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2024.02.29

災害時トイレ「断水」復旧になぜ時間がかかるのか|阪神・淡路大震災では仮復旧まで1カ月間要した


自然災害の発生後、水・食料の配給と同じくらい重要なのが「トイレ対応」です(写真:NPO法人日本トイレ研究所)

自然災害の発生後、水・食料の配給と同じくらい重要なのが「トイレ対応」です(写真:NPO法人日本トイレ研究所)

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能登半島地震でも多く取り上げられた「災害時のトイレをどうするか」問題。

トイレ環境の大切さを広めるべく奔走する「日本トイレ研究所」の代表理事・加藤篤さんが、“トイレ”の視点から防災のノウハウをやさしく解説した『トイレからはじめる防災ハンドブック』より一部の内容を抜粋。忘れたころにやってくる災害への備え、そして起こった後の対応のポイントについて、3回にわたって掲載します。

第1回は、災害とトイレをめぐる基本的な知識をお伝えします。

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自然災害の発生後にすべきこと

■発災3時間以内に約4割の人がトイレに行く

自然災害の発生後にすべきことは何でしょうか? 地震や豪雨などが起きたときに真っ先にすべきなのは、自分の命を守ること、そして安全な場所に避難することです。ここまでの行動は、全員一致するでしょう。

問題はこのあとです。避難所では避難者の誘導や場所の確保、水・食料の配給などに多くの人が奔走します。もちろんこれらは大切ですが、それと同じくらい重要なのに、忘れられがちなことがあります。それが「トイレ対応」です。

大きな災害が起きると水洗トイレは使えなくなります。しかし、私たちの排泄は待ってくれません。

2016年4月に発生した熊本地震での調査によると、発災後3時間以内にトイレに行きたくなった人は38.5%、6時間以内では72.9%にのぼります。

発災後6時間は大混乱状態で、おそらくこの約7割の人は水を飲んでおらず、食事も摂っていないはずです。それにもかかわらず、トイレに行きたくなるのです。つまり、水・食料より先にトイレ対応が必要ということです。私たちはこの事実から目をそらしてはいけないのです。

調査:阪神・淡路大震災= 尼崎トイレ探検隊/東日本大震災=日本トイレ研究所/熊本地震=岡山朋子(大正大学人間学部人間環境学科)

調査:阪神・淡路大震災= 尼崎トイレ探検隊/東日本大震災=日本トイレ研究所/熊本地震=岡山朋子(大正大学人間学部人間環境学科)

断水したら水洗トイレが使えない

■水洗トイレには給水と排水の両方必要

断水したら水洗トイレが使えないことは、多くの人が理解しています。水洗トイレは目の前の大小便を水で流し去ってくれる便利なシステムなので、水が無ければ機能しません。

断水の原因は主に2つあります。1つは給水管等の給水装置や配水施設が破損して水を届けられなくなること。もう1つは停電でポンプなどの設備が作動しなくなり、水が届けられなくなることです。

ところが、給水に問題が無くても、水洗トイレは使えなくなることがあります。それは、排水に支障がある場合です。理由は、流れていく先がなくなるからです。

排水に問題が生じる要因としては、排水管が外れる・閉塞する・逆こう配になる、下水道や下水処理場、浄化槽が機能していない、などが考えられます。このような場合、無理に汚水を流すと、どこかからあふれることになります。

給水と排水、それに電気のすべてが機能してこそ、水洗トイレは使用できるようになります。日頃、目にしているのは便器だけですが、その裏に壮大な水洗トイレシステムがあることを知っておいてください。

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■水道の仮復旧までは1カ月以上かかる

私たちは1日に複数回トイレに行きます。水洗トイレを使うには、もちろん水が必要です。節水型の便器でも、1回あたりの洗浄で概ね6〜8リットル程度の水を使用します。仮に5回行くとしたら、合計で30〜40リットルの水を使うことになります。

水を便器に供給するためには、まず河川などから引いた水を処理する浄水場が機能していることが前提です。また、浄水場からポンプ場を経由して各建物に水を運ぶ配水管が正常であることも必要です。そして、これらの過程では電力も欠かせません。

このため、大きな災害で停電すると断水が発生します。阪神・淡路大震災では約127万戸が断水し、仮復旧が完了するまでに1カ月以上を要しました。また、東日本大震災で被災した地方公共団体へのアンケート調査では、上水道の仮復旧までに要した日数は、平均35日間だったことがわかっています。

この間、トイレの洗浄に必要な水量を人力で供給するのは容易でありません。断水で洗浄水が確保できない場合に、トイレ機能を確保する方法の検討が必要です。

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出典: 兵庫県「阪神・淡路大震災の復旧・復興の状況について」平成21年12月 ※外部サイトに遷移します

トイレに行きたくない理由

■安心できないトイレで起こる問題

トイレを我慢する、つまりトイレに行きたくないと感じてしまう原因は人それぞれ異なります。臭かったり、汚れていたりするトイレは、誰もが避けたくなるものです。

特に女性や子どもであれば、暗がりにあるトイレは怖いでしょう。

寒い時期には、屋外のトイレは使いたくありません。風雨などの悪天候時も同様です。遠くにあって行くのが大変なトイレも使いづらいです。

また、男女共用しかない場合や、数が少なくてトイレ待ちの行列ができる場合も困ります。車いす利用者や足腰が悪い人は、段差があるトイレや和式便器が使えません。和式便器は、慣れていない子どもにとっても困難です。

このようにトイレを不便、もしくは不快と感じてしまうきっかけが1つでもあると、私たちはトイレになるべく行かなくてすむように、意識的にも無意識的にも、水分摂取を控えがちになり、その結果として体調を崩してしまいます。

平成16年新潟県中越地震に関する住民アンケート調査(小千谷市・川口町編)でも、かなりの人が、トイレを理由に水分を控えていたことがわかります。

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出典: 中山間地等の集落散在地域における地震防災対策に関する検討会 「平成16年新潟県中越地震に関する住民アンケート調査 調査結果」 ※外部サイトに遷移します

汚染された手を口や鼻に…

■不衛生なトイレは感染症の温床になる

トイレを使用する際、ほとんどの人が同じ箇所に触れます。例えば、ドアの取っ手、鍵、便座のフタ、便座、トイレットペーパーホルダー、洗浄レバーやボタン、手洗い場の蛇口です。

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『トイレからはじめる防災ハンドブック 自宅でも避難所でも困らないための知識』(学芸出版社) クリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします

これらが汚染されていた場合、ウイルスや細菌が人の手を介して伝播することになります。

単に手が汚れるだけでは感染しませんが、私たちは無意識に手で顔に触れているため、目や口、鼻の粘膜を通じて感染するリスクが小さくありません。

手洗いやトイレ掃除が十分にできない不衛生なトイレを不特定多数の人が使用し続けると、感染性胃腸炎などのウイルス感染症に罹患するリスクを高め、集団感染を引き起こします。

東日本大震災では、石巻赤十字病院などの調査で、津波被害のあった石巻市および東松島市、女川町にある公立学校や公民館など、計272カ所の避難所のうち、約4割のトイレで汚物処理が十分にできず、少なくとも約50人に下痢、約20人に嘔吐の症状が見られました。

感染症予防の観点からも、トイレを衛生的に保つことは非常に重要です。

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【あわせて読みたい】※外部サイトに遷移します

能登で活躍「トイレトレーラー」で見た深刻な現場

東京の「大水害」いつ起きてもおかしくない実状

日本人は豪雨災害がなぜ起こるかをわかってない

提供元:災害時トイレ「断水」復旧になぜ時間がかかるのか|東洋経済オンライン

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