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2024.03.05

飼い犬に「狂犬病ワクチン」、日本でどこまで必要か|海外渡航前に知っておきたい"人間のワクチン"


狂犬病は日本国内で発生しているのでしょうか? 犬にかまれたらどう対処すべきかも併せて解説します(写真:Satoshi KOHNO/PIXTA)

狂犬病は日本国内で発生しているのでしょうか? 犬にかまれたらどう対処すべきかも併せて解説します(写真:Satoshi KOHNO/PIXTA)

先月、群馬県伊勢崎市で飼い犬が小学生を含む12人をかむ事件が発生した。その犬が狂犬病ワクチンを受けていなかったことから狂犬病に感染したのではという不安が拡がったが、幸い、その犬は狂犬病には感染しておらず、事なきを得た。

狂犬病は日本国内で発生しているのだろうか? 犬にかまれたらどう対処すべきか、解説する。

犬の登録制は狂犬病との闘いの名残

日本国内においては、犬を飼ったら居住地の自治体に登録し、飼い主は狂犬病の予防接種を受けさせる義務がある。これは、狂犬病をコントロールするための狂犬病予防法という法律によって定められている。しかし、日本国内では狂犬病は長らく発生しておらず、登録やワクチン接種の目的は人々の意識から薄れ、実施率が低下している。

狂犬病予防法 ※外部サイトに遷移します

狂犬病は狂犬病ウイルスによって媒介される感染症であり、人を含む哺乳動物すべてが感染しうる。人への狂犬病感染の9割以上は犬にかまれることが原因だ。日本国内での狂犬病の報告は1957年が最後で、その後は海外で動物にかまれて感染し、日本滞在中に発病した輸入感染の事例が複数報告されている。

狂犬病ウイルスは感染した動物の唾液に含まれ、かみ傷に付着したウイルスは体内に侵入し、近くの神経細胞の中に入り込む。神経細胞は長い紐状であり、ウイルスはその中を進んで脊髄を経由し、脳に達する。感染から発病までの潜伏期間は1カ月未満のことが多く、かまれた部位が脳に近いほど発病が早い。中には1年以上経ってから発病するケースもあり、感染のおそれがある場合は、発病しないようキッチリ対策しなければならない。

脳に達したウイルスは神経細胞に次々に感染し、脳炎を起こす。狂犬病の「狂」とは、脳炎を起こして興奮し、刺激に敏感になった状態なのだ。脳炎を起こした犬は周りの動物や人間にかみ付き、ウイルスを拡げる。人間も同様で、脳炎が悪化すると死に至る。脳炎を発症すると治療する術はない。狂犬病治療に成功したとの報告はあるが、治療法は確立していない。

報告 ※外部サイトに遷移します

現時点においては、日本国内には狂犬病に感染した動物は報告されておらず、国内に狂犬病ウイルスは存在しないと考えられる。よって、狂犬病ワクチンを打っていない動物にかまれても狂犬病に感染することはない。

実は、日本のように狂犬病がコントロールされている国は、世界では多くない。3年以上国内で狂犬病感染動物が見つかっていない場合、狂犬病清浄国・地域とされる。現時点では、日本政府はオーストラリア、ニュージーランド、フィジー諸島、ハワイ、グアム、アイスランドを清浄国と認定している。オーストラリアを除くすべての大陸では狂犬病が発生し続けている。

狂犬病が国内に侵入しないよう、さまざまなルールも定められている。海外から動物を日本国内に持ち込むには、動物検疫の手続きが必要だ。日本政府が認めた清浄国以外の国から動物を連れてくる場合、最長で180日間は係留施設に預ける必要がある。何ら病気がないことが確認されるまで、ペットは家に帰ることができないのだ。

