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2024.05.23

「突き抜けた目標」を持つからこそ見える境地|世界が注目する「内視鏡AI」創業者の行動哲学


世界から熱い注目を浴びている「内視鏡AI(人口知能)」を開発したのは、地方都市の開業医だった多田智裕氏だ(写真:Graphs/PIXTA)

世界から熱い注目を浴びている「内視鏡AI(人口知能)」を開発したのは、地方都市の開業医だった多田智裕氏だ(写真:Graphs/PIXTA)

今、日本発の技術である「内視鏡AI(人口知能)」が、世界から熱い注目を浴びている。

開発したのは、埼玉で日本トップクラスの検査数を誇る内視鏡クリニックの院長だった多田智裕氏だ。診療を通じて「ある疑問」を抱き、スタートアップ「AIメディカルサービス」の起業に至った。

同社はダボス会議の世界経済フォーラムで「最も有望な企業100社」にも選出されている。

「埼玉から世界を目指す」と言う多田氏の行動哲学とは? 2024年5月に発売した著書『東大病院をやめて埼玉で開業医になった僕が世界をめざしてAIスタートアップを立ち上げた話』から抜粋・編集してお届けする。

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内視鏡画像診断AIで起業

「がんにかかったら、おしまいだ」

そう思っている人が、まだまだ日本では少なくないようです。しかし実は、消化管のがんは早期発見し、その段階で治療すれば、助かる病気になっています。ただ、発見が遅れると、生存率は大きく下がってしまいます。大切なのはいかに早く発見するか。そのために有効なのが、内視鏡検査(胃カメラ)です。

しかし、実際に内視鏡検査を行い、胃がんを見つけるのは、人間である医師です。ここで起こりうるのが、残念なことに「見逃し」です。

自治体による胃内視鏡検査では、医師が早期の胃がんを見逃すことがないように、撮影した内視鏡画像を別の医師がダブルチェックする仕組みが取られています。

ダブルチェックを行うことで、早期胃がんの見逃しはかなり減らせます。それでもゼロにすることはできません。ベテランの医師でも見極めが難しい胃がんもあるからです。

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そこで今、注目を浴びている技術が「内視鏡画像診断支援AI」です。内視鏡専門医でも診断が困難な胃がんの画像を大量にAIに学ばせると、AIが胃がんかどうか判別してくれるのです。

私はこの内視鏡画像診断支援AIの研究開発に特化したスタートアップ企業「AIメディカルサービス」を2017年に設立しました。設立からわずか5年で、内視鏡AIの研究開発の医学論文では世界1位の被引用数を誇るようになりました(2022年11月時点)。内視鏡AIの研究開発では世界のトップランナーです。

それとともに、すでに130億円以上の資金を集めており、研究開発したテクノロジーを、日本のみならず世界の内視鏡医療現場に社会実装しようとしています。

普通の開業医がスタートアップ!?

私はこの会社を設立するまで10年以上にわたり、埼玉県さいたま市にある胃腸科肛門科クリニックの院長として、診療と内視鏡検査に明け暮れる日々を送っていました。

内視鏡検査の技術は発達し、今や、1㎝までの大腸ポリープであれば、日帰りで、かつ合併症ほぼゼロで切除する内視鏡手術が可能になっています。

撮影画像も、ハイビジョン、フルハイビジョン、2K、4K……と高画質化し、きれいになってきました。とはいえ、診断するのは医師です。いかに画像がきれいでも、最後は医師の画像診断能力に完全に依存しているという現実に、問題意識を持ち続けていました。

そんな2016年のある日、私は東京大学の松尾豊教授のAIについての講演を聞く機会に恵まれます。「AIの画像認識能力が、ディープラーニング(深層学習)という技術により人間の能力を超えた」。そう聞いて、激しい衝撃を受けました。

内視鏡検査はまさに画像認識そのものですから、これにAIを組み合わせたら、医療が間違いなく発展するだろう――そう確信しました。
「内視鏡画像×AI」というアイデアは、誰でも思いつくことです。

