2024.04.26
「会って0秒」で相手の心の扉を開けられるカギ|元TBSアナウンサーが実践するコミュ力アップ術
挨拶のポイントは、相手から言われるより早く、自分から先手を打つこと(写真:yosan/PIXTA)
よい対話を始める3原則「挨拶・笑顔・好奇心」
初めに、アタマに入れておきたいのが、対話の質を高めるスタートダッシュを決める3原則「挨拶・笑顔・好奇心」です。
国山ハセン氏(写真:東川哲也 朝日新聞出版写真映像部)
まず、挨拶。
「おはようございます」
「こんにちは」
「はじめまして」
体の正面を相手に向け、しっかり目を見て、語尾まではっきりと発声して挨拶。あたりまえのマナーのようで、実はきちんとできている人は少ないと私は感じます。
「うっす」「おざす」「うぃ」と雑な挨拶をする若者が多い中で、一人だけ明瞭に「おはようございます」と言えたら、いい意味で目立ちますよね。
挨拶は、相手の存在を承認する最もシンプルなコミュニケーションだとも言われます。
ポイントは、相手から言われるより早く、自分から先手を打つこと。「会って0秒」で発する一言の挨拶は、「今日、あなたとお会いできてうれしいです」というポジティブなメッセージに。
気持ちいい挨拶は、相手の心の扉を開けるカギとなり、そこから始まるコミュニケーションを円滑にします。
大事なルーティンとして、サボらず丁寧に心がけたいものです。
また、挨拶は「誰に対しても、いつでもフラットに」を意識したいもの。初対面のお客様には丁寧に挨拶をするのに、毎日顔を合わせる同僚に対しては無言。これでは、「相手によって態度を変える人」という印象につながってしまうでしょう。
親しき仲にも礼儀あり。多少フランクな言い方になるのはいいとして、挨拶を交わすコミュニケーションは維持したいものです。
また、「先輩・後輩間の挨拶は、まず後輩から発するべき」といった、いかにも昭和風な年功序列的な考え方も、私はあまり好きではありません。挨拶の時点で上下関係が強調されることによって、その後の対話でフラットな関係性をつくることが難しくなるからです。
むしろ先輩のほうから「おはよう!」と笑顔で挨拶をするほうが、後輩にあたる人の緊張も解け、その後の対話が温まる効果があると思います。
私自身は、相手が目上の方であろうと、年下や後輩であろうと、「先手を打つ」と決めています。対話は会ってすぐの挨拶から始まっている、と心得ましょう。
笑顔は相手の緊張を解く魔法
挨拶とセットで意識したいのが、「笑顔」。これが、2つ目の原則です。
会ってすぐ、最初に向ける表情が笑顔だと、自然と相手の心も打ち解けます。なんとなく笑うのではなく、しっかりと相手の目を見て、「あなたに向けた笑顔ですよ」と心を込めることが大切です。
笑顔そのものに言葉はありませんが、「私はあなたの敵ではなく、これから一緒に対話を楽しみたいと思っています」というメッセージを一瞬で伝える効果があります。単に「好印象に見せたい」という理由ではなく、「対話に効く」からやるのです。
この笑顔の威力は、特に、対話の後半に効いてきます。
「笑顔なんて簡単だ」と思うかもしれませんが、いやいや、これができそうでできないものです。ぜひ一度、鏡で「スマイルチェック」をしてみてください。
笑っているつもりなのに、「あれ? 全然、頬が上がっていない……。笑顔に見えない……」と、ショックを受ける人は少なくないはず。年齢と共にだんだんと顔の筋肉が衰え、表情のメリハリが乏しくなってしまうので要注意です。
私はアナウンサー時代も含めてずっと、カメラの前に立つ「出役(でやく)」を務めてきましたので、笑顔に対する意識は人一倍高いほうだと自覚しています。
鏡の前やモニターでのセルフチェックを通じて、自分の顔のどの部位をどの程度、どう動かせば、「感じのいい笑顔」がつくれるかをわかっているので、挨拶のたびに実践できる。それなりの自主研究を重ねてきたからできるのです。
おそらくアスリート、アーティストなどの表現者、人前に多く立つ人は無意識にでもできているのではないでしょうか。
