2024.03.05
「寿命が短くなる食事」とそうではない食事の差|「命の回数券」減少を抑制する遺伝子の働き
(写真:USSIE/PIXTA)
これまで、一般的には人の寿命を人為的に延ばすなど不可能と思われてきました。しかし、近年の科学はそれを可能にするヒントをつかみました。それがサーチュインです。そのヒントを基にした研究者の努力により、人の寿命延長はより現実味を帯びてきたのです。しかも、もたらされた長寿は寝たきりや認知症などを伴わない、いわゆる健康長寿なのです。
このような、いわば「正しい寿命の延ばし方」を査読付き論文の研究をベースに解説した今井伸二郎さんの著書『最新科学で発見された 正しい寿命の延ばし方』より一部抜粋・再構成してお届けします。
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老化で最も変化が表れやすいのは筋肉の衰え
骨は体を構成する組織のうち、その量が多く割合の高い組織ですが、筋肉もまた割合の大きな組織です。体重に占める筋肉の量を筋肉率とよびますが、年齢別の平均的な数値を図表に示しました。その数値を見てみると、20代男性の44%をピークに年齢とともに低下し、60代では29%になってしまっています。
(出所)日本肥満学会、画像は『最新科学で発見された 正しい寿命の延ばし方』より
老化で最も顕著に表れる状態の変化は、筋肉の衰えです。代表的なところでは、老眼による視力の低下が当てはまります。言葉の通り、老眼は老化の一つです。老眼は目のピント調節に関わる筋肉の老化が原因なのです。
ほかにも、自分では気がつかなくても片足立ちができなくなったり、子どもと遊んでいるときに思ったような働きができなくなったり、筋肉の衰えは徐々に進行していきます。
私は執筆を行っている2023年現在65歳ですが、寝床から起き上がるのに苦労を感じています。老化の表れが最も顕著に実感できるのは、やはり筋肉の衰えです。
それでは、細胞単位の老化とは具体的にどういう状態なのでしょうか? テロメアについて解説していきます。テロメアは「命の回数券」ともよばれています。テロメアが短くなっていると、寿命が短くなったともいわれます。
テロメアとは、遺伝子の本体であるDNAの先端に存在する構造を示す言葉です。実際にはテロメアは細胞分裂の制御や、その結果を示す指標に使われている構造体です。細胞分裂を繰り返すたびにその長さは短くなり、限界に達すると遺伝子であるDNAの複製ができなくなってしまいます。
DNAの複製とは、細胞分裂の現象のことです。老化は細胞死が細胞分裂を上回ってしまったことを示しています。DNAの複製ができない=細胞分裂ができないため、細胞死のレベルが変わらない限り老化に至ってしまいます。実際、テロメアが限界に達し細胞分裂がストップしてしまうと、皮膚はシワシワになり、筋肉は弱まり、その結果、足腰も弱くなってしまいます。
(画像:『最新科学で発見された 正しい寿命の延ばし方』より)
命の回数券とよばれるテロメア
『死神』という落語をご存じですか?とある死神が、「ろうそくの一つ一つは人の寿命である」といい、「おまえは間もなく死ぬことになる」と、今にも消えそうなろうそくを指し示します。驚いた男が「助けてほしい」と懇願すると、死神は新しいろうそくを差し出し、「これに火を継ぐことができれば助かる」といいます。そして、男は今にも消えそうな自分のろうそくを持って火を移そうとするのですが、焦りから手が震えてうまくいかず、死んでしまうという内容です。
似たような話が漫画やドラマでもありますが、共通するのはろうそくです。命の回数券とよばれるテロメアですが、まさにこの寿命のろうそくと一致します。燃えてしまい短くなったろうそくは長さを戻すことはできませんが、テロメアは長さを戻すことができる点で寿命のろうそくとは違います。落語になるような逸話が現実となり得る科学の進歩は驚きですね。
つまり、日々食事をし、栄養を補給するたびに細胞分裂が繰り返され、「命の回数券」であるテロメアを使い切ってしまい、我々の細胞個々で老化が進み、生命全体が死に至ってしまうことになります。栄養素の摂取が標準的であれば老化はそれほど進みませんが、過食とよばれる過剰な栄養の摂取は細胞分裂を過剰に進めてしまうことになり、結果として命を縮めることになります。
2000年のマサチューセッツ工科大学の研究によって、テロメアの減少を抑制(短くなる頻度を少なく)し、老化した細胞を修復する長寿遺伝子を発見しました。それが「サーチュイン遺伝子」です。サーチュインはタンパク質のアセチル化、つまり老化した細胞の傷を修復する機能を上昇させ、テロメアの機能を回復させる効果があるわけです。
赤ちゃんのときはテロメアが長く元気な細胞です。ところが、20歳程度を境にテロメアは徐々に短くなっていき、細胞はそれ以上分裂できなくなり、その結果、細胞は制止し、細胞死を迎えます。細胞が制止した状態から、赤ちゃんのときのように元気な細胞に戻してくれるのがサーチュインの作用です。
(画像:『最新科学で発見された 正しい寿命の延ばし方』より)
生きるための力と死に向かう力は均衡状態にある
このサーチュイン遺伝子は、普段は人間の体内ではあまり活躍していません。これは研究段階で理由はまだはっきりしていませんが、人間には「恒常性」という食べたり息を吸ったりする生きるための力と、「寿命」という死に向かう力があり、両者が通常は均衡しています。つまり、死にそうな状況になればそれに抗って体は生きようとするのです。
2010年のチリの鉱山落盤事故で17日間閉じ込められた後に生還できたのも、サーチュインが活性化したからということは十分にあり得ます。
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ここまでの話を聞くと、「じゃあサーチュイン遺伝子は死にそうにならないと活躍しないのでは?」と思うかもしれませんが、なにも死にそうでなくともいいのです。体が死に向かうベクトルが近いと思わせればいいのです。日常的に死が近いと思わせる方法は、空腹です。反対に食べ過ぎてしまうというのは、生きるベクトルが強すぎる状態です。
通常の食事量から30%のカロリーをカットすると、サーチュインが活性化します。チリのトンネル事故の話も、1日おきに缶詰のツナを2さじ、クラッカーを半分くらいしか食べられなかったからこそ、カロリーをカットすることになりサーチュインが活性化したのかもしれません。
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提供元:「寿命が短くなる食事」とそうではない食事の差|東洋経済オンライン