しかし、調べてみると、医療分野でディープラーニングを用いたAIの活用例はまだ2つしかありませんでした。

眼底画像解析と、皮膚がんの画像解析だけです。内視鏡画像に対する研究開発は、世界中どこを探しても報告されていなかったのです。

世界初「ピロリ菌鑑別AI」「胃がん検出AI」に成功

早速、内視鏡AIの研究開発をスタートさせた私たちは、2017年、胃がんの原因とされているピロリ菌の感染有無を鑑別するAIの研究開発に世界で初めて成功。世界への名乗りを上げました。

続く2018年1月には、胃がんを検出する内視鏡AIの研究開発にこれまた世界で初めて成功し、世界の内視鏡医に一気に知られるようになりました。5㎜以上のがんを見つける感度(がんである人をがんだと正しく判定する精度)が98.6%という高い割合だったことも、人々を驚かせました。

この成果を研究開発のみで終わらせるのではなく、実際にがんの早期発見を支援し、救うことができる命を救うところまで進めたい――そのためには、継続して研究開発を続けることができる場所と環境を準備する必要が出てきました。つまり、研究開発するスタッフを集めて会社を設立する、ということです。

クリニックを長く経営してきたとはいえ、スタートアップに関する経験・知識はいっさいありませんでしたが、起業家育成プログラムでスタートアップのノウハウを徹底的に学んだ私は、2017年、埼玉県でAIメディカルサービスを立ち上げます。

よく、一介の地方都市のクリニックの医師が、なぜここまで来ることができたか聞かれることがあります。

一つ言えるのは、とにかく最初から「世界最高水準」を目指していた、ということです。

東京大学医学部卒業後、外科医として5年間の研修を経て、外科専門医資格を取得したあと、2001年から東大大学院で腫瘍学を学び、34歳で卒業、博士号を取得しました。

ここまでは、医師としてはごくごく一般的なキャリアだったと思います。
しかし、そのあと私が選択したのは、クリニックを開業することでした。当時としてはかなり異端の選択だったと思います。

ただ、私自身はクリニックを開業するとき、すでに私はこう公言していたことを、自分でもよく覚えています。

「このクリニックは、世界最高水準の胃腸科、肛門科診療を提供する」

もっといえば、自分が内視鏡医療の未来をつくるんだ、くらいに考えていました。こうした高い目標を置いたからこそ、今の私はあります。

もしこれが、開業して年収何千万円を稼ぐなどということが目標であれば、おそらく達成しておしまいだったでしょう。世界最高水準という高い目標を据えていたからこそ、クリニックの成功に満足することなく、内視鏡AIという次のステージに踏み出すことができたのです。

挑戦をまずは恐れない

しかし、高い目標を掲げている人は、実際には多くはありません。大きな目標は達成できなかったときに怖いからでしょうか。目標を高く掲げることがリスクになるからでしょうか。

よくよく考えてみてほしいのですが、誰も他人のことなど、実はそれほど気にしていないものです。私が失敗しようがしまいが、あなたが失敗しようがしまいが、そんなことは誰も興味はないのです。

あなたも、ほかの誰かが失敗したと聞いたら、一瞬「かわいそうに」と思うけれど、そのうち忘れてしまうはずです。ちょっと嫌いな人だったら「それ見たことか」くらいは思うかもしれませんが、それだけのことです。

わざわざ連絡して「君、失敗したんだってね」と言う人など、普通はいません。

ですから、失敗を恐れる必要はこれっぽっちもありません。「失敗したら、敗者だとみなされるかもしれない」なんていう余計なプライドなんて、捨ててしまったほうがいいのです。

それよりも、自分で決めた突き抜けた目標に挑んだほうがいいと思います。それこそ今も、内視鏡医療の未来をつくることが、そして、日本から世界に通用する医療機器産業を確立することが、私の目標です。そういった意味では、資金を何十億円集めることができようが、上場をしようが、それはすべて通過点にすぎません。

やらなければいけないことは、まだまだその先にあるのです。

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提供元:「突き抜けた目標」を持つからこそ見える境地|東洋経済オンライン

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