動物検疫 ※外部サイトに遷移します

いつでも国内に狂犬病は侵入しうる

ただし、動物検疫を実施していても、抜け穴はある。日本に寄港した外国船から、中で飼われている犬が上陸することもあるだろう。また、貨物船のコンテナにコウモリが潜んでいた事例も報告されている。コウモリは狂犬病ウイルスに感染していても発病しないため、ウイルスの運び屋になりうることが知られている。常に目を光らせていなければ、狂犬病はいつでも日本国内に侵入しうるのだ。

報告 ※外部サイトに遷移します

日本では、前述のように犬に対する狂犬病ワクチン接種が義務づけられている。しかし、アメリカでは州によって規則が異なり、必ずしも接種を義務づけていない。イギリスやフランス、ドイツも義務ではない。ただし、外国から犬を連れて行く場合は、狂犬病ワクチンが打ってあり、有効な抗体価に達していることの証明が求められる。

日本は狂犬病に関して、非常に厳しい対応をしていると言える。我が家のワンコも、注射に行くと震えるので、可哀想だし、できれば打ちたくない。しかし、狂犬病が国内で発生した際の対応を考えると、やはり打っておこうと思う。

狂犬病清浄国以外の国で犬や動物にかまれた場合、狂犬病と破傷風感染を考え、発病を防ぐ必要がある。曝露後予防(PEP : Post Exposure Prophylaxis)と呼ぶ。

破傷風(全ての国で)PEP

(1) 小児期の接種スケジュールが完遂しているか、過去に3回接種が済んでいる人では、破傷風ワクチンの接種から5年以内であれば追加接種は不要。5年以上経っている場合は1回接種。
(2) 接種歴が不明、もしくは回数が足りていない人では、破傷風ワクチン接種を3回接種。

狂犬病(清浄国以外)PEP

(1) かんだ動物が狂犬病ワクチン接種を受けていれば感染の恐れはない。
(2) かんだ動物を見失った、または狂犬病ワクチン接種歴が不明の場合、即日医療機関を受診し、ワクチン接種を開始すべき。当日、3日後、7日後、14日後、28日後の5回接種ないし、28日後を省いた4回接種がスタンダードだ。飼い犬などで、その動物が10日経っても普段と同じように生きていれば、感染の恐れなし、として途中で接種スケジュールを中断してよい。

イギリス政府は国別の狂犬病感染リスクを公表している。日本人が旅行や仕事で訪れる近隣の東アジアや東南アジアの国々は、ほとんどがハイリスクだ。そのため、海外渡航前に事前にワクチンを打っていく曝露前予防(PrEP : Pre Exposure Prophylaxis)を考えてもいい。1週間間隔で2回ワクチン接種を受けるのが標準的な方法だ。2年おきの追加接種で免疫は高く維持できる。

公表 ※外部サイトに遷移します

PrEPを受けておくメリットは、動物にかまれた後の対処が楽だからだ。破傷風ワクチンは変わらないが、狂犬病ワクチンは当日と3日後の2回を追加すればいい。

狂犬病ワクチンはどこで接種できるのか?

現在、グラクソ・スミスクライン社のみが日本国内で狂犬病ワクチンを販売している。取り扱いがあるかは医療機関のホームページなどで確認するしかない。トラベルクリニックを謳っている、渡航者向けのワクチン接種を提供している医療機関であれば在庫している可能性が高い。

渡航前のPrEP接種は自費となり、接種費用は医療機関ごとに異なる。海外赴任者では、赴任中の感染症を防ぐため、企業が費用を負担してワクチン接種を受けさせるケースが多い。1カ月を超える出張で、辺境の地に行かれる方は渡航前の接種を考えてもいいだろう。

海外で動物にかまれて受けたPEPは、日本帰国後の接種継続には健康保険が適用される。年齢によって1割〜3割負担となり、費用はさほどかからない。ただし現地で接種した分は償還されない。海外旅行傷害保険がクレジットカードに付帯している場合があり、現地での接種費用に、日本でも自費で接種を受けて、まとめて保険会社に請求することをお勧めする。

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提供元:飼い犬に「狂犬病ワクチン」、日本でどこまで必要か|東洋経済オンライン

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