2024.04.09
「頭痛を甘く見るな」危ない"警告頭痛"の4大特徴|致死率は40%「くも膜下出血」の前触れとは?
くも膜下出血は「激烈な頭痛」のイメージがあるかもしれませんが、「我慢できる程度の頭痛」で始まることもあります(写真:YAMATO/PIXTA)
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音楽グループglobeのボーカルKEIKOさんも患った「くも膜下出血」。致死率40%の怖い病気だ。
発症すると、「突然バットで殴られたような激烈な頭痛」に襲われるといわれているが、実際は必ずしもそうとは限らず、約20~30%は「我慢できる程度の頭痛」で始まるらしい。
くも膜下出血で命を落とさないために、見逃してはいけない頭痛の兆候や、医療機関のかかり方、そして受診時に「やってはいけないこと」などについて、脳神経外科医の金中直輔医師(かねなか脳神経外科院長)に聞いた。
昼食後にコーヒーを飲んだ瞬間…
職場で同僚と話しながら昼食を食べていた会社員Aさん。
食後のコーヒーを一口飲んだ瞬間、後頭部に痛みが走った。経験したことのない痛さだったが、1時間ほど安静にしていると消失したので、そのまま帰宅。翌日、シャワーを浴びている途中に再び痛みが起こり、近くの脳神経外科クリニックを受診したところ、くも膜下出血だった――。
これは、「我慢できる程度の頭痛」で始まるくも膜下出血の典型例だ。
脳は、外側から硬膜・くも膜・軟膜と呼ばれる3つの膜で包まれている。くも膜下出血は、このうちのくも膜と軟膜の隙間「くも膜下腔(くう)」に出血が起こることをいう。
頭部の断面図(イラスト:金中医師提供)
原因の約80%は「脳動脈瘤(りゅう)」といわれる血管のふくらみ。血圧の上昇などにより、この瘤が破裂することで発症する。
中央下のほうの丸っこいものが脳動脈瘤(写真:金中医師提供)
20~30%は一過性の頭痛で始まる
金中院長は言う。
「くも膜下出血についてネットなどで調べると、『激烈な頭痛の後、意識を失い、そのまま亡くなる』という書き方をしている記事が多い。しかし、20~30%の人はAさんのような症状で始まることがわかっています」
これを「外来に歩いてやってくるくも膜下出血の患者」という意味で、専門医の間では、「walk-in SAH(歩いてくるくも膜下出血、SAHはくも膜下出血の略)」と呼んでいるそうだ。
本稿では、この「ウォークインくも膜下出血」について話を進めよう。
金中医師によれば、ウォークインくも膜下出血の頭痛は、脳動脈瘤からの出血が少量だった場合に起こる。この頭痛を「警告頭痛」と呼ぶこともある。
一般的に、くも膜下出血を起こすと、血液がくも膜下腔にたまり、その圧で髄膜が刺激されたり、頭蓋(ずがい)内圧が上昇したりすることで、頭痛や吐き気、意識障害をきたしたりする。
ところが、出血が少量の場合、症状も軽いまま。出血が止まると頭痛も治まってしまう。
「ウォークインくも膜下出血が、まさにこの状態です。ただし、破れた脳動脈瘤は傷がかさぶたで覆われたようなもろい状態なので、体を動かしたり、血圧が上がって血管が刺激されたりした拍子に、再び、出血が起こります。このときは意識を失うような、本格的なくも膜下出血を発症することがほとんどです」(金中医師)
しかも、2回目の出血はほぼ100%の確率で起こるといっても過言ではなく、「初回の出血から2週間以内に起きるとされ、最も多いのは24時間以内です」(金中医師)。
警告頭痛の4つのポイント
くも膜下出血で命を落とさないためにも、警告頭痛を見逃さないことが大事というわけだ。金中医師は警告頭痛の特徴として、以下のポイントを挙げる。
■突然、起こる頭痛(〇時〇分に頭痛が起こった、とはっきり覚えている)
■後頭部や後頸部(首の後ろ)が痛むことが多い
■一般的な頭痛とは違う、強く、持続する痛み(頭痛持ちの人は「いつもと違う頭痛」と表現する)
■市販の痛み止めや処方されている頭痛薬(鎮痛薬)が効かない
これらの兆候があったら、躊躇せずに脳神経外科を受診し、必ず画像検査を受けたほうがいいという。
画像検査については、ウォークインくも膜下出血は出血が少量のため、CT画像では異常をとらえにくい。血液は徐々に体に吸収されていくので、時間が経つほど検出が難しくなるともいわれる。
「可能であれば、より詳細に脳の画像を撮影できるMRI(磁気共鳴画像診断)を受けましょう。MRIでは出血の痕なども確認できます。脳神経外科であればMRIがあるはずなので、そうした病院やクリニックに行くか、かかりつけ医から検査のできる医療機関を紹介してもらってください」(金中医師)
