2024.02.21
高齢者は「大行列のラーメン店」に行くといい理由|失敗も大歓迎!?新たな冒険は幸せのタネ
(写真:Fast&Slow/PIXTA)
長く生きていると長年の経験から自身の趣味や嗜好、癖が定まってしまいます。それは“長年の勘”として評価できることもありますが、『ゆるく生きれば楽になる』の著者で、高齢者専門の精神科医として40年近く高齢者医療の現場にいる和田秀樹さんは、新しい刺激や得難い体験を求め、ちょっとした冒険に踏み出したほうがいいと言います。
もう失敗したくないと守りの姿勢に徹するのではなく、日常生活で今までやってこなかった新しいことを何でも試したほうがいい。そこから得られる恩恵とポイントを、和田秀樹さんによる同書より一部抜粋してお届けします。
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「毎日が実験」と思って前向きに生きる
ある程度の高齢になった私たちは、今後のさらなる高齢化への準備として毎日実験と思っていろいろなことをしてみるといいでしょう。
難しいことではありません。日常生活の中で今までやってこなかった新しいことをなんでもいいから試してみるのです。
出かけた先で、大行列のラーメン店を見つけたら「どうせそれほどおいしくないくせに」などとシニカルに考えず、まず並んで、実際に食べてみましょう。
1時間並んでようやく食べたものの、やっぱりおいしくなかったとしても、損するのは1時間ほどの時間と1000円程度の財産です。試しもせずに否定するより、「食べてみたけどやっぱり今ひとつだったな」と経験知を得るほうがはるかに前向きです。
これまでの人生、失敗を恐れて生きてきた人も多いでしょう。けれど、こうした日常のちょっとした実験では、失敗したって全く問題はありません。いえ、それどころか失敗すること自体が新しい体験であり、楽しみになるのです。
今まで敬遠していたような派手な服を着るのもいいし、いつもは通らない道を通ってみるのでもいいでしょう。「どうせ面白くないんじゃない」と思っていた著者の本を読んでみたり、「自分にはできない」と思ってきたことに挑戦してみるのです。
「どうせ大した内容ではない」「あんなもの楽しいわけがない」などと、行動を起こすこともなく否定的なことばかり言っていると、どんどん老けて頭が頑固になるばかりです。
「やりたいことを自由にやってみる」「全然できなくていい」「どれだけ失敗してもいい」「すぐにやめてもいいしダラダラ続けてもいい」「うまくならなくていい」「他人の目は気にしない」「他人と比べることもしない」
そんな姿勢が、楽しくゆるく生きることにつながります。まず、なんでも拒否せずそのまま受け入れてみましょう。
好きなワイン、好きなブランド、好きな車など、自分の好きなものは好きだというこだわりはあってもいいけれど、でもそれだけがいい、あとはダメと決めつけずに、他のものにも目を向けてみましょう。
たとえば今よく通っている、そこそこおいしいレストランがあるとして、「間違いはないけれど、光るものがないしそろそろ飽きてきたかもしれない」、そう感じたら、新しい刺激を受けられる店を探してみましょう。
年をとると自由になる時間は増えるので、自分の行動をいつものパターンにはめ込まず、ちょっとした冒険に踏み出してみましょう。行ってみた店が今ひとつおいしくなかったとしたら、それも得難い体験ではありませんか。
騙されても「実験に失敗はつきもの」と考える
興味を惹かれたものはなんでもやってみるといいのですが、たとえばちょっとだけ試そうと思ったギャンブルにいつの間にかのめり込んでしまったらどうしようという不安があるかもしれません。そんなときは、まずいくらまでと決めてやってみればいいのです。
人生、何事も実験です。実験である以上、失敗はつきものです。たとえば、先ほどの行列のできるラーメン店なら、失敗したときのリスクは並んだ時間とラーメン代というように明確です。そんなふうに、たとえ失敗したとしても、最悪、騙されたとしてもこれだけなら問題ないというラインを決めておくのです。
