2023.11.24
「待ち時間が長い」薬不足がもたらす薬局での支障|薬剤師が解説「今こそ薬に頼らない感染対策を」
薬不足が問題となるなか、患者の薬局への不満も出てきています(写真:IYO/ PIXTA)
長引く薬不足――。
現時点(11月中旬)の状況でいえば、品薄の咳止めの薬は月に数回、わずかな量しか薬局に入ってきません。薬不足は薬局に多くの追加業務を発生させ、その影響は待ち時間の増加という形で患者にも及びます。
長すぎる待ち時間、薬がそろう薬局探しに振り回される状況はまだ続くのでしょうか。
薬不足はわかるけど…患者の不満
「さまざまな薬が薬局に入って来づらくなっています。なかでも去痰薬のムコダイン(一般名カルボシステイン、以下同)、咳止めのメジコン(デキストロメトルファン)、気管支喘息・アレルギー性鼻炎治療薬のオノン (プランルカスト)、抗菌薬のオーグメンチン(クラブラン酸カリウム・アモキシシリン水和物)などは、特に不足しています」
「割り当てのように月に数回しか入って来ません。平時には発注した薬は基本的に毎日納品されていたのですが……」
そう教えてくれたのは、大学教員をしながら関東の薬局や病院で勤務する薬剤師の水 八寿裕さん(実務薬学総合研究所)です。
詳しくは後述しますが、薬不足は薬局での待ち時間にも影響を及ぼします。日本保険薬局協会が実施した「管理薬剤師アンケート」によると、患者から「待ち時間の増加」の指摘があったと回答した薬局は54.3%と、半数以上にのぼったと報告されています。
「薬の供給不足によって、薬局に追加的に生じた業務の内容と時間について調べた日本薬剤師会のアンケート調査では、追加業務にかかる時間は薬局あたり1日平均98.1分と報告されています」(水さん)
薬不足のため薬局に発生した業務には、患者にかかわる業務も多く含まれます。
たとえば、薬局では薬が不足した場合、医薬品卸や近隣のグループ薬局への在庫の確認を行います。患者にすぐに薬を渡すことができるかを確認するためです。問い合わせの結果、近くの支店から薬を融通してもらえるなら、スタッフが薬を受け取りに行くなどの対応をします。
一方、納品までに時間がかかるとなれば、代替品への変更を処方医(処方箋を出した医師)に問い合わせたり、薬がすべてそろうほかの薬局を探して患者を案内したりします。
薬が不足すると、通常の業務のほかにこうした一連のやりとりが生じ、時間を要します。そのため薬を受け取るまでの待ち時間が長くなってしまうのです。
他の薬局からの融通も難しい
薬不足を受け、厚生労働省は咳止めや痰切りの薬が必要とする患者のもとに届けられるよう、薬局などに協力を求める事務連絡を発出しました。依頼のなかには、可能な限り地域の連携によって咳止めの薬などを調整することが挙げられています。
しかし、現状はそれほど甘くありません。
「連携でいえば、自身の薬局や近隣のグループの薬局で薬がそろわない場合、すべての薬がそろう他社の薬局を患者さんに紹介することはあります。しかし、不足したぶんを他社の薬局から融通してもらうことは現時点では期待できません。薬の入荷がいつになるかわからないためです。グループ薬局内で調整しあうことがほとんどです」(水さん)
平時には、会社の枠を超えて近所の薬局同士で薬を融通しあうこともありましたが、薬不足が厳しい現在ではそれは難しいようです。
一方で、薬などの医療資源を効率的に活用する取り組みを行っている医療機関があると水さんは教えてくれました。それは、茨城県のとある病院を中心に、近隣の保険調剤薬局を巻き込んで行われている「プロトコールに基づく薬物治療管理(Protocol Based Pharmacotherapy Management:PBPM)」の取り組みです。
この病院では、発熱外来の院外処方に関する問い合わせを簡素化するため、臨時のプロトコール(手順)を作成しました。
病院と院外の保険調剤薬局がプロトコールに関する覚書を締結しており、かつ薬の変更に患者が同意している場合、プロトコールで定められた咳止め同士であれば、事前に疑義照会(薬剤師が処方医に薬について問い合わせること。薬について確認事項がある場合に行われる)することなく、別成分の薬に変更することができます。病院への報告は調剤後でかまいません。
どういう仕組みなのか、咳止めの薬を例に詳しく見ていきましょう。
地域で新しい取り組みも始まる
咳止めの薬にはメジコン、アスベリン(チペピジンヒベンズ酸塩)、レスプレン(エプラジノン塩酸塩)、アストミン(ジメモルファンリン酸塩)などがあります。現在A薬局の咳止め薬の在庫はアスベリンだけです。
このA薬局に咳止めの薬メジコンを処方された患者がやってきました。