ふつうの脳神経外科医であればくも膜下出血が疑われたら、画像検査を勧める。もちろん、患者から「画像検査を受ける必要はないのでしょうか?」と聞いてもかまわないそうだ。
画像検査は「絶対に」先延ばししない
また金中医師は、「医師から『今すぐ脳の画像検査を受けたほうがいい』と言われたら、検査を受けること。『今日は忙しいからあとで』などと、先延ばしにしないでください」と、自戒を込めて忠告する。
「実は、開業当初、『1週間前にいつもと違う頭痛』を訴えた40代の男性患者さんに画像検査を勧めたのですが、『仕事が忙しいから検査はできない』とおっしゃるので、その日は薬を出して、お帰ししてしまったんです。翌日、警察から連絡があり、その患者さんがくも膜下出血のため亡くなったことを知りました」
警察によると、男性は風呂場で死亡していたのを発見されたという。夜間に風呂に入り、そこで2度目の出血が起こってしまったようだ。
金中医師は「思い出すたびにつらくなる、痛恨のケースです。あの時に画像検査をしていれば命は失われなかった」と話し、それ以来、強い頭痛がある場合には、より積極的に検査を受けるよう説得をしているという。
くも膜下出血と診断されたら、即、入院・治療となる。破れた動脈瘤から再出血が起こらないように手術を行うが、一刻を争うという。
「当院では手術ができないため、くも膜下出血が疑われる患者さんを診たら、血圧の変動を生じないようにまずは動かない状態で、安静にしてもらいます。同時に救急車を手配し、手術ができる専門病院に搬送します」(金中医師)
手術では脳動脈瘤の根元を金属製のクリップで挟む「開頭クリッピング術」が行われる。最近は「コイル塞栓術」といって、足の付け根の動脈からカテーテル(細長い柔らかい管)を入れ、脳動脈瘤の内側をプラチナ製のコイルで充填し、血栓化させることで、血液の流れ込む隙間をなくし、破裂を防ぐ方法もある。
「開頭クリッピング術」「コイル塞栓術」のどちらの治療になるかは、出血した瘤の場所、大きさや形状、搬送先施設の手術体制などを総合的に判断し決定されるそうだ。
丸くふくらんだ部分が脳動脈瘤。左の2つはコイルによって脳動脈瘤の破裂を防ぐ「コイル塞栓術」、右の2つは動脈瘤の根元をクリップで挟んで破裂を防ぐ「開頭クリッピング術」のイメージ(イラスト:sasami018/PIXTA)
「手術が終了してもしばらくは安心できません。くも膜下出血を起こした後、脳梗塞を起こすことがけっこうあります。また、髄液の循環が悪化して水頭症になることも。ただし、ウォークインくも膜下出血の場合、この時期を乗り越えれば、後遺症ゼロで日常生活に戻ることができるケースが多いです」(金中医師)
くも膜下出血になりやすい人
くも膜下出血のリスクには、喫煙、高血圧、家族歴、大量飲酒、ストレス、加齢(男性)、40代以降の女性、が知られている。
喫煙者は非喫煙者に比べて男性で3.10倍、女性で2.26倍リスクが高いといわれ、家族歴に関しては、親または子どもにあたる一親等以内の近親者にくも膜下出血になった人がいる場合、その人の脳動脈瘤の保有率は4%という報告がある。
また、日本脳ドック学会によれば、脳動脈瘤は30歳以上の成人の約3%に認められる。
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「生まれつきの要素が強く、脳動脈の壁に弱い部分があり、そこに長年にわたって血流があたることで少しずつ膨らんでいくことで発生すると考えられています。脳ドックで脳動脈瘤が見つからなければ、くも膜下出血についてはあまり心配しなくていいと思います」(金中医師)
万が一、脳動脈瘤が見つかっても、破裂しないままでいることが多い。現在は、定期的に経過観察を続け、破裂するリスクが高くなってきたところで、破裂しないような予防的な治療をするのが一般的だ。
かねなか脳神経外科院長
金中直輔医師
2003年、宮崎医科大学(現 宮崎大学)医学部医学科卒。東京都立墨東病院救命救急センター、同院脳神経外科、東京警察病院脳神経外科、同院脳血管内治療科医長、Stroke care unit室長を経て、2019年、頭とからだのクリニック かねなか脳神経外科を開設。東京警察病院脳血管内治療科非常勤医師も務める。日本脳神経外科学会専門医・指導医、日本頭痛学会専門医、日本脳神経血管内治療学会専門医・指導医、日本脳卒中学会専門医など。
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提供元:「頭痛を甘く見るな」危ない"警告頭痛"の4大特徴|東洋経済オンライン