2024.04.03
紅麹問題で注目される「腎臓」が持つ重要な働き|腎臓専門医が指摘する「カビ毒」の危険性とは
健康被害が相次ぐ「紅麹」サプリ。なぜ、ここまで深刻な被害を生んだのでしょうか(小林製薬の商品紹介ページより作成)
「紅麹」サプリの健康被害が、予想以上の広がりを見せています。
なぜ、ここまで深刻な被害を生んだのか。それは「腎臓」という、人体の健康を司る重要な臓器にダメージを受け、腎臓が機能不全を起こしたからです。腎臓と紅麹の詳しい関連性について腎臓専門医・髙取優二さんの著書『人は腎臓から老いていく』より、一部抜粋、加筆、再編集してお届けします。
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紅麹を使ったサプリで健康被害
【2024年3月30日10時20分追記】初出時よりタイトルを変更し、本文の一部を修正しました。
小林製薬の「紅麹」を使ったサプリの健康被害が、連日ニュースになっています。
摂取後に死亡したとされる人は5人、健康被害は114人の入院などが確認されています(2024年3月29日時点)。
サプリを服用したことによる腎疾患が原因とされており、腎臓専門医として見過ごせない話です。今年1月15日に「サプリを服用した人の腎疾患」が報告され、以降2月に入ってからも複数の問い合わせが相次いでいたようです。
なぜ、このような被害になったのか。
確かに、紅麹菌のなかにはシトリニンという毒素を生成し、腎臓の病気を引き起こすものもあります。ただし、小林製薬のサプリでは、遺伝的にシトリニンが生成されない株菌を使っているとのこと。アレルギーや感染症の可能性も低いとされ、可能性としてはシトリニン以外のカビ毒による腎疾患があり得そうです。
小林製薬はサプリに「意図しない成分」が含まれていたとして、それが腎疾患の原因になった可能性について分析を急いでいますが、その成分は「カビ類から生成される成分に似ている」と会見で語っています。
仮にその正体が何らかのカビ毒であったとして、それが腎臓にどのような悪影響を与えるのでしょうか。
腎臓は血液を「おそうじ」している
まずは順を追って、腎臓が生命の維持においてどのような役割を果たしているのか、お話ししようと思います。
「腎臓は血液をおそうじするフィルター」
この言葉、多くの人が耳にしたことがあると思います。
たとえば車は、ガソリンを燃料にして動く際に、排気ガスを外に出しています(電気自動車を除く)。それと同じように、人間は空気と水と食物を体内に入れて活動していますが、その結果、体内で発生する有害なゴミ(老廃物)や毒素は、体外に排出しなくてはなりません。
人間の体の細胞の数は、およそ37兆個といわれています。1つひとつの細胞が、血液で運ばれてきた栄養と酸素を受け取り、ゴミや二酸化炭素を戻しています。ゴミには、次のものがあります。
●尿素窒素……たんぱく質が分解された後にできるゴミ
●クレアチニン……筋肉が運動するためのエネルギー源の燃えカス
●尿酸……遺伝子の構成成分であるプリン体が、肝臓で分解されてできるゴミ
血液に乗って運ばれてきたゴミは、腎臓の糸球体という組織でふるいにかけられて、不要なものは尿として排泄されます。つまり、尿は血液からできているわけです。
腎臓の働きが低下してふるいがザルになると、血液中にゴミが残るだけでなく、必要なものまで尿に混ざってどんどん出ていきます。
体のゴミの排泄というと、便を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、便に含まれるのは食べ物の残りカスや腸内細菌の死骸など、ほとんどが腸のゴミです。
一方、尿については、血液に乗って運ばれてくる、全身のゴミを排泄しているのです。便秘が数日続いても不快な程度ですが、尿が出なくなることは生命の危機につながる深刻な事態です。
腎機能が低下すると体中がゴミだらけになる
この状態が続いたら、体にはゴミがたまっていきます。
いわば、あなたの体が「ゴミ焼却施設のない町」「下水処理場のない町」のような状態になってしまいます。
想像してください。もしもあなたの住む町で、下水処理場やゴミ焼却施設といったライフラインがストップしたら、いったい何が起こるでしょうか。
キッチンで皿を洗った水も、浴室でシャンプーした後の水も、トイレで使った水も、排水口でたまったまま、流れていきません。