通販で見かけた商品がよさそうだけれど、本当にいい商品かどうかわからない。それなら、3万円までは実験費用と決めて試してみようか。あるいは、ちょっと怪しげな投資めいた話があって、詐欺かもしれないけれどどうも気になる。それなら10万円までは体験代と思って試してみようか、などと決めておくのです。
もし、それが使えない商品だったとしても、詐欺にひっかかって手元に何も残らなかったとしても、自分で納得してやったことであれば授業料、経験料と思ってあきらめもつくでしょう。あきらめがつかなくてうつになるよりよほどましです。
いい話を頭から信じて大金を払うと、失敗したとき、騙されたことを認めたくないばかりに泥沼にハマってしまうこともあります。ですから、はじめから何事も実験、失敗もありと思っておけばいいのです。
「人を見たら泥棒と思え」の人は詐欺師の餌食に
ところで、詐欺にひっかからないようにとこれだけ注意喚起されているにもかかわらず、振り込め詐欺事件がなくならないのはなぜなのでしょうか。
ひっかかるのは判断能力の鈍くなった高齢者だけだろうと考えるかもしれませんが、意外にも、50代くらいのしっかり者が騙されたということも少なくないのです。
詐欺の手口は、こちらが考えるよりかなり巧妙です。社会心理学的な見地では「自分は絶対にひっかからない」と自信を持っているような、猜疑心が強い人のほうがひっかかりやすいとされています。
「渡る世間に鬼はなし」と考えて人を信じやすいタイプの人と、「人を見たら泥棒と思え」ととりあえず疑ってかかる人では、意外にも「泥棒と思え」タイプのほうが詐欺にひっかかりやすいという研究結果もあります。
まわりの人間をみんな悪いやつだと疑ってかかる人は、特別に悪いことを考えている詐欺師が見抜けません。しかも、いったんこの人はいいところがあると感じて信用すると、ズルズルそのまま信じ切ってしまいます。
逆に、みんないい人だと思って接していれば、悪いことを企んでいる人に対して「この人はちょっと違う」と気づけるのです。
そもそもこの世の中、いい人と悪い人で考えれば悪い人のほうが圧倒的に少ないではありませんか。ほとんどの人は、普通に信頼できる人です。騙そうとして近づいてくる人など、全体から考えればごくごく一部です。ですから、騙されたくないのであれば「渡る世間に鬼はなし」という考え方でいることです。
振り込め詐欺にひっかからない心構え
いわゆる振り込め詐欺には3つの鉄則があります。まず、身内が人に迷惑をかけているなどと思わせ、相手を不安にさせてなんとかしなくてはと思わせるのがひとつめです。
2つめは、たとえば「会社のお金を使ってしまったけれど、午後3時までに返せば帳簿上は問題にならないのでそれまでに用意をしてほしい」と、明確に期限を設定することです。
そして最後に、「このことは人に知られるとまずいので、あなたと私だけの秘密にしましょう、誰にも言わないでください」と言って情報を遮断するのです。
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不安にさせて、期限を切って、情報を遮断する。この3つのセットがあるから、普通の状態だったらおかしいと判断できる人でも誤った判断をし、まんまと騙されてしまうのです。
自分の子どもや身内が悪いことをしてしまったという話を聞けば、誰もが罪悪感を刺激されます。けれども、たとえば3時までにお金を用意しろと言われたとすると、おそらく1時間や2時間の余裕はあるでしょう。その間、落ち着いて考えることはできるはずです。けれども、時間を区切られることで一刻でも早く対処しなくてはと思ってしまいます。
こうやって、ひどく真面目に考えすぎてしまうことが、詐欺にひっかかる一因になっています。
もっとゆるく考える姿勢を身につけていれば、一瞬立ち止まって考えることができて、冷静になれるかもしれません。身内の恥だってさらして構わないじゃないかくらいの気持ちでいれば、振り込め詐欺にひっかかるリスクもぐっと減るに違いないと思います。
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提供元:高齢者は「大行列のラーメン店」に行くといい理由|東洋経済オンライン