しかし、A薬局にはアスベリンはあるものの、メジコンの在庫はありません。近所の薬局に問い合わせても入手できなければ、似た効果を持つ別成分の薬アスベリンへの変更の可否を医師に問い合わせる、疑義照会が通常は必要です。
ところが、このPBPMを活用すると、プロトコールに記載された薬の変更は調剤後の報告でかまいません。患者は、薬局から病院への問い合わせの時間を待つことなく、薬をもらうことができます。
「咳止めの薬ではありませんが、プロトコールの運用で薬剤師の電話対応時間や疑義照会の完了にかかる時間が短縮されたという報告があります。待ち時間が短縮して助かるという患者さんも多いのではないでしょうか」(水さん)
この研究では、保険調剤薬局からの疑義照会に対し、病院薬剤師が薬学的な知見に基づいて回答を行い、事後で処方医が確認するという院内対応型のプロトコールが用いられました。
プロトコール導入後には、電話対応にかかる時間が1件あたり平均2.1分間短縮され、さらに疑義照会の完了までの時間が運用前の最大50分間から、運用後はすべて10分以内に短縮されたと報告しています。
患者にとってのメリットは、待ち時間の短縮だけではないかもしれません。最近、患者自らがすべての薬がそろう薬局を探し求めて渡り歩くケースがあると聞きます。
現在、咳止めの薬は軒並み品薄のため、茨城県の病院で導入したようなプロトコールを活用している地域でも薬難民になるかもしれませんが、薬局では在庫のある類似薬を出すことができますから、いつもの薬局で薬をもらえる可能性は高くなるかもしれません。
水さんによると、PBPMで咳止めや痰切りの薬を融通するプログラムを実践しているのはまだ珍しいそうです。しかし、今後こうした取り組みが広がれば、薬不足のさなかでも、薬局の在庫状況にあわせていつもの薬局で薬を受け取り、待ち時間の負担を軽くすることができるようになるかもしれません。
薬不足はまだ続きそうです。薬不足による影響を避けるためにできる対策は、病院にかかる機会を極力減らすことです。
現在、インフルエンザが猛威を振るっていますから、まずはインフルエンザへの対策を見直しておきましょう。
インフルエンザはくしゃみや咳と一緒に放出されたウイルスを吸い込むことで起こる「飛沫感染」か、ウイルスが付着したドアノブ、つり革、手すりなどを触った手で目、鼻、口などに触れて粘膜に通じて起こる「接触感染」で感染します。
予防のポイントは3つあります。「正しく手洗いをする」「適度な湿度を保つ」「体調管理」です。それぞれ見ていきます。
これから行いたい感染対策
1 正しい手洗いをする
ウイルスが体の中に入ってくるのを防ぐため、外出先から戻ったときや食事前などは流水、石けんによる手洗いをして、ウイルスを物理的に除去しましょう。
「正しい手洗い」を覚えていますか? 新型コロナが落ち着き、なんとなく洗った気分になる「なんちゃって手洗い」になっているかもしれません。この機会に改めて正しい手洗いを見直しておきましょう(正しい手の洗い方については記事の最後にご紹介します)。
水道が近くにない場合は、アルコール製剤で手指消毒を行います。
2 適度な湿度を保つ
空気が乾燥すると、のどの粘膜の防御機能が低下します。室内が乾燥しているときには加湿器などを用いて、湿度を50~60%に保ちましょう。
3 体調管理
なんといっても普段の体調管理が大切です。疲れ気味のときにはなるべくゆっくり休養し、バランスの良い食事を摂るように。
薬不足に振り回されないために
現在、さまざまな感染症が流行しています。薬不足に振り回されてぐったりするのを避けるため、改めて感染予防の方法を見直し、正しい予防を実践して、医療機関への受診を極力減らせるように心がけましょう。
「インフルエンザの感染を防ぐポイント」(政府広報オンライン)より ※外部サイトに遷移します
参考:
・管理薬剤師アンケート報告書(一般社団法人 日本保険薬局協会医薬品流通・OTC検討委員会 薬局機能創造委員会)
・医薬品の安定供給問題を踏まえた 診療報酬上の対応について(厚生労働省)
・事務連絡「鎮咳薬(咳止め)・去痰薬の在庫逼迫に伴う協力依頼(令和5年9月29日)」(厚生労働省)
・高瀬友貴ら、院外処方せんの疑義照会に薬剤師が回答する院内プロトコールの導入とその効果、医療薬学45(2) 82―87(2019)
・インフルエンザの感染を防ぐポイント「手洗い」「マスク着用」「咳(せき)エチケット」(政府広報オンライン)
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提供元:「待ち時間が長い」薬不足がもたらす薬局での支障|東洋経済オンライン