感覚には個人差があるので、ご自身で「ベストスマイル」のつくり方を研究していただきたいと思いますが、私自身が日頃意識しているのは、微笑み程度の小さなスマイルから歯が見えるほどのビッグスマイルまで、レベルを分けてトレーニングすることです。
また、「あ・い・う・え・お」を一語ずつ丁寧に発声して、顔の筋肉を大きく動かすことも効果的です。
細かい滑舌のトレーニングがいろいろとありますが、とにかく自分で表情筋の可動域を確かめながら、「どう動かしたら、どう見えるか」を正確に認識することが重要です。
「笑顔研究&トレーニング」は鏡さえあれば誰でもできますので、一度トライしてみてください。笑顔を侮ることなかれ。1日10秒でいいのでやってみてください。筋トレに励むよりずっと簡単にできて、自分も周りの人も笑顔になるベストプラクティスです。
「目の前の人」に興味を持って、好奇心を着火させる
対話は「焚き火」に似ています。
まずは火種をつくり、少しずつ薪(まき)をくべて、適度に空気を通しながら、炎を大きくしていく。その最初の火種をつくるのが、「好奇心」だと私は思います。
目の前の人が、これまでどんな人生を歩んできて、これからどこへ向かおうとしているのか。どんなことに夢中なのか。なぜそれに夢中なのか。今につながった失敗経験はあったのか。どうやってそれを克服したのか。何を一番大事にして、何を一番許せないのか。
目の前の人に対して好奇心を発動させれば、聞いてみたいことは泉のように湧いてきます。好奇心を着火させることが、対話の温度を上げていくために欠かせないスターティングポイントになるのです。
私の番組を見てくださった方から「ハセンさんって、誰に対しても本当に興味津々に、目を輝かせて話を聞いていますね」と褒めていただけることがあります。
たしかに、私は人に対する好奇心が旺盛なほうだと思います。でも、だからといって、誰に対しても最初から100%興味を持てるかというと、そんな才能はありません。実際には、「話を聞くうちに、好奇心が湧いてくる」という感覚です。
つまり、好奇心も意識次第で高められるということ。
事前情報がほとんどない初対面の相手であったとしても、「この人のどんなところに自分は興味を持てるだろうか?」と好奇心発動モードをオンにすれば、きっと対話は徐々に温まってくるはずです。
「会って0秒」の挨拶と笑顔で、相手との「間合い」も取れる
「よい対話を始める3原則」として紹介した「挨拶・笑顔・好奇心」には、相手の心を一瞬で開いて対話の火種を着火させる効果があることをお伝えしました。
実はこのうちの挨拶と笑顔には、もう一つの重要な目的があります。それは、「相手との間合いを取る」という効果です。
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ニコッと笑顔で「おはようございます!」と挨拶をした直後、私は相手の反応をすかさずチェックしています。
即座に笑顔と挨拶を返してくれる相手なら、「おっ、今日は最初からスムーズに話せそうだな」。
ちょっと硬い表情で挨拶が返ってきたら、「もしかしたら緊張しているのかな。ゆっくりアイスブレイクしながら話を進めよう」。
ボソボソッと小さな声で挨拶を返してきたら、「体調がよくないのかもしれない」。
滅多にはいませんが、ほとんど目を合わせないような極端に渋い反応を返す相手には、「警戒しているかな」「私にネガティブな印象を持っているかも?」と、心の中でひそかにアラートを鳴らします。
このように、挨拶と笑顔を自分から投げかけた後の反応によって、後の対話につながる「心構え」が整います。そのときの相手の心身の状態や、自分との心理的な距離感を推し測るための優れた材料。「挨拶と笑顔」にはそんな役割もあるのです。
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提供元:「会って0秒」で相手の心の扉を開けられるカギ|東洋経済オンライン