2024.04.04
「Apple Watch」日本の医療現場でも活用が進む|ヘルスケア担当役員が語る「今後起きる進化」
アップルでヘルスケアを担当するバイスプレジデント、サンブル・デサイ氏。Apple Watchで得られる知見は、医師として発見が多いという(写真:アップル)
Apple Watchは、iPhoneと組み合わせて使うスマートウォッチだ。iPhoneは世界のスマートフォンのシェア20%前後で推移するなか、Apple Watchはスマートウォッチの中で最も出荷台数の多い製品となっている(Statista調べ)
Statista調べ ※外部サイトに遷移します
Apple Watchにふんだんに盛りこまれているヘルスケア機能は、このデバイスを装着する大きな理由の一つとして支持されており、世界中から病気の早期発見や生活習慣病の改善に役立った、との声が届いている。
2月、アップルでヘルスケア担当バイスプレジデントを務めているサンブル・デサイ氏に都内でインタビューし、Apple Watchを通じた人々の健康をより良くするための取り組みについて聞いた。
デサイ氏は、Apple Watchがなぜ、ヘルスケアに役立つようになったのか、次のように語った。
常に健康を見つめることが可能に
「私たちの健康への取り組みは、とても自然なところから始まりました。Apple Watchを着け始めてすぐに、加速度センサーと心拍センサー、そして正確な運動計算のアルゴリズムによって、消費カロリーを記録して表示するようにしました。そして心拍数の上昇を知らせる通知が届くようになります。
その結果、顧客は『私は腕時計を、自分の健康状態の洞察を得るために着けている』と考えるようになりました。
同時に、メッセージや通話といった電話を助ける機能の活用から、スヌーピーまで眺めることができます。人々がいつも身に着けていたいというあらゆる機能があったからこそ、人々は身に着けるようになり、心拍数の変化から、何かを察し始めたのです。
単なる心拍計だけだったら、誰も着け続けようと思わないでしょう」(デサイ氏)
Apple Watchが力を入れる健康機能は、人々に毎日身に着ける動機を与えている(写真:アップル)
デサイ氏によると、ヘルスケアへの関心の高まりは、Apple Watch Series 3で搭載した「心拍数と不規則な心拍リズムの通知」でより大きくなったという。
この機能にある高心拍数通知は、安静にしているときに、急に心拍が上昇した場合に作動するもので、これに続いて低心拍通知を導入。これらの機能に対して、顧客から多くの手紙が届くようになり、この通知をきっかけに病院での診察を行い、心臓病の治療に役立ったというものが多くを占めた。
Apple Watchには、加速度センサーのほかに、心拍センサー、心電図、血中酸素といった、心臓を中心とした体の状態を検出するためのセンサーやアプリが組み込まれている。
これらのデータは、心拍数や心電図のアプリ、血中酸素ウェルネスアプリを通じて、ユーザーが好きなときにいつでも取得することができるほか、心拍数や血中酸素濃度については、手首に装着していれば、定期的に計測してくれる。
そのため、頻脈や徐脈など、病院でいざ検査しようともなかなかデータが採りにくい心房細動の兆候を察知したり、日常的な心電図の計測で不整脈のデータを記録するといった成果を挙げている。
正確な健康情報を伝えるにはどうすればいいか
小さなデバイスの中に複数の異なるセンサーが備わっていることで、より多くを知ることができる。例えば前述の心拍センサーと、エクササイズ機能等で使われるGPSを組み合わせることで、心肺機能レベルの低下や改善を通知できるようになった。
こうした新しい知見や発見は、医師でもあるデサイ氏にとっても、科学的な見地から、非常にわくわくするものだったという。
「私たちの健康に関わる機能への情熱は、心臓の健康について追求するにつれて、強くなっていきました。医療業界や医師たち、また学術的な専門知識を大切にしながら、ユーザーに伝えるデータが科学的に正確であることを、確認する調査を行っており、研究を積み重ねています」(デザイ氏)
アップルはこれまで、スタンフォード大学医学部と心臓に関する研究をしてきた。ここでは、心房細動の通知を行う際に、それがどれくらい正確で、どの頻度で通知されるのかが研究されてきた。またハーバード大学とは女性の健康に関する研究、ミシガン大学とは聴覚に関する研究を進めている。