そして下水管が詰まってしまったら、何かの拍子で下水が逆流して、家じゅうの排水口から一気に吹き出します。
こうして家の床は、臭く濁った生活排水で水浸しになります。
また、ゴミ焼却施設の操業が止まると、ゴミを載せた収集車は行き場をなくします。ゴミ捨て場のゴミも徐々に増えていき、道路にまであふれてきます。カラスや猫がゴミ袋を漁あさり、生ゴミがまき散らされて異臭を放ちます。
その結果、町はどんどん汚れ、不潔になります。
ライフラインについては「あって当たり前」なので、普段はほとんど意識が向けられていません。しかし、町の衛生を保って、住民が健康に暮らすために必要不可欠な存在なのです。
そして人間の体が町だとしたら、住民が全身の細胞で、ライフラインの役目を果たしているのは腎臓です。
もしも体から腎臓がなくなれば、細胞の活動で出てきたゴミ(老廃物)は排泄されません。そのために、体の中はゴミだらけになってしまうのです。
毒素が尿細管を傷つけると深刻な事態に
ただ、その変化は少しずつ起こるので、自覚症状はなかなか現れません。むくみや痛み、だるさを感じるようになっているときには、すでに腎臓の機能低下はかなり進行しているので、「非常にまずい状態」になっています。
もしも体から腎臓がなくなれば、汚れ切った血液が全身を巡り、脳や心臓、肝臓などはゴミだらけです。そのために、全身の臓器は本来の機能を果たせなくなるのです。
腎臓で尿がきちんと作られることで、血液中のゴミが取り除かれて、細胞が本来の働きを行える状態になっています。生命を維持するために、とても重要な働きなのです。
カビ毒は、主に腎臓の「尿細管」という部位に影響を与えると言われています。
心臓から腎臓に送られてきた血液は、糸球体でろ過されて、水分や老廃物などが原尿という尿の元の液体になります。糸球体から出てきた原尿は「ボウマンのう」という袋で受け止められて、その後は尿細管に流れていきます。
尿細管は体内のミネラルバランスを保っている
1日当たり原尿は約150リットルも作られています。その原尿の99%が、尿細管で再吸収されて、血液に戻されます。
原尿の時点では、尿素窒素やクレアチニンなどのゴミ(老廃物)だけでなく、アミノ酸やブドウ糖、ビタミンなど有用な成分もたくさん含まれています。有用な成分は、水分と一緒に尿細管で再吸収されるのです。そして、ゴミだけを尿として体外に排出します。
いわば、尿細管は原尿の水分量や、含まれている成分を感知するセンサーのような役割を果たしています。
例えば、食事をして水分を取ったり、運動をして汗をかいたりすると、体から水分や塩分などが出入りします。
水分を取り過ぎたときには、体が水分を必要としていないため尿細管で再吸収される原尿の量が減ります。その量が少ないほど、体外に排出される尿の量は増えて濃度が低くなります。
逆に水分が不足したら、再吸収される原尿が増え、体外に排出される尿の量が減って濃度が高くなります。朝、起きたばかりの尿が濃いのは、寝ている間に水分補給ができないため、原尿の水分が再吸収され、その分濃くなるためです。
また、体液のpHが弱アルカリ性だと細胞は正常に働くので、酸性に傾いているときには尿細管で電解質の量が調節されて、バランスが保たれるようになっています。
腎臓は全身の健康の要となる臓器
腎臓は体液を一定に保つために、24時間休むことなく働き続けて、全身の細胞が活動するのに最適な状態を維持しているのです。
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この尿細管が傷つけられると、体内のミネラルバランスに異常が起き、やがて尿毒症のような症状が起きます。
場合によっては尿が出なくなり、人工透析が必要なケースも出てきます。
今回のケースも何らかの毒性のある物質が、尿細管にダメージを与えて、命に関わる症状にまで発展したと推測されます。
紅麹サプリの件は、まだまだ今後の推移を見守る必要があります。ただ、ここまで被害が広がった要因として、ほかならぬ腎臓という全身の健康の要となる臓器であったため、ということは間違いないでしょう。
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提供元:紅麹問題で注目される「腎臓」が持つ重要な働き|東洋経済オンライン