹に対する免疫がまったくない人は、感染リスクが非常に高く、気を付けなければならないということだ。

1歳未満の子が感染リスク

実をいうと、日本にも同様(免疫がなく感染リスクが高い)の人が存在する。それは1才未満の子だ。

麻疹を予防するには、ワクチンを打つしかないことは前回(流行危機なのに「麻疹ワクチン」が足りない大問題 )ご紹介した。

流行危機なのに「麻疹ワクチン」が足りない大問題 ※外部サイトに遷移します

感染研によれば、2回接種で99%の確率で感染を予防できるため、麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)を、1歳のときと小学校入学の前年に合計2回接種することになっている。

これだと未就学児は十分な免疫を持っていないことになる。特に1歳以下は一度も麻疹ワクチンを打っていないので、彼らが感染すれば、ニューヨークの感染者と同じような事態になりかなねい。

幸い、出生後しばらくは妊娠中に母体から乳児に抗体が移行するため、麻疹に対する免疫があり、出生直後の感染リスクは高くない。

しかし、それも一定期間だけだ。

ベルギーのアントワープ大学の研究チームが、2010年5月に『BMJ(イギリス医師会誌)』に発表した研究によれば、効果が期待できるのは、最長で生後6カ月までだという。それ以降、初回接種までの間は、麻疹に対してまったく免疫を持たないことになる。

6カ月よりもっと厳しい見方をする研究者もいる。

カナダの研究チームが2019年12月に『小児科』誌に発表した研究によれば、生後1カ月で20%、3カ月で92%の子どもが、麻疹に対する十分な免疫を持たなかったという。

さらに、若年世代が十分な回数のワクチン接種を済ませていないわが国では、母体からの移行免疫にどの程度期待できるかは、明らかではない。というのも、母体からの移行免疫が期待できるのは、母親の免疫がしっかりしている場合だからだ。

十分な免疫を持たない若い人たち

日本で麻疹ワクチンの2回接種が始まったのは、2000年4月以降。したがって20代半ば以上の人は十分な免疫を持っていないことになる。

実際、わが国ではこの世代を中心に麻疹の流行を繰り返している。

この世代こそ、まさに出産・子育ての中心だ。医療従事者や保育士などとして、0歳児に接する人も多いだろう。彼らが感染した場合、0歳児にうつしてしまう。

少子化対策が国家の最優先課題であるのだとしたら、この世代への麻疹ワクチン接種は最優先課題だ。

厚労省も問題を放置しているわけではない。

2007年の流行を受け、2008年4月から5年間に限定し、中学1年生および高校3年生相当年齢の者に定期接種を実施した。だが、これだと接種期間が限られているため、それ以前の世代は手つかずのままになってしまう。

本来であれば追加接種の枠を拡大し、いつでも公費で打てるようにすべきなのだが、政府にそのつもりはないようだ。その理由の1つに麻疹ワクチンの追加接種には巨額の財源を要することが挙げられる。政府は、国民からの強い要望がない限り、頰かむりを決め込んでいる。

筆者が勤務するナビタスクリニックでは、メルク製のMMRワクチンを個人輸入し、希望者に接種し始めた。幼少期の1回接種に加えて、多くの若年世代は2回目の追加接種が必要だ。

値段は約1万3000円で全額自己負担だ。かなりの金額になってしまうのは、輸入ワクチンの値段が高いからだ。

筆者が勤務するクリニックで用いている麻疹の輸入ワクチン(写真:筆者提供)

筆者が勤務するクリニックで用いている麻疹の輸入ワクチン(写真:筆者提供)

ところが、外来診療の際に子どもを希望する男女や、将来的に娘の出産を手伝う可能性がある祖父母予備群に状況を説明すると、ほとんどが接種を希望する。多くは「値段は問題ではありません。子どもを危険にさらすわけにはいきません」と言うのだ。

わが子や孫を麻疹から守ることは、彼らにとって切実な関心事項なのだろう。これが現実だ。

少子化対策に「麻疹対策」を

少子化対策は、わが国で最優先すべき課題だが、その一環として子どもを健康被害から守るという目的を忘れてはいけない。そのなかでも、感染した場合に重症化しやすく、後遺症を残すことがある麻疹対策は重要だ。

先に接種できていない若者への麻疹ワクチンの追加接種について述べたが、特に親や祖父母予備群、さらに0歳児と接する可能性がある医療・保育従事者には、早急に公費で麻疹ワクチンを接種すべきである。

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提供元:子ども望む男女の「はしかワクチン接種」の重要性|東洋経済オンライン

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