いずれも、Apple Watchを通じて通知が行われる機能として実装されており、これの妥当性や必要性、通知の頻度、そして誤った通知やメッセージをユーザーに送っていないかを検証しているという。
デサイ氏は、これらの研究を通じて、医療の現場そのものを再発明することなく、ユーザーが自分の健康についてより良く理解し、手元の情報を用いて検診や事前診療が行えるようになる未来を描いていた。
日本の医療現場でも活用が進む
テレビでも「Apple Watch外来」という特集を聞いたことがある方もいるかもしれない。Apple Watchに搭載されている心電図センサー用いて日常的にデータを取り、これを使って実際の診察に役立てる取り組みが広がっている。
例えば、千葉県にある幕張不整脈クリニック院長の濵義之医師を取材すると、ユーザーがいつでも心電図を取ることができるApple Watchのデータは重宝すべきものだと指摘した。
Apple Watchは静止時の高い心拍・低い心拍を検出し、通知してくれる。そのため自覚症状がない早期に心臓疾患の発見に役立つとして、支持を集めた(写真:アップル)
「発作が起こったタイミングの心電図が取れることは、とても大切です。その瞬間のデータは、病院に来てからの検査では得られないからです。特に発作の頻度が少ない段階での心電図のデータが取れる点は、早期発見から治療へとつなげていくうえで、非常に重要です。
Apple Watchで測定した心電図のデータは、医師が見ればすぐに、どんな症状が起きているかがわかるほど明瞭なものです。また心房細動のアラートは、本人に自覚や症状がなくても早期発見ができるため、素早く治療に入ることができ、それだけリスクを軽減できます」(濵氏)
デサイ氏はApple Watchを通じて、医療と健康とのつきあい方を変えようとしてきた。そうした実例が、日本を含む世界中の医療現場で現れてきているのだ。
Apple Watchでの臨床的な研究は、アメリカだけでなく、日本でも東京大学や慶應義塾大学で行われている。デサイ氏はこうした科学的な証明を伴いながら、科学界、ユーザー、そしてアップル自身も、Apple Watchで取得できる健康に関する知見を、現在進行形で学んでいるところだと言う。
「まだまだ、学ぶべきことはたくさんあります。それを理解するための研究を続けている途中なのです。
科学に基づいた、健康に関する正確な情報を伝えるにはどうすればいいか、顧客の声に耳を傾けてきました。これを、アップルを含めた第三者がのぞき見ることなく、プライバシーを強く保護しながら実現していくことで、健康に関する発見ができたり、人々が何かを理解できるようになります。
私は医師として、またアップルのチームが本当に力を入れていることです」(デサイ氏)
例えば、現在のApple Watchでは、睡眠時間、外で過ごした時間、運動量と、気分の相関関係を調べる「心の状態」という機能が追加された。日常生活とメンタルヘルスの関係に着目し、結びつけた例だという。
外に出て散歩をしたり、運動をしたりすると気分が良くなる、と言われているが、Apple Watchでは実際の日常生活に紐着けて、個人個人の心の健康とその改善を確認していくことができるのだ。
信頼して健康データを預けてほしい
自分以上に自分の健康に関する洞察につながるデータを持っているApple Watch。サンブル・デサイ氏は、強いプライバシー性能は、強調してもしたりないほど重要な、健康データを預けるための条件だと指摘する。
「プライバシーについては、世界では多くの法律が制定されています。健康データはデバイス上で暗号化されていて、アップルはあなたの健康データを見ることができません。健康ほどプライベートなものはないのです」(デサイ氏)
デサイ氏は、「どうすれば、人々やその家族が健康であることに積極的になれるか、健康を実現できるかについて、これまで以上に集中して取り組んでいきたい」と語った。
時計はかつて、「時間を知るための道具」だったはずだ。しかしその役割は変化しつつある。21世紀の現在において、時計の機能に「健康に生きるための道具」が追加されようとしている。
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提供元:「Apple Watch」日本の医療現場でも活用が進む|東洋経済オンライン